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第12話「眠る彼女」
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それは、本当に偶然のことだった。
春休みのある日、尚吾は市内の図書館で旧友に出くわした。物理の授業でよく隣になっていた、教師志望の冴島だった。教育実習の話を聞きながら、尚吾がふと「桜の宮の卒業生って、最近どうしてるんだろうな」とこぼすと、冴島が言った。
「ああ……千草、覚えてるか? 瑠璃」
名前を聞いた瞬間、尚吾の背筋に冷たいものが走った。もちろん忘れるはずがない。だが、口に出すのが怖かった。
「……ああ、覚えてる」
冴島は声を落とし、言いにくそうに続けた。
「実習の時、職員室で聞いたんだ。彼女……卒業の翌年、急に倒れて、それからずっと……意識がないって」
何かが、音もなく崩れ落ちた。
「意識……って、昏睡状態ってことか?」
冴島は頷いた。尚吾はその言葉をどう受け止めればいいか分からなかった。交通事故ではない。病気でもない。倒れた原因は不明のままで、ただ“眠っている”。それだけ。
「入院してる病院も、名前は……たしか、中央記念……」
そこまで聞いた尚吾は、すぐさま立ち上がっていた。
病院は、郊外の大通り沿いに建つ四階建ての中規模な施設だった。白い壁とガラス張りのエントランスが、春の日差しにぼんやりと光っている。受付で面会を申し出ると、尚吾の名前を聞いて、看護師が一瞬だけ目を伏せたように見えた。
案内されたのは、三階の奥まった病室だった。廊下の突き当たり、突き出た角の小さな個室。
ドアの前で呼吸を整える。鼓動が喉の奥で乱れていた。
扉を開けた。
ベッドに、瑠璃がいた。
何本もの細い管が機械に繋がれ、胸の上には規則正しく上下するシーツの膨らみ。顔は柔らかく、眠っているだけのように見えた。頬には血の気があり、唇も乾いてはいない。
だが――目を閉じたままの彼女は、どこか別の時間に取り残されているように感じられた。
呼吸の音、心電図のリズム。すべてが正常に動いているのに、“彼女だけが不在”なのだ。
尚吾はゆっくりと近づき、ベッドの脇に立った。名前を呼ぶべきか、手を取るべきか、何をすればいいのか分からなかった。だが胸の奥から、絞り出すように声が漏れた。
「……瑠璃」
反応は、なかった。まぶた一つ動かない。
それでも、その静けさは、まるで拒絶ではなく“保留”されているかのようだった。彼女の時間だけが、何者かの手によって止められている――そんな直感が尚吾の中に生まれた。
病室のドアが、控えめにノックされた。
振り向くと、淡い藤色のカーディガンを羽織った女性が立っていた。柔らかく束ねた髪、落ち着いた瞳。その面影を見て、尚吾はすぐに分かった。
「……千草さんですか?」
女性は小さく頷いた。
「母です。……瑠璃の」
尚吾が名乗ると、彼女は少し驚いたように目を見開き、すぐに表情を緩めた。
「来てくれて、ありがとう」
母親は、瑠璃の顔を一度だけ見つめると、静かに窓際の椅子に腰を下ろした。
「毎日じゃないけど、時間を見つけて通ってるの。あの子が“帰ってきた”とき、誰もいなかったら寂しいでしょう?」
その言葉に、尚吾は胸の奥を締めつけられた。
「帰ってくる……」
小さく繰り返すと、母親はゆっくり首を横に振った。
「まだなの。あの子は、まだ……帰ってきてないの」
それは希望でも絶望でもない、ただ“待つ”ことを選んだ者の言葉だった。
病室に静けさが戻ったあと、尚吾は瑠璃の母――千草真理に問いかけた。
「……瑠璃が倒れたのは、いつだったんですか?」
真理は視線を落とし、少しの沈黙を挟んで答えた。
