ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第一章 ウィルとアルと図書館の守人

それぞれのやるべきこと

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 その日起こった出来事はひとつも洩らさずアルと国王ジルハルド様に報告した。
 ただこの件に関しては表ざたには一切しないようにと二人に口止めをされ、今日まさにこの街が危機に瀕していた事実を街の住人たちは誰も知らない。
 いつもどおりの日常を過ごし、今日の終わりを告げる鐘が響いた。

「ウィル、大丈夫かい? ぼぅーとしているが」
「アル」

 僕はアルの屋敷に設けられた部屋のテラスで太陽が沈みゆく夕焼け空をずっと眺めていた。
 その様子を見ていたアルが心配そうに声を掛けてくれたようだ。
 いつもにも増して眉根がへの字に曲がっている。

「大丈夫だよ。少し疲れちゃっただけ」
「何はともあれ、君が無事で本当に良かった」

 僕の隣まで歩いてきてアルがそう言った。
 本当に心配したのだろう。
 いつもよりも毛並みに艶がない。

「ピピンのおかげでね。でも正直、相当ヤバかったよ。色んな意味でね」

 命の危険という意味と貞操の危機という意味でどちらも失うものは大きい。
 色んな意味で。
 アルには言わないけど。

「すまない」
「え? どうしてアルが謝るんだよ」
「この街にいれば安全だと、私は過信し過ぎた。でもまさか、二重の結界をいとも容易くすり抜けて来るとは。いや、ピピンの結界を含めれば三重の結界になる。夜の者とは一体何者なんだ」

 アルが苦虫を噛んだように顔を歪めて言った。
 よほど悔しかったのだろう。
 元とは言え、王宮に仕えていた宮廷魔術師。
 プライドもあるだろうし。

「ウィル」

 ハッとして、僕はアルの方を見た。
 アルは何時になく真剣な表情で僕を見上げていた。

「もはや、一刻の猶予もない。君の身に更なる危険が及ばないように早急に動き出そう」
「うん。(本当に僕の貞操が危ないかも、だし)」

 首を傾げるアルに僕は慌てて首を横に振った。

「なんでもない。でも僕はどうすればいいの?」
「君には少しずつ魔法の知識を学んでもらおうと考えていたがそれでは間に合わないとわかった。しかし私は君の力を封印している時の女神について調べているし、付っきりというわけにも行かない。それでは意味がない。そこで明日、君に合わせたい人がいる。君はその人から魔法の知識を学ぶんだ」
「え? それだったらアルじゃなくて始めからその人に教えて貰った方が早かったんじゃないの?」
「最もな意見だ。しかし彼女が教えることができるのは身を守る魔法のみ。簡単な魔法の基本は教えられるけど、すべてじゃないんだ。それに魔法はね、書物を通じて学ぶものだと教えたけど、それは知識だけなんだ。魔法を扱うには精神力も鍛えなくてはならない。より高度な魔法を扱うには強靭な精神力を要する。だから時間を掛ける必要がある。人間は強い生き物だけど精神を左右されてしまう弱い生き物でもある。無理して覚えさせれば精神異常を引き起こし、力を暴走させてしまう可能性だってある。それを防ぐために徐々に学んでもらうつもりだった。でももうそうはいってられない。今の君の持つ精神力で、全ては無理でも初期の防御魔法なら、おそらく……彼女、ロミロアの実力は確かさ。防衛術のエキスパートだからね。私も出来るだけ早く時の女神の居所を見つけなければ」
「そっか。うん。わかった。つまりは自分の身は自分で守れ、ってそういう意味だよね」
「すまない。常に君の側に居てあげられればいいんだが」

 再び頭を垂れるアルに僕は口を開いた。

「アルにはアルのやるべきことがある。僕には僕のやるべきことがある。そうでしょ?」

 アルが顔を上げたからその瞳を真っ直ぐに捉える。
 アルは瞳をウルウルさせながら「ありがとう」と応えた。
 最近知ったことだけど、アルは結構泣き虫だったりする。
 僕とは違う別の背負うものが大きすぎて、今にも倒れそうなのにそれでも踏ん張って立っている感じが伝わってくる。
 だから、少しでもアルの力に、その重い荷物を持ってあげようと思った。
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