風の魔導師はおとなしくしてくれない

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後日談1 噂話と謎の魔導具

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「あの司祭がいなかったら、お前に出会うこともなく追い返されてたかもな」
「はは、それは困るな……。ストウス司祭は人徳のある方だから、あの方が許可すればほかの司祭も文句は言えないからね。それで司祭さまはきみを連れて俺のところにやってきて、この人はあなたの助けになるだろうって言ってくれたんだ」
「そうだったな。薄暗い食堂でお前は一人で座ってた。やつれて生気のない顔をしてたな」
「……そんな印象だった?」
「ああ。とても王子とは思えない覇気のなさだったぞ。自信もなさそうだったし、旗頭がこいつで大丈夫かって思ってた」

 急に悪口を言われてルイは顔をしかめた。だが、確かにあのときは今日一日を生き延びられるかもわからない毎日を送っていて、ひどい顔色だとイオンに何度も心配された。刺客に怯えてご飯もまともに喉を通らない日々だった。

「でも剣を振って練習しているときは少しまともだったな」

 ライオルが言った。

「剣の腕はさておき、生きようという意志が見て取れた。姉に何度も負けてたのはさておき」
「……それはいいだろ別に」
「そんなお前を見ていて、少しは守ってやってもいいかなと思うようになった。城に戻ったあとも、空気みたいな扱いを受けてたのにいじらしく姉を守ろうと一人でがんばってたし……なにかと危なっかしいから、支えてやりたくなった」

 ライオルは顔を上げてルイを正面から見た。

「俺はきっと、ずいぶん前からお前のことが好きだったんだろうな。だからお前を守りたくて、海の国に連れていったんだ」
「強引にな」
「あれしか手段がなかったんだよ」
「そっか」

 ルイは笑ってうなずいたが、ふと違和感を感じてたずねた。

「でも、なにから守りたかったんだ? オヴェン軍司令官が報復にやってくる前に先手を打ちたかったってこと?」

 ライオルは意表を突かれたようで口を閉じた。しばしの沈黙が流れた。

「……そんなところだ。前も言ったけど、俺たちの選択肢は報復一択だったから」
「でもきみは海の国に手紙を送ってたんだし、オヴェンともやりとりできてたんじゃないのか? あんな危ない方法を取らなくても……」
「それでも、あの城にお前を置いておきたくなかったんだ」

 ライオルは吐き捨てるように言った。ルイはライオルの表情を見て、なんとなく想像がついた。

「……俺を殺す計画でも聞いちゃった?」

 ライオルはわずかに眉根を寄せた。ルイはくすっと笑った。

「別にそんなの今に始まったことじゃないよ。昔からあそこではいろいろあったから。何度も毒を盛られかけたし、一度はうっかり口にしちゃって死にかけた」
「お前……」
「けど俺だってそんな簡単に殺されてやるつもりはなかったし、気をつけるようにしてたから平気だよ。でも、そっか……王になる前は暗殺をとても警戒してたけど、即位してしまえばしばらくは大丈夫だと思ってたのにな。関係なかったか」

 ルイは以前はよく感じていた悲しさを久々に感じ、胸が痛んだ。後ろ盾がなく大した血統を持たないルイは、リーゲンスではどこまでいっても認められない。イオンの添え物に過ぎず、まともな居場所は与えてもらえない。

「お前が望むなら、あんな国すぐに滅ぼしてやる」

 ライオルが言った。その目の奥には静かな怒りの炎がともっている。本気で言っているとすぐにわかった。海の国の王太子であり、ゆくゆくは王になるライオルなら、実行に移すこともじゅうぶん可能だ。

 ルイはゆっくりと首を横に振った。

「そんなこと望まない。あんなところでも、俺の故郷だ。母上の育った国で、今はイオンの治める大事な国だよ」
「……そうか」

 ライオルは感情を抑えた低い声で答えた。ルイは自分のために怒ってくれるライオルに愛しさを募らせた。

「きみは最初からずっと、俺を守ってくれてたんだね」

 ルイはすっと立ち上がり、向かいに座るライオルを抱きしめた。

「ありがとう、ライオル」

 今の暮らしがあるのもすべてライオルのおかげなのだ。ライオルのおかげで、ルイは幸せな生活を手に入れることができた。

「……ライオル?」

 ライオルがなにも言わないので、ルイは抱きついていた腕を離してライオルの顔を見た。そして、ライオルが据わった目でじっと自分を凝視していることに気がついた。

「あっ」

 ルイはライオルが魔導具の効果に必死で抵抗していたことをすっかり失念していた。気を紛らわせるために話をしていたのに、密着してしまっては元も子もない。

「ごめんすぐ離れ――」

 言い切る前に視界が反転した。早すぎてなにが起きたかわからなかった。目にもとまらぬ速さでライオルにベッドに引き倒されたとわかるまで、数秒を要した。状況を理解したときには、すでにライオルはルイに覆い被さっていた。

