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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
業火に焼かれる街
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フッ、と意識が浮上する。
バタバタとした騒々しい足音。
つんざく悲鳴が眠りの底から覚醒させた。
はっとして、おぼろげな意識の中、違和感と緊張感が胸を襲った。
俺はすぐ隣で寝ているロガの肩を揺すった。
「ロガ、起きろ」
「……ん~? なに、もう朝?」
「何寝ぼけてんだよ! なんか、外の様子が変なんだ。見に行くからお前もついて来い!」
「ええ~、一人で行ってきなよ~」
「いいから来い!」
眠たそうに手の甲で目を擦るロガの腕を引いて、俺は窓から外の様子を伺った。
俺は自分の目を疑った。
「なんだよ、これ。街がめちゃくちゃじゃねえかよっ」
「どうしよう、ヤバイよ、これっ」
眠そうにしていたロガも、街の惨状を目の当たりにして一気に眠気も吹き飛んだようだ。
四角い窓から覗いた街は教会に入る前に見た綺麗な景観とは打って変わって、植え込みの木々はなぎ倒され、その一部は炎によって燃やされ黒くなっている。
白塗りの家屋といった建物も破壊され、中には完全に倒壊してしまった家も見えた。
火を放たれて轟々と赤い炎に包まれている家々も確認ができた。人々が子供や恋人、家族を庇いながら逃げ惑っている。
人々が一定の方向へ逃げるそれを追いかけるのは異形の存在だった。
牙の覗く裂けた口から吐き出されるのは真っ赤な炎。
四足歩行の足の先には鋭い爪が地面を抉る様に突き立てられ、空気が震えるような咆哮を鳴らしていた。
いよいよ、俺たちはとんでもないところへ来てしまったと後悔が募る。
ただここに至るまでほぼ強制的だったからどう足掻こうとどうすることもできなかったのだけど。
ついてねぇ。
俺とロガは顔を見合わせた。
「「どうする?」」
声が綺麗には重なった。
そして頭を抱える。
どうする。
どうすればいい。
胸中で押し問答を繰り返していると、窓の外からけたたましい爆音が聞こえて、思わず顔を顰めた。
「火が家屋を! 急ぎ火を消せ!」
「水の精霊よ。その清らかな清流をもってあらぶる炎を静めよ」
地中より湧き出た水が束となり、まるで生き物のように激しい炎に向かって包み込むように消火していく。
その光景を目の当たりにした俺とロガは驚愕に目を見開いた。
「ロガ、今のって」
「あ、ああ、ま、ま……魔法ってやつ?」
ちょっと、頬っぺた借りるぞ、と言いながら、俺はロガの返事を待たずしてその頬を思い切りつねった。
痛みに顔を歪めるロガを尻目に、俺は真剣な表情で「夢じゃない」と認識したのだった。
「つねるなら自分の頬っぺたつねってよぉ~!」
そんなロガの抗議の声も、今の俺には霞が掛かったような音声にしか聞こえなかった。
これは夢じゃなくて現実で、自分たちの世界に帰るにはどうすればいいのか。
俺は混乱した頭で必死に考えるが無意味だった。
――まだ、あいつに想いも伝えてないのに……こんなところで終わっちまうのか?
