絶対盟約の美少年従者(メイデンメイド)

あさみこと

文字の大きさ
31 / 46

#031 衝撃!男の娘アイドル♡

しおりを挟む
美王先生と杏那さんにメイドとしてご奉仕する生活が始まってからそんなに遠くない、ある休日のこと。僕は、日本の若者文化の最前線――原宿の竹下通りにいた。
「ほらハルくん、ここのクレープ、新作のタピオカが乗ってて美味しそうよ~♡」
「晴人さん、あちらのショップ、可愛いお洋服が沢山ありますわ。どれが似合うでしょうか……」
 僕の両腕は、美王先生と、杏那さんにがっちりと組まれていた。期末試験の打ち上げ、という名目で、半ば強制的に連れ出されたのだ。当然のように、僕の服装は『メタモフォシス・ギア』による、完璧な美少女姿である。
「二人とも、目立ちすぎですよ……!」
 道行く人々が、振り返り、スマホを向けてくる。それもそのはずだ。ダイナマイトボディの妖艶な美女と、完璧なお嬢様スタイルのドリルツインテール美少女。それに挟まれている僕も、我ながら、街のどんな女の子にも負けないくらいの美少女に仕上がっている。この三人が揃えば、目立たない方が無理というものだ。
 僕が人々の視線に耐えきれず、俯き加減に歩いていた、その時だった。
 突如、僕の目の前に、サングラスをかけた、いかにも業界人といった雰囲気の男性が立ちはだかった。
「……いた」
 男性は、僕の顔をじっと見つめると、確信に満ちた声で呟いた。
「間違いない。君こそが、新時代を創る、奇跡の原石だ!」
「……へ?」
 僕が間抜けな声を出すと、男性は興奮した様子で、僕の肩をがしりと掴んだ。
「僕は、大手芸能事務所『スターダスト・プロモーション』でプロデューサーをしている、黒岩という者だ! 君! アイドルにならないか!?」
「あ、あいどる!?」
 予想外すぎる申し出に、僕の思考は完全に停止する。無理だ無理だ! 僕、男だし!
「い、いえ、僕はそういうのは……!」
 僕が慌てて断ろうとすると、その言葉を遮るように、二つの声が僕の背中を押した。
「あら、いいじゃない~♡」
 美王先生が、面白そうに僕の耳元で囁く。
「あたしも、ハルくんのアイドル姿、見てみたいな~♡ 歌って踊る可愛いハルくん……ふふ、最高の研究データが取れそうだわ」
「そうですわね。晴人さんなら、きっとトップアイドルにもなれるでしょう。私が保証しますわ」
 杏那さんも、悪戯っぽく微笑みながら、僕を焚きつける。
「いや、でも、本当に無理ですから!」
 僕が必死に抵抗していると、黒岩と名乗るプロデューサーは、少し困ったように、しかし諦め悪く食い下がってきた。
「そこをなんとか! 一日、体験入所だけでもいい! 君の才能は、絶対に埋もれさせてはいけないんだ!」
「……ふむ」
 僕がどうしても首を縦に振らないのを見て、杏那さんが、ふと何かを思いついたように、ポンと手を打った。
「――それでしたら、わたくしも一緒に、アイドルになりますわ」
「……はい?」
 今度、間抜けな声を上げたのは、僕と黒岩さんだった。
「わたくしも、晴人さんと一緒なら、アイドルのレッスンを受けてもよろしくてよ。……それなら、いいでしょう? 晴人さん」
 にっこりと、完璧な淑女の笑みを浮かべる杏那さん。だが、その瞳の奥は、明らかに「断るという選択肢はありませんわよね?」と語っていた。
 ここまで言われてしまっては、僕に断る術など、もはや残されていない。
「……わ、分かりました……」
 僕が力なく頷くと、黒岩さんは「やったー!」と歓喜の声を上げた。
 話はトントン拍子に進み、僕たちは、そのまま黒岩さんの運転する車で、都内にあるという芸能事務所のレッスンスタジオへと向かうことになった。

 ちなみに、道中、黒岩さんとは別のスカウトマンが、今度は美王先生に声をかけてくるという一幕もあった。
「ぜひうちでグラビアモデルをやりませんか!? その完璧なプロポーション、必ずや世の男性を虜にできます!」
「あらやだ~、グラビアねぇ……悪くないかも♡」
 満更でもない様子の美王先生。この人も、大概目立ちたがり屋なのだ。

 数十分後、僕たちが案内されたのは、ガラス張りの壁に囲まれた、広大なダンススタジオだった。中では、すでに何人かの少女たちが、真剣な表情でストレッチをしている。皆、僕と同じくらいの年頃だろうか。その誰もが、アイドル候補生というだけあって、息を呑むほど可愛かった。
「さあ、二人とも、まずはこのレッスン着に着替えてくれたまえ!」
 黒岩さんから渡されたのは、身体のラインがはっきりと分かる、Tシャツとスパッツだった。
 更衣室で、僕は自分の姿を鏡で見て、改めて思う。どう見ても、スタイル抜群の美少女にしか見えない。
「あはは……」という、苦笑いしか起きなかった。
 一方、隣で着替えた杏那さんは、さすがと言うべきか、どんな服を着ても完璧に着こなしていた。むしろ、普段のドレス姿よりも、その豊満な身体のラインが強調されて、目のやり場に困るほどだった。
 僕と杏那さんがスタジオに戻ると、そこには、ひときわ強いオーラを放つ、一人の少女がいた。黒髪のショートカットが似合う、クールな印象の美少女。周りのスタッフに聞いてみたところ、彼女こそ、この事務所の若手トップアイドル、夜月原やづきはらルナだという。
「……新入り? ふん、顔はまあまあ、ね」
 ルナさんは、僕たちを値踏みするように一瞥すると、興味なさそうにそっぽを向いた。
 ボイストレーニング、ダンスレッスン。生まれて初めて体験するアイドルの世界は、僕の想像を絶するほど、過酷だった。腹から声を出す、という基本すらできず、ダンスのステップは、手と足が一緒に出てしまう始末。
「だ、ダメだ……僕には、才能なんて……」
 床にへたり込む僕に、杏那さんが優しくタオルを差し出してくれた。彼女は、さすがと言うべきか、どんなレッスンも完璧にこなしている。
「弱音を吐くのは早いですわよ、晴人さん。あなたには、私がついておりますから」
 その言葉に、僕は少しだけ、勇気をもらう。
 不思議なことに、僕のそのひたむきな、そしてあまりに不器用な姿は、当初僕たちを冷ややかに見ていた、他の候補生たちの心を動かしたようだった。
「ねぇ、そこのステップ、こうやるんだよ」
「もっと、腰から動かすイメージで!」
 彼女たちは、代わる代わる、僕にダンスを教えてくれる。
 そして、あのトップアイドルのルナさんまでもが、僕の自主練習に、いつの間にか付き合ってくれるようになっていた。
「……あんた、見てるとイライラする。でも、その目は嫌いじゃない」
 ぶっきらぼうにそう言う彼女の横顔が、少しだけ、赤く染まっているように見えたのは、きっと気のせいではないだろう。
「……晴人さん、少し、彼女と距離が近くありませんこと?」
 僕の隣で、杏那さんが、絶対零度の笑みを浮かべていた。
「そ、そうかな~……」と、僕はごまかすことしかできなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...