52 / 57
第三章 その日、猫は希望と願いを天秤にかける
5-6
しおりを挟む
「にゃにゃーーーーっ! お、おばけにゃーーー!!」
我輩、幽霊は超苦手。
当然、脱兎のごとく、その場から逃げ出したにゃ。
「にゃ……、にゃ……」
荒々しい呼吸で、たどり着いた先は隧道の近く。
ここまで来れば、安心にゃ。
ふにゃ~、こ、怖かったにゃ~~。
えっ?
神様。
この街にいるのは、あやかし。
それに、ここにいる幽霊は、我輩に由縁のある幽霊って?
「我輩に由縁のある幽霊……。それでも、我輩、怖いにゃ……」
我輩、ガクブルと身を縮めながらも周りを見る。
幻想的な街のあちらこちら。
橋の上や多層に重なる楼閣の中、半透明な影のようなものがふらふらと行き交っている。
彼らが、この街の住人みたいにゃ。
静かな街のように見えて、耳を澄ませば、さざめくような笑い声が聞こえてくる。
光の灯る格子窓を見つめてみれば、笑いさざめく影の人々が見え始める。
幻のように、だけど、確かにあやかしの住人が存在していたにゃ。
「ここは、あやかしの街のようにゃ」
「あやかしの街……」
にゃん吉先輩の説明に、海翔くんは驚きを隠せないみたいにゃ。
提灯がずらりと並んで、隧道の赤煉瓦壁を照らし出している。
「にゃっ……!」
隧道を抜けた途端、ふわりと流れてきたのは白檀の香の風。
しっぽをなびかせ、我輩は華やいだ声を上げたにゃ。
「にゃん吉先輩、海翔くん、神様、見てにゃ! すごいにゃ!」
不思議な景色に嬉しくなって、我輩、ぴょんぴょんと跳ねる。
朱く照らし出された街を、建物にもその間にも縦横に吊り下げられた朱い提灯を順番に指し示す。
「さっきまで怖がっていたのに、立ち直りが早いな」
我輩の一声に、海翔くんは楽しそうに笑ったにゃ。
だけど、すぐにここに来た理由を思い出して真顔になる。
「にゃん太郎。この街のどこかに、二つの願いを維持するための方法があるかもしれないんだよな」
「そうにゃ。どこかにーー」
海翔くんの質問に、我輩が答えようとした時……。
何か、視界に引っかかった気がするにゃ。
とても大事なことだったような……。
記憶に点在する小さな違和感が、一つの可能性を映し出そうとして。
「にゃ……!?」
思考は、途中で途切れたにゃ。
『海翔様、にゃん太郎様……』
声とともに、すーっと真っ白い人影が一つ現れたからにゃ。
にゃあ!?
幽霊さんが出たにゃ!!
我輩、思わず逃げ腰になってしまったけれど……。
『おかえりなさいませ。お待ちしておりました』
春の匂いがする幽霊さんの笑顔はキラキラとしていて。
まるで、晴れ渡った空のように綺麗な色をしていて。
気がついたら、もう心に恐怖はなかったにゃ。
だから、我輩はいてもたってもいられなくなって思わず、尋ねてしまったにゃ。
「どうして、我輩たちのことを……?」
幽霊さんは答える代わりに、手のひらから光を放ったにゃ。
すると、我輩の視線の先に舞い降りてきたのは古びた写真。
そこに写っていたのは、我輩を抱き上げている男の子だったにゃ。
「この男の子は……」
我輩を抱き上げているのは、神様のような装束を着た男の子。
朱色の橋から、この街の空を見上げている、ふたりの間にある空気。
それが、どう遠慮して見ても仲睦まじい関係にしか思えなくて……我輩、困惑する。
そして、男の子の顔立ちに、ひどく見覚えがあったにゃ。
……いや、見覚えがある、とか、そういう話でおさまる存在ではなかったにゃ。
「にゃん太郎、どうしたんだ?」
「にゃ……」
海翔くんが心配そうに、我輩を窺い見たにゃ。
その瞬間、心の奥底から熱が溢れる。
感情が震えて、熱い涙が止まらなかったにゃ。
信じられないという気持ちが、確信に変わっていく。
この人はーー。
今、我輩と言葉を交わしている人はーー。
さっきまでの驚きとは異なる感情で、胸が熱く、高鳴っていく。
我輩、幽霊は超苦手。
当然、脱兎のごとく、その場から逃げ出したにゃ。
「にゃ……、にゃ……」
荒々しい呼吸で、たどり着いた先は隧道の近く。
ここまで来れば、安心にゃ。
ふにゃ~、こ、怖かったにゃ~~。
えっ?
