8 / 77
第一章 ウィルとアルと図書館の守人
屋敷探索
しおりを挟む
一通り屋敷の中を見て周り、残りの扉はあと一つだけとなった。最後の扉を慎重にゆっくりと開けた。
「ここって、もしかしてアルの部屋? 入っちゃ不味いかな」
でもアルは屋敷の中は自由に動き回ってもいいと言っていた。悩んだ末、僕が取った行動は。
「少しだけ、お邪魔しま~す」
好奇心という人間が持つ感情の一つに抗うなんて無理だ。ましてや、ここは異世界。好奇心が沸かないわけがないんだ。うん。
「本がいっぱいだ、棚以外に床にもタワーになってるし。少しは片付ければいいのに」
屋敷の中を探索してその殆どが使われず埃を被った部屋ばかりだった。家具も一切にない部屋もあった。アルが生活する必要最低限の範囲以外は手付かずのままのようだ。これは中々、寂しいものがある。僕の住む孤児院は毎日が騒がしくて、静かな時なんて皆が寝静まった夜ぐらいだ。今にして思えば、寂しい、なんて思ったことは一度もないかもしれない。僕には両親がいなかったけど、孤児院の皆が居たから。
『誰かと食事をするのは久しぶりだ』
誰かと食事をするのはどれくらいぶりなんだろう。
「ん?」
思いを馳せながら部屋を見回していると、視界の端に、机の上に置いてある写真立てが目に入った。普通ならスルーするはずのその写真に僕は、妙に胸がザワつきを覚えた。
手に取ってじっくりと見つめる。奇妙なことにこの写真は左の端の方だけ折り曲げられている。仲睦まじく寄り添い優しく微笑む男女の隣にはおそらく、もう一人写っているはずだ。なのにどうして折り曲げられて隠してるのか。微笑む男女も気になって仕方ない。
「これって、もしかして……」
「そうだよ。そこに写っているのは君のご両親だ」
急に声がかかり驚き、危うく写真立てを落としそうになる。振り返ると部屋の入り口付近にアルが佇んでいた。僕は小さく深呼吸をして、再び写真へと視線を落とした。
「この人たちが僕の本当の両親。何だか、その、変わった恰好をしているね。父さんの方は騎士のような恰好だけど、母さんはまるで、魔女みたいだ」
僕の正直な感想だった。アルが僕の隣まで近づいてくる。
「さすがだね。君は勘がいい。彼女は魔女だ。とても強い魔法力を誇っていた。魔法が得意な私でも流石にリリアには勝てなかったよ」
声を出して笑いながらアルは嬉しそうにそう言った。まるで自分のことのように自慢しているみたいに。
「母さんは悪い魔女?」
ぶんぶんと首を横に振りながら、
「とんでもない! リリアは誰よりも人々をこの世界を愛していたよ。とても優しく凛々しく芯の強い女性だった」
僕以外誰も聞いていないのにアルは「美人だけど、少々気が強い人だったよ。僕も散々振り回された」とひそひそと内緒話をするように小声で打ち明ける。僕は可笑しくて微笑した。
「へぇ~。母さん、そんなに凄い人だったんだ。ねぇ、父さんは? 一見、騎士のようにみえるけど」
「ああ。彼もとても強かったよ。魔法も使えたが、マックスの場合どちらかといえば剣技の方を得意としていた。私が知る限り、彼に敵う相手はいなかったよ。生前は剣技競う大会で優勝した経験も持っている」
「本当にっ?! 父さんも凄い人だったんだね。僕の両親って、凄いや」
写真だけど、初めて見る両親の姿に目の奥が熱くなる。アルに気付かれないように誤魔化して、そっと写真立てを元の位置に戻した。
「ところで君がここにいるということは食事の準備ができたのかい? アル」
「ああ、冷めない内にいただこう」
「うん」
食事の準備が出来る短い間だけど、楽しい時間は本当にあっという間だ。思ってもいなかった宝物を見つけて胸がほっこりする。目の奥も熱くなった。まだ庭園の探索はしていないがかまわない。次のお楽しみに取っておこう。今は両親の親友であるアルとの食事が最優先だ。
「ここって、もしかしてアルの部屋? 入っちゃ不味いかな」
でもアルは屋敷の中は自由に動き回ってもいいと言っていた。悩んだ末、僕が取った行動は。
「少しだけ、お邪魔しま~す」
好奇心という人間が持つ感情の一つに抗うなんて無理だ。ましてや、ここは異世界。好奇心が沸かないわけがないんだ。うん。
「本がいっぱいだ、棚以外に床にもタワーになってるし。少しは片付ければいいのに」
屋敷の中を探索してその殆どが使われず埃を被った部屋ばかりだった。家具も一切にない部屋もあった。アルが生活する必要最低限の範囲以外は手付かずのままのようだ。これは中々、寂しいものがある。僕の住む孤児院は毎日が騒がしくて、静かな時なんて皆が寝静まった夜ぐらいだ。今にして思えば、寂しい、なんて思ったことは一度もないかもしれない。僕には両親がいなかったけど、孤児院の皆が居たから。
『誰かと食事をするのは久しぶりだ』
誰かと食事をするのはどれくらいぶりなんだろう。
「ん?」
思いを馳せながら部屋を見回していると、視界の端に、机の上に置いてある写真立てが目に入った。普通ならスルーするはずのその写真に僕は、妙に胸がザワつきを覚えた。
手に取ってじっくりと見つめる。奇妙なことにこの写真は左の端の方だけ折り曲げられている。仲睦まじく寄り添い優しく微笑む男女の隣にはおそらく、もう一人写っているはずだ。なのにどうして折り曲げられて隠してるのか。微笑む男女も気になって仕方ない。
「これって、もしかして……」
「そうだよ。そこに写っているのは君のご両親だ」
急に声がかかり驚き、危うく写真立てを落としそうになる。振り返ると部屋の入り口付近にアルが佇んでいた。僕は小さく深呼吸をして、再び写真へと視線を落とした。
「この人たちが僕の本当の両親。何だか、その、変わった恰好をしているね。父さんの方は騎士のような恰好だけど、母さんはまるで、魔女みたいだ」
僕の正直な感想だった。アルが僕の隣まで近づいてくる。
「さすがだね。君は勘がいい。彼女は魔女だ。とても強い魔法力を誇っていた。魔法が得意な私でも流石にリリアには勝てなかったよ」
声を出して笑いながらアルは嬉しそうにそう言った。まるで自分のことのように自慢しているみたいに。
「母さんは悪い魔女?」
ぶんぶんと首を横に振りながら、
「とんでもない! リリアは誰よりも人々をこの世界を愛していたよ。とても優しく凛々しく芯の強い女性だった」
僕以外誰も聞いていないのにアルは「美人だけど、少々気が強い人だったよ。僕も散々振り回された」とひそひそと内緒話をするように小声で打ち明ける。僕は可笑しくて微笑した。
「へぇ~。母さん、そんなに凄い人だったんだ。ねぇ、父さんは? 一見、騎士のようにみえるけど」
「ああ。彼もとても強かったよ。魔法も使えたが、マックスの場合どちらかといえば剣技の方を得意としていた。私が知る限り、彼に敵う相手はいなかったよ。生前は剣技競う大会で優勝した経験も持っている」
「本当にっ?! 父さんも凄い人だったんだね。僕の両親って、凄いや」
写真だけど、初めて見る両親の姿に目の奥が熱くなる。アルに気付かれないように誤魔化して、そっと写真立てを元の位置に戻した。
「ところで君がここにいるということは食事の準備ができたのかい? アル」
「ああ、冷めない内にいただこう」
「うん」
食事の準備が出来る短い間だけど、楽しい時間は本当にあっという間だ。思ってもいなかった宝物を見つけて胸がほっこりする。目の奥も熱くなった。まだ庭園の探索はしていないがかまわない。次のお楽しみに取っておこう。今は両親の親友であるアルとの食事が最優先だ。
0
あなたにおすすめの小説
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる