聖女は婚約破棄から求婚を経て悪女になる

かるぼな

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第1話 婚約破棄と求婚

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「君との婚約を破棄させて貰いたい」

 突然の婚約破棄宣言。
 婚約者から言われれば誰でもショックだろう。
 イリスにとってもそうだ。

 何かしてしまったのだろうかと、イリスは自分の胸に手を当てて考えてみるが理由は思い浮かばない。
 男性王族である彼なら婚約など、その時の情勢や気分で変わる事などあるのかもしれない。

 でも女性にとっては一大事だ。
 一生に一度の事だし誰と結ばれるのかは、幸せになるために大切な事。
 何も答えないイリスに不安を覚えたのか王太子は再度確認してくる。

「聞いているのかイリス? 婚約破棄だ」
「ええ、あまりにも突然な事で驚いてしまって……」

 驚くのが普通の事でありイリスは何とか言葉を絞り出す。

「り、理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」

 当然の権利だと思うし必要な事だ。
 今後の事もあるのでイリスは王太子に確認する。

「ああ。そなたは令嬢としては申し分ないがそれだけだ。何と言うか……もう一つ魅力に欠けると言うのかな」
「!?」

 何という事だろう余りの理由に二の句が継げない。
 簡単に言うと飽きてしまったという事なのだろう。
 そんな理由で婚約を破棄されてしまうなんてイリスは愕然とする。

 幼い頃から慕ってきた王太子から、そんな言葉を投げかけられるなんてイリスは考えもしなかった。
 殿下の為に花嫁教育も頑張ってきた訳であり、それが全て無駄になってしまうとは。

 こんな事なら出し惜しみせず全てを捧げれば良かったとイリスは思う。
 殿下には自分の人間性を好きになって貰いたくて全てを出す事を拒んでいた。
 
 いや、過信していたのかもしれない。
 殿下は自分だけを見ていてくれていると。

 しかしそれはイリスの自惚れだった。
 いつの間にか婚約者という座に胡坐を欠き、向上する事を忘れてしまっていたのだろうか。

 男性は他に魅力的な女性がいれば目移りしてしまうものなのだろう。
 ましてや彼は王族あり、より良い妃を探すなど普通の事。
 そこに考えが及ばなかった自分が情けないとイリスは思う。

(でも正直に言えば悔しい)

 全力を出せなかった自分、目移りしてしまった殿下。
 イリスはどちらも許せない。
 
 その時、わたくしの前に一人の男性が跪く。
 真剣な表情でイリスを見上げる。

「そういう事でしたらイリス様、私の国へ一緒に来ていただけませんか?」

 なぜ、王太子殿下はこんな社交界の場で婚約破棄を言い渡したのか不思議だった。
 たくさんの人が見ているこの場で内外にアピールしたかったのだろうか?

 でもだからこそ、不憫に思いこの男性は声を掛けてくれたのかもしれない。

「私は貴女様の魅力も価値も十分、分かっているつもりです。ゆくゆくは私と結婚していただきたい」

 婚約破棄された最悪の日に交際を申し込まれるイリス。
 しかも彼は隣国の第一王子であり、妃の座を狙っている令嬢たちは後を絶たない様な人物。
 そんな人物は自分に求婚してくるなんて、嬉しく無い訳がない。
 
「突然の事でわたくし混乱しておりますの」

 でも今は正常な判断が難しい。

「それは仕方がない事だと思います。返事は落ち着かれてからで構いません」
「は、はい」
「これをどうぞ、お受け取りください」
「これは……」

 彼が手にしているのは一凛の花のつぼみ。
 まだ咲いてはいない小さな花。
 この国の風習で花のつぼみを女性に送ることは最大限の愛情の証。
 
 それを違う国の出身である彼がやってくれた。
 イリスは素直に嬉しいと思い、沈んだ心も救われた気分だ。

 だからイリスは能力を開放する。
 光に包まれたつぼみはゆっくりと開き咲いていく。
 しばらくすると満開となり美しい花となる。

「おお!」
「なんて事だ、まさか! あれは」
「聖女様の能力か!」
「まさかイリス様は聖女様なのか!」

 周囲の人間はざわつき王太子殿下も唖然する。
 目の当たりにした隣国の王子は満足そうな顔をしてイリスに微笑む。

「やはり、貴女様の価値は証明された」
「ありがとうございます。少し考える時間をください」

 考える時間は必要なのは間違いない。

「もちろんです。良き返事をお待ちしております」
 
 色々な事があり過ぎてイリスは混乱したが、何とか家路についた。
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