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第5話「私の世界」前
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私の部屋は、贈り物としてもらったものしか置かれていない。
そして今日さらに、すごく大きなクマのぬいぐるみ、いわゆるテディベアが追加された。
その贈り物をしてくれたのは、男爵の弟である叔父さま。
叔父さまは、私の部屋のソファーに優雅に座っている。
本邸のソファーどころか、別館の休憩室のものよりも草臥れたソファーにもかかわらず、様になっていて恐ろしい。
オールバックにメガネとまさしくエリートといった見た目で、その見た目通りのできる人で、国王の補佐をしていたと思う。
そんなエリート然としながらも、そのお顔は随分と表情がゆるい。
叔父さまの表情、いや、贈り物にも苦笑しつつ、お礼を口にする。
「叔父さま、ありがとうございます」
もうぬいぐるみという歳ではないけれど、娘のように可愛がってくれるこの人にそれを指摘してしまうのは気が引けた。
そろそろ16歳になろうという私でも抱え込むのがやっとのサイズのぬいぐるみをきゅっと抱きしめる。
「この部屋は少々殺風景だからね」
そう言いながら、ちょいちょいと自分の頬を指差している。
これは、お礼としてほっぺにチューをしてくれということだと思う。
前世があり、今世でもすでに思春期なる年齢に達しているので、さすがに恥ずかしい。
けれど、こういったことを要求するとき、叔父さまは言い出したら聞かない。
ため息を抑えつつ、ちゅっと叔父さまの頬にキスを送る。
すこぶる恥ずかしい。
前回も今回もこういった習慣はなかったので、恥ずかしさのあまり顔はかなり赤くなっていることだろう。
叔父さまは、とても満足そうに笑っている。
ご機嫌な叔父さまにむっとするも、可愛がりの一環なので怒るに怒れない。
いまだ赤いだろう顔をふわふわのぬいぐるみで隠しながら、叔父さまに問いかけた。
「それで、叔父さま。今日は何かあったんですか?」
つい少しトゲのある言い方になってしまい、しまったと叔父さまを見遣るが気にしてなさそうで安心する。
本来、私は平民で、彼は男爵よりもさらに上の爵位の侯爵らしいので、接し方にはかなり気を使わないといけない人だ。
使用人の別館に招き入れることすら、不敬になりかねない。
それでも、叔父さまは私が爵位や家名で呼ぶことを嫌がる。
まるで血の繋がりがないみたいじゃないかと拗ねられた時は、不覚にも泣いてしまった。
この人は私のことを家族だと思ってくれるのだと。
一番近しい血縁者たる父や母は使用人の平民としか見てこず、姉にあたる彼女はそもそもモブだのナビだの人として認識されているか微妙だった。
だから、とても嬉しかった。
「私の可愛い天使ちゃんの生活を見にね」
ましてや、時々こうして様子を見にきてくれる。
その呼び方はどうあれ。
困ったことはないか、欲しいものはないかとか私に聞きにきてくれ気にかけてくれる。
叔父さまが気にかけるのは、私が敷地から出れないため、必然的に世界が狭くなってしまっているからだろう。
領主の敷地なので広いけれど、一日で回れる程度である。
けれどお嬢様のように街に出かけてお買い物したりできなくとも、アンナやロンくんは買い物に出かければ、お土産をくれて街の様子を話してくれる。
叔父さまも同じように自領の話や王都の話をしてくれる。
百聞は一見にしかずというが、私は見ることができなくとも話してくれる人の表情や仕草で十分だった。
「困っていることはないかい?」
「ないですよ」
「一緒に働いている人は優しいかい?」
思いっきり頷いておく。
同い年の子はロンくんだけだが、彼が同じ歳の子の間で流行っていることを教えてくれたりする。
最近使用人の数が減ってきて仕事が増えてきたけれど、その分、私に親切にしてくれる人ばかりが残って、過ごしやすくなった。
使用人に提供される食事も少し減ってきた気がするけれど、少食なので私には丁度良くなったぐらいだ。
そんなことをぎこちなく話せば、叔父さまは少し眉を寄せた後、笑みを浮かべた。
「君が少しでも幸せを感じているのならなによりだ」
ちなみに、お嬢様曰く叔父さまは隠れ攻略対象というものらしい。
まぁ、叔父にあたるので、攻略対象、好きな人というのを隠すのは仕方ないのかもしれない。
叔父さまを好きになるのも仕方ないだろう。
イケオジってやつで、通りすがりの年上の同僚はほとんどおじさまに見惚れる。
いや、年上の人じゃなく、私世代でさえ見惚れてしまう。
さらに人格者らしく、私が平民にされ、ましてや使用人にまでされたときは男爵に猛抗議してくれていたらしい。
そんな扱いをするぐらいならば自分が引き取るとまで言ってくれたとか。
もっともその話は、お嬢様がそれならば自分を引き取って欲しいと言ったことにより流れたようだが。
しかし、お嬢様は、ロンくんも隠れ攻略対象だと言っていた。
彼もまた、貴族と平民という身分差があるので、好きであるのを隠すのはわかる。
問題は、お嬢様は二人の男性を好いているということだ。
付き合う前から二股、と衝撃を受けた。
いや、二股という表現が適切かは分からないが。
二人の男性をいっぺんに好きになるのはどうなんだろうと悩んでいれば、叔父さまが頭を撫でてきた。
「君が困っていないのならいいんだ」
「はい、」
「何かあったら言っておくれ、いつでもどこにでも駆けつけるよ」
