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六章 遠い屋敷
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「私はあなたを失ったことに絶望しました。でも、あなたは死んでいなかった。それどころか兵を率いて城を取り戻し、王にご即位されたそうじゃありませんか! なんとすばらしい……その知らせを受けたときの喜びと言ったら、天にも昇る心地でした。戴冠式であなたにまた会えるのがなにより楽しみでした。どんな祝辞を述べようか、毎日毎日考えていました。なのにですよ。あなたはまた私を絶望の淵に落としてしまった」
「……俺が海の国に連れて行かれたことか?」
「そう、海の国の奴らです。奴らのせいで私は二度もあなたを失った。許せなかったが私にはなにもできない……どうにかしてこの悲しみを癒さねばと思いました。この想いを抱えていては苦しいばかりです。そこで私は考えました。あなたのような美しい人を探そうと。もう会うことの叶わないあなたを想い続けるのはやめようと決心したのです」
伯爵は辛そうに笑った。
「どうか私を軽蔑しないでください。ほかにどうしようもなかったのです。私はエディーズ商会に話をして、あなたのような黒髪で青い目の少年を探してもらいました。商会は私の悲しみをくんでくれ、私のために少年を見つけて連れてきてくれました。ただの庶民の子でしたが、まあそれなりにあなたの面影がありましたのでね。かわいがってあげることにしたのですよ」
ルイはあっけにとられて伯爵を見つめた。どこの国でも人を売り買いすることは固く禁じられている。だが、クウリーは以前から違法な人身売買に手を染めていたようだ。
「……その少年は今どこに?」
「そこにいますよ」
背後を指さされてルイは慌てて振り返った。そこにはルイの給仕をしていた少年が立っていた。確かに彼はルイと同じく黒い髪と青い目を持っていた。ルイより年下だろうが、背格好も似ている。彼は自分が話題に出されても無表情を崩さず、気配を抑えて控えている。しっかりと教育を施された使用人だった。
「なかなか優秀な子だったので給仕を任せていますよ。ほかの者には身の回りの世話をさせたり……」
「いったい何人いるんだ?」
「三人ですよ。でももうあなたがいてくださるのですから、新しい子をエディーズ商会に頼む必要もなくなりました」
絶句するルイをよそに、伯爵は饒舌だった。
「エディーズ商会は憎らしい海の人間のわりに、なかなか気の回る連中ですよ。あなたが海の国に囚われていて助けたいから、力を貸してほしいと私に頼んできたのです。彼らはあなたを海の国から脱出させることはできるが、地上での暮らしの面倒をみることはできません。今さらリーゲンスに返してまたいざこざになっても困るから、隣国であるここでかくまってくれないかと言われました。私に断る理由などあるわけがありません。ついにあなたを手に入れて、悲嘆に暮れた日々がようやく報われるのですから」
伯爵はイチジクを一かけフォークにさして口に運んだ。
「エディーズ商会はあなたを決してこの屋敷から外に出さないよう、私に約束させました。そこで私はあなたのために部屋を用意し、庭をきれいに整えておきました。あなたがここで何不自由なくお過ごしいただけるように腐心しました」
ルイは思わずテーブルに肘をついて頭を抱えた。とんでもないところに来てしまったようだ。ルイがなにを言おうと、この伯爵がルイを屋敷の外に出すことはないだろう。
ルイの肘に押されたフォークが床に落ちた。黒髪の従者は静かにフォークを拾い、新しいフォークをテーブルに置いた。
「殿下、どうなさいましたか?」
伯爵が心配そうに言った。
「ご気分が優れませんか?」
「いや……少し、疲れた」
「ああ、そうでしょう。大変ご苦労なさいましたからね。今日はもうお休みください」
