その日、猫は希望と願いを天秤にかける

留菜マナ

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第一章 迷い猫に誘われて

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『ハルカちゃん、ありがとうにゃ』

しっぽを踏まれることがなくなって、我輩、ご満悦。
ハルカちゃんと一緒に乗り込むと、やがて、電車のドアが閉まって出発する。
夕日が世界を赤く染めていく。
空を染め上げるオレンジ色の中をかき分けるように進む電車。
ハルカちゃんは、ゆらゆらと電車に揺られていたにゃ。
混み合った車内で、ハルカちゃんは何かを共有するように、ずっと我輩を抱っこしてくれていたにゃ。
そして我輩も、その温もりから離れようとはしなかったにゃ。
ようやく最寄り駅に着いたので、改札口をくぐり抜けて、無事に駅の外に出たにゃ。

神様。
我輩、猫だけど、ハルカちゃんと一緒に、電車に乗ることができたにゃ。
人間になるための第一歩を踏み出したにゃ。

悩んでもがいて見つけた先で、我輩の胸がとくんと揺れたにゃ。

今は抱っこだけど。
いつか、自力で電車に乗れるようになりたいと思うにゃ。
守りたい者を守れる猫になりたいにゃ。
この手の中の柔らかな温かさを。

そう願うことは、我輩にとっては格別なものに違いなかったにゃ。
そして、恋を知る日が来るなら、その気持ちが向かう先はきっと……。



駅舎を抜け、駅前の広場に出る。
電車を降りた後は思いのほか、つつがなく進んで行けたにゃ。
だからだろうか。

「ねえ、にゃん太郎さん。寄り道しない?」

ハルカちゃんから思いもよらない誘いを受けたのは。

『にゃあ! 寄り道?』

びっくりして、思わず言いかけた我輩は慌てて口を覆ったにゃ。
すぐにそっと周りを確認してから、ハルカちゃんを見る。

『我輩と?』
「……うん」

ハルカちゃんは極力、小さな声で話す。

「……にゃん太郎さんと一緒に行きたい場所があるの」

ハルカちゃんは何やら、必死な表情だったにゃ。

にゃにゃ……。
ハルカちゃんと一緒に寄り道……。

人目を気にしつつも、我輩、心の中でつぶやいてみる。
何だか、心の奥の方がざわざわしたにゃ。
魅力的な誘いだったにゃ。
一気にワクワクしてくる。
寄り道、すごく楽しみだにゃ。

『分かったにゃ。行こうにゃ』
「ありがとう」

我輩がうなずくと、ハルカちゃんは花開くように笑ったにゃ。

寄り道といえば青春の花!

遊園地に映画館。
動物園に水族館。
あれやこれや……と妄想の大風呂敷を広げていた時間が、我輩にもあったものだにゃ。
しかし、実際、ふたを開けてみたらどうか。

「きれいな世界を見に行こう」
『にゃ?』

我輩が戸惑っていると、ハルカちゃんは優しく笑みをこぼしたにゃ。

「この近くに、きれいな景色が見える丘があるの。わたしのお気に入りの場所なんだ」
『ハルカちゃんのお気に入りの場所……』

感情がぐちゃぐちゃで整理できない。
でも……どこか胸がぽかぽかする。
その温もりに突き動かされて、我輩はハルカちゃんの後を追ったにゃ。
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