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#013 歪んだ鏡像が憎悪を映す
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部活動に顔を出し、放課後は杏那さんや鍔井くんと他愛のない話をしながら帰路につく。機術という非日常を除けば、僕が送っているのはごく普通の、少しだけ恵まれすぎた高校生の日常だった。気の置けない友人もでき、僕の新たな学園生活は、今のところ順風満帆と言っていい。
――だが、そんな穏やかな日常は、ある日唐突に、硝子細工のように脆く引き裂かれることとなる。
ゴールデンウィークを間近に控え、どこか浮き足立った空気が街を包む昼下がり。僕は一人、学園近くの大通りを歩いていた。その視線の先に、見知った小柄な後ろ姿を見つける。ぴょこぴょこと快活に揺れる白いツインテールは、生徒会書記の三鳥美羽先輩だ。
「あ、三鳥先輩」
声をかけようと一歩踏み出した、まさにその瞬間だった。
「危ないっ!」
僕の名を呼ぶより先に、鋭い警告が鼓膜を打つ。三鳥先輩が僕に向かって叫ぶと同時に、凄まじい突風が僕の身体を鷲掴みにした。抵抗する間もなく、暴力的な風圧が僕を強制的に数メートル後方へと吹き飛ばす。おそらく、風を操る彼女の機術なのだろう。受け身も取れず地面に手をつき、僕は思わず文句を口にしようとする。
「いっ……! な、何をするんですか……!」
しかし、僕の言葉は途中で凍りついた。
アスファルトが、悲鳴を上げていた。
つい先ほどまで僕が立っていたその場所に、まるで地中から巨大な牙が生えてきたかのように、鋭利な氷の矢が深々と突き刺さっていたのだ。陽光を乱反射するそれは、美しいと同時に、紛れもない殺意の塊だった。もしあのまま歩を進めていたら、僕の身体は間違いなくあの氷塊に貫かれ、即死していただろう。
ぞわり、と背筋に冷たい汗が伝う。
「……助けていただいて、ありがとうございます」
「お礼は後にして! 私は犯人を追うから、晴人くんもついてきて!」
僕の感謝の言葉を遮り、三鳥先輩は叫ぶ。
「大気圏をも貫いて!」
凛とした詠唱と共に、彼女の身体がふわりと宙に浮き上がる。そして次の瞬間には、氷の矢が飛来したと思わしき方角へ、弾丸のような速さで飛翔していった。
「は、はい!」
すでに豆粒ほどに小さくなった先輩の背中に、聞こえているかどうかも分からない返事をし、僕は全力でその後を追った。
息を切らして先輩に指示された路地裏へと駆け込むと、そこでは既に新たな氷の矢が飛び交っていた。甲高い飛翔音、壁に突き刺さる轟音。まさか、もう戦闘が始まっているのか!? 物陰から恐る恐る様子を窺うと、三鳥先輩が僕とさほど年の変わらない見知らぬ男子生徒と対峙しているのが見えた。
「この子だよ! 晴人くんを襲った犯人は!」
僕の姿を認めた三鳥先輩が叫ぶ。それを聞き、少年は悪鬼のような、憎悪に満ちた瞳で僕を睨みつけた。
「君が……! いったい何故、僕を襲ったりしたんだ!」
「七座晴人……! 本来なら不合格だった分際で、のうのうとこの学園で青春を満喫している女々しい野郎め……!」
絞り出すような声には、どす黒い嫉妬がマグマのように渦巻いている。
「……お前たちに、俺の境遇を話してやる。そうすれば、きっとお前らも俺に同情し、俺の行いを理解してくれるはずだ!」
少年は一方的にそう告げると、堰を切ったように自らの過去を語り始めた。隣の三鳥先輩は、反論せずにただ静かに耳を傾けている。僕もそれに倣い、彼の言葉に耳を傾けることにした。
彼の名は、滑川祐輔。僕と同じく地方の田舎育ちで、昔から周囲に見下され、いじめを受けてきたという。そんな日常から抜け出すため、一念発起して機術学園を受験したものの、結果は不合格。地元の高校へ進学した彼を待っていたのは、『凄い奴になれなかった敗北者』という新たなレッテルと、以前にも増して苛烈ないじめだった。
「そこへ……同じ中学からこの学園に入ったやつが、お前の噂を俺に吹き込んだんだ。『本来不合格だったのに、特別に入学した可愛い男の娘がいる』ってな! 『お前が落ちたのは不細工だったからじゃねーの?』……その一言で、俺へのいじめに『不細工』ってあだ名まで加わって、俺は完全に不登校になった!」
彼の顔が、屈辱と怒りで歪む。
「そんな時だ……今の俺に、この力をくれた人と出会ったのは。俺はこの力で、俺を馬鹿にしてきた奴ら全員に復讐してやった! でも、まだ足りない……! お前がいる限り、俺の心は満たされない! 俺と同じ、いや、それ以下の筈のお前が、友人に恵まれて幸せそうにしているのが……憎い! お前がこれ以上幸せになるのが、俺は、耐えられないんだ!」
「待ってくれ! 僕を倒したところで、君の何かが変わるっていうのか!? それで君は、本当に幸せになれるのか!?」
「ああ、なれるさ! ズルをしたやつが、その報いを受ける。世界は、ちゃんと平等にできている。そう思えるだけで、俺は救われるんだ!」
彼の瞳に、狂信的な光が宿る。
「……だったら、その報いは滑川くんも受けなくちゃ。君も、非合法な手段で手に入れた機術で、人に危害を加えるっていう『ズル』をしたんだから。僕が特別に合格させてもらったのがズルだとしても、君がやったことは、それ以上に許されないことだよ!」
三鳥先輩の静かだが、芯の通った声が路地裏に響く。
「ふざけるな! これは、神の使いから与えられた聖なる贈り物だ!」
滑川は絶叫し、僕に向かって新たな氷の矢を放った。僕は咄嗟に身を捻ってそれをかわす――が、その直後、足元に走った衝撃に目を見開く。
「じ、地面が……!」
地面に突き刺さった氷の矢は、周囲のアスファルトを瞬時に凍結させていた。白く輝く氷は、まるで悪性の腫瘍のように見る間に広がり、僕の足元をスケートリンクのような氷のフィールドへと変えていく。これでは、迂闊に動くことすらままならない!
「晴人くん!」
僕を助けようと、三鳥先輩が動く。だが、その行く手を阻むように、どこからともなく黒い影が舞い降りた。
「彼の邪魔をしないでもらおうか」
「あなたは……! 俺にこの力をくれた……!」
「晴人くん! うわっ……!」
謎の男に組み付かれ、三鳥先輩は為す術もなく視界の外へと連れ去られてしまう。彼女のことが気になるが、生徒会の主要メンバーである彼女が、そう簡単にやられるはずはない。今はまず、目の前の敵に集中するべきだ!
「三鳥先輩……! くっ……やるしかないのか……!」
このままでは、本当に殺される。僕は覚悟を決め、叫んだ。
「――メイド・アップ!」
眩い光が僕の身体を包み込み、見慣れた黒と白のメイド服姿へと変身を遂げる。
「こんなふざけた格好をした奴が...!」
滑川が、氷の矢を雨あられと放ってくる。凍りついた足場で思うように身動きが取れない中、僕は必死にそれを回避し続けた。ツルリと滑る足元、紙一重で頬を掠める氷の刃。その一つ一つが、僕の体温と集中力を容赦なく奪っていく。
「僕だって……! ここでやられるわけにはいかないんだ! 僕を信じて合格させてくれた先生と、僕を支えてくれる友達の想いを、今、僕は背負っているんだ! それをこんな場所で、投げ出すわけにはいかない!」
「ふざけるなああああ! なんで俺には……! 俺には、そんな存在が一人もいてくれなかったんだああああ!」
僕の叫びが、彼の心の平衡をさらに乱したらしい。もはや狙いも定めず、彼はただ感情のままに氷の矢を乱射してくる。無数の氷塊が弾幕となり、僕の逃げ場を塞いでいく。このままでは近づくことすらできない。ならば――この前もらったばかりの『あれ』を試すしかない!
「行くぞ!」
僕はまず、腰のホルダーから二本のナイフを抜き放ち、滑川に向かって全力で投擲する!
「そんなもの、当たるかよ!」
滑川は一瞬で冷静さを取り戻し、目の前に分厚い氷の壁を生成してナイフを防いだ。だが、僕の狙いはそこじゃない。
「――双極、起動!」
僕は懐から、赤と青の柄を持つ二本のナイフを取り出す。僕がそれをコントローラーのように操ると、氷壁を大きく迂回した二本のナイフが、滑川の背後から襲いかかった!
