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1巻
1-2
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すると、ガサガサと葦を掻き分ける音と共に、見たこともないほど美しい少女が目の前に姿を現したのだった。
「シッ、大きな声を出すでない。人も呼ばないでおくれ」
声が近いのもそのはず。私のいた茂みのすぐ側にいたらしい。まるで誰かから隠れるように屈んだままである。
「……そなた、この辺りの子供か」
艶やかな黒髪を結いもせずに垂らした大きな目の美少女は、こちらをじいっと見つめた。彼女の瞳の色は実に鮮やかな青色をしている。泣いているかと思ったが涙は浮いていない。睫毛が長く、瞬きをするだけでパサパサと音を立てそうだった。
子供心にも驚くほどの豪奢な着物を身につけている。お金持ちの子女か何かであるのは間違いなく思えた。
それまで一番の美少女だと思っていた、本邸に住む姉の朱華よりも美しい。年頃は姉よりも少し上くらいだろうか。
「青い目……」
私はその目を見て、目の前の彼女が人ならざるモノだと理解した。
祖父から教わった人間の見分け方によると、人の目の色は黒や茶色をしているらしい。確かに私も祖父も黒い瞳である。
ずっと遠くの外つ国には青や緑のような綺麗な色の目をした人間もいるらしいが、あまりに遠いのでそうそう会うことはないとも聞いていた。
つまり、この青い瞳の少女ははっきりと見えるし、こうして言葉も交わせるが、人ではないということなのだろう。
「……あなた、人じゃないの?」
私の問いに、美少女は目を数度瞬かせた後、ゆっくりと頷いた。
「――そうだ。だから、追われておる。もし捕まったらきっと殺されてしまう。このことは誰にも言わず、ここから立ち去ってほしい。父上――いや、お父さんにも、お母さんにも言ってはならぬ」
「お母さん、死んじゃって、いない。お父さん、いつも大きい家の方にいて、たまーにしか来ないの。爺ちゃんはいるけど……」
「では、爺ちゃんにも秘密だ」
「うん。いいよ、ひみつ!」
そして、その美少女の白い足が血で濡れているのに気が付いた。
「あ、血! たくさん!」
足首よりやや上の辺りに刻まれた傷は深く、綺麗な着物にまで血が滲んでしまっている。私はその血の量におろおろした。最初に聞こえた泣き声のような呻き声は、傷が痛むからだったのかもしれない。
「お怪我、してるの?」
「……ああ。実は私は人魚なのだ」
「人魚?」
「ああ。この川を遡上していたら天敵に食われそうになり、やむなく岸へ上がったのだ。しかし人に見つかるのも危険ゆえ、そなたの爺ちゃんにも黙っていよ」
美少女は少しばかり古めかしい喋り方をしていた。きっと、見た目よりうんと長生きしている魚の精なのだろう。そんな彼女が、私に合わせるために爺ちゃんという呼び方をするのがなんとも可笑しい。
「薬、もってこようか? 爺ちゃん、薬作れるよ」
「いや、そなたの爺ちゃんも私を見れば薬にしようと思うかもしれない。知っておるか? 人魚の肉は万能の薬になるという。さあ、このまま静かにお帰り」
「でも、血が出てる……。痛いよ?」
と、そこで私は手にしていた籠の中に摘んでいた薬草の存在を思い出した。
「あ、これ、薬草!」
私は美少女に籠の中を見せる。
「だが……そなた、治療なぞ出来るのか。幼子であろう?」
「大丈夫、爺ちゃんから教わってる。これと、これ!」
たまたまだったが、摘んだ薬草の中に痛み止めになる葉と、血止めになる草があったのだった。
「薬草……ほう、この辺りに生えておるのか。どれも同じに見えるが」
「よっく見ると全然違うよー。この草、痛くなくなるから、このまま噛んで。あとこっちの、血が止まる草。ちょっと待っててね」
私は胸元から手巾を取り出した。祖父が綺麗に洗ってくれている手巾だ。
血止めの草を軽く揉み、傷口に当てがい、手巾で塞ぐように巻き付ける。たったそれだけの拙い手当てだが、美少女は喜んでくれた。
「まこと、感謝する」
ほっそりした腕が伸ばされ、そのままぎゅうっと抱きしめられる。垂らした長い黒髪が私の頬をするすると撫でていく。その感触はこそばゆいが嫌ではなかった。彼女の髪からはとても甘やかな香りがして、私は息を深く吸い込んだ。魚だと彼女は言ったけれど、魚の生臭さは全くない。
