ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第一章 ウィルとアルと図書館の守人

決起

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「ウィル!」
「ちょっとジーク! 何考えているのよ!」

 ジーク、もといアルは微かにウィルの気配を図書館の中で感じた。
 建物が崩壊したということはピピンは絶命してしまったことを意味する。
 それとほぼ同時に図書館に掛けられた結界も解かれ、そのときウィルが中に居ると察知したのだ。

「離してくれロミロア! ウィルが、ウィルが図書館の中にいるんだ!」
「なっ、なんでなのよ!」
「おそらく君の研究室からの帰りにピピンに会いに。それが、こんなことに」
「夜の者の仕業なのよ?」

 わからない、とアルは頭を横に振った。
 とアルとロミロアの頭上に光が現れる。

「うわっ!」
「――ウィル!」
「ウィル! 生きていたのよ! それに他の住民たちもなのよ!」

 建物の中にいたはずの僕は気付けば外にいた。
 転送の光。
 ピピンが最後の力を使って僕を、いや、図書館にいた他の住民全員を外へ転送してくれたようだ。

「ピピン」
「ウィル!」

 突然少し固い毛に覆われたアルに抱きつかれ勢いのまま後ろに押し倒されてしまう。

「ア、アル!」
「良かった、無事で本当に良かった!」

 顔をグシャグシャにしながらアルは僕の胸で泣いていた。

「うっ、体毛がゴツゴツしてっ……ははっ、しょうがないなぁ、アルは。本当に泣き虫なんだから」

 僕はアルの頭を撫でながら今朝からの喧嘩はもう許してあげようと密かに思った。
 視線を再び瓦礫の方へ向ける。
 建物の崩壊が落ち着いてきてその激しさを目の当たりに呆然としていた。
 そのとき小さな地響きと共に瓦礫が盛り上がり、中から勢いよく何かが飛び出してきた。
 その禍々しい気配に僕もアルもロミロア先生も警戒した。

「……くそっ、オレ様としたことが……っ!」

 図書館が建っていた真上に夜の者ガリルが空中に浮遊する形で現れた。
 夜の者と言ってもあの崩壊の中で無事でいられるはずもなく、かなりの深手を負っていることがわかった。
 頭からは僕たちと変わらない赤い血が滴っている。
 様子を窺っていると、ガリルと目が合った。
 僕は一歩後ずさり、代わりにアルとロミロア先生が前に出て僕を守るように構える。
 敵がどう動こうがすぐに対処できるように。しかし。

「舐めるなよ、クソどもがぁ」

 広範囲に重力波を放たれる。
 押されるように後ろに飛ばされそうになるのを必死に耐えるしかできない。
 どうしよう。こいつは次はアル達を!

 失いたくない。力が欲しい。

 純白の翼と漆黒の翼が交差する。
 僕の願い、想いはまばゆい金色の光に飲まれた。
 金色の光が輝きを失い現れたのは黒き歪なたゆたう刃。

 意識が朦朧とする中、僕はその刃をガリルに向けて振り下ろした。

「……ぐっ!」

 一瞬のうめき声。
 確かな手ごたえがあった。
 視線をガリルへ向けると、信じられないものを見るように目は驚愕に見開かれ、その肩口は真っ二つに切れていた。

「……っ!」

 ガリルは何か一言呟いたように見えたけど、僕の方までは聞こえなかった。
 何をどうこうするわけもなくガリルは負傷した身を翻しそのまま空の彼方へ消えていった。
 一気に身体の力が抜けて、僕は地面に膝から折れるようにして倒れながら意識を手放した。
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