「卒業して一年後の、二月二十九日。朝だったわ」
尚吾はその数字を聞いた瞬間、思考の足が止まるような感覚に襲われた。けれど、それが意味するものはわからない。ただ、胸の奥でうまく呼吸ができなかった。
「声をかけても反応がなくてね。部屋の鍵を開けたら、机に伏せてたの。すぐに救急車を呼んで病院に運んだのだけど、検査ではどこにも異常がなくて……」
真理の声は穏やかだったが、言葉の間に重さがあった。
「今でも、原因は分かっていないの。脳にも、体にも異常はない。でも目を開けない。意識がどこかに行ってしまったような感じ……」
尚吾はうなずくこともできなかった。その隣で、ベッドの上の瑠璃は、まるでただ眠っているように見えた。けれど、その眠りはあまりに深く、遠いものに思えた。
「倒れる前、様子に変わったところはありましたか?」
真理は少し考えるようにしてから答えた。
「少しだけ……片付けをしていたわ。自分の部屋を丁寧に整理していたの。写真やノートを並べたり、引き出しの中も丁寧に整えていて。今思えば、ちょっとだけ、らしくなかった」
「らしくなかった……」
「ええ。でも、その時はあまり深く考えなかった。思い立って掃除したのだと思っていたのよ。まさか、こんなふうになるなんて」
言い終えた真理の口元には、微かに笑みに似たものが浮かんだ。それは、自分を納得させるために重ねてきた時間の一部なのかもしれなかった。
病室の窓には、春の陽射しが柔らかく差し込んでいた。遠くの空が霞んで見える。けれど、ベッドの中の瑠璃は、まるでその季節から取り残されたように、時の外にいるように思えた。
「私はね、もう“治る”とか“奇跡”とか、そういう言葉は考えなくなったの」
真理は椅子の背にもたれ、遠くを見るような目で言った。
「ただ、帰ってきてくれたら、それでいいって思ってる。時間がかかっても、何年かかっても。……あの子が帰ってこられる場所をちゃんと残しておきたいの」
尚吾は言葉を失っていた。いま自分が何を感じているのか、どう言葉にすればいいのか、まったく分からなかった。ただ、彼女の隣にいることが、自分にできる唯一のことのように思えた。
「お忙しいのに、ありがとうね」
真理の声に、尚吾は小さく頭を下げた。
「いえ……突然、すみませんでした」
そう答えるしかなかった。だが、自分が今ここに来たことの意味も、瑠璃の寝顔を見たことで何かが変わるのかも、尚吾には分からなかった。
病室を出たあとも、尚吾はしばらく廊下に立ち尽くしていた。病院の中は静かだった。行き交う看護師の靴音が乾いた音で響き、どこか遠い場所の出来事のように聞こえた。
階段を下りる足取りが重い。何かを背負っているわけではないのに、身体が妙に疲れている。
一階のロビーでは、誰かがテレビを見ていた。子ども向けの番組が、明るすぎる声と動きで流れていた。世界がそこにあるのに、尚吾の意識だけがその明るさの輪から外れているようだった。
自動ドアが開き、春の風が顔を撫でた。少しひんやりしていたが、どこか土の匂いが混じっていた。
駐車場を横切り、歩道に出る。車の音が近く遠く、断続的に耳に届いた。
ふと足を止めて振り返る。病院の白い壁が、午後の日差しの中でうっすらと黄味を帯びていた。あの四角い窓のどこかに、瑠璃が眠っている部屋がある。
もう一度、彼女の名前を呼ぼうとしたが、声は出なかった。言葉が形を取る前に、喉の奥でほどけていった。
ただ、立ち尽くしていた。
やがて尚吾は前を向き、何も考えず歩き出した。思考はばらばらに散らばっていて、何を優先すべきかもわからなかった。
歩くたびに、足の裏から少しずつ現実が戻ってくるような感覚だけがあった。風が吹いた。その音も肌触りも、どこか遠くから来たもののように感じた。
