双子の姉は令嬢で、妹の私は使用人だけれど、特に問題は無い。

黒鯖

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第9話「世界とは」④

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「何?」

何も言わなくなってしまった私に、少し機嫌を悪くしたのか尖った声で問われる。
なんと返せばいいものかと思っていれば、お嬢様の表情が徐々に険しくなっていく。

「私直々に書いたんだから、なくさないでよ」

失くしはしないけど、そもそも読めない……。
ミミズがのたうちまわるような文字が綴られた紙を見ながら言葉に詰まった。
有難がれ、と言った風の口ぶりで失くすなと言ったお嬢様は、機嫌を悪くしたまま扉も閉めずに部屋を出て行こうとしたので慌てて引き止める。

「受験は、やめておいた方が良いのでは?」

言えたことにほっとしつつ、お嬢様の顔色を伺えば、キョトンと不思議そうな顔をしていた。
なんだろうか、あの表情は。

「受験しない気!」

むしろ、受験できる気でいるのか、と問うてみたい。
そんなことができるわけもなくそれとなく、お嬢様には難しいのでは、と言ってみれば、何を言っているんだと返された。

「受験するのはモブよ!」
「…は?」
「替え玉受験よ!」
「……はぁっ?!」

自分史上最大の声が出た。
替え玉受験と堂々と言い切るのに、呆れを通り越して、逆に感心してしまう。
よくそこまで悪びれることもなく、恐れげもなく言えるものだ。
お嬢様は本当に勉強する気がないんだな。
しかしお嬢様は、王立学園と言った。

「お嬢様、」
「何よ」
「王立学園、を受験されるんですよね?」
「そうよ!」

意気揚々と言い切っているが、受験するのは私らしい。
そもそも、王立学園は王族が経営に関わっているのだ。
そんなところで替え玉受験なんて、王族謀ろうとしてるのと同義である。
そのことを理解しているんだろうか。
渋る様子の私に、お嬢様が目をパチクリさせる。

「受験しないつもり?」

はいしか聞き入れないといった態度の聞き方に、彼女の中で私が受験することは変わらないと分かった。
だが、王族の経営する学園の受験が、替え玉を許すわけはない。
魔法のある世界なのだし、前世以上に替え玉、カンニング、問題漏洩と対策されているだろうから、即バレだってあり得る。
魔法で一発バレしそう。

「いえ、そもそも替え玉なんて無理です」
「何言ってるの!なんのために勉強してると思ってるの!」

勉強させてもらえて助かってはいるが、替え玉受験のためではないはずだ。
そもそも、家庭教師が付けられているのはお嬢様であって私ではないし、お嬢様が貴族としてすべきものだ。
そう言い返したら、お嬢様が駄々をこねる子どものように首を左右に振る。

「勉強なんて攻略には役に立たないじゃない!だから、受験もモブがするのよ!」
「ですから、替え玉受験なんて無理です!」
「逆らうつもり?!」

出た。
最近、切り札としてよく使われる「逆らうつもり」だ。
元々は私だけに使っていたけれど、近頃は私以外にも使っている。
使う頻度が高すぎる上、これ言っておけば黙るでしょ、という使い方が彼女の好感度をどんどん下げていく悪循環だ。
相手がお嬢様のためにと思って言っていようと、気に入らなければ受け付けないというように「逆らうつもり」で黙らせる。
このままじゃよくないのに、言っても聞き入れてもらえず、逆に黙らせにくるという負の連鎖。
けれど、ここで黙るわけにもいかない。
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