ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

文字の大きさ
31 / 77
第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜

奇妙な世界

しおりを挟む
 光に包まれる。
 背丈の長い草が生い茂る草原。
 すぐ傍には小川が流れていて、チロチロと水音を立てながら緩やかに水が流れている。
 柔らかな風が吹いて木々を揺らし、木の枝で身体を休めていた小鳥たちが風に乗って飛びだった。
 空はオレンジ色に染められ、空気は少し肌寒く感じるかもしれない。

「うっ、一体……何がどうなって……ここは……?」

 見慣れない風景が視界いっぱいに飛び込んできた。
 視界の端に見慣れた赤毛を見つけて、肩を揺さぶりながら声を掛ける。

「ロガ、おい」
「ん? あぁ、レズリー、おはよう~」

 欠伸して、何をのんきなことを言っているのかと、俺はロガの頭を軽く叩いた。
 今度は避けられまい。

「いってぇ、え? レズリー、ここ何処?」
「はぁ、知らねぇし、俺が聞きてぇよ」

 徐に立ち上がり、周囲を見回した。
 やはり、記憶にない場所だ、と目を合わせて、苦笑した。

 これからどうする、とロガが不安げな表情で俺に尋ねてきた。
 頭を掻きながら、小さく唸る。
 だから俺に聞くなよ。

「ひとまず、人のいる場所を探してみよう。いくら見知らぬ場所っつても、同じ地球なんだし、誰かに聞けば大丈夫だろ」
「まぁ、ね。あぁ、ここが地球なら、ね」
「は?」
「あくまで例え話だよ」
「地球じゃなかったら、何処なんだよ」
「知らないよ~。オレに聞かないでよ~」

 情けない声でロガは泣きながら応えた。
 俺はフン、と鼻を鳴らして、道なき道を歩き出した。
 その後をロガが慌ててついて来る。
 少し歩くと石畳の歩道が現れた。
 獣道からようやく離脱できて、少しだけ、ホッと胸を撫で下ろす。
 しかし、まだ人が住む町や民家は見当たらない。
 さて、この遊歩道の左右、どちらへ行くべきか。

「ここはやっぱり西の方角でしょう。太陽を正面に突き進むんだ」
「なんだよ、やけに自信満々じゃん。なにか決定的な理由が?」
「いやなにも。なんとなくだよ」
「適当かよ」
「まあまあ、とにかく進まなきゃ。もうじき夜になるだろうし。でもまあ、今夜は野宿かな」
「それは御免だがな」

 言いながら、俺たちは西の方角へと足を向けて歩き出した。
 時折、木々に生っている木の実を口に運びながら周辺の警戒も怠らない。
 人口歩道を歩いていれば一人ぐらいすれ違うだろう、という考えはどうやら甘かったようだ。
 誰一人擦れ違うことはなく、寧ろ、人よりも奇妙な生き物の方が遭遇率が高かった。
 ゆったりとした足取りで周辺を見て思ったことは、ココには見たことのない奇妙な生き物が存在しているということだった。
 明らかに地球には存在しない生き物。
 これは動物なのか、はたまたゲームで言うところのモンスターという存在なのかは定かではないが、その奇妙な生き物を見つけるたびにロガが道を外してしまいそうになるのを何度も引き止めての繰り返しだ。

「ロガ、いい加減にしろっ」
「えぇ~、すっごい気になるよ、あの変な生き物」

 喚き合いながら、俺とロガは人のいる場所を目指して歩き続けた。
 しばらくすると、ほんのりと明るい景観が目の前に飛び込んできた。
 ようやく終点が見えてきたようだ。

「レズリー、あれって!」
「あぁ、やっと着いた。街だ!」

 嬉しさのあまり、俺たちは疲れも忘れて街の光に向かって駆け出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

処理中です...