キツめの釣り上がった目尻が緩んで、ふんわりと笑みが作られた。
叔父さまの顔の威力もすごいと思って、テディを抱きしめていれば、バンと勢い良く部屋の扉が開けられた。
そして今日さらに、すごく大きなクマのぬいぐるみ、いわゆるテディベアが追加された。
その贈り物をしてくれたのは、男爵の弟である叔父さま。
叔父さまは、私の部屋のソファーに優雅に座っている。
本邸のソファーどころか、別館の休憩室のものよりも草臥れたソファーにもかかわらず、様になっていて恐ろしい。
オールバックにメガネとまさしくエリートといった見た目で、その見た目通りのできる人で、国王の補佐をしていたと思う。
そんなエリート然としながらも、そのお顔は随分と表情がゆるい。
叔父さまの表情、いや、贈り物にも苦笑しつつ、お礼を口にする。
「叔父さま、ありがとうございます」
もうぬいぐるみという歳ではないけれど、娘のように可愛がってくれるこの人にそれを指摘してしまうのは気が引けた。
そろそろ16歳になろうという私でも抱え込むのがやっとのサイズのぬいぐるみをきゅっと抱きしめる。
「この部屋は少々殺風景だからね」
そう言いながら、ちょいちょいと自分の頬を指差している。
これは、お礼としてほっぺにチューをしてくれということだと思う。
前世があり、今世でもすでに思春期なる年齢に達しているので、さすがに恥ずかしい。
けれど、こういったことを要求するとき、叔父さまは言い出したら聞かない。
ため息を抑えつつ、ちゅっと叔父さまの頬にキスを送る。
すこぶる恥ずかしい。
前回も今回もこういった習慣はなかったので、恥ずかしさのあまり顔はかなり赤くなっていることだろう。
叔父さまは、とても満足そうに笑っている。
ご機嫌な叔父さまにむっとするも、可愛がりの一環なので怒るに怒れない。
いまだ赤いだろう顔をふわふわのぬいぐるみで隠しながら、叔父さまに問いかけた。
「それで、叔父さま。今日は何かあったんですか?」
つい少しトゲのある言い方になってしまい、しまったと叔父さまを見遣るが気にしてなさそうで安心する。
本来、私は平民で、彼は男爵よりもさらに上の爵位の侯爵らしいので、接し方にはかなり気を使わないといけない人だ。
使用人の別館に招き入れることすら、不敬になりかねない。
それでも、叔父さまは私が爵位や家名で呼ぶことを嫌がる。
まるで血の繋がりがないみたいじゃないかと拗ねられた時は、不覚にも泣いてしまった。
この人は私のことを家族だと思ってくれるのだと。
一番近しい血縁者たる父や母は使用人の平民としか見てこず、姉にあたる彼女はそもそもモブだのナビだの人として認識されているか微妙だった。
だから、とても嬉しかった。
「私の可愛い天使ちゃんの生活を見にね」
ましてや、時々こうして様子を見にきてくれる。
その呼び方はどうあれ。
困ったことはないか、欲しいものはないかとか私に聞きにきてくれ気にかけてくれる。
叔父さまが気にかけるのは、私が敷地から出れないため、必然的に世界が狭くなってしまっているからだろう。
領主の敷地なので広いけれど、一日で回れる程度である。
けれどお嬢様のように街に出かけてお買い物したりできなくとも、アンナやロンくんは買い物に出かければ、お土産をくれて街の様子を話してくれる。
叔父さまも同じように自領の話や王都の話をしてくれる。
百聞は一見にしかずというが、私は見ることができなくとも話してくれる人の表情や仕草で十分だった。
「困っていることはないかい?」
「ないですよ」
「一緒に働いている人は優しいかい?」
思いっきり頷いておく。
同い年の子はロンくんだけだが、彼が同じ歳の子の間で流行っていることを教えてくれたりする。
最近使用人の数が減ってきて仕事が増えてきたけれど、その分、私に親切にしてくれる人ばかりが残って、過ごしやすくなった。
使用人に提供される食事も少し減ってきた気がするけれど、少食なので私には丁度良くなったぐらいだ。
そんなことをぎこちなく話せば、叔父さまは少し眉を寄せた後、笑みを浮かべた。
「君が少しでも幸せを感じているのならなによりだ」
ちなみに、お嬢様曰く叔父さまは隠れ攻略対象というものらしい。
まぁ、叔父にあたるので、攻略対象、好きな人というのを隠すのは仕方ないのかもしれない。
叔父さまを好きになるのも仕方ないだろう。
イケオジってやつで、通りすがりの年上の同僚はほとんどおじさまに見惚れる。
いや、年上の人じゃなく、私世代でさえ見惚れてしまう。
さらに人格者らしく、私が平民にされ、ましてや使用人にまでされたときは男爵に猛抗議してくれていたらしい。
そんな扱いをするぐらいならば自分が引き取るとまで言ってくれたとか。
もっともその話は、お嬢様がそれならば自分を引き取って欲しいと言ったことにより流れたようだが。
しかし、お嬢様は、ロンくんも隠れ攻略対象だと言っていた。
彼もまた、貴族と平民という身分差があるので、好きであるのを隠すのはわかる。
問題は、お嬢様は二人の男性を好いているということだ。
付き合う前から二股、と衝撃を受けた。
いや、二股という表現が適切かは分からないが。
二人の男性をいっぺんに好きになるのはどうなんだろうと悩んでいれば、叔父さまが頭を撫でてきた。
「君が困っていないのならいいんだ」
「はい、」
「何かあったら言っておくれ、いつでもどこにでも駆けつけるよ」
キツめの釣り上がった目尻が緩んで、ふんわりと笑みが作られた。
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