伯爵がテーブルの上の鈴を鳴らすと、使用人たちがやってきて食事の片付けを始めた。ルイは茶髪で背の高い従者に連れられてホールを出た。
ニコラウスと名乗った従者は、伯爵が用意した二階の部屋にルイを案内した。中庭に面した広く豪華な客室で、部屋のあちこちに陶器の置物が飾られている。ベッドには赤茶色の毛布がかけられ、湯たんぽが準備してあった。
ニコラウスはルイを寝間着に着替えさせた。ルイは着替えながらニコラウスをさりげなく観察した。若く見えるが目元には小じわがあり、手慣れた様子から昔から屋敷に仕えているのではないかと見当をつけた。大事な客人の世話をさせるのだから、伯爵も信用しているのだろう。
「ニコラウス、海の国から連れてこられたという少年たちは、ここの使用人として雇われているのか? 彼らは望んでここで働いているのか?」
「申し訳ありませんが、あなた様からの質問にはなにも答えるなと言われております。主人が自らお答えになりますので」
にべもない答えだった。
「そうか、わかった」
ルイは従順な姿勢を見せようとおとなしく引き下がった。ニコラウスは手際よくルイをベッドに寝かせ、部屋を出て行った。ドアに鍵がかけられる音がして、静かになった。
ルイはベッドから抜け出して窓に近寄った。窓にはすべて鍵がかけられていた。
「まあ、当然だよな……」
ルイは開かない窓に手を当てて外を眺めた。中庭には水が引かれ、様々な種類の草木が植えられている。頭上には星空が瞬いていた。ルイは久しぶりに見る夜空を仰ぎ、遠いところに来てしまったことを痛感した。
知らない国でひとりぼっちになってしまい、ルイは心細さに涙が浮かんだ。カリバン・クルス基地で、カドレック班と一緒に魔導の訓練をしたくてたまらなくなった。屋敷でテオフィロに今日の鍛錬について話しながら、温かいお茶をいれてもらいたかった。ライオルに今すぐ迎えに来てほしかった。
またなにも言わずに姿を消してしまい、ライオルたちはさぞ心配していることだろう。数日前にバッラン狩りに行ったことがはるか昔のように感じる。いつだって日常は前触れなく壊れてしまう。
「あっ、そうだ。フェイ、いるか?」
ルイは使い魔のハイイロモリネズミの名前を呼んだ。屋敷に運びこまれた際どさくさに紛れてどこかへ行ってしまってから、すっかり忘れていた。
「フェイ?」
いつも周りをうろちょろしているフェイの気配はない。
「厨房にでも行ったのかな……駆除されてないといいけど……ん?」
視界の端に白いものをとらえ、ルイは暗い部屋に目をこらした。ドア下の隙間からフェイがにゅっと顔を出している。フェイはもぞもぞ体を動かしてドアの下をくぐり抜け、ルイのところに走ってきた。近くに来るとルイの魔力に乗ってふわふわ飛び、ルイの手のひらに着地した。
「無事だったか」
「プキュ」
フェイはルイの手の中にすっぽりおさまって毛繕いを始めた。口まわりが茶色いもので汚れているので、やはり厨房に行ってなにか食べてきたのだろう。ルイはフェイの温かい体をなでて笑みを浮かべた。こんなに小さい生き物でも、自分はひとりではないと思わせてくれる。
「それにしても、今どうやって入ってきたんだ?」
ルイはフェイを持ったままドアの前に行き、床に腹ばいになってドアの下をのぞいてみた。ドアと床の間には指一本分程度の隙間があいている。試しに手を差し入れてみたが、すぐ手のひらがつっかえてしまった。しかしフェイはこの隙間でも十分通り抜けられるようだ。
「こいつ、もしかして使えるんじゃ……」
ルイは毛繕いにいそしむフェイをじっと見つめた。
◆
翌朝、ルイはニコラウスに起こされて目を覚ました。ニコラウスは無表情のまま、てきぱきとルイを着替えさせて身だしなみを整えた。その後朝食が運ばれてきて、ルイは部屋のテーブルで朝食をとった。温かいコーンスープはなつかしい味がした。
朝食が済むとニコラウスは食器を下げて部屋を出て行った。ドアにはしっかりと鍵がかけられて閉じこめられた。伯爵がいないあいだは部屋から一歩も出してもらえないらしい。だがルイはなんの不満もなかった。