「そなたは良い匂いがするな」
頬を擦り付けられながら、私よりも余程良い香りの人に言われて気恥ずかしい。自分がどんな匂いなのかは嗅いでもよく分からないが、いつだか祖父が幼い子供は乳のような匂いがするのだと言っていた。
泣いていないと言っていたその人は、気が付けば青い瞳を潤ませて、ポタリと涙を零している。その涙まで宝石みたいに綺麗で、そして私も悲しくなってしまった。
「泣かないで……まだ痛い?」
私は一生懸命腕を伸ばし、彼女を抱きしめ返していた。祖父があやしてくれるように、その背中をトントンと優しく叩く。
だが彼女はふるふると首を横に振った。
「――死んで、しまったのだ……」
「だれが?」
「父が……。それに大好きだったあの人も、みんな……私のせいで……」
「人魚だから?」
「……ああ。私が――だから」
ぎゅっと強く抱きしめられて、その言葉はよく聞き取れなかった。
「……すまぬ。そなたのお母さんも……死んでしまったのだったな」
「えっとね、赤ちゃんの時でね、お母さんのこと知らないんだぁ。大きいおうちには、お父さんと、お母さんじゃない人がいてね、お姉ちゃんもいるの。でもそっちへ行ったら叩かれるから、行っちゃダメなんだ」
「それは……」
「でもね、爺ちゃんがいるんだよー。爺ちゃん大好き!」
「そうか……そなたは強い子だな」
「うん。爺ちゃんとね、あまい包子がだーい好き。餡子が入っているやつ!」
「そうか……可愛らしいことだ」
私の言葉でその美少女が微笑んだのを見て、とても嬉しくなった。胸がじんわりと温かくなる。私も笑いかけた。
「そなたに手当ての礼がしたい。しかし、今は持ち合わせもない。だから代わりにこれを……」
美少女は長い髪を持ち上げ、着物の襟を緩めると、そのほっそりとした首筋を露わにした。
すると現れたのは青銀の鱗である。細く滑らかな美少女の首の付け根にチラホラと鱗が生えていた。まるで飾りのように美しく、朝の光に煌めく。
「きれい……」
「ほら、これを持っておいき」
美少女は平然とその鱗を一枚剥がして私の手のひらに載せた。
「良いの?」
私の人差し指の爪くらいの大きさの、綺麗な円鱗である。手のひらの上でキラキラと光っていた。
「私はもうしばらくしたら、ここから姿を消す。だからそなたもお戻り。約束した通り、誰にも――爺ちゃんにも決して私のことを話してはならぬよ」
「うん」
「内緒の約束だ」
美しい少女は首を傾けて、白くほっそりとした人差し指を己の唇に当てる。その姿はこの世のものとも思えないほど美しく、不思議な色香に溢れていたものだから、やはり人のはずがないと感じた。
私はコクリと頷いて、彼女の鱗を握り込む。
「……それがあれば、きっとまた会える……私の――」
そう言って、彼女は私の額に口付けた。
なんだかすごく胸の辺りがくすぐったくて、むずむずする。なのにうなじはピリピリしているのが不思議だった。
さらさらと川が流れ、微かな風で音を立てる葦の海。私は麗しく悲しい青い瞳の人魚にさよならと手を振った。
かつん、かつん、と碁石を打つ音がしていた。
家の前に卓を出し、祖父と祖父の友人である壁巍が碁を打っているのだ。祖父は楽しげに笑っている。どうやら勝負は優勢のようだ。
「なあ壁道士よ、次勝ったら儂にあの術を教えておくれ」
「あの貝の術か。そりゃあおまえさんが、あと三戦ほど勝ってからだのう」
「なんじゃいケチ――おや、莉珠おかえり。お前、朝飯も食わんでどこまで行ってたんだい」
「ただいま爺ちゃん。壁道士、こんにちは」
壁巍は白い髭を山羊みたいに伸ばした、老齢の祖父よりも更に年老いた男である。
壁道士と呼ばれており、非常に博識な道士として近隣でも有名だったそうだが、どうもそれだけではなく、私のように見えないモノが見える力を有していたとか。祖父に私の見え方が普通と違うことを教えたのもこの人だ。
子供が好きではないと公言する壁巍は、普段は私に近寄ることはほとんどなかったが、その時ばかりは驚愕した様子で碁石を投げ捨てて、大股歩きで私のところへやってきた。
「朱莉珠、手を見せなさい」
壁巍は私に詰め寄り、手首を掴む。一瞬、その目が青く光ったように見えた。青い瞳――それは先ほどの少女によく似ていた。
「……おい、どうしたんだい壁道士。孫に何があった」
祖父もただ事ではないと思ったのだろう。慌てふためいて追いかけてくる。