それでも尚吾は歩き続けた。意味がなくても、答えがなくても。彼女がそこにいるという事実だけを抱えて。
春休みのある日、尚吾は市内の図書館で旧友に出くわした。物理の授業でよく隣になっていた、教師志望の冴島だった。教育実習の話を聞きながら、尚吾がふと「桜の宮の卒業生って、最近どうしてるんだろうな」とこぼすと、冴島が言った。
「ああ……千草、覚えてるか? 瑠璃」
名前を聞いた瞬間、尚吾の背筋に冷たいものが走った。もちろん忘れるはずがない。だが、口に出すのが怖かった。
「……ああ、覚えてる」
冴島は声を落とし、言いにくそうに続けた。
「実習の時、職員室で聞いたんだ。彼女……卒業の翌年、急に倒れて、それからずっと……意識がないって」
何かが、音もなく崩れ落ちた。
「意識……って、昏睡状態ってことか?」
冴島は頷いた。尚吾はその言葉をどう受け止めればいいか分からなかった。交通事故ではない。病気でもない。倒れた原因は不明のままで、ただ“眠っている”。それだけ。
「入院してる病院も、名前は……たしか、中央記念……」
そこまで聞いた尚吾は、すぐさま立ち上がっていた。
病院は、郊外の大通り沿いに建つ四階建ての中規模な施設だった。白い壁とガラス張りのエントランスが、春の日差しにぼんやりと光っている。受付で面会を申し出ると、尚吾の名前を聞いて、看護師が一瞬だけ目を伏せたように見えた。
案内されたのは、三階の奥まった病室だった。廊下の突き当たり、突き出た角の小さな個室。
ドアの前で呼吸を整える。鼓動が喉の奥で乱れていた。
扉を開けた。
ベッドに、瑠璃がいた。
何本もの細い管が機械に繋がれ、胸の上には規則正しく上下するシーツの膨らみ。顔は柔らかく、眠っているだけのように見えた。頬には血の気があり、唇も乾いてはいない。
だが――目を閉じたままの彼女は、どこか別の時間に取り残されているように感じられた。
呼吸の音、心電図のリズム。すべてが正常に動いているのに、“彼女だけが不在”なのだ。
尚吾はゆっくりと近づき、ベッドの脇に立った。名前を呼ぶべきか、手を取るべきか、何をすればいいのか分からなかった。だが胸の奥から、絞り出すように声が漏れた。
「……瑠璃」
反応は、なかった。まぶた一つ動かない。
それでも、その静けさは、まるで拒絶ではなく“保留”されているかのようだった。彼女の時間だけが、何者かの手によって止められている――そんな直感が尚吾の中に生まれた。
病室のドアが、控えめにノックされた。
振り向くと、淡い藤色のカーディガンを羽織った女性が立っていた。柔らかく束ねた髪、落ち着いた瞳。その面影を見て、尚吾はすぐに分かった。
「……千草さんですか?」
女性は小さく頷いた。
「母です。……瑠璃の」
尚吾が名乗ると、彼女は少し驚いたように目を見開き、すぐに表情を緩めた。
「来てくれて、ありがとう」
母親は、瑠璃の顔を一度だけ見つめると、静かに窓際の椅子に腰を下ろした。
「毎日じゃないけど、時間を見つけて通ってるの。あの子が“帰ってきた”とき、誰もいなかったら寂しいでしょう?」
その言葉に、尚吾は胸の奥を締めつけられた。
「帰ってくる……」
小さく繰り返すと、母親はゆっくり首を横に振った。
「まだなの。あの子は、まだ……帰ってきてないの」
それは希望でも絶望でもない、ただ“待つ”ことを選んだ者の言葉だった。
病室に静けさが戻ったあと、尚吾は瑠璃の母――千草真理に問いかけた。
「……瑠璃が倒れたのは、いつだったんですか?」
真理は視線を落とし、少しの沈黙を挟んで答えた。
「卒業して一年後の、二月二十九日。朝だったわ」