――が、ナイフの操作が、思った以上に難しい!
訓練ではもっとスムーズに動かせたはずなのに、氷壁の隙間から飛んでくる矢を避けながらでは、精密な操作に集中できない。磁力の糸が絡まるような、もどかしい感覚。
「どうした! その程度か! やはり不合格の雑魚は、そこまでが限界か!」
背後から回り込ませ、ようやく斬りかかれると思った瞬間、滑川は背後にも新たな氷壁を出現させた。氷の生成速度が、僕のナイフの操作速度を上回っている。僕は慌ててナイフを急カーブさせ、氷との衝突を回避する。キィン、と金属が氷を掠める音が耳障りだった。
「くっ……僕を、なめるなああああ!」
僕は二本のナイフを脳天から振り下ろすイメージを、渾身の力で磁力の糸に乗せて叩きつける。僕の意志に応え、二本の『双極』が氷壁の上を飛び越え、滑川の頭上から猛禽のように襲いかかった。
「がっ……! ぐあああああっ!」
避けきれなかったナイフの一本が、彼の右足を深く切り裂く。鮮血が白い氷の上に飛び散り、どす黒い染みを作った。激痛に膝をつき、滑川はその場に崩れ落ちた。
「……はぁ、はぁ……早く、先輩を助けに行かないと!」
「ま、待て……! 俺を置いていくな……! 俺を、無視するなあああああ……!」
背後から聞こえる怨嗟の声を振り切り、僕は三鳥先輩が連れ去られた方角へと急いだ。
「三鳥先輩!」
「晴人くん! 無事だったんだね。滑川くんは……」
「なんとか倒して、無力化はしてきました。先輩を連れ去った男は……?」
「逃げられちゃった。晴人くんが来たから、戦況が不利になるって判断したのかな……」
先輩に怪我がないことに安堵しつつも、僕は拭えない不安を口にする。
「しかしまさか、僕を直接狙ってくる相手がいるなんて……」
「機術学園は、日本有数の科学技術を学べる場所だもん。その力を手にすれば、人生が逆転できるって本気で信じている子も少なくないの。だからこそ、叶わなかった時の反動も大きくて……中には、心を病んで引きこもりになっちゃう子もいるって聞く。ましてや、本来不合格だった晴人くんが特別に入学したなんて話を聞けば、憎しみを募らせる子が出てきても、無理はないのかも……」
三鳥先輩は、少しだけ寂しそうな顔でそう言った。
――だが、そんな穏やかな日常は、ある日唐突に、硝子細工のように脆く引き裂かれることとなる。
ゴールデンウィークを間近に控え、どこか浮き足立った空気が街を包む昼下がり。僕は一人、学園近くの大通りを歩いていた。その視線の先に、見知った小柄な後ろ姿を見つける。ぴょこぴょこと快活に揺れる白いツインテールは、生徒会書記の三鳥美羽先輩だ。
「あ、三鳥先輩」
声をかけようと一歩踏み出した、まさにその瞬間だった。
「危ないっ!」
僕の名を呼ぶより先に、鋭い警告が鼓膜を打つ。三鳥先輩が僕に向かって叫ぶと同時に、凄まじい突風が僕の身体を鷲掴みにした。抵抗する間もなく、暴力的な風圧が僕を強制的に数メートル後方へと吹き飛ばす。おそらく、風を操る彼女の機術なのだろう。受け身も取れず地面に手をつき、僕は思わず文句を口にしようとする。
「いっ……! な、何をするんですか……!」
しかし、僕の言葉は途中で凍りついた。
アスファルトが、悲鳴を上げていた。
つい先ほどまで僕が立っていたその場所に、まるで地中から巨大な牙が生えてきたかのように、鋭利な氷の矢が深々と突き刺さっていたのだ。陽光を乱反射するそれは、美しいと同時に、紛れもない殺意の塊だった。もしあのまま歩を進めていたら、僕の身体は間違いなくあの氷塊に貫かれ、即死していただろう。
ぞわり、と背筋に冷たい汗が伝う。
「……助けていただいて、ありがとうございます」
「お礼は後にして! 私は犯人を追うから、晴人くんもついてきて!」
僕の感謝の言葉を遮り、三鳥先輩は叫ぶ。
「大気圏をも貫いて!」
凛とした詠唱と共に、彼女の身体がふわりと宙に浮き上がる。そして次の瞬間には、氷の矢が飛来したと思わしき方角へ、弾丸のような速さで飛翔していった。
「は、はい!」
