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第一章 ウィルとアルと図書館の守人
図書館長ロミロア
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薄暗がりの中、僕は慎重に前に進んで行く。
するとそのときだった。
「アラ? あなた誰なのよ? ここは関係者以外は立ち入り禁止なのよ、ってあら、ジークじゃないのよ。久しぶりなのよ。って大丈夫なのよ? 酷く疲れているみたいなのよ」
僕もアルも精神的にも身体的にもボロボロの状態だった。
ワナワナとアルは拳を震わせて詰め寄る。
「あのなぁ、ロミロア! 君ね、研究室の扉前数メートルにどれだけ仕掛けを施してんの?! ものすっごい酷い目にあったよ!」
「あら当然なのよ。女の一人暮らしなのよ?」
だったら玄関の鍵は掛けておこうよ、と突っ込みを入れたくなるこの状況。
ここに至るまでの道のりは近いけど遠かった。
落とし穴に、吹き矢、挙句にクイズまで質題してきて間違った選択をすれば即退場。
振り出しに戻って家の外に強制転送といった仕掛けがゴロゴロと研究室の扉まで数メートルの間に設置してあったんだ。
主に被害を受けたのは前を歩いていたアルだけど。
数十回は落とし穴に落ちていた。
「で、その子は誰なのよ?」
「あぁ、彼は」
「は、はじめまして。ウィリアム・ラージニアと言います」
「彼はマックスとリリアの子だよ」
それを聞いたロミロアは目を見開き、僕をマジマジと見つめた。
背丈はアルとほぼ変わらないぐらい。
だから自然と僕を見上げる形になるわけだけど。
ロミロアさんはウサウサ族という種族だった。
人間じゃなかった。
言われてみればアルの知り合いなんだから人じゃないよな、と僕は考えを改めた。
「はじめましてなのよ、ウィリアム。ウィル、って呼んでも構わないなのよね。ワタシはロミロア。図書館の館長を勤めているのよ。よろしくなのよ」
「はい。よろしくお願いします」
ロミロアさんは語尾に「~なのよ」をつけるのが癖のようだ。
ウサギだから毛並みがモフモフでちょっと触ってみたいと思ったけど、一応女性だからね。
ここは我慢しなきゃ。
「それでワタシに何の用なのよ? もしかして図書館の一件についての小言なら嫌と言うほど聞いたのよ。ワタシも油断し過ぎたのよ。反省してるのよ、これでも」
「まあ、それもそうなんだが……今日は君に頼みがあって立ち寄ったんだ」
「頼みなのよ?」
ロミロアが首を傾げながらアルに聞き返す。
「彼、ウィルに魔法を、防衛術の魔法を教えてやって欲しいんだ」
「防衛術を? どういうことなのよ?」
アルと僕はロミロアさんに事の経緯を簡潔に話した。
図書館でのこと。
夜の者ダリルについても。
「……なるほどなのよ。ウィルの身に危険が。でもそれなら魔法学校の方が適任なのよ。学園は魔法のエキスパートが集う場所なのよ」
「でも、防衛術に関しては私の中で君がもっとも優れていると自負しているよ。ウィルの身に危険が及んだ今、一刻の猶予もない。おそらく奴はまた彼の前に現れるだろう。ピピンの守る大切なものについてもそうだが、私が一番気掛かりなのはやはりウィル自身だ。彼は加の女神と魔王の血族だ。もし夜の者に知られたら……おそらく連れて行かれるだろう。ウィルには悪いが利用価値は十分にあるからね」
僕の利用価値。
女神と魔王、その二つの血を引く子供だから。
僕はその事実を知ってから時々、自分と言う存在がわからなくなる。
だから僕は、アルやジルハルド国王様やこの街の人たちに迷惑は掛けたくない。
でも自分独りじゃどうすることもできない。
だから。
「ロミロアさん、僕からもお願いします。何処までやれるかわからないけど、みんなに迷惑は、足手まといにだけはなりたくないんです。だからどうか僕に、魔法を教えてください」
僕は頭を下げた。
僕が今できる最大限のことをしよう。
ピピンやこの世界や自分自身のために。
僕に今できることは誠意を見せることだけだ。
「ウィル、言っておくけど君を足手まといだなんて思ったことは一度も」
アルのことを僕は頭を振って無言で制した。
「わかってるよ、アル。これは僕自身の気持ちの問題なんだ。本当にさ、アルにもジルハルド国王様にも、街の皆にも危険な目には合わせたくないんだ。何より、今の僅かなでも平和な日常を壊したくない。皆、何時も通りの日常を送ってもらいたいんだ。だから」
沈黙。それはとても長く感じた。
ロミロアの口からため息を零れたのを聞いた。
僕はきゅっと顔を顰める。
「……わかったのよ。そこまで言われたら断れないのよ」
その言葉を聞いて力が抜けた。
期待を胸に顔を上げる。
「じゃあ」
「覚悟するのよ。魔法を習得するということは半端な気持ちじゃ勤まらないのよ」
「はい! ありがとうござます、ロミロアさん……じゃなかった、ロミロア先生!」
「ふふっ、先生……いい響きなのよ。それならウィル、早速始めましょうか。いいのよね、ジーク」
