異世界で、二人乗り

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異世界で、二人乗り 第一部

異世界で、二人乗り 第一部 第14話 「屋根のある夜」

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異世界で、二人乗り 第一部 第14話
「屋根のある夜」

町の門は、思ったよりも現実的だった。

石造りの門の前で、槍を持った門番が手を上げる。
「入町銭だ。人ひとり、銀貨一枚」

タイラーは反射的に、ズボンの右ポケットを探った。
指先に触れたのは、いつもの小銭入れ。

いやいやいや。
違うだろう。自販機の前でお金を出すのとは違う。
中に入っているのは、円だ。
この世界の通貨なんて分からない。知っているはずもない。

――ぜんぜん考えていなかった。

門番の視線が、次にジュリオへ向く。
周囲の空気が、一瞬だけ止まった気がした。

「それと、その魔導機械。持ち込みだな。銅貨五枚」
魔導機械。
そう呼ばれていることに、今さら驚きはしない。

それより問題は――
金がない。
 
完全に忘れていた。

「……ちょっと待って」

タイラーはそう言って、ジュリオのメットインを開けた。
なぜか、ある気がした。
根拠はない。

でも、これまでの流れからして――ありそうだった。
 
中には、見覚えのない皮袋。
入れた記憶は、まったくない。自分が持っているはずも無い。
紐を解いて中を見ると、金属音がした。
金貨、銀貨、銅貨。
価値はわからない。
だが、量はそれなりにある。

「……あ、あった」

自分でも驚きつつ、銀貨一枚と銅貨五枚を取り出す。
門番はそれを受け取り、無言で頷いた。

その時、あおいが前に出た。
彼女は唯一身につけていた小さな皮袋から、銀色のプレートを取り出す。
紋様の刻まれたそれを、門番に見せた。
門番の態度が、わずかに変わる。
「……通行証か」
確認するように一瞥し、頷く。
「問題ない」
そう言って、門番は二枚の同じ銀のプレートを差し出した。
「支払い済みの証だ。人と魔導機械分。無くすなよ。」
タイラーは受け取りながら、小さく頭を下げた。

門をくぐる。
それだけで、空気が変わった。
石畳。
屋根の並び。
人のざわめき。
「……町、だ」
思わず、そう呟いた。
王都へ続く街道の町、リューネル。少し大きめだが、都市というほどでもない。

完全に、異世界。
外国に来た、なんて生易しい感覚じゃない。

「これ、なに?」

「保存用の壺」

「あれは?」

「干し肉。こっちは薬草」

タイラーは歩きながら、次々と質問する。
あおいは知っている範囲で答える。それが、楽しかった。
知らない世界を知ること。
それを、誰かが真剣に教えてくれること。

宿はすぐに見つかった。
白梟亭(はくきょうてい)。
中に入ると、宿の女将らしき女性が顔を上げる。
部屋は空いている。
ただし、一部屋だけ。
「それでいい」
あおいは迷いなく言った。

白梟亭には、簡素な湯浴み場があった。
大きなタライに張られた湯をすくい、体にかけて洗う。
風呂には入れない。
それでも――
久しぶりに、全身が綺麗になった気がした。
この世界に来て、一週間と少し。
ようやく、屋根のある場所だ。
それが、ひどく嬉しかった。
 
部屋に戻る。ベッドは一つ。
ソファーはない。
タイラーは、ジュリオから布団を出そうとして――思いとどまった。
ジュリオは、宿の軒下に置いてきている。

だが、あおいが言う。

「……ベッドで、一緒に眠りたい」

困惑。
たぶん、この世界に来て一番。というより自分の人生でも上位クラスに困った。

でも――
一緒の毛布で夜を越えている。
この世界では、これが普通なのかもしれない。

「……わかった」

そう答えた。何もしない。何も無い。
自分に言い聞かせ、受け入れることにした。

屋根があり、扉を閉めれば外の気配は遮られる。
湯浴みを終え、体は軽くなっていた。

それでも、
タイラーは野宿の夜より、落ち着かなかった。


------▫️風の兆し▫️------
門でのやり取りを、少し後ろから見ていた。
 
魔導機械のために税を払う人間は、珍しい。
でも、タイラーは迷わなかった。
皮袋から貨幣を取り出す姿は、ぎこちない。
それでも、誠実だった。

町ではまるで知らない世界を見るように、目を輝かせていた。
私より年齢は上に見える。でも、かわいいと思った。

宿で体を休め、夜になる。
毛布の中で、同じ温度を感じる。
近い。
でも、不安はない。
人と一緒に寝ることなんて、親と離れて以来だった。
なぜか、タイラーとなら一緒でもいいと思った。

この人のそばは、安心できる。
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