18 / 31
第8話「使用人とは」前
しおりを挟む
使用人用の別館の食堂にて朝食をとりつつも、考えるのは昨日のお茶会のことばかり。
どうにかなると甘い考えでとった行動は、状況を悪化させただけだった。
うまくいかなかったことはもちろん、状況を悪化させてしまったことにため息が出てしまう。
「おはようございます。大丈夫ですか?」
トレーを持ったロンくんが隣に座りながら声をかけてくる。
昔はそれなりの人数がいたためそこそこ広い食堂だが、今は人数が少なく、使われるのは炊事場近くのテーブルだけだ。
だから、みんな、広いのに固まって食べることが多い。
「大丈夫よ」
「それならよかった。体調が悪かったり、何か悩み事があったら言ってください」
微力ですがお力添えします、と今日も爽やかな笑顔で気を遣われた。
むしろ、ロンくんの方が心配だ。
使用人に出される食事が減っていっているせいか、お腹を鳴らしているのを聞いたことがある。
大体お嬢様から何かもらうことで凌いでいるようだけれど。
成長期のロンくんには辛いことだろう。
「ロンくんもご飯少なかったら言って。私のをあげるから」
「いえ!全然足りてますよ!」
食い気味に否定された。
何か分けてあげるべきかと自分のトレーを見ていれば、慌てたようにロンくんが話し出す。
「そういえば、昨日は大変でしたね」
「……うん。お嬢様の状態を気づいてもらうチャンスだと思ったんだけど、」
「……無理でしたね」
私とお嬢様が双子だと知っているのは、執事のアランさん、家政婦長のマーガレットさんにアンナだけになった。
しかし、お嬢様の代わりに私が授業を受けているということは、使用人の全員が知っている。
始めのうちは皆、勉強させてもらえていいじゃないと言っていた。
それもお嬢様の年齢が上がってくるにつれ、さすがに不安になったのか身代わりを断れないのかと聞いてくることもあった。
最終的に、身代わりは断れないし、お嬢様が全くもって勉強する意思がないと知って、もう手遅れだろうと諦めていった。
もしかしたら、人手が減ったのは男爵に首を切られたのではなく、男爵家に見切りをつけたという可能性もあるのかもしれない。
「お嬢様の勉強嫌いをどうにかしたいんだけど、」
私は残念ながら、男爵家を見限ることはできない。
私はずっと漠然とみんながいなくなることに、自分もいつかそうなるんだろうと思っていた。
そのとき、外に出れるんだろうと思っていた。
けれど、よく考えれば、あの男爵が私を外に出すなんてことはあり得ないと気づいた。
かつての同僚たちは口外できないだろうから存在は外に知られていないだろうし、戸籍がどうなっているのかもわからない。
ただ働きさせても、問題にならない存在だ。
貧乏貴族に成り果て、使用人は私一人だけなんてことになることはあれど、男爵家以外のところで働くというのは無理だ。
私が男爵家から出られるのは、男爵家がなくなった時ぐらいだろう。
いや、男爵家がなくなろうとも、男爵たちがいる限り、使用人としてこき使われ続けるかもしれない。
だから、なんとしてでも財政状況を復活は無理でも、このまま維持させて、お嬢様には良い結婚相手を掴んできて欲しい。
それを昨日のお茶会で潰してしまった可能性があるのが、辛い。
あそこまで悪い状況になると予測できなかった私の自業自得な気もする。
うぅ、と小さく呻いてしまう。
「そ、そうですね、このままだと非常にまずいでしょうし」
やっぱり、ロンくんから見てもまずい状態らしい。
遠くを見ながらもぐもぐと食べるロンくんを横目で見て、ふと思いつく。
「ロンくんからお嬢様に勉強するように言ってみるのはどう?」
ロンくん好きのお嬢様ならほいほい言うことを聞くかもしれない。
名案だと思ったのだが、ロンくんに首を横に振られる。
「以前、アランさんに頼まれて、お勉強しましょうと誘ったんですけど……」
ダメだったのか。
徐々に小さくなっていく声に、察してしまう。
アランさんも一応手を打とうとしてくれたらしい。
しかし、ロンくんでもダメとは、お嬢様は断固として勉強をしたくないらしい。
「勉強、楽しいと思うんだけど、」
「そうですね、歴史とかはちょっと、あれ、ですけど。魔法の勉強は楽しいですよね!」
ロンくんは歴史の勉強が好きではないらしい。
歴史の勉強というときは眉を寄せていたが、魔法の勉強というときは弾けた笑顔だった。
この国の成り立ちとか意外と面白いけれど、まぁ、興味のない人には興味のないことかな、と納得する。
「なんとかできないかなぁ……」
もそもそと食事をしながら、二人で考えるも妙案は浮かばない。
どうにかなると甘い考えでとった行動は、状況を悪化させただけだった。
うまくいかなかったことはもちろん、状況を悪化させてしまったことにため息が出てしまう。
「おはようございます。大丈夫ですか?」
トレーを持ったロンくんが隣に座りながら声をかけてくる。
昔はそれなりの人数がいたためそこそこ広い食堂だが、今は人数が少なく、使われるのは炊事場近くのテーブルだけだ。
