ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第一章 ウィルとアルと図書館の守人

屋敷探索

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 一通り屋敷の中を見て周り、残りの扉はあと一つだけとなった。最後の扉を慎重にゆっくりと開けた。

「ここって、もしかしてアルの部屋? 入っちゃ不味いかな」

 でもアルは屋敷の中は自由に動き回ってもいいと言っていた。悩んだ末、僕が取った行動は。

「少しだけ、お邪魔しま~す」

 好奇心という人間が持つ感情の一つに抗うなんて無理だ。ましてや、ここは異世界。好奇心が沸かないわけがないんだ。うん。

「本がいっぱいだ、棚以外に床にもタワーになってるし。少しは片付ければいいのに」

 屋敷の中を探索してその殆どが使われず埃を被った部屋ばかりだった。家具も一切にない部屋もあった。アルが生活する必要最低限の範囲以外は手付かずのままのようだ。これは中々、寂しいものがある。僕の住む孤児院は毎日が騒がしくて、静かな時なんて皆が寝静まった夜ぐらいだ。今にして思えば、寂しい、なんて思ったことは一度もないかもしれない。僕には両親がいなかったけど、孤児院の皆が居たから。

『誰かと食事をするのは久しぶりだ』

 誰かと食事をするのはどれくらいぶりなんだろう。

「ん?」

 思いを馳せながら部屋を見回していると、視界の端に、机の上に置いてある写真立てが目に入った。普通ならスルーするはずのその写真に僕は、妙に胸がザワつきを覚えた。
 手に取ってじっくりと見つめる。奇妙なことにこの写真は左の端の方だけ折り曲げられている。仲睦まじく寄り添い優しく微笑む男女の隣にはおそらく、もう一人写っているはずだ。なのにどうして折り曲げられて隠してるのか。微笑む男女も気になって仕方ない。

「これって、もしかして……」
「そうだよ。そこに写っているのは君のご両親だ」

 急に声がかかり驚き、危うく写真立てを落としそうになる。振り返ると部屋の入り口付近にアルが佇んでいた。僕は小さく深呼吸をして、再び写真へと視線を落とした。

「この人たちが僕の本当の両親。何だか、その、変わった恰好をしているね。父さんの方は騎士のような恰好だけど、母さんはまるで、魔女みたいだ」

 僕の正直な感想だった。アルが僕の隣まで近づいてくる。

「さすがだね。君は勘がいい。彼女は魔女だ。とても強い魔法力を誇っていた。魔法が得意な私でも流石にリリアには勝てなかったよ」

 声を出して笑いながらアルは嬉しそうにそう言った。まるで自分のことのように自慢しているみたいに。

「母さんは悪い魔女?」

 ぶんぶんと首を横に振りながら、

「とんでもない! リリアは誰よりも人々をこの世界を愛していたよ。とても優しく凛々しく芯の強い女性だった」

 僕以外誰も聞いていないのにアルは「美人だけど、少々気が強い人だったよ。僕も散々振り回された」とひそひそと内緒話をするように小声で打ち明ける。僕は可笑しくて微笑した。

「へぇ~。母さん、そんなに凄い人だったんだ。ねぇ、父さんは? 一見、騎士のようにみえるけど」
「ああ。彼もとても強かったよ。魔法も使えたが、マックスの場合どちらかといえば剣技の方を得意としていた。私が知る限り、彼に敵う相手はいなかったよ。生前は剣技競う大会で優勝した経験も持っている」
「本当にっ?! 父さんも凄い人だったんだね。僕の両親って、凄いや」

 写真だけど、初めて見る両親の姿に目の奥が熱くなる。アルに気付かれないように誤魔化して、そっと写真立てを元の位置に戻した。

「ところで君がここにいるということは食事の準備ができたのかい? アル」
「ああ、冷めない内にいただこう」
「うん」

 食事の準備が出来る短い間だけど、楽しい時間は本当にあっという間だ。思ってもいなかった宝物を見つけて胸がほっこりする。目の奥も熱くなった。まだ庭園の探索はしていないがかまわない。次のお楽しみに取っておこう。今は両親の親友であるアルとの食事が最優先だ。
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