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選定の儀2
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王城に着き、庭園の入り口へと案内される。
エレノアは大貴族たるバロウズ家の令嬢であることが幸いしてかボディチェックなども受けることなく通された。手袋の中に隠したペンダントを持ったままでいられて少しだけホッとする。
エレノア達は早めに到着したために、まだ日の沈む前で庭園は十分に明るい。そのせいか庭園のライトアップはまだのようで、ただ美しい花々が咲き乱れていた。
「ここからは付き添いは入れない。お前1人になるが、帰りには迎えをやる」
「……はい、分かりました」
「いいか、くれぐれも余計なことをせず、おとなしくしていろ。オズワルド様も会場にいるはずだ。月の王の花嫁として選定されたらオズワルド様の言うことをきちんと聞いて、黙って付いていけばいい。分かったな?」
「……はい、分かりました。ありがとうごいました……」
機械的に返事をするエレノアになんとも思わないのか、そのまま兄は引き返して行った。
エレノアは王城の召使いに案内されると、おとなしく庭園の隅で花を眺めていた。
赤や黄色、白、青に紫、色とりどりの花が花壇ごとにきちんと区分けされ、美しく整えられていた。あまりにも整え過ぎているせいか人工的な雰囲気過ぎるように感じる。
ふと気がついたのは、蜂に始まり蝿や蝶といった虫が一切いないことだろう。花は美しく香りも良いのに、虫が1匹も飛んでいない。おそらく、虫除けをしてあるのだろうが、本物の花なのに虫にさえ寄られないのはいっそ奇妙であった。
人工的過ぎる花壇はまるでエレノアのようだった。整えられているだけで、虫の1匹もないほど面白みがない。
日は沈み、庭園は徐々に暗くなり始める。魔石ランプの点灯も間もなくされることだろう。
そうすればあの花壇も違う風情があるように感じられるかもしれない。
気が付けば、令嬢達も続々と集まり、知り合い同士で固まって話しているようだった。エレノアのように1人でポツネンとしているのは目立つのか、周囲でコソコソとエレノアの噂をしているようで居心地が悪い。エレノアは知らなかったが、バロウズ公爵家はやり手の貴族ではあったものの、その強引とも言える手腕は賛否あり、彼らを毛嫌いする貴族も少なくはなかった。
少しずつ端に寄り、適当な白い花の生垣を見ているふりをして、令嬢の集団に背を向けてぼんやりとしていた。
こうぼんやりとばかりして、上手く人の輪に入れないから両親が認めてくれないのだと分かってはいたが、エレノアが入ろうとしてもきっと頓珍漢な言葉しか出せないだろう。
「わあ、綺麗ねぇ! 素敵! こんな景色が見られるなんて、まるで夢みたい!」
そんな場違いなほど明るい声に、エレノアはハッと我に返り、そして背中へと息が詰まるほどの衝撃を受け、思わずたたらを踏んだ。
「いたっ! あっ、ごめんなさい! 私ったら、もうドジ!」
背中にぶつかったのはエレノアと同じく選定の儀へと出席している令嬢であったらしい。
エレノアは振り返り、そして息を飲んだ。
ああ、この子だ。
一瞬で分かった。
彼女こそ、かつて読んだ少女漫画の主人公、シェリーに違いない。
薄茶色の髪をした、快活そうな美少女。その大きな瞳は感情を露わにキラキラと瞬くのを知っていた。
服装は豪奢なドレスのエレノアとは違い、簡素な白いワンピースである。けれど、服装など関係がないほど、目が離せない吸引力のような物を持っている気がした。
「ごめんなさい、怪我はない?」
少女がそう問うのに、エレノアはおずおずと頷いた。
「ほんと、私ったらドジで。いっつも怒られてしまうの。今日くらいはおしとやかにしたかったのに! だって折角、月の王の花嫁の選定の儀に出られたのだもの! ねえ貴方、素敵なドレスね。私ったらこんな服しかなくて。あ、でもこれは大好きな叔母さんが縫ってくれたの。でも、ここじゃみんなすごいドレスで、私だけ浮いちゃって恥ずかしいな。ねえ貴方は貴族のお嬢様なんでしょう? 私は正真正銘、ただの平民よ。でも魔力の量が凄いんですって、それで今回は特別に招かれたの。でも私なんて選ばれるはずないものね、でも王城に入れるだなんて、それだけで凄いからすっかり観光気分よ。月の王とか太陽の王も見られるのでしょう? 王子様はとても格好いいのですって、貴方は見たことがあるの?」