だから、みんな、広いのに固まって食べることが多い。
「大丈夫よ」
「それならよかった。体調が悪かったり、何か悩み事があったら言ってください」
微力ですがお力添えします、と今日も爽やかな笑顔で気を遣われた。
むしろ、ロンくんの方が心配だ。
使用人に出される食事が減っていっているせいか、お腹を鳴らしているのを聞いたことがある。
大体お嬢様から何かもらうことで凌いでいるようだけれど。
成長期のロンくんには辛いことだろう。
「ロンくんもご飯少なかったら言って。私のをあげるから」
「いえ!全然足りてますよ!」
食い気味に否定された。
何か分けてあげるべきかと自分のトレーを見ていれば、慌てたようにロンくんが話し出す。
「そういえば、昨日は大変でしたね」
「……うん。お嬢様の状態を気づいてもらうチャンスだと思ったんだけど、」
「……無理でしたね」
私とお嬢様が双子だと知っているのは、執事のアランさん、家政婦長のマーガレットさんにアンナだけになった。
しかし、お嬢様の代わりに私が授業を受けているということは、使用人の全員が知っている。
始めのうちは皆、勉強させてもらえていいじゃないと言っていた。
それもお嬢様の年齢が上がってくるにつれ、さすがに不安になったのか身代わりを断れないのかと聞いてくることもあった。
最終的に、身代わりは断れないし、お嬢様が全くもって勉強する意思がないと知って、もう手遅れだろうと諦めていった。
もしかしたら、人手が減ったのは男爵に首を切られたのではなく、男爵家に見切りをつけたという可能性もあるのかもしれない。
「お嬢様の勉強嫌いをどうにかしたいんだけど、」
私は残念ながら、男爵家を見限ることはできない。
私はずっと漠然とみんながいなくなることに、自分もいつかそうなるんだろうと思っていた。
そのとき、外に出れるんだろうと思っていた。
けれど、よく考えれば、あの男爵が私を外に出すなんてことはあり得ないと気づいた。
かつての同僚たちは口外できないだろうから存在は外に知られていないだろうし、戸籍がどうなっているのかもわからない。
ただ働きさせても、問題にならない存在だ。
貧乏貴族に成り果て、使用人は私一人だけなんてことになることはあれど、男爵家以外のところで働くというのは無理だ。
私が男爵家から出られるのは、男爵家がなくなった時ぐらいだろう。
いや、男爵家がなくなろうとも、男爵たちがいる限り、使用人としてこき使われ続けるかもしれない。
だから、なんとしてでも財政状況を復活は無理でも、このまま維持させて、お嬢様には良い結婚相手を掴んできて欲しい。
それを昨日のお茶会で潰してしまった可能性があるのが、辛い。
あそこまで悪い状況になると予測できなかった私の自業自得な気もする。
うぅ、と小さく呻いてしまう。
「そ、そうですね、このままだと非常にまずいでしょうし」
やっぱり、ロンくんから見てもまずい状態らしい。
遠くを見ながらもぐもぐと食べるロンくんを横目で見て、ふと思いつく。
「ロンくんからお嬢様に勉強するように言ってみるのはどう?」
ロンくん好きのお嬢様ならほいほい言うことを聞くかもしれない。
名案だと思ったのだが、ロンくんに首を横に振られる。
「以前、アランさんに頼まれて、お勉強しましょうと誘ったんですけど……」
ダメだったのか。
徐々に小さくなっていく声に、察してしまう。
アランさんも一応手を打とうとしてくれたらしい。
しかし、ロンくんでもダメとは、お嬢様は断固として勉強をしたくないらしい。
「勉強、楽しいと思うんだけど、」
「そうですね、歴史とかはちょっと、あれ、ですけど。魔法の勉強は楽しいですよね!」
ロンくんは歴史の勉強が好きではないらしい。
歴史の勉強というときは眉を寄せていたが、魔法の勉強というときは弾けた笑顔だった。
この国の成り立ちとか意外と面白いけれど、まぁ、興味のない人には興味のないことかな、と納得する。
「なんとかできないかなぁ……」
もそもそと食事をしながら、二人で考えるも妙案は浮かばない。
0
あなたにおすすめの小説
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした
ゆっこ
恋愛
豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。
玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。
そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。
そう、これは断罪劇。
「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」
殿下が声を張り上げた。
「――処刑とする!」
広間がざわめいた。
けれど私は、ただ静かに微笑んだ。
(あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる