追放される悪役令嬢だと思ったら産んだ娘が『稀代の悪女』だった

emi

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初めての歩み寄り

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私達が住む屋敷に戻ると早速空いていた客室にジャックを放り込んだ。
桶に水を入れてぬれタオルの準備をしているとリリアナがこの状況に疑問を抱いていた。

「国全体が範囲の阻害魔法だから魔力消費は多くなって寝込むのは当然だわ。お父様だってそれは分かっている筈なのに……。」

「それって、どういう事……? 」


リリアナの言っている意味が解らず聞き返すと気まずそうに話し出した。


「大きい魔法にはそれ相応の魔力が必要で、本来ならこんな大掛かりな魔法は何十人単位で行うものなの。それをお父様一人で行ったんだから負担は相当なものだと思う。」


正直この程度で済んでいるのが不思議なくらいと気まずそうに話すリリアナに彼の真意が本当に分からなかった。
でも、その答えはジャックしか分からないし当の本人は喋るのもままならない状態だ。問いただしたいことは山の様にあったけど彼が回復するまでは聞けそうにない。


「……夜遅くにごめんね。お母様は伯爵様の様子を見てくるわ。」


寝るようにリリアナを促すと彼のいる部屋に行った。部屋に入ると息苦しそうな呼吸音が聞こえるが彼の意識はなく汗ばんだ額を濡れタオルで拭いていく。


(リリアナだけ連れてくればジャックはこんな思いなんてしなかった筈なのに)


見殺しにして欲しかったわけじゃない。本来ならあの日に終わっていたアシュリーの人生は今もまだ続いているのが不思議だった。リリアナを産んだ日に修正力を確かに感じてリリアナが10歳までは生きられないと悟ったあの日から娘の成長の嬉しさと同時に夜が来るたびに自分の死が近づいている事を恐れた。


(リリアナを置いて死にたくない……っ! でも、私の代わりにその修正力を受けるのは違うでしょう!? )



まるで幸せになるための生贄が必要だと言われているような感覚になる。



どんな理由であれ私の事を守って彼はこの状態にいる。その事実を受け入れられなくて頭の中で私は何故と繰り返し考えていた。彼の止まらない汗を拭っているとピクリと瞼が動き目が開いた。


「此処は……? 」


かすれた声でそう答えると咳込んだので水差しを口元まで持っていくと口をゆっくり開いた。

(良かったわ、水は飲めてる。これなら明日にはスープを数口飲むことが出来そうだわ)

明日はポトフを作ってどれだけ食べれるか様子を見よう。今のままでは薬だって飲ませられない。水を少し飲めたことに安心したけど未だに目の焦点は合わなくて何処を向いているのか分からない。



「……貴方は何でこんなことをしたの? 」


言いたいことは沢山あったのに出てきた言葉がそれだった。答えなんて帰ってくるはずないと思って出た言葉だったためか思ったよりも強い口調で問いかけていた。

(違う、彼を責めたいわけじゃないのに……)


涙が出そうになるのをグッと堪えてうつ向いているとジャックの左手がゴソゴソと動いていたので気になって近づくと彼が私の右手を握り締めてこちらを見ていた。


「……俺たち家族じゃん。」


そう言って微笑むとまた彼は眠りについた。


「貴方からその言葉が出てくるなんてね。」


お互いの利害が一致しただけの結婚に情なんて必要ないし求めなかったくせに何を言っているんだといつもならそう返しただろう。


「確かに貴方の言う通りだわ。」


彼が握った手は弱弱しくて振りほどくことなんて簡単なのに気が付けば私は彼の手を強く握り返していたのだった。
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