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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
導く声
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ふっ、と意識が浮上して目を覚ました。
徐に起き上がり、まだ眠いと主張する眼を、両手の甲の角で擦り無理やり眠気を追い払う。
辺りを見渡して、今いる現状を思い出そうと、ぼんやりした頭を揺り起こす。
「ああ、そうか俺、ウィルを探してて。いつの間にか寝ちまってたのか……くそっ」
オレンジ色に染まったその場所は、普段滅多に人は訪れない。
【気まぐれ魔女の呪いの樹木】と呼ばれる、見た目も妖しいその樹木が、いつからここに植わっていたのか、呪いの樹木なんて呼ばれるようになったのか、この小さな村に長年住み続ける長老たちですら分からないという。
夏と春には青々とした濃い緑、青、秋と冬には、赤、黄、ピンクと姿を変える、なんとも摩訶不思議な樹木だから、大人も子供も気味悪がるのも裏付ける。
今は秋だから、目の前には赤、黄、ピンクと葉の一枚一枚が交互に色づいている。
確かに不思議な樹木だが別段、気味が悪いとは思わない。寧ろ綺麗だなと感じでしまうほどだ。
自分は変わった奴だとわかっているから、その気持ちは密かに胸に秘めていた幼い頃、同い年の幼馴染みが、自分と同じ考えだと知ったとき、とても歓喜したのを覚えている。
感情を共有できたことだけでなく、長年片想いし続けてきた幼馴染みと共有できたことが、何よりも嬉しいと思った。
それからというもの、この【気まぐれ魔女の呪いの樹木】が立つ丘は、俺と幼馴染みの秘密の集いの場所になった。
――俺は幼馴染みであるウィリアム・ラージニアに恋をしている。
第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
完全な片想いだ。
年月が経つにつれて想い人はますます可愛くなっていき、元々奥手だった俺は想いを告げるどころか、日に日に募る想いに対処できずに、とうとうウィルに対して苛めという行動をとってしまう。
好きな子ほど苛めてしまうというのはこの事かと、頭を抱える日々が続いた。
挙句にもう一人の幼馴染み、ロガ・キュリアという男にからかわれ、苛めはエスカレート。
ついにはウィルに嫌われてしまうという最悪な状況になってしまったのだ。
ロガは俺がウィルに恋心を抱いていることを知っている。
良かれと思って口を滑らしたのが運の尽きだった。
結果は最悪、しかし俺はウィルと話すきっかけができたことに安堵もしていた。
今日は昨日のことを謝ろうと、学校が終わってすぐに、ウィルの教室を向かったのだが、一足遅かった。
クラスの同級生に尋ねると、ウィルは慌てた様子で鐘が鳴った瞬間に教室を出て行ったらしい。
後を追うように教室を出て、孤児院教会や、ウィルが行きそうな場所を手当たり次第に当たってみたが、何処にも見当たらなかった。
最後はこの丘に来てみたがやはり、ウィルの姿を見つけることはできなかった。
こんなに探して見つからないなんて、ウィルの身に何か起きたのかもしれないと一瞬思ったのだが、この小さな平和な村で一体どんな事件が起こるのかと思い直し、呪いの樹木に身体を預けてしばらく待っていようと思っているうちに眠りこけてしまったのだ。
もうすぐ日が暮れる時刻だ。
ウィルも、もしかしたらすでに入れ違いで孤児院に帰っているかもしれないと重い腰を上げたときだった。
誰かに名前を呼ばれた気がしてあたりを見渡した。
一瞬ウィルだと思って胸が高鳴ったが、違った。
あからさまにわかるほど肩を落とした。
「レズリー、こんなところで何してんの?」
「ロガ、ウィルを探してた」
