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人間って堕ちるときは一瞬
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急いで広間に向かう筈だったのに私は今、お城では無く城下町に一人で居た。
事の始まりは広間の扉を守っていた騎士に話しかけた事だった。
「失礼。デビュタントはもう始まっているのですか? 」
私の言葉に眉をひそめたけど、エスコートをする人が居ないのを確認すると同情の目を向けられた。
(まぁ、今の私はエスコート役の人にすっぽかされた可哀そうな人に見えるでしょうね)
そんな事を考えていると目の前の騎士は労わるような声で話しかけてきた。
「先程、始まったばかりでございます。失礼ですがお嬢様のお名前をお伺いいたします。」
「私はルーマン侯爵家の娘、アシュリー・ルーマンですわ。」
その言葉を聞いて先程までの労わりの表情から一変して怒りに変えた。
「この偽物! よくも今この状態でそのような戯言が言えたものだな!! 」
言っている意味が分からず言葉を失っていると、エマが私を庇うように立ち、騎士に怒鳴りつけていた。
「無礼者!! この人は正真正銘のルーマン侯爵家のご令嬢ですよ! 何を根拠にその様な言葉を仰るのです!? 」
「先程、ルーマン侯爵のご令嬢が此処に来るまでに事故で亡くなったと伝達が入ったのだ。」
(え? 亡くなった? 私は此処にいるのに? )
頭の中がぐちゃぐちゃになっている私に畳みかけるように騎士は告げた。
「自身の仕える相手の死亡報告に来たマリアベル様は泣きながら王太子へ秘密を告げていた。今までの手紙の相手は自分であると。」
「は? マリアベルがそう言ったのですか!? 」
2人の言い合いが白熱している中、もう耐えられなくなりその場から逃げてしまった。
---------------------
「嘘……。嘘よ! 」
ここが乙女ゲームの世界かもなんて思っていた時と比べ物にならないくらいに、動揺していた。
だって、私はもうここで生きる覚悟を決めていたのに。
「此処が知っている物語の世界ならもっと上手く生きれたかな……。」
最初は断罪ルートが怖くて沢山の知識を身につけた。どうなるか分からないからいつでも逃げられるように。------でも、此処で生きている人の温かさに触れてしまった。
お父様とお母様、エマを筆頭とする屋敷で働いている人。彼らは何時だって私に優しかった。皆に誇れるような人になりたくて沢山勉強したのに。
「こんな事になっても何も当てはまる物語が浮かんでこないなんて乙女ゲームや小説好きを名乗れないなぁ……っ!」
笑おうとしたのに涙が止まらない。前向きな思考であろうとしたけどやっぱり無理だ。
「私……、死んだって事になってるよね。お母様達の所へ行って信じてくれるのかな?」
マリアベルが言っただけで死んだことは証明なんてされない。きっと、私が死んだと思わせるような何かがあったんだ。
(でも、それを調べてどうするの? )
死んだと思われたならそれを覆すのはほぼ不可能に近いだろう。生きていたとしてもあと数日もすれば葬式が行われて私は死んだ人間になる。そこに出て行ったとしても魔法でアシュリー・ルーマンに変身してるって思われるのがオチだ。
「八方ふさがりだわ……。」
こんな形で居場所を取られるなんて思ってなかった。そう思ったと同時に心がぽっかりと空くような感覚になった。---だって、余りにも虚しすぎる。
「私、悪い事なんて何もしてないのに。何でこんな事になったの……?」
マリアベルにもっと優しく接してあげたら良かった? 私の事を良く思っていない相手にそんな優しさ持てるわけないじゃない。
「私の全てを渡せば幸せになったとでも?冗談じゃないわ!! 」
追放されて気ままにスローライフも良かったかも知れない。でも、家族はどうなる?私一人の身勝手で全てを捨てる事が出来ないくらいにはあの人たちに情が芽生えてしまっていた。
「許せない……! 許せるわけないじゃない!! 」
悲しくて悔しくて涙を流しながら叫んでいると私の前に人影があった。
「なに……? 」
そう言って顔を上げると男の人が立っていた。いつもなら警戒しているけど死んだことになっているという事実から危機管理能力が欠如していた。
「まるで絵画から出てきたような人だね、美しいお嬢様。」
「良く言われるわ……。」
両親のいい所だけを受け継いだような顔立ちを最大限に活かせるように努力してきたので、こんな賛辞は聞き飽きていた。
「せっかく綺麗な格好をしているというのに何故こんなことろに居るんだい? 身なりからして君は貴族だろう。攫われる前に迎えを呼んで帰った方が良い。」
彼の言葉は半分以上の聞き流していたけど帰るという言葉に思わず鼻で嗤ってしまった。
「俺、何かおかしなこと言った?」
「……帰るところなんてないの。」
その言葉を聞いた男が私の手を取った。
「もうすぐで雨が降るらしい。良かったら俺の家で休んでいく? 」
その言葉は嘘だと分かった。だって、今日は憎らしいくらいの晴天だったから。
彼の言葉の真意に気づいて微笑み返す。
「じゃあ、お言葉に甘えて。---私を慰めて下さる? 」