神様。
この街にいるのは、あやかし。
それに、ここにいる幽霊は、我輩に由縁のある幽霊って?
「我輩に由縁のある幽霊……。それでも、我輩、怖いにゃ……」
我輩、ガクブルと身を縮めながらも周りを見る。
幻想的な街のあちらこちら。
橋の上や多層に重なる楼閣の中、半透明な影のようなものがふらふらと行き交っている。
彼らが、この街の住人みたいにゃ。
静かな街のように見えて、耳を澄ませば、さざめくような笑い声が聞こえてくる。
光の灯る格子窓を見つめてみれば、笑いさざめく影の人々が見え始める。
幻のように、だけど、確かにあやかしの住人が存在していたにゃ。
「ここは、あやかしの街のようにゃ」
「あやかしの街……」
にゃん吉先輩の説明に、海翔くんは驚きを隠せないみたいにゃ。
提灯がずらりと並んで、隧道の赤煉瓦壁を照らし出している。
「にゃっ……!」
隧道を抜けた途端、ふわりと流れてきたのは白檀の香の風。
しっぽをなびかせ、我輩は華やいだ声を上げたにゃ。
「にゃん吉先輩、海翔くん、神様、見てにゃ! すごいにゃ!」
不思議な景色に嬉しくなって、我輩、ぴょんぴょんと跳ねる。
朱く照らし出された街を、建物にもその間にも縦横に吊り下げられた朱い提灯を順番に指し示す。
「さっきまで怖がっていたのに、立ち直りが早いな」
我輩の一声に、海翔くんは楽しそうに笑ったにゃ。
だけど、すぐにここに来た理由を思い出して真顔になる。
「にゃん太郎。この街のどこかに、二つの願いを維持するための方法があるかもしれないんだよな」
「そうにゃ。どこかにーー」
海翔くんの質問に、我輩が答えようとした時……。
何か、視界に引っかかった気がするにゃ。
とても大事なことだったような……。
記憶に点在する小さな違和感が、一つの可能性を映し出そうとして。
「にゃ……!?」
思考は、途中で途切れたにゃ。
『海翔様、にゃん太郎様……』
声とともに、すーっと真っ白い人影が一つ現れたからにゃ。
にゃあ!?
幽霊さんが出たにゃ!!
我輩、思わず逃げ腰になってしまったけれど……。
『おかえりなさいませ。お待ちしておりました』
春の匂いがする幽霊さんの笑顔はキラキラとしていて。
まるで、晴れ渡った空のように綺麗な色をしていて。
気がついたら、もう心に恐怖はなかったにゃ。
だから、我輩はいてもたってもいられなくなって思わず、尋ねてしまったにゃ。
「どうして、我輩たちのことを……?」
幽霊さんは答える代わりに、手のひらから光を放ったにゃ。
すると、我輩の視線の先に舞い降りてきたのは古びた写真。
そこに写っていたのは、我輩を抱き上げている男の子だったにゃ。
「この男の子は……」
我輩を抱き上げているのは、神様のような装束を着た男の子。
朱色の橋から、この街の空を見上げている、ふたりの間にある空気。
それが、どう遠慮して見ても仲睦まじい関係にしか思えなくて……我輩、困惑する。
そして、男の子の顔立ちに、ひどく見覚えがあったにゃ。
……いや、見覚えがある、とか、そういう話でおさまる存在ではなかったにゃ。
「にゃん太郎、どうしたんだ?」
「にゃ……」
海翔くんが心配そうに、我輩を窺い見たにゃ。
その瞬間、心の奥底から熱が溢れる。
感情が震えて、熱い涙が止まらなかったにゃ。
信じられないという気持ちが、確信に変わっていく。
この人はーー。
今、我輩と言葉を交わしている人はーー。
さっきまでの驚きとは異なる感情で、胸が熱く、高鳴っていく。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
行かないで、と言ったでしょう?
松本雀
恋愛
誰よりも愛した婚約者アルノーは、華やかな令嬢エリザベートばかりを大切にした。
病に臥せったアリシアの「行かないで」――必死に願ったその声すら、届かなかった。
壊れた心を抱え、療養の為訪れた辺境の地。そこで待っていたのは、氷のように冷たい辺境伯エーヴェルト。
人を信じることをやめた令嬢アリシアと愛を知らず、誰にも心を許さなかったエーヴェルト。
スノードロップの咲く庭で、静かに寄り添い、ふたりは少しずつ、互いの孤独を溶かしあっていく。
これは、春を信じられなかったふたりが、
長い冬を越えた果てに見つけた、たったひとつの物語。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる