追放される悪役令嬢だと思ったら産んだ娘が『稀代の悪女』だった

emi

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契約結婚と復讐の機会

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突然のプロポーズに混乱している私を置いてジャックは話し出した。

「シュリー……じゃなくてアシュリー侯爵令嬢は逃げなければいけない状況。なら、俺を隠れ蓑にするのが一番だと思う。」


質問しようと私が話すよりも先にお母様がジャックに話しかけた。


「何故、アシュリーの現状を知っているんです? 」


「元同僚のヨハンから聞きまして。あぁ、彼を責めないで下さい。彼なりに焦っていたのは目に見えて分かったので。」


ヨハンの事だ。この事態は直ぐに予測できた筈だから打てる手は全部打ったのだろう。

(まぁ……この現状は彼にとっては最善かもしれないけど、私にとっては最悪よ)


この男にバレない様にリリアナを育てて来たというのに、やっぱりリリアナが10歳の時に出会う運命は変えられなかった。本当に小説の修正力は恐ろしい。


(いや……よく考えたら私にとっても最善なのでは? )


正直、彼の提案はこれ以上現状が悪くなる事は無いだろう。リリアナを守り後ろ盾を両親以外から受けることが出来るのだから。



  問題があるとすれば私の方だ。

ジャックはリリアナを手に入れることが出来るが、私を迎え入れる事を考えるとこの提案は彼にとってメリットよりもデメリットも方が大きい。これでリリアナだけ寄こせと言われたほうが許容はしないけど納得が出来る。


「私を妻として迎え入れる理由が分からないわ。リリアナが離れたくないという理由であれば離れに愛人としておけばいいでしょうに。」

うーんと頭を掻きながらジャックは私の問いに答え始めた。

「俺は伯爵位は貰ったけど、所詮は平民だ。舐められない様に貴族のお嫁さんが欲しいんだけどなかなか難しい。」

どうやら彼はこれからの事を考えて由緒正しき家紋のお嫁さんが欲しいが難航しているらしい。

(まぁ、家同士繋がりを強める為の結婚が普通なんだから成金同然のジャックには良い縁談は来づらいでしょうね)

「……言いたいことは分かったわ。でも、『ルーマン侯爵家の娘は死んだ』のは真実がどうであれこれが世間の事実よ。」


暗にルーマン侯爵家後ろ盾は得られない事を言うと彼はニヤリと笑った。

「その事実を変えられるって言ったらどうする? 」

「何、を……何を言っているのか分からないわ。」

言っている意味が解らず混乱しているとお父様がジャックに話しかけた。

「具体的にはどうするつもりだ。」

「この国の人の記憶操作を行います。大がかりな魔法になるので段取りで一か月は頂きますが。」

確実に成功させますと言った彼はもう一つ大事な事がありますと言葉を続けた。


「この魔法はあくまでも事実の認識を歪める物です。無関係の人には違和感なく頭の中の事実を歪められますが、変える事実の軸になる人物の認識は歪められません。」


彼の言いたいことが分かったのかお父様もニヤリと笑った。

「世間と己の認識にズレが生じる奴は可笑しな行動に出るかもしれない。成程、アシュリーを貶めた連中を炙り出せるというわけだな。」

ジャックの提案に乗り気になったお父様だったけどそれに反対するのはやはりお母様だった。

「犯人を見つける機会が出来る事はその分アシュリー達に危険が及ぶという事……っ!もういっそのこと国外に二人で逃げた方が安全かも知れないわ。」


お父様とお母様の意見は分かれて全員が私の方を見ている。私の選択を皆は待っている。---安寧を取るか、復讐を取るか。


リリアナの事を考えれば国外に逃げる方が安全だろう。生活は苦しいかもしれないけど流石に国外を出た私達にマリアベルは追っ手を寄こすことはしないと思うし出来ないだろう。---でも、


(10年前の記憶がその選択の邪魔をする)


マリアベルに嵌められたあの日の怒りと憎しみがジャックの提案を拒むことを拒否している。消えたと思っていた感情が再び燃え上がるのを感じずにはいられない。


静寂の中、口を開いたのは私ではなくリリアナだった。


「私、お父様と二人でお話したいわ。」


ジャックもそれを了承してエマが別室へ案内しているのを眺めながら思い知らされてしまった。


(あの子は私の復讐心を見抜いた……)


ジャックを『お父様』と呼んだのが彼女の答えだ。けれど、決してあの子の意思ではないだろう。



私の復讐をリリアナに選ばせてしまった。その事実が何よりも情けなくて恥ずかしいと思った。


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