双子の姉は令嬢で、妹の私は使用人だけれど、特に問題は無い。

黒鯖

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第9話「世界とは」③

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「そう!このメモ通りのやりとりをしておけば、入学したときに好感度が高い状態でスタートできるわ!」

お嬢様は自信満々に話しているが、好感度が高い状態、というので首を捻る。
このメモのやり取りで好かれる、ということなんだろうが、果たしてそんなことできるんだろうか。
初対面で好かれるような魔法の言葉が書かれているんだろうか。
まゆつばもののメモを胡乱げに見ていれば、ふふんとお嬢様が得意げな顔をする。

「ちょっとした裏技よ!」
「はあ…」

気のない返事をしながら、そもそも読めないのだが、と再度思う。
残念ながら、この国の言語で書かれているであろうメモは汚すぎて所々しか読めない。
紙に書かれている文字を見ながら、10歳の子どもでももっと綺麗な字を書くだろうにと思う。
それこそ、字を習いたての子どもが書くようなミミズばりの字だ。
この国の言語は前世の日本語とも英語とも違う言語であり、文字はアルファベットに近いものがあるけれどアルファベットではない。
読み辛すぎてこの国の言語と言い切れないが、他国の言語、ということはないだろう。
お勉強をしてないお嬢様がそんなものを知っていることはないだろうから。
誰が書いたにせよ、お嬢様が読めないものでは意味がない。
だから、他国の言語で書くことはない。
いや、魔法の言葉が書かれているとか吹き込まれて、騙されてこの紙をもらった、あるいは買ったということも考えられるか。
他国の言語だから真偽はわからないけど、そんな凄いものなら欲しいと手に入れてしまったとか。
しかし、他国の言語も多少勉強させてもらっている身から言わせてもらうと、やっぱり他国のものではなさそうだ。
よく見ればちらほらとこの国の文字と思われる文字がある。
それでも、この国の言葉だよね、と不安になってくるぐらいの字なので、お嬢様に声をかける。

「あの、お嬢様、」
「何よ?」

未だドヤ顔をして仁王立ちしているお嬢様になにをそんなに得意げにしているのかと不思議に思いながら、紙を指差す。

「これはどなたがお書きになったのでしょうか??」

素直に、どこで手に入れてきたのだ、と聞いても良かったけれど、あらぬ疑いを持たれてはいけない。
お前も手に入れにいくつもりか、などとか疑われては敵わない。
だから、誰が書いたのかを聞いて、どういう経緯で書いてもらったのかを教えてもらおう。
と思ったのだ。

「私だけど??」
「え?」

私、ということは、お嬢様が書いたということである。
ちらりと、紙に目をやって、そのミミズを見つめた。
お嬢様が書いた。
頭に冷水をかけられたような衝撃を受ける。
勉強どころか文字の練習もしてなかったのか、という事実に冷や汗がどっと出てきた。
いや、むしろ、勉強をしていないのに、文字だけは練習する方がおかしいか。
震えてきた手で持つ紙に、再度視線を落とせば、5歳の子どもレベルの文字が綴られている。
文字の向きが反対だったりなんてものはまだ可愛い。
これはどの文字なのか、と判別不能なものが大量に並んでいる。
こりゃあ、受験なんてできるわけないわ、なんて納得しつつも、体は冷えていく一方だ。
体は冷えていくのに、汗はだらだらと止まらない。
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