この先がどうなったって構わない。とにかく今は誰でもいいから縋りつきたかった。
事の始まりは広間の扉を守っていた騎士に話しかけた事だった。
「失礼。デビュタントはもう始まっているのですか? 」
私の言葉に眉をひそめたけど、エスコートをする人が居ないのを確認すると同情の目を向けられた。
(まぁ、今の私はエスコート役の人にすっぽかされた可哀そうな人に見えるでしょうね)
そんな事を考えていると目の前の騎士は労わるような声で話しかけてきた。
「先程、始まったばかりでございます。失礼ですがお嬢様のお名前をお伺いいたします。」
「私はルーマン侯爵家の娘、アシュリー・ルーマンですわ。」
その言葉を聞いて先程までの労わりの表情から一変して怒りに変えた。
「この偽物! よくも今この状態でそのような戯言が言えたものだな!! 」
言っている意味が分からず言葉を失っていると、エマが私を庇うように立ち、騎士に怒鳴りつけていた。
「無礼者!! この人は正真正銘のルーマン侯爵家のご令嬢ですよ! 何を根拠にその様な言葉を仰るのです!? 」
「先程、ルーマン侯爵のご令嬢が此処に来るまでに事故で亡くなったと伝達が入ったのだ。」
(え? 亡くなった? 私は此処にいるのに? )
頭の中がぐちゃぐちゃになっている私に畳みかけるように騎士は告げた。
「自身の仕える相手の死亡報告に来たマリアベル様は泣きながら王太子へ秘密を告げていた。今までの手紙の相手は自分であると。」
「は? マリアベルがそう言ったのですか!? 」
2人の言い合いが白熱している中、もう耐えられなくなりその場から逃げてしまった。
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「嘘……。嘘よ! 」
ここが乙女ゲームの世界かもなんて思っていた時と比べ物にならないくらいに、動揺していた。
だって、私はもうここで生きる覚悟を決めていたのに。
「此処が知っている物語の世界ならもっと上手く生きれたかな……。」
最初は断罪ルートが怖くて沢山の知識を身につけた。どうなるか分からないからいつでも逃げられるように。------でも、此処で生きている人の温かさに触れてしまった。
お父様とお母様、エマを筆頭とする屋敷で働いている人。彼らは何時だって私に優しかった。皆に誇れるような人になりたくて沢山勉強したのに。
「こんな事になっても何も当てはまる物語が浮かんでこないなんて乙女ゲームや小説好きを名乗れないなぁ……っ!」
笑おうとしたのに涙が止まらない。前向きな思考であろうとしたけどやっぱり無理だ。
「私……、死んだって事になってるよね。お母様達の所へ行って信じてくれるのかな?」
マリアベルが言っただけで死んだことは証明なんてされない。きっと、私が死んだと思わせるような何かがあったんだ。
(でも、それを調べてどうするの? )
死んだと思われたならそれを覆すのはほぼ不可能に近いだろう。生きていたとしてもあと数日もすれば葬式が行われて私は死んだ人間になる。そこに出て行ったとしても魔法でアシュリー・ルーマンに変身してるって思われるのがオチだ。
「八方ふさがりだわ……。」
こんな形で居場所を取られるなんて思ってなかった。そう思ったと同時に心がぽっかりと空くような感覚になった。---だって、余りにも虚しすぎる。
「私、悪い事なんて何もしてないのに。何でこんな事になったの……?」
マリアベルにもっと優しく接してあげたら良かった? 私の事を良く思っていない相手にそんな優しさ持てるわけないじゃない。
「私の全てを渡せば幸せになったとでも?冗談じゃないわ!! 」
追放されて気ままにスローライフも良かったかも知れない。でも、家族はどうなる?私一人の身勝手で全てを捨てる事が出来ないくらいにはあの人たちに情が芽生えてしまっていた。
「許せない……! 許せるわけないじゃない!! 」
悲しくて悔しくて涙を流しながら叫んでいると私の前に人影があった。
「なに……? 」
そう言って顔を上げると男の人が立っていた。いつもなら警戒しているけど死んだことになっているという事実から危機管理能力が欠如していた。
「まるで絵画から出てきたような人だね、美しいお嬢様。」
「良く言われるわ……。」
両親のいい所だけを受け継いだような顔立ちを最大限に活かせるように努力してきたので、こんな賛辞は聞き飽きていた。
「せっかく綺麗な格好をしているというのに何故こんなことろに居るんだい? 身なりからして君は貴族だろう。攫われる前に迎えを呼んで帰った方が良い。」
彼の言葉は半分以上の聞き流していたけど帰るという言葉に思わず鼻で嗤ってしまった。
「俺、何かおかしなこと言った?」
「……帰るところなんてないの。」
その言葉を聞いた男が私の手を取った。
「もうすぐで雨が降るらしい。良かったら俺の家で休んでいく? 」
その言葉は嘘だと分かった。だって、今日は憎らしいくらいの晴天だったから。
彼の言葉の真意に気づいて微笑み返す。
「じゃあ、お言葉に甘えて。---私を慰めて下さる? 」
この先がどうなったって構わない。とにかく今は誰でもいいから縋りつきたかった。
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