尚吾はその数字を聞いた瞬間、思考の足が止まるような感覚に襲われた。けれど、それが意味するものはわからない。ただ、胸の奥でうまく呼吸ができなかった。
「声をかけても反応がなくてね。部屋の鍵を開けたら、机に伏せてたの。すぐに救急車を呼んで病院に運んだのだけど、検査ではどこにも異常がなくて……」
真理の声は穏やかだったが、言葉の間に重さがあった。
「今でも、原因は分かっていないの。脳にも、体にも異常はない。でも目を開けない。意識がどこかに行ってしまったような感じ……」
尚吾はうなずくこともできなかった。その隣で、ベッドの上の瑠璃は、まるでただ眠っているように見えた。けれど、その眠りはあまりに深く、遠いものに思えた。
「倒れる前、様子に変わったところはありましたか?」
真理は少し考えるようにしてから答えた。
「少しだけ……片付けをしていたわ。自分の部屋を丁寧に整理していたの。写真やノートを並べたり、引き出しの中も丁寧に整えていて。今思えば、ちょっとだけ、らしくなかった」
「らしくなかった……」
「ええ。でも、その時はあまり深く考えなかった。思い立って掃除したのだと思っていたのよ。まさか、こんなふうになるなんて」
言い終えた真理の口元には、微かに笑みに似たものが浮かんだ。それは、自分を納得させるために重ねてきた時間の一部なのかもしれなかった。
病室の窓には、春の陽射しが柔らかく差し込んでいた。遠くの空が霞んで見える。けれど、ベッドの中の瑠璃は、まるでその季節から取り残されたように、時の外にいるように思えた。
「私はね、もう“治る”とか“奇跡”とか、そういう言葉は考えなくなったの」
真理は椅子の背にもたれ、遠くを見るような目で言った。
「ただ、帰ってきてくれたら、それでいいって思ってる。時間がかかっても、何年かかっても。……あの子が帰ってこられる場所をちゃんと残しておきたいの」
尚吾は言葉を失っていた。いま自分が何を感じているのか、どう言葉にすればいいのか、まったく分からなかった。ただ、彼女の隣にいることが、自分にできる唯一のことのように思えた。
「お忙しいのに、ありがとうね」
真理の声に、尚吾は小さく頭を下げた。
「いえ……突然、すみませんでした」
そう答えるしかなかった。だが、自分が今ここに来たことの意味も、瑠璃の寝顔を見たことで何かが変わるのかも、尚吾には分からなかった。
病室を出たあとも、尚吾はしばらく廊下に立ち尽くしていた。病院の中は静かだった。行き交う看護師の靴音が乾いた音で響き、どこか遠い場所の出来事のように聞こえた。
階段を下りる足取りが重い。何かを背負っているわけではないのに、身体が妙に疲れている。
一階のロビーでは、誰かがテレビを見ていた。子ども向けの番組が、明るすぎる声と動きで流れていた。世界がそこにあるのに、尚吾の意識だけがその明るさの輪から外れているようだった。
自動ドアが開き、春の風が顔を撫でた。少しひんやりしていたが、どこか土の匂いが混じっていた。
駐車場を横切り、歩道に出る。車の音が近く遠く、断続的に耳に届いた。
ふと足を止めて振り返る。病院の白い壁が、午後の日差しの中でうっすらと黄味を帯びていた。あの四角い窓のどこかに、瑠璃が眠っている部屋がある。
もう一度、彼女の名前を呼ぼうとしたが、声は出なかった。言葉が形を取る前に、喉の奥でほどけていった。
ただ、立ち尽くしていた。
やがて尚吾は前を向き、何も考えず歩き出した。思考はばらばらに散らばっていて、何を優先すべきかもわからなかった。
歩くたびに、足の裏から少しずつ現実が戻ってくるような感覚だけがあった。風が吹いた。その音も肌触りも、どこか遠くから来たもののように感じた。
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