ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜

異国の地での再会

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 ウィルは両手をクロスするように組み、祈りを捧げる。

「水の精霊よ。星のしずくとなりて傷を癒せ」

 空中に飛来した小さな人の形をした生き物が蒔いた星のしずく。
 それが螺旋を描くように下りると負傷した街の兵士に降り注ぐ。
 すると傷がみるみる塞がっていき、一際明るく光ったと思えば、傷口は完全に塞がっていて、兵士の荒々しい息遣いは落ち着きを取り戻し、起き上がるまで回復した。

「ウィルさん、ありがとうございます。助かりました」

 ウィルは頷き、微笑んだ。

「でも余り無理はしないで。僕は傷を塞いだだけで、流れた血を元に戻すことはできないからね」

 兵士は頷いた。
 兵士は少しふらつきはしたものの礼を述べて敬礼のポーズを行うと、すぐさま自分の持ち場へと走り去って行った。
 傷を負ったのは彼一人だけではない。
 ウィルは次の負傷者の元へ向かう。
 どの兵士たちも酷い手傷を負っていた。

「しっかり! すぐに傷を塞ぐから」

 再び祈りを捧げるウィルに大きな影が被さった。
 ズシンッと大地を振るわせる。

「しまっ――」
「――ウィル!」

 身体が宙を飛んだ。
 先ほどまで自分が立っていた位置を大きな爪が抉り取っていた。
 もう少し遅ければウィルの身体にも穴が開く所だった。
 誰が助けてくれたのか。
 横目で自分を抱き抱えている人物を見つめた。
 金髪の癖っ毛で、いくら櫛で整えても跳ねてしまうらしい。
 その精悍な横顔は何度も見慣れたものだった。

「――レズリー?!」
「ぼさっと突っ立ってるなよ、ウィル!」

 半泣き状態で「オレもいるからね~」と ひょっこり手を挙げながらロガも姿を現した。

「二人ともどうしてこんなところに……いや、今は負傷者の手当てが先だ。レズリー、ロガ、君たちも一緒に手伝ってくれ。人手が必要なんだ」
「あとで説明しろよな」
「うん、ありがとう」

 ウィルの声を遮るように魔物の咆哮が空気を振動させた。

「ウィル! もう君って子は、先に飛び出して。怪我は?! 大丈夫なのかい?!」
「アル! ああ、僕は大丈夫だよ」
「ん? そちらのおふた方は、見かけない顔だが」

 アルは警戒心を露わに、俺とロガを牽制する。
 負けじと俺もアルを睨み返し、ロガは手を口に当てて、状況が飲み込めず口をあわあわと震わせて動揺していた。
 先に声を上げたのはロガだった。

「あ、あ、アルマジロが……服着て、喋ってる!」
「服を着るのは当たり前じゃないか。アルマジロが喋るのがそんなに不思議かい?」
「まあ、普通は喋らないよね」
「……そうなの?」

 脱線した会話を元に戻すべく、ウィルは一度だけ両手平を打ち鳴らした。
 効果覿面こうかてきめんでザワザワしていたその場の雰囲気が一瞬で落ち着いた。
 孤児院出身で血が繋がっていなくて大家族で暮らしているウィルにとって、その場を静めるのには慣れているようだ。
 男だが母性に溢れている。

「とにかく! 今はこの現状を元に戻すこと。負傷者の救出。それから可能なら魔物の排除もだ。このままじゃ街がめちゃくちゃだよ」
「ウィルの言うとおりだ。今は疑っていがみ合ってる時じゃない。君たちが何者かは知らない。けれど、どうか、力を貸して欲しい。このとおりだ」

 アルというアルマジロは俺とロガに深く頭を下げた。
 一瞬、後ずさったが思い直し、力強く頷いた。
 ウィルの言うとおり、ここで妖しいだの、仲間割れ云々言っている場合じゃない。
 この戦場のような場所に立っている俺たちも危険が及んだら、助ける以前の問題が起こってしまう。
 ウィルの手前、良い所も見せたいという下心もあったりするが。

「俺たちは何をすればいい」

 俺たちはアルの指示に従い、街の住民たちの救助に向かった。
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