「うわあああ」

 ルイは懸命にもがいたが、ライオルに手足をがっちりと押さえこまれていて逃げられなかった。

「ライオル! 正気に戻ってくれ!」

 だがライオルの返事はなかった。先ほどまでの精神力は立ち消え、ライオルは乱暴にルイの軍服を脱がしてルイの胸元にかみついた。

「たすけてえええ!」

 ルイは大声で叫んだが、人払いをしているので誰も来てはくれなかった。こんなところで食われてはたまらない。それなのにライオルは止まってくれなかった。ルイの懇願はすべて無視された。ライオルはルイのシャツとズボンを脱がし、下着の中に手を突っこんだ。

「やめ……あっ、そこはだめだって……!」

 ルイはライオルの腕をつかんで引き止めた。

「……邪魔するな」

 ライオルは眉根を寄せていらだった声をあげた。ライオルはルイの手を振り払うところんと転がしてうつ伏せにした。ルイは首をつかまれてベッドに押しつけられ、抵抗するすべを失った。

 ライオルはルイの口に指を突っこんだ。

「むぐ」
「いやがるなよ……気持ちよくしてやるから」

 ライオルはルイの耳に口をつけて囁いた。吐息混じりの低い声を吹きこまれ、ルイは背筋がぞわりとあわだった。

 ライオルはルイになめさせた指を後孔につっこんだ。ルイの感じるところを熟知している指は、あっという間にルイから思考を奪っていった。

「あっ、あ……あっ」

 ルイはシーツをつかんで快感に耐えた。ライオルはルイの肩口にかみつき、細い肩についた歯形を眺めた。

「おい、声を殺すな。声出せ」
「んあっ」

 ルイはベッドに顔を押しつけて声が漏れないようにしていたが、ライオルはそれが気に入らないようだった。中の弱い部分を容赦なくこすられて、ルイは首をのけぞらせて高い声で啼いた。

「あぁっ! あ、あっ、だめっ……」

 再びくるりと仰向けにさせられ、両手が自由になった。だがもう体の芯まで溶かされていて、抵抗する意志など残っていなかった。

 真っ昼間の騎馬師団本部で、仕事中にいやらしいことをしているという倒錯的な状況に、ルイは少なからず興奮していた。ルイはほとんど裸に剥かれたが、ライオルはまだ軍服をきっちり着こんでいる。普段第九部隊に指示を出しているときと何ら変わらない格好だ。ライオルは身長が高く足も長いので、濃灰色の軍服がよく似合う。

 ぎらぎらした紺色の目で見下ろされ、ルイはめまいを感じた。悔しいので本人には言わないが、ライオルはとても格好いいのだ。ルイはライオルの顔が好きだった。

「ひあっ」

 気を取られているうちに、猛ったものを後孔に突き立てられた。腰をつかまれて揺さぶられ、医務室の粗末なベッドはぎしぎしと大きくきしんだ。

「あ、あ……っ」

 ルイは快楽に流されそうで、ライオルの背中にぎゅっとすがりついた。ライオルは乱暴に奥を攻め立てた。感じるところを強くうがたれ、ルイの視界が白く弾けた。

「んああっ! やっ、イ、っちゃ……っ」

 いきなり強い快感をたたきつけられ、ルイは足をびくびくと震わせて達した。ライオルはルイの肩や胸にかみついてあちこちに歯形を残した。まるで獣に襲われているような感覚だった。

「っあ……」

 かみつかれる痛みも、ライオルにされていると思うと気持ちがよかった。ルイは恍惚としてとろりと目を閉じた。



「……あ?」

 ことが済むと、ライオルは目をぱちくりとさせた。ルイは疲れきってベッドにぐったりと横たわっている。

 ライオルは首をぐるりと回した。

「あー、なんだか頭がすっきりした」
「それは……よかったな……」
「お前を襲いたい衝動が消えた。魔導具の効果が切れたんだな」
「……もうちょっと早く切れてほしかったなあ……」

 ルイは腰をさすりながらうなるように言った。ライオルはルイの目元にかかった髪の毛を指でそっとどけた。

「急に悪かったな。体は平気か?」
「ああ……」
「気持ちよかったか?」
「ああ……おい待て本当に悪いと思ってるか?」

 ライオルは床に散らばったルイの服を集めてルイに渡した。ルイはむすっとしたまま服を着た。

「すぐ執務室に戻るぞ」

 ライオルが言った。

「またあの魔導具の被害者が出る前に、カドレックたちに危険を知らせないと。執務室が乱交パーティー会場になってたらまずい」
「乱交ってなに?」
「……なんでもない。急ぐぞ」
「わ、わかった」

 ルイとライオルは医務室を出て、第九部隊の執務室に向かった。
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