「ウィルを?」
幼なじみのロガは見た目は軽そうなナンパ男に見えるが、意外と賢い。
すぐに俺の意図することを察したロガは、茶髪頭の後ろで腕を組んで言葉を続けた。
「もう夕方だから孤児院に戻ってるんじゃない? 行ってみる?」
「あ、あぁ~、別に明日でも」
ロガは俺の言葉に盛大にため息を吐いた。
わかってる。
わかってるさ。
だからそんな可哀想な奴を見るような目で俺を見るなよ。
腹立つから。
「レズリー、そんなんじゃ何時まで経っても想いは通じないよ?」
ロガの言っていることは正論だ。
このままでは一生先には進めない。
俺は高鳴る心臓を誤魔化すように拳を握った。
いい加減、覚悟を決めないとな。
「……やっぱり、行く」
「うん。オレも一緒について行ってやるからさ」
「また余計なこと言うなよ、ロガ」
「え? 余計なことって何のことかなぁ。覚えてないや~」
「……お前」
半眼で睨み、ロガの頭を叩こうと放った拳は、軽く交わされてしまう。
避けんなよ。
「さあ、行こう」
「ああ……、……なんだ?」
声が聞こえた、名前を呼ばれたと思って振り返る。
しかし、よく考えてみれば、それはありえないことだった。
だって今、この場所には俺とロガしかいないいから。
――……。
すると再び声が聞こえた。
ただやはり、その声は何を言っているのか分からない。
声はどうやらロガの耳にも聞こえたようで怯えたロガと目が合った。
「え? レズリー、君なんか言った?」
「いや、俺は何も」
ロガは身体を震わせながら辺りを見渡す。
俺も同じように見渡すと、呪いの樹木が淡い光を放っているのがわかった。
口がパクパクと、俺たちは声にならない声を発した。
それとほぼ同時だった。
目の前にあるはずがない空間が生まれてそれは物凄い勢いで俺たちを飲み込もうとしている。
慌てて踵を返してその場から逃げようと走り出したが、遅かった。
地面に着いていた足は空中に浮き上がり、成すすべのなくその空間に飲み込まれていった。
ぐにゃんぐにゃんと歪む空間。
俺とロガは奇妙なそのトンネルの奥へと落ちていった。
徐に起き上がり、まだ眠いと主張する眼を、両手の甲の角で擦り無理やり眠気を追い払う。
辺りを見渡して、今いる現状を思い出そうと、ぼんやりした頭を揺り起こす。
「ああ、そうか俺、ウィルを探してて。いつの間にか寝ちまってたのか……くそっ」
オレンジ色に染まったその場所は、普段滅多に人は訪れない。
【気まぐれ魔女の呪いの樹木】と呼ばれる、見た目も妖しいその樹木が、いつからここに植わっていたのか、呪いの樹木なんて呼ばれるようになったのか、この小さな村に長年住み続ける長老たちですら分からないという。
夏と春には青々とした濃い緑、青、秋と冬には、赤、黄、ピンクと姿を変える、なんとも摩訶不思議な樹木だから、大人も子供も気味悪がるのも裏付ける。
今は秋だから、目の前には赤、黄、ピンクと葉の一枚一枚が交互に色づいている。
確かに不思議な樹木だが別段、気味が悪いとは思わない。寧ろ綺麗だなと感じでしまうほどだ。
自分は変わった奴だとわかっているから、その気持ちは密かに胸に秘めていた幼い頃、同い年の幼馴染みが、自分と同じ考えだと知ったとき、とても歓喜したのを覚えている。
感情を共有できたことだけでなく、長年片想いし続けてきた幼馴染みと共有できたことが、何よりも嬉しいと思った。
それからというもの、この【気まぐれ魔女の呪いの樹木】が立つ丘は、俺と幼馴染みの秘密の集いの場所になった。
――俺は幼馴染みであるウィリアム・ラージニアに恋をしている。
第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
完全な片想いだ。
年月が経つにつれて想い人はますます可愛くなっていき、元々奥手だった俺は想いを告げるどころか、日に日に募る想いに対処できずに、とうとうウィルに対して苛めという行動をとってしまう。