その頃には壁巍の瞳は黒い色に戻っていた。
「うむ、この娘から強い力――何やら呪いめいた危険なものを感じる。おい、どこへ行っていた? おまえさん、何を持っている?」
普段言葉を交わさない大人から強い言葉で質問攻めにされ、幼かった私は震え上がった。それでもあの美しい少女との約束は守り、硬く口を閉じる。しかし手のひらに握り込んでいた青銀の鱗は、隠す間もなく取り上げられてしまった。
「やあ! 返して!」
「ああ、なんということを……。こんなものを持っていたら、すぐにあっちに引き摺り込まれてしまうぞ! 朱羨、火を熾してくれ。この鱗は焼いた方が良いだろう」
「や、やめてよぉ!」
「莉珠、いかん。こっちにおいで!」
「いやーッ!」
そうしてあの人魚の美少女から貰った綺麗な鱗は、無残にもメラメラと燃える焚火に放り込まれた。
「朱莉珠の力は相変わらずのようだな」
燃え尽きた焚火を掻き回している壁道士の言葉に頷いたのは祖父だった。
「ああ。……大きくなればいずれ落ち着くと思っていたんだが」
「見えるだけではない。どうやらこの娘は好かれやすい性質でもあるようだな。このままではあちらに連れていかれかねん。全く困ったことだ」
どうすれば、と狼狽えた声を上げる祖父を無視し、壁道士は真っ白い髭を撫でながら私に問う。
「朱莉珠や、おまえさんはこれをくれたアヤカシに名前を名乗ったか」
アヤカシ、の意味がピンとこなかったが、私は少し思い返してから正直に首を横に振った。
名前は名乗っていないし、彼女の名前も聞いていない。これに答えるだけなら彼女との約束を破ったことにはならないだろう。私は赤くなった目を擦り、そう考えた。
「そうか、それは何よりだ。おい、朱羨、おまえさんの孫はなんとかなりそうだぞ。とにかく、この娘は窓のない部屋にしばらく閉じ込めておけ。その間に繋がりを絶たねばならん」
「あ、ああ。……さ、こっちにおいで」
そうして狭い家の、唯一窓のない物置部屋に一人きりで丸一日ほど入ることとなった。
普段から蝋燭はなるべく節約していたから、古い油を皿に入れた灯火が薄暗い部屋の唯一の明かり。古い油は燃えると胸の悪くなるような臭いがして、祖父が置いていってくれた好物の包子を前にしても食欲が失せそうになる。
「――莉珠や、もう良いよ」
「爺ちゃん、もう出て平気?」
「ああ。壁道士が清めてくれたからね。よしよし、よう頑張ったな」
そうして祖父が、かさついた手で私の頭を撫でてくれる。私はこの手が大好きだった。
壁道士はもう帰ってしまったらしい。私のために清めの香を焚き、一晩中儀式をしていたのだという。
「一人でよう頑張ったご褒美だ。爺ちゃんが作ったんだよ。ほら、開けてごらん」
「わあ、綺麗! 貝の中になんか入ってる!」
「練り香水というんだ。嗅いでごらん。茉莉花の香りがするからね。お前の名前の莉珠というのは、茉莉花から取ったんだよ」
六歳の私の小さな手のひらに載せられた、当時は握り込めないほど大きかった貝殻の中には、たっぷりと練り香水が詰まっていた。
「これを耳の後ろにほんのちょっとだけ塗ってごらん。茉莉花の香りがお前を守ってくれるからね」
「うん!」
「毎朝、顔を洗った後に必ず付けるんだよ。爺ちゃんとの約束だ」
「はぁい!」
「それで、もしも爺ちゃんに何かがあったら……」
「爺ちゃん?」
「いいや、なんでもないんだ。莉珠……」
祖父は私を強く抱きしめた。
「良いかい、この練り香水はとっても大切なものだ。――何があっても手放してはいけないよ」
それ以来、私は人ならざるモノが見えなくなった。壁道士が行ったのはきっとそういう呪いの類だったのだろう。
見えなくなったところで困ることもなかったから、かつて人ならざるモノが見えていたことも、あの葦の海の記憶もだんだん遠くなっていった。
どうやら横になっている内に眠ってしまっていたようだ。日はとっぷりと暮れ、部屋の中は暗い。
「なんだか懐かしい夢を見ちゃった……」
目を擦りながら夢を思い返す。
あの麗しい人魚の妖は元気だろうか。それから壁道士はあの時点で祖父より年上に見えたが、まだ存命だろうか。
夢の中では触れられるのに、優しかった祖父はもういない。
「爺ちゃん……会いたいよ」
私は暗闇の中で膝を抱えた。
懐かしい茉莉花の香りは遠い。
◆ ◆ ◆
試験への出立はもう明日に迫っていた。
