聖女は婚約破棄から求婚を経て悪女になる

かるぼな

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第2話 核心

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 イリスは自分の家に戻った後、父親に事の顛末を語る。

「そうか、そんな事があったのか。大変だったな」
「はい、お父様」
「それでどうするのだ?」

 正直に言えば、まだ何も決まってはいない。

「はい。婚約破棄は確定してしまったので殿下とはもう……」
「そうか。お前は殿下を好いていたからな。辛いだろう」

 殿下の為にと花嫁修業してきたので無力感はある。
 今まで積み重ねて来たものが全て無駄に。
 心の中に大きな穴が空いてしまったみたいだとイリスは悲しむ。

 その時、屋敷に訪ねて来た人物がいた。
 訪ねて来たのは、婚約破棄の場でイリスに求婚した隣国の王子様だ。

「突然、推し掛けてしまい申し訳ありません。貴女様への想いが抑えきれずに来てしまいました」

 随分と情熱的な事だとイリスは驚く。
 たまに社交界の場で顔を見かけるぐらいで、それ程接点は無かったはず。
 親しいと言う間柄ではない。
 その旨をイリスは伝えてみる。

「はい。私はイリス様が花畑にいらっしゃるのを何度かお見掛けしておりました」

 イリスは花が好きなので毎日の様に一人でも見に行っている。
 その時に見掛けたのだろう。

「そして私は一度イリス様が花畑で力を使っている所を確認いたしました」

 だから彼はイリスの能力を知っていたのだろう。

「あれは、やはり聖女様のお力なのですね」

 超常的な能力、殿下にも誰にも話していなかった能力。
 イリスはこの力を秘密にしていた。

 王太子殿下には、この能力なしで自分を好きでいて貰いたかった。
 実際好いていただけているとイリスは思っていた。
 でもそれは叶わず婚約破棄という結果。
 出し惜しみを後悔したけれど、今となっては仕方がない事だとイリスは思う。

 だがこの人物はイリスの能力を知っていた。
 それはイリスを欲しているのか、能力を欲しているのか。

「どちらも貴女様の魅力だと思います!」

 彼はそう断言する。
 しかし聖女の能力は貴重であり強力だ。
 それ故に聖女は国として確保しなければならない存在だと言われている。
 
 その能力を知っている彼が、能力狙いに見えてしまっても心の傷ついた今のイリスでは仕方がない事だろう。
 やはりここは時間が必要であり、今日の所はお引き取り願った。

 するとまたもや屋敷に訪ねてくる人物が。

「で、殿下。いかがされましたか?」
「すまなかったイリス。今更こんな事を言うのは恥知らずなのだが、婚約破棄は無かったことにしてもらいたい」
「えっ、わたくしと結婚したいとおっしゃるのですか?」
「そういう事になる」
「まあ……」

 まさか殿下の口からその様な言葉を聞けるとは。
 あの様な場で大体的に発言した事を撤回するというのか。

 それ程までに聖女の力は偉大であり国にとって必要なものなのだろう。
 もちろん今まで好きだった殿下から言われればイリスは嬉しい気持ちもある。
 でも今は隣国の王子の事もあるので、直ぐには決められない。

「わたくしはとても混乱しておりまして、お返事は後日でよろしいでしょうか?」
「ああ、もちろんだ。だが頼む俺を選んでくれ!」
「そ、そんな頭を上げてください」

 王族が頭を下げるなんて誰かに見られたら大変な事だ。

「わ、分かりました。前向きに検討させていただきます」

 そう言うと王太子は少し安心したように帰っていった。



「どうやら上手くいった様だな」
「ええ、お父様」
「まさかお前がここまで二人を手玉に取るとはな。見事だ」
「ありがとうございます」

 正直に言えば聖女の能力はどこで出そうかイリスは迷っていた。
 婚約破棄を言い渡された時は完全に失敗したと。
 でも隣国の王子がつぼみを渡してくれた事で可能性が開けた。
 能力を最高のタイミングで使う事が出来たとイリスは、ほくそ笑む。

 花畑に通い彼に能力を見せていたのも良かったのだろう。
 あの場で聖女の能力を使うのに自然な形となった。
 
「これであの二人がわたくしの価値を高めてくれますわ」
「まったく我が娘ながら怖ろしい事を考えるものだ」
「ふふ、お父様の娘ですから。これでどちらに転んでも我が一族は安泰ですわね」
「ああ。出来のいい娘を持って私は幸せだよ」

 多少の誤差はあったが、イリスの予想の範囲内だった。
 その後、イリスが幸せになれたかどうかは誰にも分からない……。
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