すでに豆粒ほどに小さくなった先輩の背中に、聞こえているかどうかも分からない返事をし、僕は全力でその後を追った。
息を切らして先輩に指示された路地裏へと駆け込むと、そこでは既に新たな氷の矢が飛び交っていた。甲高い飛翔音、壁に突き刺さる轟音。まさか、もう戦闘が始まっているのか!? 物陰から恐る恐る様子を窺うと、三鳥先輩が僕とさほど年の変わらない見知らぬ男子生徒と対峙しているのが見えた。
「この子だよ! 晴人くんを襲った犯人は!」
僕の姿を認めた三鳥先輩が叫ぶ。それを聞き、少年は悪鬼のような、憎悪に満ちた瞳で僕を睨みつけた。
「君が……! いったい何故、僕を襲ったりしたんだ!」
「七座晴人……! 本来なら不合格だった分際で、のうのうとこの学園で青春を満喫している女々しい野郎め……!」
絞り出すような声には、どす黒い嫉妬がマグマのように渦巻いている。
「……お前たちに、俺の境遇を話してやる。そうすれば、きっとお前らも俺に同情し、俺の行いを理解してくれるはずだ!」
少年は一方的にそう告げると、堰を切ったように自らの過去を語り始めた。隣の三鳥先輩は、反論せずにただ静かに耳を傾けている。僕もそれに倣い、彼の言葉に耳を傾けることにした。
彼の名は、滑川祐輔。僕と同じく地方の田舎育ちで、昔から周囲に見下され、いじめを受けてきたという。そんな日常から抜け出すため、一念発起して機術学園を受験したものの、結果は不合格。地元の高校へ進学した彼を待っていたのは、『凄い奴になれなかった敗北者』という新たなレッテルと、以前にも増して苛烈ないじめだった。
「そこへ……同じ中学からこの学園に入ったやつが、お前の噂を俺に吹き込んだんだ。『本来不合格だったのに、特別に入学した可愛い男の娘がいる』ってな! 『お前が落ちたのは不細工だったからじゃねーの?』……その一言で、俺へのいじめに『不細工』ってあだ名まで加わって、俺は完全に不登校になった!」
彼の顔が、屈辱と怒りで歪む。
「そんな時だ……今の俺に、この力をくれた人と出会ったのは。俺はこの力で、俺を馬鹿にしてきた奴ら全員に復讐してやった! でも、まだ足りない……! お前がいる限り、俺の心は満たされない! 俺と同じ、いや、それ以下の筈のお前が、友人に恵まれて幸せそうにしているのが……憎い! お前がこれ以上幸せになるのが、俺は、耐えられないんだ!」
「待ってくれ! 僕を倒したところで、君の何かが変わるっていうのか!? それで君は、本当に幸せになれるのか!?」
「ああ、なれるさ! ズルをしたやつが、その報いを受ける。世界は、ちゃんと平等にできている。そう思えるだけで、俺は救われるんだ!」
彼の瞳に、狂信的な光が宿る。
「……だったら、その報いは滑川くんも受けなくちゃ。君も、非合法な手段で手に入れた機術で、人に危害を加えるっていう『ズル』をしたんだから。僕が特別に合格させてもらったのがズルだとしても、君がやったことは、それ以上に許されないことだよ!」
三鳥先輩の静かだが、芯の通った声が路地裏に響く。
「ふざけるな! これは、神の使いから与えられた聖なる贈り物だ!」
滑川は絶叫し、僕に向かって新たな氷の矢を放った。僕は咄嗟に身を捻ってそれをかわす――が、その直後、足元に走った衝撃に目を見開く。
「じ、地面が……!」
地面に突き刺さった氷の矢は、周囲のアスファルトを瞬時に凍結させていた。白く輝く氷は、まるで悪性の腫瘍のように見る間に広がり、僕の足元をスケートリンクのような氷のフィールドへと変えていく。これでは、迂闊に動くことすらままならない!
「晴人くん!」
僕を助けようと、三鳥先輩が動く。だが、その行く手を阻むように、どこからともなく黒い影が舞い降りた。
「彼の邪魔をしないでもらおうか」
「あなたは……! 俺にこの力をくれた……!」
「晴人くん! うわっ……!」
謎の男に組み付かれ、三鳥先輩は為す術もなく視界の外へと連れ去られてしまう。彼女のことが気になるが、生徒会の主要メンバーである彼女が、そう簡単にやられるはずはない。今はまず、目の前の敵に集中するべきだ!
「三鳥先輩……! くっ……やるしかないのか……!」
このままでは、本当に殺される。僕は覚悟を決め、叫んだ。
「――メイド・アップ!」
眩い光が僕の身体を包み込み、見慣れた黒と白のメイド服姿へと変身を遂げる。
「こんなふざけた格好をした奴が...!」
滑川が、氷の矢を雨あられと放ってくる。凍りついた足場で思うように身動きが取れない中、僕は必死にそれを回避し続けた。ツルリと滑る足元、紙一重で頬を掠める氷の刃。その一つ一つが、僕の体温と集中力を容赦なく奪っていく。
「僕だって……! ここでやられるわけにはいかないんだ! 僕を信じて合格させてくれた先生と、僕を支えてくれる友達の想いを、今、僕は背負っているんだ! それをこんな場所で、投げ出すわけにはいかない!」
「ふざけるなああああ! なんで俺には……! 俺には、そんな存在が一人もいてくれなかったんだああああ!」
僕の叫びが、彼の心の平衡をさらに乱したらしい。もはや狙いも定めず、彼はただ感情のままに氷の矢を乱射してくる。無数の氷塊が弾幕となり、僕の逃げ場を塞いでいく。このままでは近づくことすらできない。ならば――この前もらったばかりの『あれ』を試すしかない!
「行くぞ!」
僕はまず、腰のホルダーから二本のナイフを抜き放ち、滑川に向かって全力で投擲する!
「そんなもの、当たるかよ!」
滑川は一瞬で冷静さを取り戻し、目の前に分厚い氷の壁を生成してナイフを防いだ。だが、僕の狙いはそこじゃない。
「――双極、起動!」
僕は懐から、赤と青の柄を持つ二本のナイフを取り出す。僕がそれをコントローラーのように操ると、氷壁を大きく迂回した二本のナイフが、滑川の背後から襲いかかった!
――が、ナイフの操作が、思った以上に難しい!
訓練ではもっとスムーズに動かせたはずなのに、氷壁の隙間から飛んでくる矢を避けながらでは、精密な操作に集中できない。磁力の糸が絡まるような、もどかしい感覚。
「どうした! その程度か! やはり不合格の雑魚は、そこまでが限界か!」
背後から回り込ませ、ようやく斬りかかれると思った瞬間、滑川は背後にも新たな氷壁を出現させた。氷の生成速度が、僕のナイフの操作速度を上回っている。僕は慌ててナイフを急カーブさせ、氷との衝突を回避する。キィン、と金属が氷を掠める音が耳障りだった。
「くっ……僕を、なめるなああああ!」
僕は二本のナイフを脳天から振り下ろすイメージを、渾身の力で磁力の糸に乗せて叩きつける。僕の意志に応え、二本の『双極』が氷壁の上を飛び越え、滑川の頭上から猛禽のように襲いかかった。
「がっ……! ぐあああああっ!」
避けきれなかったナイフの一本が、彼の右足を深く切り裂く。鮮血が白い氷の上に飛び散り、どす黒い染みを作った。激痛に膝をつき、滑川はその場に崩れ落ちた。
「……はぁ、はぁ……早く、先輩を助けに行かないと!」
「ま、待て……! 俺を置いていくな……! 俺を、無視するなあああああ……!」
背後から聞こえる怨嗟の声を振り切り、僕は三鳥先輩が連れ去られた方角へと急いだ。
「三鳥先輩!」
「晴人くん! 無事だったんだね。滑川くんは……」
「なんとか倒して、無力化はしてきました。先輩を連れ去った男は……?」
「逃げられちゃった。晴人くんが来たから、戦況が不利になるって判断したのかな……」
先輩に怪我がないことに安堵しつつも、僕は拭えない不安を口にする。
「しかしまさか、僕を直接狙ってくる相手がいるなんて……」
「機術学園は、日本有数の科学技術を学べる場所だもん。その力を手にすれば、人生が逆転できるって本気で信じている子も少なくないの。だからこそ、叶わなかった時の反動も大きくて……中には、心を病んで引きこもりになっちゃう子もいるって聞く。ましてや、本来不合格だった晴人くんが特別に入学したなんて話を聞けば、憎しみを募らせる子が出てきても、無理はないのかも……」
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