楊益はぼんやりとした顔ながら存外に仕事が早かったらしく、私と話した即日に父との話を付けたらしい。私という存在を持て余した父には絶好の機会に感じたのだろう。私は無事に試験を受ける許可を得た。私に関することには何にでも反対していた義母も、もう父が決めてしまった以上文句を言えないようだった。
私はようやくこの朱家から逃げられるのだ。
仕事の合間を縫って荷造りを済ませると、物の少ない部屋がさらにすっきりとした。一番大切な茉莉花の練り香水は、いつものように耳の後ろに塗り、荷物の一番上に纏める。
今日は義母がやけに機嫌がよく、硬い麵麭だけではあったが朝食まで与えられた。きっと、明日には私がいなくなるのが嬉しいのだろう。
とはいえ仕事を言いつけられることは変わらない。薪を買いに行かされ、その後は休む暇もなく、街の反対側に住まう親戚の家まで酒の入った重い箱を届けに行っていた。けれどこんな生活も今日限りと思えば足取りは軽く、疲れも感じなかった。
頼まれた仕事が終わり、空腹を抱えて帰宅すると庭に何かを燃やしているような焦げ臭い空気が漂っていた。義母と小間使いが焚火に当たりながら話をしている様子だったので、当たり散らされる前にそそくさと自室へ戻る。
――そして私は部屋の入り口で呆然と立ち尽くした。
荷物が何もない。
部屋はすっからかんになっていた。今朝まで使っていたはずのペラペラの薄い寝具すら、ない。
思わずへたりと膝を突く。足が体重を支えられなかった。
頭から血が下がり、貧血のようにクラクラとして、手や足の先が冷たくなっている。だというのに心臓だけはバクバクと嫌な鼓動を立てており、何度も浅い息を繰り返した。身を起こすことも出来ず、座り込んだまま地面に手を突く。
(――やられた)
義母以外にこんなことをする者などない。今までも機嫌が良くない時には、祖父の残した物を取り上げられたことがあった。
だが、まさか明日出立というこの日にまでやられるとは思ってもみなかった。それも、私の持つ、ほんの僅かなもの全てを取り上げるだなんて、それほど憎かったのか。何故そこまでされねばならないのだ。ただ妾の子として生まれたことがそれほどの罪なのか。
私は絶望感に支配され、しばらく動けずにじっと蹲る。少しして、血の巡りがまともになってきたらしく、ようやく動けるようになった。
そこで私はハッと顔を上げる。
さっき帰宅した時に、義母が庭で何かを焼いていたのを思い出したのだ。
私は立ち上がり、庭へ走った。
庭へ行くと、義母はまだそこにいて焚火にあたっていた。
そうして真っ青になっている私の顔を見てニヤッと笑う。真っ赤な紅を塗った唇が腐った果実のように歪んだ。してやったり、とでも思っているのかもしれない。
「おやぁ、お前、まだいたのかい? もう、とっくに出立したかと思うていたよ」
とっくに、のところを強調して義母は言う。
「何やら小汚い塵を残していったようだから、仕方なくこちらで処分しておったのだが、何か、忘れ物でも?」
「……出立は明日です」
しれっとそう言う義母をじっと見据えたが、当の本人は微塵も狼狽えたりはしなかった。横の年若い小間使いだけが困ったように目線を逸らす。
「おやまあ、私としたことが。日付を間違えたかねえ。このところ少し睡眠不足だったから。頭も痛いし、休まなければ」
義母は思い通りに手のひらの上で踊った私が可笑しくてたまらないのだろう。嘲笑を浮かべた醜い顔の下半分を袖で押さえている。
私はいつのまにか、両手の拳を強く握りしめていた。手のひらに爪が食い込んで痛みがあったが、それは怒りを堪えるのに丁度良いものでしかなかった。
もしここで怒りのまま義母に掴みかかれば、宮女の試験を受けに行けなくなってしまう。それだけはどうしても避けねばならなかった。
それにまだ全ては燃えてないかもしれない。義母がさっさと立ち去れば、焼け跡から何か見つけ出せる可能性がある。そんな一縷の望みに縋って、この激情をやり過ごすしかなかった。
そうやって怒りを我慢し過ぎたのか、視界の端に黒い靄のようなものが立ち昇っている気がした。
――酷く気分が悪い。胸がむかむかしている。
「ああ、肩も凝っているね。肩が凝ると頭が痛くなるから。お前、私は少し寝るから、肩を揉んでちょうだいな」
「は、はい」
義母は惨めな私を満足そうにもう一度嘲笑ってから、小間使いを連れて去っていく。小間使いも申し訳なさそうに振り返り振り返りしていたが、そんな顔をするくらいなら、さっさと義母を連れて去ってほしかった。あの小間使いまで憎みたくはない。