「え、あ、あの……」
少女の矢継ぎ早な言葉に、ルカーシュ以外とは話し慣れていないエレノアはドギマギとして、ろくな言葉も返せなかった。
「あ、ごめんなさいベラベラと。これだから口から生まれたなんて言われてしまうのに」
少女の表情はころころと変わる。笑い声まで澄んだ鈴のようである。
「私、シェリーよ。ここ、知り合い同士で固まっておしゃべりしている人が多いでしょう? みんないいところのご令嬢だし、なんだか入りにくくて。ねえ貴方の名前は?」
「え、エレノア・バロウズ……」
「エレノアね、知り合えて嬉しいわ。ねえ、あちらの花壇は見た? ライトアップがされていてとっても綺麗なの! 行きましょう!」
エレノアはシェリーの人懐っこさに目を白黒させた。たったこれだけで知り合いという感覚にも驚き、そして強引にエレノアの腕を引っ張る行動力も信じられないほどである。
「あっ……!」
しかし、不運にも強引に手を引かれたのはエレノアがお守り代わりにペンダントを忍ばせた手袋をしている側の手だった。
強く引っ張られて手袋の布が撓み、ペンダントががスルリと抜け出て行くのに気がつき、思わず落とさないようにとシェリーの手を振り払う形になってしまった。
慌てて受け止めようとしたが、それでもペンダントはエレノアの手を擦り抜け、高い澄んだ音を立てて地面へと落ちた。
「あっ、ごめんなさい、わ、私ったらまたやっちゃった……」
エレノアはシェリーの言葉には反応せず、慌てて白い手袋やドレスの裾が汚れるのにも気にせずに地面に落ちたペンダントを拾い上げた。
地面は石畳である。土埃を落とし、傷が付いていないかを確認し、無事であるのを見て安堵の息を漏らした。
白い手袋の上の血赤珊瑚は、いっそう鮮やかですらある。
「わあ、綺麗なペンダントね! エレノアのなの?」
「え、ええ……」
気がつけば、シェリーはエレノアの手の中の珊瑚のペンダントをキラキラとした大きな瞳で見つめていた。
エレノアは大貴族たるバロウズ家の令嬢であることが幸いしてかボディチェックなども受けることなく通された。手袋の中に隠したペンダントを持ったままでいられて少しだけホッとする。
エレノア達は早めに到着したために、まだ日の沈む前で庭園は十分に明るい。そのせいか庭園のライトアップはまだのようで、ただ美しい花々が咲き乱れていた。
「ここからは付き添いは入れない。お前1人になるが、帰りには迎えをやる」
「……はい、分かりました」
「いいか、くれぐれも余計なことをせず、おとなしくしていろ。オズワルド様も会場にいるはずだ。月の王の花嫁として選定されたらオズワルド様の言うことをきちんと聞いて、黙って付いていけばいい。分かったな?」
「……はい、分かりました。ありがとうごいました……」
機械的に返事をするエレノアになんとも思わないのか、そのまま兄は引き返して行った。
エレノアは王城の召使いに案内されると、おとなしく庭園の隅で花を眺めていた。
赤や黄色、白、青に紫、色とりどりの花が花壇ごとにきちんと区分けされ、美しく整えられていた。あまりにも整え過ぎているせいか人工的な雰囲気過ぎるように感じる。
ふと気がついたのは、蜂に始まり蝿や蝶といった虫が一切いないことだろう。花は美しく香りも良いのに、虫が1匹も飛んでいない。おそらく、虫除けをしてあるのだろうが、本物の花なのに虫にさえ寄られないのはいっそ奇妙であった。
人工的過ぎる花壇はまるでエレノアのようだった。整えられているだけで、虫の1匹もないほど面白みがない。
日は沈み、庭園は徐々に暗くなり始める。魔石ランプの点灯も間もなくされることだろう。
そうすればあの花壇も違う風情があるように感じられるかもしれない。
気が付けば、令嬢達も続々と集まり、知り合い同士で固まって話しているようだった。エレノアのように1人でポツネンとしているのは目立つのか、周囲でコソコソとエレノアの噂をしているようで居心地が悪い。エレノアは知らなかったが、バロウズ公爵家はやり手の貴族ではあったものの、その強引とも言える手腕は賛否あり、彼らを毛嫌いする貴族も少なくはなかった。
