ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第一章 ウィルとアルと図書館の守人

新たな命

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 図書館が崩壊してから三日目の早朝。
 僕はアルとロミロア先生と共にジルハルド国王への面会を申し出た。
 先日の図書館で起きた出来事を全て伝えなくてはならないからだ。
 夜の者ガリルの襲撃。
 その攻防の末にピピンは自らの意思で禁断書を二つに分断。
  最も重要な部分を僕の中に封じ込めたこと。
 そして、これは僕は後から聞いた話だけど、僕の中に眠る力の発現について。

「うむ。話は理解した。して、ウィルよ、お主の中の禁断書の一部は自在に取り出せるものなかのう?」
「えと、すみません。僕にはどうすればいいのか。でも一つだけピピンから教えて貰ったことがあります」
「うむ」
「賢者アクネリウスの形跡を辿れ、そうピピンに言われました」
「形跡……つまり、彼の辿った道ということか。賢者アクネリウス様は最後どうなったんだっけ?」

 アルは隣にいたロミロア先生に尋ねるが先生は首を横に振った。

「知らないのよ。そもそも一体いつの時代の話だと思っているのよ。一万年以上も大昔のことなのよ。禁断書なんて正直、今では、おとぎ話のレベルにまで後退していたのよ。三日前まではなのよ」
「え? 賢者様ってそんなに大昔の方だったんですか?! ピピン、君は一体いくつだったんだい?」
「あーう」

 赤ん坊となってしまったピピンにそんなことを聞いてもしかないよな。

 そう、ピピンは生きていた。
 正確には少し違うけど、生きていたんだ!
 図書館の瓦礫を撤去している最中、赤ん坊の泣き声を耳にした。
 始めは空耳だと思ったけど、何かに引かれるように声のする方へ向かうと賢者アクネリウスと女神の像だけが奇跡的に無傷でそこに建っていた。
 そしてその丁度中央に、まるで守られるように泣き続ける赤ん坊がそこにいた。
 僕はすぐにわかったよ。
 この赤ん坊がピピンの生まれ変わりだって。
 僕は踊りだしたい気持ちを必死に抑えて、そっと赤ん坊のピピンを抱き上げた。
 するとさっきまで泣いていたのに僕の顔を見るなり笑顔で笑いだしたのだ。
 とても嬉しそうに。
 それで僕は確信することが出来たんだ。
 ピピンは生まれ変わったことで自由を手に入れた。
 思い描いていた形とは違っていた自由だったけど、もう一度、最初から始めることはきっとピピンにとって良いことだと思ったから。
 だから、この再会は悲しいことじゃない。

「うむ。たしかに賢者アクネリウス様の形跡を辿るのはちと難しいやも知れぬが、だがその子孫ならば心当たりがあるぞ」
「ほ、本当ですか?! というか子孫がいるんですか?!」

 僕は驚きの声と表情を見せる。
 ジルハルド国王は頷き口を開いた。

「此処より北の地は氷に閉ざされた大地が広がっておる。そのさらに奥にある【大樹の森】を越えた先に小さな村があってのう。そこはかつて賢者アクネリウス様の生家があったとされる村なのじゃよ。名はたしかそう【ニクルクロス】といったかのう」

 ……言いにくい村名だな。
 僕は心の中で呟いた。

「賢者様の生家。その村に行けば何か手掛かりが」
「おそらくのう」
「それじゃあ!」
「でもそんな遠い場所、向かうにはしっかりと準備が必要なのよ。開拓された土地じゃないから、どんな危険が潜んでいるかわからないのよ。その分、時間も掛かるのよ」
「そんな……」
「ウィル、何事も焦りは禁物だ。しっかり準備をして旅に供えなくては。それに旅に出るなら防御の魔法だけでは心もとない。万が一のことも考えて反撃できる態勢を取っておかなくては。夜の者の存在もある。特に君はそのガリルという男に執拗に執着されている。十分に用心しなくてはね」

 僕は頷く。
 あの男の僕に対する執着は異常だ。
 考えただけでも身震いしてしまう。

「ひとまず、ご報告は以上になります」
「うむ。引き続きウィルの護衛と教育を頼むぞ」

 アルが恭しく頭を下げるのを見て、僕もそれに習うように頭を下げて謁見の間を後にした。
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