双子の姉は令嬢で、妹の私は使用人だけれど、特に問題は無い。

黒鯖

文字の大きさ
20 / 31

第8話「使用人とは」後

しおりを挟む
「こちらでは、お嬢様にお出しできるものがございません」

使用人と同じものを食べさせたのかと怒られるのは、こちらだというのは明白だ。
そんな面倒ごと引き受けたくないに決まっている。
きっぱりはっきりとジェーンさんがお嬢様の要望を断る。
けれど、こちらの都合なんて考えないのが、お嬢様だ。

「命令よ、早く支度して!」

うるさいと言わんばかりに、ピシッと言いつけたお嬢様。
食堂の空気は最悪だ。

「……かしこまりました」
「……」

アンナがすっと頭をさげ、ジェーンさんが渋々といった感じで頭を下げた。
内心みな、ため息をついているだろう。
それでも、何も言わずに立ち上がり、お嬢様の食事の用意を始める。
その様子に満足したらしいお嬢様は、さっさと近くのテーブルへと席につく。

「あ、ロンくんはここに座ってて」

同じように立ち上がって、用意を手伝おうとしたロンくんにお嬢様が声をかける。

「……しかし、皆働いていますし、」
「いいから~」

立ち上がったロンくんの腕を掴んで、無理やり隣に座らせる。
その様に、頭を抱えたくなる。
本来、使用人といえど、勝手に部屋に入るなどしてはならない。
お嬢様の行動は、別館といえど、これに近いものである。
部屋が与えられているのは休むためで、そこに行けばいつでも用事を言いつけられるとかそういった理由ではない。
なので、お嬢様の突然の訪問も、命令もマナー違反だ。
お勉強を一切してないお嬢様がそのことを知っていたり、考えたりはしないだろうが。
知らないのなら、教えてあげればいいのだけれど、教えても聞いてくれない場合はどうしたものか。
とりあえず、注意はしておかないと、とお嬢様に近づく。

「お嬢様、」
「何?」

ロンくんを横に侍らかしているため、お嬢様の機嫌はいいようだ。

「こちらは使用人専用の別館で、私的な空間です」
「だから?」
「突然押し掛けたりするのは、たとえ主人であってもマナー違反です」

出来るだけ機嫌を損ねないように、そして、理解してもらえるように、一言一句ゆっくりと口にした。
お嬢様は私の言葉に、キョトンとしたあと、さっと辺りを見回した。
一人一人を確認するような動作だった。
珍しくすぐさま反論が来なかったので、理解したのかと思えばそんなことはない。

「ロンくん以外はモブなんだから、別にいいじゃない」

これだった。

「モブなんだから、何も困らないでしょ?」

教えても理解しようとしてくれない場合はどうしたものか。
開き直るお嬢様に言葉を重ねようとしたところで、ドンっとトレーが置かれた。

「使用人用の食事しか提供できませんが、よろしければどうぞ」

笑顔なのに後ろに般若を連れたジェーンさんだった。

「別にいいわ。本邸の食事も美味しくないもの」

お嬢様の言葉に、今度は炊事場の方から物凄い音が響いた。
落ち着きなさいアンドレ、とマーガレットさんの声が聞こえる。
そんな漏れ聞こえる音声も気にせずお嬢様はロンくんとお喋りしながら食事をして帰っていった。
水が欲しいだの、量が少ないだのとケチをつけられて、のんびり羽を伸ばせるはずの空間でこき使われて、皆辟易した。
また来るね、なんて言っていたお嬢様に、やっぱりお勉強をしてもらわねばと思う。
けれど、それをみんなに言うと、無理だ諦めろの言葉しかもらえなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちゃんと忠告をしましたよ?

柚木ゆず
ファンタジー
 ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。 「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」  アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。  アゼット様。まだ間に合います。  今なら、引き返せますよ? ※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

悪役令嬢として断罪? 残念、全員が私を庇うので処刑されませんでした

ゆっこ
恋愛
 豪奢な大広間の中心で、私はただひとり立たされていた。  玉座の上には婚約者である王太子・レオンハルト殿下。その隣には、涙を浮かべながら震えている聖女――いえ、平民出身の婚約者候補、ミリア嬢。  そして取り巻くように並ぶ廷臣や貴族たちの視線は、一斉に私へと向けられていた。  そう、これは断罪劇。 「アリシア・フォン・ヴァレンシュタイン! お前は聖女ミリアを虐げ、幾度も侮辱し、王宮の秩序を乱した。その罪により、婚約破棄を宣告し、さらには……」  殿下が声を張り上げた。 「――処刑とする!」  広間がざわめいた。  けれど私は、ただ静かに微笑んだ。 (あぁ……やっぱり、来たわね。この展開)

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...