「シッ、大きな声を出すでない。人も呼ばないでおくれ」
声が近いのもそのはず。私のいた茂みのすぐ側にいたらしい。まるで誰かから隠れるように屈んだままである。
「……そなた、この辺りの子供か」
艶やかな黒髪を結いもせずに垂らした大きな目の美少女は、こちらをじいっと見つめた。彼女の瞳の色は実に鮮やかな青色をしている。泣いているかと思ったが涙は浮いていない。睫毛が長く、瞬きをするだけでパサパサと音を立てそうだった。
子供心にも驚くほどの豪奢な着物を身につけている。お金持ちの子女か何かであるのは間違いなく思えた。
それまで一番の美少女だと思っていた、本邸に住む姉の朱華よりも美しい。年頃は姉よりも少し上くらいだろうか。
「青い目……」
私はその目を見て、目の前の彼女が人ならざるモノだと理解した。
祖父から教わった人間の見分け方によると、人の目の色は黒や茶色をしているらしい。確かに私も祖父も黒い瞳である。
ずっと遠くの外つ国には青や緑のような綺麗な色の目をした人間もいるらしいが、あまりに遠いのでそうそう会うことはないとも聞いていた。
つまり、この青い瞳の少女ははっきりと見えるし、こうして言葉も交わせるが、人ではないということなのだろう。
「……あなた、人じゃないの?」
私の問いに、美少女は目を数度瞬かせた後、ゆっくりと頷いた。
「――そうだ。だから、追われておる。もし捕まったらきっと殺されてしまう。このことは誰にも言わず、ここから立ち去ってほしい。父上――いや、お父さんにも、お母さんにも言ってはならぬ」
「お母さん、死んじゃって、いない。お父さん、いつも大きい家の方にいて、たまーにしか来ないの。爺ちゃんはいるけど……」
「では、爺ちゃんにも秘密だ」
「うん。いいよ、ひみつ!」
そして、その美少女の白い足が血で濡れているのに気が付いた。
「あ、血! たくさん!」
足首よりやや上の辺りに刻まれた傷は深く、綺麗な着物にまで血が滲んでしまっている。私はその血の量におろおろした。最初に聞こえた泣き声のような呻き声は、傷が痛むからだったのかもしれない。
「お怪我、してるの?」
「……ああ。実は私は人魚なのだ」
「人魚?」
「ああ。この川を遡上していたら天敵に食われそうになり、やむなく岸へ上がったのだ。しかし人に見つかるのも危険ゆえ、そなたの爺ちゃんにも黙っていよ」
美少女は少しばかり古めかしい喋り方をしていた。きっと、見た目よりうんと長生きしている魚の精なのだろう。そんな彼女が、私に合わせるために爺ちゃんという呼び方をするのがなんとも可笑しい。
「薬、もってこようか? 爺ちゃん、薬作れるよ」
「いや、そなたの爺ちゃんも私を見れば薬にしようと思うかもしれない。知っておるか? 人魚の肉は万能の薬になるという。さあ、このまま静かにお帰り」
「でも、血が出てる……。痛いよ?」
と、そこで私は手にしていた籠の中に摘んでいた薬草の存在を思い出した。
「あ、これ、薬草!」
私は美少女に籠の中を見せる。
「だが……そなた、治療なぞ出来るのか。幼子であろう?」
「大丈夫、爺ちゃんから教わってる。これと、これ!」
たまたまだったが、摘んだ薬草の中に痛み止めになる葉と、血止めになる草があったのだった。
「薬草……ほう、この辺りに生えておるのか。どれも同じに見えるが」
「よっく見ると全然違うよー。この草、痛くなくなるから、このまま噛んで。あとこっちの、血が止まる草。ちょっと待っててね」
私は胸元から手巾を取り出した。祖父が綺麗に洗ってくれている手巾だ。
血止めの草を軽く揉み、傷口に当てがい、手巾で塞ぐように巻き付ける。たったそれだけの拙い手当てだが、美少女は喜んでくれた。
「まこと、感謝する」
ほっそりした腕が伸ばされ、そのままぎゅうっと抱きしめられる。垂らした長い黒髪が私の頬をするすると撫でていく。その感触はこそばゆいが嫌ではなかった。彼女の髪からはとても甘やかな香りがして、私は息を深く吸い込んだ。魚だと彼女は言ったけれど、魚の生臭さは全くない。
「そなたは良い匂いがするな」
頬を擦り付けられながら、私よりも余程良い香りの人に言われて気恥ずかしい。自分がどんな匂いなのかは嗅いでもよく分からないが、いつだか祖父が幼い子供は乳のような匂いがするのだと言っていた。