「フェイ、出てこい」
ルイが呼ぶと、フェイがベッドの下からのそのそと出てきた。ルイは眠そうなフェイを手のひらの上に乗せた。
「フェイ、紙切りナイフを持ってこい。いいな」
フェイはぼんやりルイを見つめている。ルイはもう一度魔力をこめながら命令を繰り返した。
「紙切りナイフを持ってこい」
「……プ」
フェイは短い鳴き声をあげてふわふわと床におり、どこかへ走っていった。ルイはあらかじめ部屋の角の床に、机の引きだしで見つけた黒曜石の紙切りナイフを置いておいた。小指ほどの大きさの紙切りナイフは軽いので、フェイの力でも持ってこられるはずだ。細長い形状をしているが肉を断てるほど鋭くもないので、フェイを傷つける心配もない。
ルイはベッドに座ってフェイが戻ってくるのを待った。フェイはすぐに戻ってきてルイの手に乗った。角砂糖を大事そうに抱えている。テーブルの上にあった食後のティーセットの砂糖壺から拝借してきたらしい。フェイはルイの手に腰を下ろして角砂糖をがりがりとかじりだした。
「違う!」
ルイはフェイから角砂糖をひったくった。
「ジィッ!」
「怒るな! これじゃないだろ!」
ルイは角砂糖を自分の口に放りこんで思案した。紙切りナイフという単語はネズミには難しすぎたのかもしれない。
「フェイ、黒くて小さいやつを持ってこい。わかるな? 黒い、小さい、ナイフ」
フェイは不満そうに鼻をふんふんさせてルイの手をかいでいる。
「行け」
ルイの命令にフェイは再び部屋の奥に走っていった。ルイは祈りながらフェイが戻ってくるのを待った。フェイがルイの命令通りのものを取ってくるようにならないと、計画は失敗だ。
少し時間をおいて、フェイは炭のかけらをくわえて戻ってきた。ルイは顔と腹が煤で真っ黒になったフェイから炭のかけらを受け取った。
「……暖炉の中から持ってきたのか?」
「プキュ」
「確かに黒くて小さいけどさあ……」
ルイはがっくりと肩を落とした。ハイイロモリネズミは使い魔になれるが、頭が悪い生き物だとゾレイは言っていた。たまたまこの個体はルイと同じ風の魔力を持っているのでルイの言うことを聞くが、根本的に馬鹿なので理解力は乏しかった。
「くっ……こいつに俺の運命を託していいものか……」
ルイは黒ずんでしまったフェイをタオルで拭きながらため息をついた。
「……俺が海の国に連れて行かれたことか?」
「そう、海の国の奴らです。奴らのせいで私は二度もあなたを失った。許せなかったが私にはなにもできない……どうにかしてこの悲しみを癒さねばと思いました。この想いを抱えていては苦しいばかりです。そこで私は考えました。あなたのような美しい人を探そうと。もう会うことの叶わないあなたを想い続けるのはやめようと決心したのです」
伯爵は辛そうに笑った。
「どうか私を軽蔑しないでください。ほかにどうしようもなかったのです。私はエディーズ商会に話をして、あなたのような黒髪で青い目の少年を探してもらいました。商会は私の悲しみをくんでくれ、私のために少年を見つけて連れてきてくれました。ただの庶民の子でしたが、まあそれなりにあなたの面影がありましたのでね。かわいがってあげることにしたのですよ」
ルイはあっけにとられて伯爵を見つめた。どこの国でも人を売り買いすることは固く禁じられている。だが、クウリーは以前から違法な人身売買に手を染めていたようだ。
「……その少年は今どこに?」
「そこにいますよ」
背後を指さされてルイは慌てて振り返った。そこにはルイの給仕をしていた少年が立っていた。確かに彼はルイと同じく黒い髪と青い目を持っていた。ルイより年下だろうが、背格好も似ている。彼は自分が話題に出されても無表情を崩さず、気配を抑えて控えている。しっかりと教育を施された使用人だった。
「なかなか優秀な子だったので給仕を任せていますよ。ほかの者には身の回りの世話をさせたり……」
「いったい何人いるんだ?」
