双子の姉は令嬢で、妹の私は使用人だけれど、特に問題は無い。

第９話「世界とは」①

男爵という家格の割に、この屋敷には色々な施設が備え付けられていた。
使用人としては、掃除する箇所が多くて大変というの面もあるけれど、貴族としては屋敷の広さは権力の誇示故に大切なのだろう。
この広々とした温室もその一つ。
全面ガラス張りで太陽の光が降り注ぐそこは、色鮮やかな花が咲き乱れる美しい花園。
世話は大変だが、綺麗に咲き誇る姿を見れば、そんなもの吹っ飛んでいく。
そんな美しい花園で、花には目もくれず優雅にお茶を飲むお嬢様。
ここだけを切り取れば、その見た目の麗しさから立派に淑女と言えそうな程だった。
けれど、カップをソーサーに戻す時、カチャンと音を立てたのはいただけない。
脳内で勝手にお嬢様の所作を採点していれば、お嬢様が急に楽しそうに笑みを浮かべた。
嫌な予感がした。

「王立学園の受験が決まったわよ！モブ」

なんて言い放った。
満面の笑みで。
王立学園というと、この国随一の高等学校だ。
国にある高等学校の中で一番の難関校にして、入学できるだけでもすごいと言われるような学校だとか。
何せ王立とつくぐらいで、王族が経営に関わっているのだから当然かもしれない。
要するに、国の精鋭たちが集まってくるということだ。
そんな学校をお嬢様が受験する？
未だに、お勉強拒否で一切勉強していないのに？
色々と思うも、口に出さず、よかったですねという態度をとる。

「そうなんですか、お嬢様。頑張ってください」
「頑張るのはモブよ！」

応援に対する返事に、首を傾げる。
なぜお嬢様の受験を私が頑張るのだろうか。
え、もしかして、私がお嬢様の受験勉強を手伝うのだろうか？
いや、それならちゃんと家庭教師の先生たちから習った方がいいだろう。
お嬢様を止めるべきか、家庭教師の先生に習うべきと進言すべきか、と悩んでいれば、お嬢様が部屋へ戻ると言われたので、そこで別れた。
使用人が少なくなってしまったため、お嬢様につきっきりで面倒を見る人手はない。
お嬢様が部屋に戻るというのなら、と私も仕事に戻らせてもらった。

その日の夜。
別館の私室で机に向かって日記を書いていれば、バンッという大きな音がした。
ビクリと肩を震わせて、なんの音だと背を向けていた扉の方を確認のため振り返る。
あんな音を立ててやってくるのはやはり、お嬢様しかいなかった。
そんなに気軽に来てもらっても困るのだが。
お嬢様の姿を視認した後、すすっと視線を動かして、壊れそうな勢いで開けられただろう扉に破損が起きてないか確認した。
特に問題なさそうだったので、安心する。
相変わらずノックもせず、どころか夜遅くにやってきたお嬢様に呆れつつ、要件を聞くために口を開こうとした。
その前に、お嬢様がズカズカと私に近寄ってきたので、なんなんだとつい身構えてしまう。
ずいっと目の前に突きつけられた手に一瞬強張りながら、突きつけられたのは数枚の紙だった。
突然突きつけられた紙に、意味がわからず困惑していれば、得意げな顔をしたお嬢様が口を開く。