泣いていないと言っていたその人は、気が付けば青い瞳を潤ませて、ポタリと涙を零している。その涙まで宝石みたいに綺麗で、そして私も悲しくなってしまった。
「泣かないで……まだ痛い?」
私は一生懸命腕を伸ばし、彼女を抱きしめ返していた。祖父があやしてくれるように、その背中をトントンと優しく叩く。
だが彼女はふるふると首を横に振った。
「――死んで、しまったのだ……」
「だれが?」
「父が……。それに大好きだったあの人も、みんな……私のせいで……」
「人魚だから?」
「……ああ。私が――だから」
ぎゅっと強く抱きしめられて、その言葉はよく聞き取れなかった。
「……すまぬ。そなたのお母さんも……死んでしまったのだったな」
「えっとね、赤ちゃんの時でね、お母さんのこと知らないんだぁ。大きいおうちには、お父さんと、お母さんじゃない人がいてね、お姉ちゃんもいるの。でもそっちへ行ったら叩かれるから、行っちゃダメなんだ」
「それは……」
「でもね、爺ちゃんがいるんだよー。爺ちゃん大好き!」
「そうか……そなたは強い子だな」
「うん。爺ちゃんとね、あまい包子がだーい好き。餡子が入っているやつ!」
「そうか……可愛らしいことだ」
私の言葉でその美少女が微笑んだのを見て、とても嬉しくなった。胸がじんわりと温かくなる。私も笑いかけた。
「そなたに手当ての礼がしたい。しかし、今は持ち合わせもない。だから代わりにこれを……」
美少女は長い髪を持ち上げ、着物の襟を緩めると、そのほっそりとした首筋を露わにした。
すると現れたのは青銀の鱗である。細く滑らかな美少女の首の付け根にチラホラと鱗が生えていた。まるで飾りのように美しく、朝の光に煌めく。
「きれい……」
「ほら、これを持っておいき」
美少女は平然とその鱗を一枚剥がして私の手のひらに載せた。
「良いの?」
私の人差し指の爪くらいの大きさの、綺麗な円鱗である。手のひらの上でキラキラと光っていた。
「私はもうしばらくしたら、ここから姿を消す。だからそなたもお戻り。約束した通り、誰にも――爺ちゃんにも決して私のことを話してはならぬよ」
「うん」
「内緒の約束だ」
美しい少女は首を傾けて、白くほっそりとした人差し指を己の唇に当てる。その姿はこの世のものとも思えないほど美しく、不思議な色香に溢れていたものだから、やはり人のはずがないと感じた。
私はコクリと頷いて、彼女の鱗を握り込む。
「……それがあれば、きっとまた会える……私の――」
そう言って、彼女は私の額に口付けた。
なんだかすごく胸の辺りがくすぐったくて、むずむずする。なのにうなじはピリピリしているのが不思議だった。
さらさらと川が流れ、微かな風で音を立てる葦の海。私は麗しく悲しい青い瞳の人魚にさよならと手を振った。
かつん、かつん、と碁石を打つ音がしていた。
家の前に卓を出し、祖父と祖父の友人である壁巍が碁を打っているのだ。祖父は楽しげに笑っている。どうやら勝負は優勢のようだ。
「なあ壁道士よ、次勝ったら儂にあの術を教えておくれ」
「あの貝の術か。そりゃあおまえさんが、あと三戦ほど勝ってからだのう」
「なんじゃいケチ――おや、莉珠おかえり。お前、朝飯も食わんでどこまで行ってたんだい」
「ただいま爺ちゃん。壁道士、こんにちは」
壁巍は白い髭を山羊みたいに伸ばした、老齢の祖父よりも更に年老いた男である。
壁道士と呼ばれており、非常に博識な道士として近隣でも有名だったそうだが、どうもそれだけではなく、私のように見えないモノが見える力を有していたとか。祖父に私の見え方が普通と違うことを教えたのもこの人だ。
子供が好きではないと公言する壁巍は、普段は私に近寄ることはほとんどなかったが、その時ばかりは驚愕した様子で碁石を投げ捨てて、大股歩きで私のところへやってきた。
「朱莉珠、手を見せなさい」
壁巍は私に詰め寄り、手首を掴む。一瞬、その目が青く光ったように見えた。青い瞳――それは先ほどの少女によく似ていた。
「……おい、どうしたんだい壁道士。孫に何があった」
祖父もただ事ではないと思ったのだろう。慌てふためいて追いかけてくる。
その頃には壁巍の瞳は黒い色に戻っていた。
「うむ、この娘から強い力――何やら呪いめいた危険なものを感じる。おい、どこへ行っていた? おまえさん、何を持っている?」
