絶対盟約の美少年従者(メイデンメイド)

あさみこと

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#014 影は囁き駒を集める

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 先日の一件は、滑川の身柄を学園側に引き渡したことで、一応の決着を見た。……というのは表向きの話で、ゴールデンウィークの初日である今日、僕たちは生徒会室への呼び出しを食らっていた。
 僕と杏那さんは当然として、今回の件で技術的な示唆を与えた鍔井くんも、参考人として同行することになった。
 昼食を済ませ、重厚な扉の前に立つ。軽くノックをして中に入ると、そこには生徒会長の玖代静葉先輩をはじめ、副会長、書記、会計の四人が勢揃いしており、部屋の隅には、白衣姿の美王先生も控えていた。
「皆さん、お休み中にお呼び立てして申し訳ありません」
 玖代会長が、穏やかながらもどこか張り詰めた表情で僕たちを迎える。
「さて、単刀直入に本題に入らせてもらうわ」
 腕を組み、鋭い視線を僕に向けたのは、副会長の肆谷龍弥先輩だった。
「災難だったわね、七座。入学してたった二ヶ月で、こうも執拗に個人として襲撃されるなんて、前代未聞よ」
「はい……まさか、また命を狙われるなんて思いもしませんでした」
「たまたま三鳥先輩がご一緒だったから事なきを得ましたが、私の不在時を狙われたのは……不覚でしたわ」
 杏那さんが悔しそうに唇を噛む。そんな彼女に対し、玖代会長は優しく首を横に振った。
「そんなに自分を責めることはありませんよ。それより、今は敵の情報を整理しましょう」
「……僕を狙ったあの男の背後にいた人物……いったい何者なんでしょうか」
 僕の疑問に答えたのは、美王先生だった。
「恐らく、晴人くんたちが以前戦った連中の仲間でしょうね。あの後、捕まえた銃の男を少~しだけ尋問したら、あっさり吐いたわ。『我々は世界中に根を張り、裏から世界を支配する組織である』……なんてね。まあ、末端中の末端だったから、大した情報は得られなかったけど」
「世界中に構成員がいるとはいえ、よくもまあ、あんなピンポイントで七座に恨みを抱く人間を探し当てたものね。人間の思考を読み取る検索エンジンでも持っているのかしら」
 副会長の肆谷龍弥先輩が、呆れたように呟く。
「……その可能性は、否定できません」
 それまで黙っていた会計の襟間慧理先輩が、静かに口を開いた。
「人間の脳波パターンを読み取り、特定の感情――例えば『嫉妬』や『憎悪』といった思考を広範囲で検知・集積できるような装置を彼らが保有しているのであれば、組織の目的にとって都合のいい人間をリストアップすることは、理論上可能です」
「……相手は、想像以上に厄介な技術を持っているようね」
 肆谷副会長が、苦々しく舌打ちをする。
「そんな巨大な組織が、本当に存在するんですね……」
「機術の発展は、人々の夢や希望を実現させてきた。その反面、人間の欲望を際限なく加速させたのも事実よ」
 美王先生の言葉には、科学の最先端に立つ者としての重みがあった。
「その発展の果実を待ちきれない者たちが、人の道を外れてそういった組織に与するの。機術が進歩すれば、若返りや不老不死だって夢じゃない。限りある寿命の中で、彼らは焦っているのよ」
「本当に、悪魔の発明ですわね……。可能性が無限なだけに、今まで理性で抑え込んでいた欲望が、堰を切ったように爆発してしまった、というか」
 杏那さんの言葉に、生徒会の面々も神妙な顔で頷いている。そんな中、僕は素朴な疑問を口にした。
「……彼らの野望は、砕かなくてはいけないものなんですか?」
 僕の問いに、美王先生は静かに、しかしきっぱりと答えた。
「ええ。人間と科学は、決してどちらか一方が突出してはならない。手綱を失った科学は、いずれ人間そのものを飲み込んでしまうから。……なんてこと、昔、真角くんにもよく話して聞かせたわね」
「はい。科学は確かに素晴らしいものですが、それが有益な存在でいられるのは、それを用いる人々の倫理観があってこそです」
「いくら人々を幸福にできる夢の発明であろうと、その影で多くの人々が涙を流すというのなら、それは『悪』です。断固として止めなければなりません」
 鍔井くん、そして玖代会長の言葉が、僕の中にあった漠然とした考えに、明確な輪郭を与えてくれる。
「私たちの学園の生徒に、既に被害が出ている以上、これを看過することはできません。……そこで、皆さんにお願いがあります」
 玖代会長は、僕たち一人ひとりの顔を真っ直ぐに見つめて言った。
「現在、政府から私達、機術学園に対し、若者を標的としたこの一連の事件について、可能な限りの情報提供と協力を求める通達が来ています。これを受け、教師陣と我々生徒会だけでなく、七座晴人さん、漆館杏那さん、そして鍔井真角さん。あなた方三名にも、この調査にご協力いただきたいのです。先日、七座さんを襲った滑川さんのような事例が、今、日本中で多発しています。機術学園の受験に失敗した生徒を中心に、不登校や引きこもり、中には行方不明になるケースも報告されているのです」
「つまり……彼らを裏で操っている組織が、本格的に動き出したということですか」
「ええ。恐らく、私たちが保有する以上の高度な機術をちらつかせて、彼らの欲望を刺激し、組織の駒を増やしているのでしょう」
 杏那さんの問いに、玖代会長が頷く。
「そういうことなら……協力させてください。せっかく手に入れたこの力を、こういう時に使わないのは、間違っていると思うから」
「僕も同感です。僕の研究開発能力が役立つのであれば、是非協力させてください」
「私もお手伝いさせていただきますわ。晴人さんがそう決めたのであれば、尚更のことです」
 僕、鍔井くん、杏那さんが立て続けに意思を表明する。
「皆さん……本当に、ありがとうございます」
 玖代会長が、深々と頭を下げた。
 そして生徒会室を出る前、三鳥書記が不意にこんなことを尋ねてきた。
「……ねえ、晴人くん。もし作れるとしたらさ、人工的に理想の彼女とか、作ってみたいと思う?」
「そりゃあ……自分のためだけに生まれてきてくれた、オーダーメイドの美少女! なんて、全世界の男の子の夢だもん。作れるもんなら、作ってみたいよ」
 そして僕は少し悪戯っぽく笑ってから、続けた。
「……けど、それってきっと、人命がどうとか、倫理がどうとか、面倒なことだらけなんだろうなって思う。それを考えたら、普通にモテる努力をした方が、よっぽど楽で健全だよね。……何より、今の僕には杏那さんも、美王先生も、そして生徒会の皆さんも……十分素敵な女性に囲まれてるし」
「……私も?」
「勿論ですよ。お堅い雰囲気が漂ってる中でこんなに明るく振る舞ってくれる三鳥書記の存在は、とても助かります」
「へへ、ありがとう!」
 彼女のあっけらかんとした言葉に、僕は少しだけ救われたような気がした。
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