「ああ、よろしく頼む」
アルの言葉にロミロアは頷くと、僕を奥の研究室に手招いた。
するとそのときだった。
「アラ? あなた誰なのよ? ここは関係者以外は立ち入り禁止なのよ、ってあら、ジークじゃないのよ。久しぶりなのよ。って大丈夫なのよ? 酷く疲れているみたいなのよ」
僕もアルも精神的にも身体的にもボロボロの状態だった。
ワナワナとアルは拳を震わせて詰め寄る。
「あのなぁ、ロミロア! 君ね、研究室の扉前数メートルにどれだけ仕掛けを施してんの?! ものすっごい酷い目にあったよ!」
「あら当然なのよ。女の一人暮らしなのよ?」
だったら玄関の鍵は掛けておこうよ、と突っ込みを入れたくなるこの状況。
ここに至るまでの道のりは近いけど遠かった。
落とし穴に、吹き矢、挙句にクイズまで質題してきて間違った選択をすれば即退場。
振り出しに戻って家の外に強制転送といった仕掛けがゴロゴロと研究室の扉まで数メートルの間に設置してあったんだ。
主に被害を受けたのは前を歩いていたアルだけど。
数十回は落とし穴に落ちていた。
「で、その子は誰なのよ?」
「あぁ、彼は」
「は、はじめまして。ウィリアム・ラージニアと言います」
「彼はマックスとリリアの子だよ」
それを聞いたロミロアは目を見開き、僕をマジマジと見つめた。
背丈はアルとほぼ変わらないぐらい。
だから自然と僕を見上げる形になるわけだけど。
ロミロアさんはウサウサ族という種族だった。
人間じゃなかった。
言われてみればアルの知り合いなんだから人じゃないよな、と僕は考えを改めた。
「はじめましてなのよ、ウィリアム。ウィル、って呼んでも構わないなのよね。ワタシはロミロア。図書館の館長を勤めているのよ。よろしくなのよ」
「はい。よろしくお願いします」
ロミロアさんは語尾に「~なのよ」をつけるのが癖のようだ。
ウサギだから毛並みがモフモフでちょっと触ってみたいと思ったけど、一応女性だからね。
ここは我慢しなきゃ。
「それでワタシに何の用なのよ? もしかして図書館の一件についての小言なら嫌と言うほど聞いたのよ。ワタシも油断し過ぎたのよ。反省してるのよ、これでも」
「まあ、それもそうなんだが……今日は君に頼みがあって立ち寄ったんだ」
「頼みなのよ?」
ロミロアが首を傾げながらアルに聞き返す。
「彼、ウィルに魔法を、防衛術の魔法を教えてやって欲しいんだ」
「防衛術を? どういうことなのよ?」
アルと僕はロミロアさんに事の経緯を簡潔に話した。
図書館でのこと。
夜の者ダリルについても。
「……なるほどなのよ。ウィルの身に危険が。でもそれなら魔法学校の方が適任なのよ。学園は魔法のエキスパートが集う場所なのよ」
「でも、防衛術に関しては私の中で君がもっとも優れていると自負しているよ。ウィルの身に危険が及んだ今、一刻の猶予もない。おそらく奴はまた彼の前に現れるだろう。ピピンの守る大切なものについてもそうだが、私が一番気掛かりなのはやはりウィル自身だ。彼は加の女神と魔王の血族だ。もし夜の者に知られたら……おそらく連れて行かれるだろう。ウィルには悪いが利用価値は十分にあるからね」
僕の利用価値。
女神と魔王、その二つの血を引く子供だから。
僕はその事実を知ってから時々、自分と言う存在がわからなくなる。
だから僕は、アルやジルハルド国王様やこの街の人たちに迷惑は掛けたくない。
でも自分独りじゃどうすることもできない。
だから。
「ロミロアさん、僕からもお願いします。何処までやれるかわからないけど、みんなに迷惑は、足手まといにだけはなりたくないんです。だからどうか僕に、魔法を教えてください」
僕は頭を下げた。
僕が今できる最大限のことをしよう。
ピピンやこの世界や自分自身のために。
僕に今できることは誠意を見せることだけだ。
「ウィル、言っておくけど君を足手まといだなんて思ったことは一度も」
アルのことを僕は頭を振って無言で制した。
「わかってるよ、アル。これは僕自身の気持ちの問題なんだ。本当にさ、アルにもジルハルド国王様にも、街の皆にも危険な目には合わせたくないんだ。何より、今の僅かなでも平和な日常を壊したくない。皆、何時も通りの日常を送ってもらいたいんだ。だから」
沈黙。それはとても長く感じた。
ロミロアの口からため息を零れたのを聞いた。
僕はきゅっと顔を顰める。
「……わかったのよ。そこまで言われたら断れないのよ」
その言葉を聞いて力が抜けた。
期待を胸に顔を上げる。
「じゃあ」
「覚悟するのよ。魔法を習得するということは半端な気持ちじゃ勤まらないのよ」
「はい! ありがとうござます、ロミロアさん……じゃなかった、ロミロア先生!」
「ふふっ、先生……いい響きなのよ。それならウィル、早速始めましょうか。いいのよね、ジーク」
「ああ、よろしく頼む」
アルの言葉にロミロアは頷くと、僕を奥の研究室に手招いた。
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