「三人ですよ。でももうあなたがいてくださるのですから、新しい子をエディーズ商会に頼む必要もなくなりました」
絶句するルイをよそに、伯爵は饒舌だった。
「エディーズ商会は憎らしい海の人間のわりに、なかなか気の回る連中ですよ。あなたが海の国に囚われていて助けたいから、力を貸してほしいと私に頼んできたのです。彼らはあなたを海の国から脱出させることはできるが、地上での暮らしの面倒をみることはできません。今さらリーゲンスに返してまたいざこざになっても困るから、隣国であるここでかくまってくれないかと言われました。私に断る理由などあるわけがありません。ついにあなたを手に入れて、悲嘆に暮れた日々がようやく報われるのですから」
伯爵はイチジクを一かけフォークにさして口に運んだ。
「エディーズ商会はあなたを決してこの屋敷から外に出さないよう、私に約束させました。そこで私はあなたのために部屋を用意し、庭をきれいに整えておきました。あなたがここで何不自由なくお過ごしいただけるように腐心しました」
ルイは思わずテーブルに肘をついて頭を抱えた。とんでもないところに来てしまったようだ。ルイがなにを言おうと、この伯爵がルイを屋敷の外に出すことはないだろう。
ルイの肘に押されたフォークが床に落ちた。黒髪の従者は静かにフォークを拾い、新しいフォークをテーブルに置いた。
「殿下、どうなさいましたか?」
伯爵が心配そうに言った。
「ご気分が優れませんか?」
「いや……少し、疲れた」
「ああ、そうでしょう。大変ご苦労なさいましたからね。今日はもうお休みください」
伯爵がテーブルの上の鈴を鳴らすと、使用人たちがやってきて食事の片付けを始めた。ルイは茶髪で背の高い従者に連れられてホールを出た。
ニコラウスと名乗った従者は、伯爵が用意した二階の部屋にルイを案内した。中庭に面した広く豪華な客室で、部屋のあちこちに陶器の置物が飾られている。ベッドには赤茶色の毛布がかけられ、湯たんぽが準備してあった。
ニコラウスはルイを寝間着に着替えさせた。ルイは着替えながらニコラウスをさりげなく観察した。若く見えるが目元には小じわがあり、手慣れた様子から昔から屋敷に仕えているのではないかと見当をつけた。大事な客人の世話をさせるのだから、伯爵も信用しているのだろう。
「ニコラウス、海の国から連れてこられたという少年たちは、ここの使用人として雇われているのか? 彼らは望んでここで働いているのか?」
「申し訳ありませんが、あなた様からの質問にはなにも答えるなと言われております。主人が自らお答えになりますので」
にべもない答えだった。
「そうか、わかった」
ルイは従順な姿勢を見せようとおとなしく引き下がった。ニコラウスは手際よくルイをベッドに寝かせ、部屋を出て行った。ドアに鍵がかけられる音がして、静かになった。
ルイはベッドから抜け出して窓に近寄った。窓にはすべて鍵がかけられていた。
「まあ、当然だよな……」
ルイは開かない窓に手を当てて外を眺めた。中庭には水が引かれ、様々な種類の草木が植えられている。頭上には星空が瞬いていた。ルイは久しぶりに見る夜空を仰ぎ、遠いところに来てしまったことを痛感した。
知らない国でひとりぼっちになってしまい、ルイは心細さに涙が浮かんだ。カリバン・クルス基地で、カドレック班と一緒に魔導の訓練をしたくてたまらなくなった。屋敷でテオフィロに今日の鍛錬について話しながら、温かいお茶をいれてもらいたかった。ライオルに今すぐ迎えに来てほしかった。
またなにも言わずに姿を消してしまい、ライオルたちはさぞ心配していることだろう。数日前にバッラン狩りに行ったことがはるか昔のように感じる。いつだって日常は前触れなく壊れてしまう。
「あっ、そうだ。フェイ、いるか?」
ルイは使い魔のハイイロモリネズミの名前を呼んだ。屋敷に運びこまれた際どさくさに紛れてどこかへ行ってしまってから、すっかり忘れていた。
「フェイ?」
いつも周りをうろちょろしているフェイの気配はない。