好きな子ほど苛めてしまうというのはこの事かと、頭を抱える日々が続いた。
挙句にもう一人の幼馴染み、ロガ・キュリアという男にからかわれ、苛めはエスカレート。
ついにはウィルに嫌われてしまうという最悪な状況になってしまったのだ。
ロガは俺がウィルに恋心を抱いていることを知っている。
良かれと思って口を滑らしたのが運の尽きだった。
結果は最悪、しかし俺はウィルと話すきっかけができたことに安堵もしていた。
今日は昨日のことを謝ろうと、学校が終わってすぐに、ウィルの教室を向かったのだが、一足遅かった。
クラスの同級生に尋ねると、ウィルは慌てた様子で鐘が鳴った瞬間に教室を出て行ったらしい。
後を追うように教室を出て、孤児院教会や、ウィルが行きそうな場所を手当たり次第に当たってみたが、何処にも見当たらなかった。
最後はこの丘に来てみたがやはり、ウィルの姿を見つけることはできなかった。
こんなに探して見つからないなんて、ウィルの身に何か起きたのかもしれないと一瞬思ったのだが、この小さな平和な村で一体どんな事件が起こるのかと思い直し、呪いの樹木に身体を預けてしばらく待っていようと思っているうちに眠りこけてしまったのだ。
もうすぐ日が暮れる時刻だ。
ウィルも、もしかしたらすでに入れ違いで孤児院に帰っているかもしれないと重い腰を上げたときだった。
誰かに名前を呼ばれた気がしてあたりを見渡した。
一瞬ウィルだと思って胸が高鳴ったが、違った。
あからさまにわかるほど肩を落とした。
「レズリー、こんなところで何してんの?」
「ロガ、ウィルを探してた」
「ウィルを?」
幼なじみのロガは見た目は軽そうなナンパ男に見えるが、意外と賢い。
すぐに俺の意図することを察したロガは、茶髪頭の後ろで腕を組んで言葉を続けた。
「もう夕方だから孤児院に戻ってるんじゃない? 行ってみる?」
「あ、あぁ~、別に明日でも」
ロガは俺の言葉に盛大にため息を吐いた。
わかってる。
わかってるさ。
だからそんな可哀想な奴を見るような目で俺を見るなよ。
腹立つから。
「レズリー、そんなんじゃ何時まで経っても想いは通じないよ?」
ロガの言っていることは正論だ。
このままでは一生先には進めない。
俺は高鳴る心臓を誤魔化すように拳を握った。
いい加減、覚悟を決めないとな。
「……やっぱり、行く」
「うん。オレも一緒について行ってやるからさ」
「また余計なこと言うなよ、ロガ」
「え? 余計なことって何のことかなぁ。覚えてないや~」
「……お前」
半眼で睨み、ロガの頭を叩こうと放った拳は、軽く交わされてしまう。
避けんなよ。
「さあ、行こう」
「ああ……、……なんだ?」
声が聞こえた、名前を呼ばれたと思って振り返る。
しかし、よく考えてみれば、それはありえないことだった。
だって今、この場所には俺とロガしかいないいから。
――……。
すると再び声が聞こえた。
ただやはり、その声は何を言っているのか分からない。
声はどうやらロガの耳にも聞こえたようで怯えたロガと目が合った。
「え? レズリー、君なんか言った?」
「いや、俺は何も」
ロガは身体を震わせながら辺りを見渡す。
俺も同じように見渡すと、呪いの樹木が淡い光を放っているのがわかった。
口がパクパクと、俺たちは声にならない声を発した。
それとほぼ同時だった。
目の前にあるはずがない空間が生まれてそれは物凄い勢いで俺たちを飲み込もうとしている。
慌てて踵を返してその場から逃げようと走り出したが、遅かった。
地面に着いていた足は空中に浮き上がり、成すすべのなくその空間に飲み込まれていった。
ぐにゃんぐにゃんと歪む空間。
俺とロガは奇妙なそのトンネルの奥へと落ちていった。
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