逆襲のグレイス〜意地悪な公爵令息と結婚なんて絶対にお断りなので、やり返して婚約破棄を目指します〜

シアノ

文字の大きさ
3 / 25

3 元いじめっ子に直談判

しおりを挟む
 私は即座にレオンを呼び出した。

 個人的な連絡先は知らないから、少し考えて魔術騎士団に連絡したのだ。婚約解消を頼むのに公爵家を通すのが気まずいせいだった。

 忙しい身の上だから、すぐに返事は来ないだろうと思っていたのだが、予想は外れた。
 驚くほど早かった返信には、とあるカフェの個室を予約したこと、その日時が書かれていた。



 当日、私はカフェに向かった。
 私でも名前くらいは知っている有名店だ。外観は洒落ていて、飲み物やスイーツもとても美味しいと評判だった。しかし個室があるとは知らなかった。

 そういえばレオンと直接話すのは久しぶりだ。十二歳の夏以来だろうか。
 レオンは十二歳の秋から魔術騎士団に入団したため、公爵領への招待もこの年で終わったのだ。

 その後、夜会で何度か見かけることはあった。
 ロベリアの言う通り、レオンは遠くからでも目立つ美青年に成長していた。だから、私に気が付いて何かされる前に逃げ回り、顔を合わせないようにしていたのだ。

 思い返すレオンは男女問わず人に囲まれながら、誰かを探すようにキョロキョロしていることが多かった。
 その様子からきっとレオンには恋人がいて、その女性を探しているのだろうと想像していた。

 子供の頃にいじめていた私のことなどすっかり忘れ去っていてほしかったのだが、まさか外堀から埋められてしまうとは。

 いや、きっとレオンからしても不本意な婚約に違いない。
 家柄はオルブライト公爵家がずっと上で比べ物にもならない。そして私はロベリアのような目立つ美女でなく地味な方だ。趣味も読書で、何かの才能に秀でているわけではない。好き好んで結婚したい物件ではないはずだ。



 そんなことを考えているうちに約束のカフェに着いた。
 入店して名前を告げると、奥の個室に通されたのだった。

「グレイス! 久しぶりだな」
「レオン……あの、お久しぶり」

 先に来ていたレオンが立ち上がり、眩しいものを見るように私の方を見た。

 ロベリアの言う通り、王子様みたいな美貌だ。
 まあ実際にオルブライト公爵家は王家と血の繋がりがあり、レオン自身も王位継承権を持つそうだから実質王子様のようなものかもしれない。
 レオンは私の目から見ても格好いいと思う。子供の頃から宗教画の天使のような美少年だった。成長した今は、元の素材の良さに加え、魔術騎士として鍛えられた肉体がある。誰から見ても完璧な外見だ。
 今日は魔術騎士団を途中で抜けてきたのか、青と白を基調とした制服のままだが、それも悔しいくらい似合っていた。

 私はレオンに促されて着席する。

「グレイスの好きそうなハーブティーがある。それからここの苺ケーキもおすすめだそうだ」
「……ええと、じゃあ、それを」
「俺はコーヒーを」

 注文の品はさして待たずにテーブルに並べられた。レオンに促され、ハーブティーを一口飲んだ。
 レオンの言う通り、私好みのハーブティーだ。大好きな苺の乗ったケーキもとても美味しい。

 私の好みをどこで知ったのだろう。それとも自覚していないだけで、十二歳の頃から味覚の好みは変わっていないのかしら。
 どのタイミングで話を切り出すか考えているうちに、一口、また一口とケーキを口にして、気がつけば食べ終わっていた。
 レオンはコーヒーを飲みながら私のことを見つめている。
 このままではいつまで経っても切り出せない。私はハーブティーを一気に飲み干し、口を開いた。

「あ、あの……実はレオンに話があって」
「なんだ?」

 レオンは微笑み、首を傾ける。
 その様子は子供の頃私をいじめた張本人とは思えない。魔術騎士らしく爽やかで穏やかそうで、私にも好意的に見える。
 レオンってこんな人だっただろうか。
 そう思いながら、私は勇気を出して言葉を絞り出した。

「ええと、言いにくいけど、私……貴方との婚約を受け入れ難いのよ。家柄も釣り合わないし、私には取り柄もない。それに、子供の頃貴方は私をいじめてたし……貴方も私なんかに興味はないでしょう? ガーフィール家からこの婚約の話をなかったことにしてもらうことは難しいわ。でも、貴方からオーガスタおば様にお願いしてもらえば、穏便に婚約の話を白紙に出来ると思うのよ」

 私はこの数日ずっと考え続けていたおかげで、淀みなくレオンに話すことができた。

 しかしたったこれだけで、カップを持つ手は震え、汗をかいている。心臓もずっとドキドキしっぱなしだ。
 個室で他の客の目がないとはいえ、さすがに暴力を振るわれることはないと信じたい。
 それでも幼い頃からずっと恐ろしい存在だったレオンにそう告げるのは、とても緊張するのだった。

「……グレイスは、俺と結婚したくないのか」

 レオンは声を荒げることなく、静かにそう言った。

「ええ。さっきも言ったけれど、子供の頃、公爵領に招待されていたとき、私はレオンにいじめられていた。虫を渡されたり、転ばされたり……。申し訳ないけれど、今でも貴方が怖いし、結婚したいとは思わない」

 私もなんとか気持ちを伝えることが出来た。

「俺を呼び出した要件は、今の話ということだな?」

 私は頷いた。

「そうか……君の言い分はわかった」

 レオンは眉を顰めながらもそう言ったことで私はホッと息を吐く。
 ──これでなんとかなりそうだ。
 私のそんな思いはレオンの次の言葉であっさり打ち砕かれた。

「──だが、婚約について白紙にするつもりはない」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

離婚寸前で人生をやり直したら、冷徹だったはずの夫が私を溺愛し始めています

腐ったバナナ
恋愛
侯爵夫人セシルは、冷徹な夫アークライトとの愛のない契約結婚に疲れ果て、離婚を決意した矢先に孤独な死を迎えた。 「もしやり直せるなら、二度と愛のない人生は選ばない」 そう願って目覚めると、そこは結婚直前の18歳の自分だった! 今世こそ平穏な人生を歩もうとするセシルだったが、なぜか夫の「感情の色」が見えるようになった。 冷徹だと思っていた夫の無表情の下に、深い孤独と不器用で一途な愛が隠されていたことを知る。 彼の愛をすべて誤解していたと気づいたセシルは、今度こそ彼の愛を掴むと決意。積極的に寄り添い、感情をぶつけると――

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

語彙が少ない副団長の溺愛 〜婚約者なのにずっと現場モードです〜

春月もも
恋愛
私の婚約者は、近衛騎士団の副団長。 「下がれ」 「危険だ」 「俺の後ろ」 語彙は主にこの三つ。 街を歩けば警戒。 菓子を選んでも警戒。 なぜか婚約者にも警戒。 どうやら副団長様は、 恋愛でも現場感が抜けないらしい。 語彙が少ない騎士様と、 少しずつ距離が近づいていく婚約生活。 不器用すぎる副団長の、 過保護で静かな溺愛物語。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

処理中です...