「厨房にでも行ったのかな……駆除されてないといいけど……ん?」
視界の端に白いものをとらえ、ルイは暗い部屋に目をこらした。ドア下の隙間からフェイがにゅっと顔を出している。フェイはもぞもぞ体を動かしてドアの下をくぐり抜け、ルイのところに走ってきた。近くに来るとルイの魔力に乗ってふわふわ飛び、ルイの手のひらに着地した。
「無事だったか」
「プキュ」
フェイはルイの手の中にすっぽりおさまって毛繕いを始めた。口まわりが茶色いもので汚れているので、やはり厨房に行ってなにか食べてきたのだろう。ルイはフェイの温かい体をなでて笑みを浮かべた。こんなに小さい生き物でも、自分はひとりではないと思わせてくれる。
「それにしても、今どうやって入ってきたんだ?」
ルイはフェイを持ったままドアの前に行き、床に腹ばいになってドアの下をのぞいてみた。ドアと床の間には指一本分程度の隙間があいている。試しに手を差し入れてみたが、すぐ手のひらがつっかえてしまった。しかしフェイはこの隙間でも十分通り抜けられるようだ。
「こいつ、もしかして使えるんじゃ……」
ルイは毛繕いにいそしむフェイをじっと見つめた。
◆
翌朝、ルイはニコラウスに起こされて目を覚ました。ニコラウスは無表情のまま、てきぱきとルイを着替えさせて身だしなみを整えた。その後朝食が運ばれてきて、ルイは部屋のテーブルで朝食をとった。温かいコーンスープはなつかしい味がした。
朝食が済むとニコラウスは食器を下げて部屋を出て行った。ドアにはしっかりと鍵がかけられて閉じこめられた。伯爵がいないあいだは部屋から一歩も出してもらえないらしい。だがルイはなんの不満もなかった。
「フェイ、出てこい」
ルイが呼ぶと、フェイがベッドの下からのそのそと出てきた。ルイは眠そうなフェイを手のひらの上に乗せた。
「フェイ、紙切りナイフを持ってこい。いいな」
フェイはぼんやりルイを見つめている。ルイはもう一度魔力をこめながら命令を繰り返した。
「紙切りナイフを持ってこい」
「……プ」
フェイは短い鳴き声をあげてふわふわと床におり、どこかへ走っていった。ルイはあらかじめ部屋の角の床に、机の引きだしで見つけた黒曜石の紙切りナイフを置いておいた。小指ほどの大きさの紙切りナイフは軽いので、フェイの力でも持ってこられるはずだ。細長い形状をしているが肉を断てるほど鋭くもないので、フェイを傷つける心配もない。
ルイはベッドに座ってフェイが戻ってくるのを待った。フェイはすぐに戻ってきてルイの手に乗った。角砂糖を大事そうに抱えている。テーブルの上にあった食後のティーセットの砂糖壺から拝借してきたらしい。フェイはルイの手に腰を下ろして角砂糖をがりがりとかじりだした。
「違う!」
ルイはフェイから角砂糖をひったくった。
「ジィッ!」
「怒るな! これじゃないだろ!」
ルイは角砂糖を自分の口に放りこんで思案した。紙切りナイフという単語はネズミには難しすぎたのかもしれない。
「フェイ、黒くて小さいやつを持ってこい。わかるな? 黒い、小さい、ナイフ」
フェイは不満そうに鼻をふんふんさせてルイの手をかいでいる。
「行け」
ルイの命令にフェイは再び部屋の奥に走っていった。ルイは祈りながらフェイが戻ってくるのを待った。フェイがルイの命令通りのものを取ってくるようにならないと、計画は失敗だ。
少し時間をおいて、フェイは炭のかけらをくわえて戻ってきた。ルイは顔と腹が煤で真っ黒になったフェイから炭のかけらを受け取った。
「……暖炉の中から持ってきたのか?」
「プキュ」
「確かに黒くて小さいけどさあ……」
ルイはがっくりと肩を落とした。ハイイロモリネズミは使い魔になれるが、頭が悪い生き物だとゾレイは言っていた。たまたまこの個体はルイと同じ風の魔力を持っているのでルイの言うことを聞くが、根本的に馬鹿なので理解力は乏しかった。
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