少しずつ端に寄り、適当な白い花の生垣を見ているふりをして、令嬢の集団に背を向けてぼんやりとしていた。
こうぼんやりとばかりして、上手く人の輪に入れないから両親が認めてくれないのだと分かってはいたが、エレノアが入ろうとしてもきっと頓珍漢な言葉しか出せないだろう。
「わあ、綺麗ねぇ! 素敵! こんな景色が見られるなんて、まるで夢みたい!」
そんな場違いなほど明るい声に、エレノアはハッと我に返り、そして背中へと息が詰まるほどの衝撃を受け、思わずたたらを踏んだ。
「いたっ! あっ、ごめんなさい! 私ったら、もうドジ!」
背中にぶつかったのはエレノアと同じく選定の儀へと出席している令嬢であったらしい。
エレノアは振り返り、そして息を飲んだ。
ああ、この子だ。
一瞬で分かった。
彼女こそ、かつて読んだ少女漫画の主人公、シェリーに違いない。
薄茶色の髪をした、快活そうな美少女。その大きな瞳は感情を露わにキラキラと瞬くのを知っていた。
服装は豪奢なドレスのエレノアとは違い、簡素な白いワンピースである。けれど、服装など関係がないほど、目が離せない吸引力のような物を持っている気がした。
「ごめんなさい、怪我はない?」
少女がそう問うのに、エレノアはおずおずと頷いた。
「ほんと、私ったらドジで。いっつも怒られてしまうの。今日くらいはおしとやかにしたかったのに! だって折角、月の王の花嫁の選定の儀に出られたのだもの! ねえ貴方、素敵なドレスね。私ったらこんな服しかなくて。あ、でもこれは大好きな叔母さんが縫ってくれたの。でも、ここじゃみんなすごいドレスで、私だけ浮いちゃって恥ずかしいな。ねえ貴方は貴族のお嬢様なんでしょう? 私は正真正銘、ただの平民よ。でも魔力の量が凄いんですって、それで今回は特別に招かれたの。でも私なんて選ばれるはずないものね、でも王城に入れるだなんて、それだけで凄いからすっかり観光気分よ。月の王とか太陽の王も見られるのでしょう? 王子様はとても格好いいのですって、貴方は見たことがあるの?」
「え、あ、あの……」
少女の矢継ぎ早な言葉に、ルカーシュ以外とは話し慣れていないエレノアはドギマギとして、ろくな言葉も返せなかった。
「あ、ごめんなさいベラベラと。これだから口から生まれたなんて言われてしまうのに」
少女の表情はころころと変わる。笑い声まで澄んだ鈴のようである。
「私、シェリーよ。ここ、知り合い同士で固まっておしゃべりしている人が多いでしょう? みんないいところのご令嬢だし、なんだか入りにくくて。ねえ貴方の名前は?」
「え、エレノア・バロウズ……」
「エレノアね、知り合えて嬉しいわ。ねえ、あちらの花壇は見た? ライトアップがされていてとっても綺麗なの! 行きましょう!」
エレノアはシェリーの人懐っこさに目を白黒させた。たったこれだけで知り合いという感覚にも驚き、そして強引にエレノアの腕を引っ張る行動力も信じられないほどである。
「あっ……!」
しかし、不運にも強引に手を引かれたのはエレノアがお守り代わりにペンダントを忍ばせた手袋をしている側の手だった。
強く引っ張られて手袋の布が撓み、ペンダントががスルリと抜け出て行くのに気がつき、思わず落とさないようにとシェリーの手を振り払う形になってしまった。
慌てて受け止めようとしたが、それでもペンダントはエレノアの手を擦り抜け、高い澄んだ音を立てて地面へと落ちた。
「あっ、ごめんなさい、わ、私ったらまたやっちゃった……」
エレノアはシェリーの言葉には反応せず、慌てて白い手袋やドレスの裾が汚れるのにも気にせずに地面に落ちたペンダントを拾い上げた。
地面は石畳である。土埃を落とし、傷が付いていないかを確認し、無事であるのを見て安堵の息を漏らした。
白い手袋の上の血赤珊瑚は、いっそう鮮やかですらある。
「わあ、綺麗なペンダントね! エレノアのなの?」
「え、ええ……」
気がつけば、シェリーはエレノアの手の中の珊瑚のペンダントをキラキラとした大きな瞳で見つめていた。
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