逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜

シアノ

文字の大きさ
2 / 25

2 婚約回避を目指すには

しおりを挟む
「あのレオン・オルブライト様と結婚!? すごいじゃない!」

 そう感嘆の声を上げたのは私の友人であるロベリア・アッカーソンだ。
 同い年で家格も同程度、私にとって数少ない大切な友人だ。

「結婚というか……まだ婚約前なんだけど」
「ゆくゆくは結婚ってことでしょう。レオン様もグレイスも二十歳だし、そう遠くないわよ。レオン様かぁ。すごいお相手ね!」

 今日はロベリアとお茶をしながらレオンとの婚約について相談していたのだった。

 しかしロベリアには私の気持ちがわからないらしい。

「だって、一人息子だし次期オルブライト公爵なのは確定でしょ。それに魔術も剣術もすごい才能で、二十歳の若さで魔術騎士団のエースって呼ばれているのよ。この国で一、二を争う有望株じゃないの。ガーフィール家からすれば超が付く玉の輿でしょう」

 ロベリアはレオンへの賞賛の言葉をひたすら続けている。

「しかも、絵本に出てくる王子様みたいな美形! サラツヤの金髪に、宝石のような青の瞳……! 爽やかな微笑み! 青と白の魔術騎士団の制服があれほど映える人は他に知らないわ。私も一度だけ夏にお呼ばれしたけれど、あの頃からすっごい美少年だったものねぇ」

 ロベリアは興奮で赤くなった頬に手を当てた。

 私とロベリアが知り合ったのも数年前に公爵領に招待された時のことだった。
 だからレオンからいじめられていたことを除けば、いいこともあったといえばあった。

「……でも、嫌なものは嫌なの。だって、私ずっとレオンにいじめられていたし……」
「うーん、いじめられていたところは私は見ていないからなんとも。ただ、私以外の子がグレイスに近付くのは嫌そうにしてたわよね」

 ロベリアは思い出すように首を傾ける。

「そうでしょう! 結婚なんてしたらきっと交友関係も支配されてしまうんだわ……こうしてロベリアとお茶も出来なくなってしまうかもしれない」
「考えすぎだと思うけどな。それに昔はやんちゃだっただとしても、もう大人でしょう。今は魔術騎士団での地位もある人なんだから、変なことにはならないわよ」

 ロベリアにそう言われて私は俯いた。

 誰に相談してもこんな感じで、誰も親身になってくれないのだ。お父様やお母様もなんだかんだ言いつつも私がレオンの婚約者になることを望んでいる。むしろ喜んでさえいるのだ。

 確かに条件だけ見れば、これ以上ない理想的な相手なのかもしれない。しかし嫌なものは嫌なのだ。

「私はグレイスとお似合いだと思うわよ」
「嬉しくない……私はロベリアが羨ましいわ」

 ロベリアにも婚約者がいるのだが、そのお相手は公爵領に招待されたときに知り合い、互いに恋に落ちた相手なのだ。
 基本的に貴族の子息は政略結婚をするものだが、稀にロベリアのように家格が釣り合った上で恋愛結婚同然の相手が見つかることもある。

 ──あーあ、私も素敵な恋がしたかった。

 初恋はレオンに邪魔をされた。
 それ以降も、少し仲良くなれたかと思えばレオンの妨害が入ったからだ。
 それは男の子だけに限らず、女の子と遊ぶことまで邪魔ばかりされ、やっと出来た友人はロベリアくらいのものだ。

「そういえば……レオンにスカートを引っ張られて転んだのがロベリアと仲良くなったきっかけだったのよね……」
「ああ、グレイスったらすごい転び方したのよね。あの時ってレオン様にスカートを引っ張られたの?」
「そうよ。確か後ろからすごい勢いでスカートを引っ張られて、私そのまま手も付けずに顔から転んで、おでこを擦りむいちゃったんだから」
「そうだったんだ……私が見た時には転んだグレイスがギャン泣きしてて、レオン様がグレイスを頼むって言って走り去って行っちゃったの。転ばせちゃったから、少しは悪いとは思っていたのかもね」

 ロベリアは私の顔を覗き込み、額をツンと突いた。

「おでこに傷が残ったってわけでもないのね。それなら怪我の責任を取るって意味の婚約じゃないわけだ」
「……多分、オーガスタおば様が私を気に入ったからだと思う」

 オーガスタおば様とはオルブライト公爵夫人の名前だ。私的な場合ではそう呼ぶように言われている。

「なんで気に入ってくれたのかはわからないんだけど」
「グレイスって、なんていうかふわふわしてるものね。だからじゃない? レオン様や公爵夫人みたいなすごい美貌とは違うけど、癒し系美人って感じ?」

 私はロベリアの言葉に頬が熱くなった。

「そんな、私はロベリアみたいなキリッとした美人になりたかったのよ」
「ふふ、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「それに音楽の才能だってあるし、素敵な婚約者もいて羨ましいなぁ」

 ロベリアも公爵領のお呼ばれで才能が開花した一人で、今は音楽家として活動をしているのだ。
 私のような芋臭い女と違い、洗練された美貌もその才能も素敵な婚約者も、何から何まで羨ましい。

 ふとロベリアは考えるように頬に人差し指を当てた。

「……うーん、じゃあ仮にだけど、公爵夫人がグレイスを気に入って息子のお嫁さんにしたいから、公爵に頼んでこの婚約を決めたとするわね」
「え?」
「もしもの話よ。その場合、レオン様はグレイスのことなんてどうでもいいかもしれないじゃない?」
「そうだと思うわ。じゃなかったらあんなにいじめたりなんて……」
「だからね、それなら本人から断ってもらえばいいのよ」

 ロベリアの言葉に私は目を見開いた。

「だって、オルブライト公爵家が目上すぎるからグレイスどころか、ガーフィール伯爵家でもどうにも出来ないのでしょう。でも、当の本人であるレオン様が嫌だって主張すれば公爵夫人も考え直してくれるかもしれないわ」
「そうよ! それがあったんだわ!」

 目から鱗である。
 レオンが嫌だと言えば婚約も白紙になるかもしれない。ガーフィール伯爵家にも迷惑がかからない。

「ありがとう、ロベリア! 私、ちょっとレオンに話してくる」

 私はロベリアの返事を聞かずに立ち上がった。

「……でも、レオン様ってグレイスのこと嫌いじゃないと思うんだけどねぇ」

 立ち去る直前、ロベリアが何か呟いていたけれど、気が急いている私の耳には届かなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

語彙が少ない副団長の溺愛 〜婚約者なのにずっと現場モードです〜

春月もも
恋愛
私の婚約者は、近衛騎士団の副団長。 「下がれ」 「危険だ」 「俺の後ろ」 語彙は主にこの三つ。 街を歩けば警戒。 菓子を選んでも警戒。 なぜか婚約者にも警戒。 どうやら副団長様は、 恋愛でも現場感が抜けないらしい。 語彙が少ない騎士様と、 少しずつ距離が近づいていく婚約生活。 不器用すぎる副団長の、 過保護で静かな溺愛物語。

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

処理中です...