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第一章 ウィルとアルと図書館の守人
快楽司るガリル
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それからというもの、毎日のようにお弁当を持って図書館に行くのが僕の日課になっていた。
ピピンと話しているうちに、いつの日か彼をこの図書館から解放して自由に出入りができるようにしてあげたい。
その気持ちが日に日に強くなっていった。
少しずつだけどアルに文字の読み書きも教えてもらっている。
そのお陰で今まで読めなかった本も簡単な内容なら読めるようになってきた。
本を読むことがこんなにも楽しいなんて思ってもいなかった。
だから今は毎日がとても充実している。
今日もいつもの時間にお弁当を持って図書館に向かった。
ピピンと他愛のない話で盛り上がって、あっと言う間に夕刻の時間が近付いてきた。
「それじゃあ、ピピン。そろそろ僕は帰るよ。また明日だ」
「ウン、ウィル。マタ明日……」
そのとき、急に言葉が途切れて訪ねようとすると、「静カニ」と一指しゆびを僕の口元にそっと近づけてそれ以上の言葉を許さなかった。
いつもと違う何かにピピンが反応したようだ。
僕もなんとなくそれに気付いてあたりを見渡し警戒した。
僕もその気配に気付いた。
いつもと何かが違う。
急激に何かが変化して空気が冷たいと感じた。
少しだけ心臓の音が早くなった。
見た様子は毎日通っている図書館のままだ。
しかし、明らかに何か様子がおかしい。
「何者カガ侵入シテ来タ」
ピピンは小声でそう囁いて教えてくれた。
侵入者。
それがこの異様な雰囲気の原因だろうか。
「デモ、ドウヤッテ入ッタ? ピピンノ領域、ソウ簡単ニ侵入デキナイハズ。ウィル、少シダケ隠レテイテ」
腰を僅かに屈めるとピピンがヒソヒソと小声で僕にそう言った。
頷くと僕は本棚の見えない場所に身を隠した。
すると入れ違いで、コツコツと足音がこちらに近づいてくる。
焦らすかのように、ゆっくりと足音が近づいてきて、
「やぁやぁやぁ、アンタがこの図書館の管理者かぁ? あの【結界】、少し骨が折れたよ~」
好奇心から声の正体を知りたくて、僕は気付かれないように慎重に本棚の隙間からその姿を確認した。
子供? 僕と同い年くらいの。
薄いピンクの短髪。服装は黒のレザー素材でベルトで包み込んだような服装。
長いロングコートを纏っている。
声の主は子供の男の子のものだった。
歳は僕とそう変わらない程度。
どうやらあの子がピピンが図書館に張った結界を破って侵入してきた張本人のようだ。
結界とか魔法についてはまだ全然わからないけど、結界というからには本来破られてはならないものだから、それを通過して侵入してきたということはかなり危険な人物ということになるのだろうか。
子供だけど。
しかも性格悪そうだなぁ、顔からして。
「で、そこに隠れてる子猫ちゃんはどこの誰かなぁ~!」
子供、少年は片手を上に払うように空を切った。
すると、姿を隠していた僕目掛けてなにか塊が飛んでくる。
「え?」
これは不味い。
そう思ったが時すでに遅かった。
黒い塊が直撃する。
思わず眼を閉じてその衝撃を堪えた。
「あ、れ?」
僕の周囲を白い靄が丸く包み込んでいる。
どうやら直撃の寸前、ピピンが魔法で僕を守ってくれたようだ。
ありがとうと口を開きかけ、僕はあたりを見渡した。
今の状況をすぐに理解することができた。
僕は白い靄に包まれ、宙に浮いていた。
下にはテラスの床があったはずだが、それは崩れてもう無くなっていた。
周囲にも身を隠していた本棚があったはずだが、それも消えてなくなっていた。
テラスは無残に破壊されたのだ。
僕は体が震えた。
「ククっ、ブルブル振るえちゃって、怖くなっちまったかぁ? ウィ・ル・ちゃん」
僕は息が止まるかと思った。
いや、一瞬本当に止まったのかもしれない。
今、僕の名前を。
どうして?