普段言葉を交わさない大人から強い言葉で質問攻めにされ、幼かった私は震え上がった。それでもあの美しい少女との約束は守り、硬く口を閉じる。しかし手のひらに握り込んでいた青銀の鱗は、隠す間もなく取り上げられてしまった。
「やあ! 返して!」
「ああ、なんということを……。こんなものを持っていたら、すぐにあっちに引き摺り込まれてしまうぞ! 朱羨、火を熾してくれ。この鱗は焼いた方が良いだろう」
「や、やめてよぉ!」
「莉珠、いかん。こっちにおいで!」
「いやーッ!」
そうしてあの人魚の美少女から貰った綺麗な鱗は、無残にもメラメラと燃える焚火に放り込まれた。
「朱莉珠の力は相変わらずのようだな」
燃え尽きた焚火を掻き回している壁道士の言葉に頷いたのは祖父だった。
「ああ。……大きくなればいずれ落ち着くと思っていたんだが」
「見えるだけではない。どうやらこの娘は好かれやすい性質でもあるようだな。このままではあちらに連れていかれかねん。全く困ったことだ」
どうすれば、と狼狽えた声を上げる祖父を無視し、壁道士は真っ白い髭を撫でながら私に問う。
「朱莉珠や、おまえさんはこれをくれたアヤカシに名前を名乗ったか」
アヤカシ、の意味がピンとこなかったが、私は少し思い返してから正直に首を横に振った。
名前は名乗っていないし、彼女の名前も聞いていない。これに答えるだけなら彼女との約束を破ったことにはならないだろう。私は赤くなった目を擦り、そう考えた。
「そうか、それは何よりだ。おい、朱羨、おまえさんの孫はなんとかなりそうだぞ。とにかく、この娘は窓のない部屋にしばらく閉じ込めておけ。その間に繋がりを絶たねばならん」
「あ、ああ。……さ、こっちにおいで」
そうして狭い家の、唯一窓のない物置部屋に一人きりで丸一日ほど入ることとなった。
普段から蝋燭はなるべく節約していたから、古い油を皿に入れた灯火が薄暗い部屋の唯一の明かり。古い油は燃えると胸の悪くなるような臭いがして、祖父が置いていってくれた好物の包子を前にしても食欲が失せそうになる。
「――莉珠や、もう良いよ」
「爺ちゃん、もう出て平気?」
「ああ。壁道士が清めてくれたからね。よしよし、よう頑張ったな」
そうして祖父が、かさついた手で私の頭を撫でてくれる。私はこの手が大好きだった。
壁道士はもう帰ってしまったらしい。私のために清めの香を焚き、一晩中儀式をしていたのだという。
「一人でよう頑張ったご褒美だ。爺ちゃんが作ったんだよ。ほら、開けてごらん」
「わあ、綺麗! 貝の中になんか入ってる!」
「練り香水というんだ。嗅いでごらん。茉莉花の香りがするからね。お前の名前の莉珠というのは、茉莉花から取ったんだよ」
六歳の私の小さな手のひらに載せられた、当時は握り込めないほど大きかった貝殻の中には、たっぷりと練り香水が詰まっていた。
「これを耳の後ろにほんのちょっとだけ塗ってごらん。茉莉花の香りがお前を守ってくれるからね」
「うん!」
「毎朝、顔を洗った後に必ず付けるんだよ。爺ちゃんとの約束だ」
「はぁい!」
「それで、もしも爺ちゃんに何かがあったら……」
「爺ちゃん?」
「いいや、なんでもないんだ。莉珠……」
祖父は私を強く抱きしめた。
「良いかい、この練り香水はとっても大切なものだ。――何があっても手放してはいけないよ」
それ以来、私は人ならざるモノが見えなくなった。壁道士が行ったのはきっとそういう呪いの類だったのだろう。
見えなくなったところで困ることもなかったから、かつて人ならざるモノが見えていたことも、あの葦の海の記憶もだんだん遠くなっていった。
どうやら横になっている内に眠ってしまっていたようだ。日はとっぷりと暮れ、部屋の中は暗い。
「なんだか懐かしい夢を見ちゃった……」
目を擦りながら夢を思い返す。
あの麗しい人魚の妖は元気だろうか。それから壁道士はあの時点で祖父より年上に見えたが、まだ存命だろうか。
夢の中では触れられるのに、優しかった祖父はもういない。
「爺ちゃん……会いたいよ」
私は暗闇の中で膝を抱えた。
懐かしい茉莉花の香りは遠い。
◆ ◆ ◆
試験への出立はもう明日に迫っていた。
楊益はぼんやりとした顔ながら存外に仕事が早かったらしく、私と話した即日に父との話を付けたらしい。私という存在を持て余した父には絶好の機会に感じたのだろう。私は無事に試験を受ける許可を得た。私に関することには何にでも反対していた義母も、もう父が決めてしまった以上文句を言えないようだった。
私はようやくこの朱家から逃げられるのだ。
仕事の合間を縫って荷造りを済ませると、物の少ない部屋がさらにすっきりとした。一番大切な茉莉花の練り香水は、いつものように耳の後ろに塗り、荷物の一番上に纏める。
今日は義母がやけに機嫌がよく、硬い麵麭だけではあったが朝食まで与えられた。きっと、明日には私がいなくなるのが嬉しいのだろう。
とはいえ仕事を言いつけられることは変わらない。薪を買いに行かされ、その後は休む暇もなく、街の反対側に住まう親戚の家まで酒の入った重い箱を届けに行っていた。けれどこんな生活も今日限りと思えば足取りは軽く、疲れも感じなかった。
頼まれた仕事が終わり、空腹を抱えて帰宅すると庭に何かを燃やしているような焦げ臭い空気が漂っていた。義母と小間使いが焚火に当たりながら話をしている様子だったので、当たり散らされる前にそそくさと自室へ戻る。
――そして私は部屋の入り口で呆然と立ち尽くした。
荷物が何もない。
部屋はすっからかんになっていた。今朝まで使っていたはずのペラペラの薄い寝具すら、ない。
思わずへたりと膝を突く。足が体重を支えられなかった。
頭から血が下がり、貧血のようにクラクラとして、手や足の先が冷たくなっている。だというのに心臓だけはバクバクと嫌な鼓動を立てており、何度も浅い息を繰り返した。身を起こすことも出来ず、座り込んだまま地面に手を突く。
(――やられた)
義母以外にこんなことをする者などない。今までも機嫌が良くない時には、祖父の残した物を取り上げられたことがあった。
だが、まさか明日出立というこの日にまでやられるとは思ってもみなかった。それも、私の持つ、ほんの僅かなもの全てを取り上げるだなんて、それほど憎かったのか。何故そこまでされねばならないのだ。ただ妾の子として生まれたことがそれほどの罪なのか。
私は絶望感に支配され、しばらく動けずにじっと蹲る。少しして、血の巡りがまともになってきたらしく、ようやく動けるようになった。
そこで私はハッと顔を上げる。
さっき帰宅した時に、義母が庭で何かを焼いていたのを思い出したのだ。
私は立ち上がり、庭へ走った。
庭へ行くと、義母はまだそこにいて焚火にあたっていた。
そうして真っ青になっている私の顔を見てニヤッと笑う。真っ赤な紅を塗った唇が腐った果実のように歪んだ。してやったり、とでも思っているのかもしれない。
「おやぁ、お前、まだいたのかい? もう、とっくに出立したかと思うていたよ」
とっくに、のところを強調して義母は言う。
「何やら小汚い塵を残していったようだから、仕方なくこちらで処分しておったのだが、何か、忘れ物でも?」
「……出立は明日です」
しれっとそう言う義母をじっと見据えたが、当の本人は微塵も狼狽えたりはしなかった。横の年若い小間使いだけが困ったように目線を逸らす。
「おやまあ、私としたことが。日付を間違えたかねえ。このところ少し睡眠不足だったから。頭も痛いし、休まなければ」
義母は思い通りに手のひらの上で踊った私が可笑しくてたまらないのだろう。嘲笑を浮かべた醜い顔の下半分を袖で押さえている。
私はいつのまにか、両手の拳を強く握りしめていた。手のひらに爪が食い込んで痛みがあったが、それは怒りを堪えるのに丁度良いものでしかなかった。
もしここで怒りのまま義母に掴みかかれば、宮女の試験を受けに行けなくなってしまう。それだけはどうしても避けねばならなかった。
それにまだ全ては燃えてないかもしれない。義母がさっさと立ち去れば、焼け跡から何か見つけ出せる可能性がある。そんな一縷の望みに縋って、この激情をやり過ごすしかなかった。
そうやって怒りを我慢し過ぎたのか、視界の端に黒い靄のようなものが立ち昇っている気がした。
――酷く気分が悪い。胸がむかむかしている。
「ああ、肩も凝っているね。肩が凝ると頭が痛くなるから。お前、私は少し寝るから、肩を揉んでちょうだいな」
「は、はい」
義母は惨めな私を満足そうにもう一度嘲笑ってから、小間使いを連れて去っていく。小間使いも申し訳なさそうに振り返り振り返りしていたが、そんな顔をするくらいなら、さっさと義母を連れて去ってほしかった。あの小間使いまで憎みたくはない。
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