脳裏に浮かぶのは想い人の後ろ姿。
自分よりも前を歩く彼に、声を掛けようと手を伸ばす。
しかし、伸ばしても、追いかけても触れることができない。
悲しみが俺の胸に降り積もる。
そのとき、脳裏で再生されていた声が聞こえた気がした。
まさか、こんなところにいるはずがないと思いつつも、少しの期待を膨らませて再び窓から外へ視線を向けた。
「君、大丈夫かい。今、回復を!」
思わず眉間に皺が寄る。
嬉しさと、どうしてこんなところにという困惑とが入り混じった複雑な感情。
それでもやはり、嬉しさが増していた。
当然だろう。
「ウィル!」
「え! ウィルってウィリアムのこと?」
「ああ、間違いない。ウィルだ。なんだよ、こんなところにいたのかよ、あいつッ」
「レズリー」
目の奥の熱を押さえて俺は立ち上がる。
「ウィルのところに行くぞ」
「うん。この状況を説明してもらわないとね」
「ああ!」
俺とロガは教会の飛び出し、ウィルを目指して混乱と殺伐とした街へその身を投じた。
バタバタとした騒々しい足音。
つんざく悲鳴が眠りの底から覚醒させた。
はっとして、おぼろげな意識の中、違和感と緊張感が胸を襲った。
俺はすぐ隣で寝ているロガの肩を揺すった。
「ロガ、起きろ」
「……ん~? なに、もう朝?」
「何寝ぼけてんだよ! なんか、外の様子が変なんだ。見に行くからお前もついて来い!」
「ええ~、一人で行ってきなよ~」
「いいから来い!」
眠たそうに手の甲で目を擦るロガの腕を引いて、俺は窓から外の様子を伺った。
俺は自分の目を疑った。
「なんだよ、これ。街がめちゃくちゃじゃねえかよっ」
「どうしよう、ヤバイよ、これっ」
眠そうにしていたロガも、街の惨状を目の当たりにして一気に眠気も吹き飛んだようだ。
四角い窓から覗いた街は教会に入る前に見た綺麗な景観とは打って変わって、植え込みの木々はなぎ倒され、その一部は炎によって燃やされ黒くなっている。
白塗りの家屋といった建物も破壊され、中には完全に倒壊してしまった家も見えた。
火を放たれて轟々と赤い炎に包まれている家々も確認ができた。人々が子供や恋人、家族を庇いながら逃げ惑っている。
人々が一定の方向へ逃げるそれを追いかけるのは異形の存在だった。
牙の覗く裂けた口から吐き出されるのは真っ赤な炎。
四足歩行の足の先には鋭い爪が地面を抉る様に突き立てられ、空気が震えるような咆哮を鳴らしていた。
いよいよ、俺たちはとんでもないところへ来てしまったと後悔が募る。
ただここに至るまでほぼ強制的だったからどう足掻こうとどうすることもできなかったのだけど。
ついてねぇ。
俺とロガは顔を見合わせた。
「「どうする?」」
声が綺麗には重なった。
そして頭を抱える。
どうする。
どうすればいい。
胸中で押し問答を繰り返していると、窓の外からけたたましい爆音が聞こえて、思わず顔を顰めた。
「火が家屋を! 急ぎ火を消せ!」
「水の精霊よ。その清らかな清流をもってあらぶる炎を静めよ」
地中より湧き出た水が束となり、まるで生き物のように激しい炎に向かって包み込むように消火していく。
その光景を目の当たりにした俺とロガは驚愕に目を見開いた。
「ロガ、今のって」
「あ、ああ、ま、ま……魔法ってやつ?」
ちょっと、頬っぺた借りるぞ、と言いながら、俺はロガの返事を待たずしてその頬を思い切りつねった。
痛みに顔を歪めるロガを尻目に、俺は真剣な表情で「夢じゃない」と認識したのだった。
「つねるなら自分の頬っぺたつねってよぉ~!」
そんなロガの抗議の声も、今の俺には霞が掛かったような音声にしか聞こえなかった。
これは夢じゃなくて現実で、自分たちの世界に帰るにはどうすればいいのか。
俺は混乱した頭で必死に考えるが無意味だった。
――まだ、あいつに想いも伝えてないのに……こんなところで終わっちまうのか?
脳裏に浮かぶのは想い人の後ろ姿。
自分よりも前を歩く彼に、声を掛けようと手を伸ばす。
しかし、伸ばしても、追いかけても触れることができない。
悲しみが俺の胸に降り積もる。
そのとき、脳裏で再生されていた声が聞こえた気がした。
まさか、こんなところにいるはずがないと思いつつも、少しの期待を膨らませて再び窓から外へ視線を向けた。
「君、大丈夫かい。今、回復を!」
思わず眉間に皺が寄る。
嬉しさと、どうしてこんなところにという困惑とが入り混じった複雑な感情。
それでもやはり、嬉しさが増していた。
当然だろう。
「ウィル!」
「え! ウィルってウィリアムのこと?」
「ああ、間違いない。ウィルだ。なんだよ、こんなところにいたのかよ、あいつッ」
「レズリー」
目の奥の熱を押さえて俺は立ち上がる。
「ウィルのところに行くぞ」
「うん。この状況を説明してもらわないとね」
「ああ!」
俺とロガは教会の飛び出し、ウィルを目指して混乱と殺伐とした街へその身を投じた。
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