「どうして? さぁ、どうしてでしょうかぁ?」
「心が読めるのか」
「おぉ~! せーかいっ! ウィルちゃん、頭いいなぁ~」
ふざけてる。
「ふざけてねぇぜ~、オレ様は」
少年が僕を下から上へと舐めるように見てくる。
気分が悪い。
「ん~にしてもさぁ~、アンタ、すっげぇ可愛いよなぁ。はじめ女の子かと思ったけど。アンタ、ホントに男?」
僕は眉間に皴を寄せて少年を睨み付けた。
「ダメだろ~、ウィルちゃん。折角の可愛いお顔が台無しだろぉ~。あぁ~、でもその顔もそそるなぁ~。オレ様、勃起しちまいそぉ~」
少年の恍惚とした表情に悪寒が走った。
なんなんだこいつは。
正直、僕は幼いころよく女の子と間違えられ、同姓からそういう目で見られることがたまにあった。
でも年を重ねるにつれ、体つきも男の体躯になってきてからはその対象として見られることはなくなってきたのだが。
まさかここにきてその対象として見られるなんて。
しかも最悪で危険なやつに目をつけられたのかもしれない。
「そうかもなぁ~」
また僕の心を、くそっ!
少年がこっちに近づいてくる。
ゾクリとした。
逃げなくては。
そう思ったときだった。
ふわりと僕ごと包んでいた靄が動きだし、ピピンの背後に移動した。
「ウィルニハ、近ヅカセナイ」
「ピピン!」
少年は邪魔されたことに不機嫌になり、舌打ちした。
「折角愛しのウィルちゃんとイイコトしようと思ったのによぉ~、邪魔すんじゃねぇよデカブツ」
目つきを変わって鋭い視線がピピンを一瞥する。
再び悪寒が走る。
僕はギュッと自らを守るように体を抱き締めた。
「オ前ハ、何者ダ。何をシニ此処ヘ侵入シタ?」
いつものピピンの口調とは少し違ってどこか鋭さがある。
ピピンも明らかに警戒しているのがひしひしと伝わってくる。
「それはアンタが一番よく知ってるんじゃねぇの?」
すぐに頭に浮かんだのはピピンが守っているという【大切なもの】だった。
でも僕はすぐにそれを考えるのをやめにした。
この子供は心を読むことができるんだ。
「ふははっ、いいねぇ。たまんねぇなぁ、ウィルちゃん。いいぜぇ、オレ様は快楽のガリル! 今日のところはただの偵察だからこれで引き上げてやる。今日のところは、な。じゃあまたな、木偶の棒。それと愛しのウィルちゃん……」
少年、ガリルはそう言うと青い炎を纏ってその姿を消した。
ピピンの結界がフッと消えて、僕はからだから力が抜けた。
床に倒れそうになる寸での所でピピンの大きな手が僕を支えてくれた。
「ピピン、あれが夜の者なのかな?」
「……タブンネ」
一気に緊張が解けて、その大きな手に身を任せた。
ピピンと話しているうちに、いつの日か彼をこの図書館から解放して自由に出入りができるようにしてあげたい。
その気持ちが日に日に強くなっていった。
少しずつだけどアルに文字の読み書きも教えてもらっている。
そのお陰で今まで読めなかった本も簡単な内容なら読めるようになってきた。
本を読むことがこんなにも楽しいなんて思ってもいなかった。
だから今は毎日がとても充実している。
今日もいつもの時間にお弁当を持って図書館に向かった。
ピピンと他愛のない話で盛り上がって、あっと言う間に夕刻の時間が近付いてきた。
「それじゃあ、ピピン。そろそろ僕は帰るよ。また明日だ」
「ウン、ウィル。マタ明日……」
そのとき、急に言葉が途切れて訪ねようとすると、「静カニ」と一指しゆびを僕の口元にそっと近づけてそれ以上の言葉を許さなかった。
いつもと違う何かにピピンが反応したようだ。
僕もなんとなくそれに気付いてあたりを見渡し警戒した。
僕もその気配に気付いた。
いつもと何かが違う。
急激に何かが変化して空気が冷たいと感じた。
少しだけ心臓の音が早くなった。
見た様子は毎日通っている図書館のままだ。
しかし、明らかに何か様子がおかしい。
「何者カガ侵入シテ来タ」
ピピンは小声でそう囁いて教えてくれた。
侵入者。
それがこの異様な雰囲気の原因だろうか。
「デモ、ドウヤッテ入ッタ? ピピンノ領域、ソウ簡単ニ侵入デキナイハズ。ウィル、少シダケ隠レテイテ」
腰を僅かに屈めるとピピンがヒソヒソと小声で僕にそう言った。
頷くと僕は本棚の見えない場所に身を隠した。
すると入れ違いで、コツコツと足音がこちらに近づいてくる。
焦らすかのように、ゆっくりと足音が近づいてきて、
「やぁやぁやぁ、アンタがこの図書館の管理者かぁ? あの【結界】、少し骨が折れたよ~」
好奇心から声の正体を知りたくて、僕は気付かれないように慎重に本棚の隙間からその姿を確認した。
子供? 僕と同い年くらいの。
薄いピンクの短髪。服装は黒のレザー素材でベルトで包み込んだような服装。
長いロングコートを纏っている。
声の主は子供の男の子のものだった。
歳は僕とそう変わらない程度。
どうやらあの子がピピンが図書館に張った結界を破って侵入してきた張本人のようだ。
結界とか魔法についてはまだ全然わからないけど、結界というからには本来破られてはならないものだから、それを通過して侵入してきたということはかなり危険な人物ということになるのだろうか。
子供だけど。
しかも性格悪そうだなぁ、顔からして。
「で、そこに隠れてる子猫ちゃんはどこの誰かなぁ~!」
子供、少年は片手を上に払うように空を切った。
すると、姿を隠していた僕目掛けてなにか塊が飛んでくる。
「え?」
これは不味い。
そう思ったが時すでに遅かった。
黒い塊が直撃する。
思わず眼を閉じてその衝撃を堪えた。
「あ、れ?」
僕の周囲を白い靄が丸く包み込んでいる。
どうやら直撃の寸前、ピピンが魔法で僕を守ってくれたようだ。
ありがとうと口を開きかけ、僕はあたりを見渡した。
今の状況をすぐに理解することができた。
僕は白い靄に包まれ、宙に浮いていた。
下にはテラスの床があったはずだが、それは崩れてもう無くなっていた。
周囲にも身を隠していた本棚があったはずだが、それも消えてなくなっていた。
テラスは無残に破壊されたのだ。
僕は体が震えた。
「ククっ、ブルブル振るえちゃって、怖くなっちまったかぁ? ウィ・ル・ちゃん」
僕は息が止まるかと思った。
いや、一瞬本当に止まったのかもしれない。
今、僕の名前を。
どうして?
「どうして? さぁ、どうしてでしょうかぁ?」
「心が読めるのか」
「おぉ~! せーかいっ! ウィルちゃん、頭いいなぁ~」
ふざけてる。
「ふざけてねぇぜ~、オレ様は」
少年が僕を下から上へと舐めるように見てくる。
気分が悪い。
「ん~にしてもさぁ~、アンタ、すっげぇ可愛いよなぁ。はじめ女の子かと思ったけど。アンタ、ホントに男?」
僕は眉間に皴を寄せて少年を睨み付けた。
「ダメだろ~、ウィルちゃん。折角の可愛いお顔が台無しだろぉ~。あぁ~、でもその顔もそそるなぁ~。オレ様、勃起しちまいそぉ~」
少年の恍惚とした表情に悪寒が走った。
なんなんだこいつは。
正直、僕は幼いころよく女の子と間違えられ、同姓からそういう目で見られることがたまにあった。
でも年を重ねるにつれ、体つきも男の体躯になってきてからはその対象として見られることはなくなってきたのだが。
まさかここにきてその対象として見られるなんて。
しかも最悪で危険なやつに目をつけられたのかもしれない。
「そうかもなぁ~」
また僕の心を、くそっ!
少年がこっちに近づいてくる。
ゾクリとした。
逃げなくては。
そう思ったときだった。
ふわりと僕ごと包んでいた靄が動きだし、ピピンの背後に移動した。
「ウィルニハ、近ヅカセナイ」
「ピピン!」
少年は邪魔されたことに不機嫌になり、舌打ちした。
「折角愛しのウィルちゃんとイイコトしようと思ったのによぉ~、邪魔すんじゃねぇよデカブツ」
目つきを変わって鋭い視線がピピンを一瞥する。
再び悪寒が走る。
僕はギュッと自らを守るように体を抱き締めた。
「オ前ハ、何者ダ。何をシニ此処ヘ侵入シタ?」
いつものピピンの口調とは少し違ってどこか鋭さがある。
ピピンも明らかに警戒しているのがひしひしと伝わってくる。
「それはアンタが一番よく知ってるんじゃねぇの?」
すぐに頭に浮かんだのはピピンが守っているという【大切なもの】だった。
でも僕はすぐにそれを考えるのをやめにした。
この子供は心を読むことができるんだ。
「ふははっ、いいねぇ。たまんねぇなぁ、ウィルちゃん。いいぜぇ、オレ様は快楽のガリル! 今日のところはただの偵察だからこれで引き上げてやる。今日のところは、な。じゃあまたな、木偶の棒。それと愛しのウィルちゃん……」
少年、ガリルはそう言うと青い炎を纏ってその姿を消した。
ピピンの結界がフッと消えて、僕はからだから力が抜けた。
床に倒れそうになる寸での所でピピンの大きな手が僕を支えてくれた。
「ピピン、あれが夜の者なのかな?」
「……タブンネ」
一気に緊張が解けて、その大きな手に身を任せた。
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