ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第一章 ウィルとアルと図書館の守人

白き翼と黒き翼

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「ここなのよ」
「これは、凄い大きな魔法陣だ」

 案内された場所は大広間だった。床から天井を支える何本もの石柱が規則正しく平行に並び、僕の住んでいる家の近所にある公園よりも広い敷地面積だ。入り口から中央に向かって歩くと柱のない場所に出た。床には巨大な魔法陣が光を帯びて何者かの訪れを待ってるかのようにも見えた。

「ここは研究室でも、いわゆる実験場なのよ。研究を重ねて完成した未完成の魔法を試す場所ってわけなのよ。ウィル、ここに立ってなのよ」

 僕は頷き、言われるがまま所定の位置に立った。丁度、魔法陣の中央だ。これからどんな修行をするのか、心臓がドキドキする。

「それじゃあ、始める……と言いたい所だけど、ワタシはまだウィルがどれほどの魔力を秘めているか知らないし、アナタ自信も同様に知らないなのよ?」
「はい、アルは凄い魔力を持っているって言ってましたけど」

 アルを横目で視線を送りつつ僕は言葉を発した。

「そうね、確かに感じるのよ。アナタの内に秘められた強大な魔力を。でも今は時の女神によって封印されてよほど集中しなければその魔力を感じることはできないのよ。そこで、今からアナタの魔力の封印を少し強引だけど抉じ開けるのよ」
「こ、抉じ開ける?」

 ロミロアは頷いた。どこか嬉しそうなのは僕の気のせいかな。

「ど、どうやってですか?」
「ワタシのありったけの魔力をアナタにぶつけて封印壁を弱めるのよ。そうすることで封印されたいわゆる封印の扉を少しだけ隙間を開けさせるのよ。そしてその隙間からアナタの魔力量領域を調べるのよ。かなり強引な方法だから少し痛いかもだけど、我慢してなのよ」
「え? 痛いの?! 僕まだ覚悟できてないんですけど!」
「行くのよ!」
「え? ちょっ、まっ……~~あぁっ!」

 ふいに身体が宙に浮いて衝撃が走る。仰け反る。四肢を拘束される。頭上から何か巨大な存在が僕の身体を押さえ込まれている感覚。
 これがロミロア先生の魔力なのか。凄い力だ。どんどんと追い込まれていくみたいに感じる。
 凄く怖い。
 でも、僕の背後に蠢く力がロミロア先生の力を押し返そうともがいている。

「下級女神とはいえ、さすがに時の女神の力なのよっ、そう簡単には封印壁まで辿り着けないのよ」
「ロミロア!」
「大丈夫なのよっ、ワタシはウィルが耐えてくれることを信じてるのよっ」

 アルが心配した表情で僕を見つめているのがわかる。視線を感じる。でも力と力に挟まれた僕は身動き一つできない。

「もう少しなのよ……っ!」

 更なる魔力が僕を押さえ込み、流れ込んでくる。まるで衣服を全て脱がされて素っ裸にされいく気分だ。僕の身体全てが晒されていく。
 凄く恥かしいことなのかもしれないけど、身体のお腹の部分が暖かくて、その……気持ちいい。
こんな感覚は初めてだ。

「あっ、あっ、はぅ、んんっ、あっ」

 呼吸が荒くなる。
 やばい、本当に気持ちがいい。でも怖い。壊れる。何かが来る感覚。僕の身体が全て晒されて、開かれる。

「あっ、あっ、あっ――あぁっ!」

 身体がビクビクと跳ねた。心臓が内臓を通して耳に聞えるくらいドクン、ドクンと鳴り響いている。目からも口からも涙や涎が垂れているけどそんなことに構ってられないくらい、強い倦怠感に襲われた。
 ……僕は、どうなったんだろう。
 荒かった呼吸が少しずつ落ち着いてくる。身体から力が抜けていく。意識が遠のいていく。
 光が僕に降り注ぐ。すると一枚の白い羽が空から揺ら揺らと不規則な動きで落ちてきた。目の前に二人の人間が舞い降りてきた。
 違う……
人間じゃない。翼が生えてる。
あれは……天使? それとも悪魔?
一目でわかる、白い翼と黒い翼を持った人とは異なる存在。
それらが僕の頬に触れ微笑んだ、ように見えた。表情が見えない。でもきっと、優しく微笑んでいるとそう思った。
だって、僕の頬に触れた手はとても優しくて温かくて、心地良かったから。
その心地良い感覚のまま僕の意識は徐々に薄らいでいった。
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