34 / 77
第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
異国の地での再会
しおりを挟む
ウィルは両手をクロスするように組み、祈りを捧げる。
「水の精霊よ。星のしずくとなりて傷を癒せ」
空中に飛来した小さな人の形をした生き物が蒔いた星のしずく。
それが螺旋を描くように下りると負傷した街の兵士に降り注ぐ。
すると傷がみるみる塞がっていき、一際明るく光ったと思えば、傷口は完全に塞がっていて、兵士の荒々しい息遣いは落ち着きを取り戻し、起き上がるまで回復した。
「ウィルさん、ありがとうございます。助かりました」
ウィルは頷き、微笑んだ。
「でも余り無理はしないで。僕は傷を塞いだだけで、流れた血を元に戻すことはできないからね」
兵士は頷いた。
兵士は少しふらつきはしたものの礼を述べて敬礼のポーズを行うと、すぐさま自分の持ち場へと走り去って行った。
傷を負ったのは彼一人だけではない。
ウィルは次の負傷者の元へ向かう。
どの兵士たちも酷い手傷を負っていた。
「しっかり! すぐに傷を塞ぐから」
再び祈りを捧げるウィルに大きな影が被さった。
ズシンッと大地を振るわせる。
「しまっ――」
「――ウィル!」
身体が宙を飛んだ。
先ほどまで自分が立っていた位置を大きな爪が抉り取っていた。
もう少し遅ければウィルの身体にも穴が開く所だった。
誰が助けてくれたのか。
横目で自分を抱き抱えている人物を見つめた。
金髪の癖っ毛で、いくら櫛で整えても跳ねてしまうらしい。
その精悍な横顔は何度も見慣れたものだった。
「――レズリー?!」
「ぼさっと突っ立ってるなよ、ウィル!」
半泣き状態で「オレもいるからね~」と ひょっこり手を挙げながらロガも姿を現した。
「二人ともどうしてこんなところに……いや、今は負傷者の手当てが先だ。レズリー、ロガ、君たちも一緒に手伝ってくれ。人手が必要なんだ」
「あとで説明しろよな」
「うん、ありがとう」
ウィルの声を遮るように魔物の咆哮が空気を振動させた。
「ウィル! もう君って子は、先に飛び出して。怪我は?! 大丈夫なのかい?!」
「アル! ああ、僕は大丈夫だよ」
「ん? そちらのおふた方は、見かけない顔だが」
アルは警戒心を露わに、俺とロガを牽制する。
負けじと俺もアルを睨み返し、ロガは手を口に当てて、状況が飲み込めず口をあわあわと震わせて動揺していた。
先に声を上げたのはロガだった。
「あ、あ、アルマジロが……服着て、喋ってる!」
「服を着るのは当たり前じゃないか。アルマジロが喋るのがそんなに不思議かい?」
「まあ、普通は喋らないよね」
「……そうなの?」
脱線した会話を元に戻すべく、ウィルは一度だけ両手平を打ち鳴らした。
効果覿面でザワザワしていたその場の雰囲気が一瞬で落ち着いた。
孤児院出身で血が繋がっていなくて大家族で暮らしているウィルにとって、その場を静めるのには慣れているようだ。
男だが母性に溢れている。
「とにかく! 今はこの現状を元に戻すこと。負傷者の救出。それから可能なら魔物の排除もだ。このままじゃ街がめちゃくちゃだよ」
「ウィルの言うとおりだ。今は疑っていがみ合ってる時じゃない。君たちが何者かは知らない。けれど、どうか、力を貸して欲しい。このとおりだ」
アルというアルマジロは俺とロガに深く頭を下げた。
一瞬、後ずさったが思い直し、力強く頷いた。
ウィルの言うとおり、ここで妖しいだの、仲間割れ云々言っている場合じゃない。
この戦場のような場所に立っている俺たちも危険が及んだら、助ける以前の問題が起こってしまう。
ウィルの手前、良い所も見せたいという下心もあったりするが。
「俺たちは何をすればいい」
俺たちはアルの指示に従い、街の住民たちの救助に向かった。
「水の精霊よ。星のしずくとなりて傷を癒せ」
空中に飛来した小さな人の形をした生き物が蒔いた星のしずく。
それが螺旋を描くように下りると負傷した街の兵士に降り注ぐ。
すると傷がみるみる塞がっていき、一際明るく光ったと思えば、傷口は完全に塞がっていて、兵士の荒々しい息遣いは落ち着きを取り戻し、起き上がるまで回復した。
「ウィルさん、ありがとうございます。助かりました」
ウィルは頷き、微笑んだ。
「でも余り無理はしないで。僕は傷を塞いだだけで、流れた血を元に戻すことはできないからね」
兵士は頷いた。
兵士は少しふらつきはしたものの礼を述べて敬礼のポーズを行うと、すぐさま自分の持ち場へと走り去って行った。
傷を負ったのは彼一人だけではない。
ウィルは次の負傷者の元へ向かう。
どの兵士たちも酷い手傷を負っていた。
「しっかり! すぐに傷を塞ぐから」
再び祈りを捧げるウィルに大きな影が被さった。
ズシンッと大地を振るわせる。
「しまっ――」
「――ウィル!」
身体が宙を飛んだ。
先ほどまで自分が立っていた位置を大きな爪が抉り取っていた。
もう少し遅ければウィルの身体にも穴が開く所だった。
誰が助けてくれたのか。
横目で自分を抱き抱えている人物を見つめた。
金髪の癖っ毛で、いくら櫛で整えても跳ねてしまうらしい。
その精悍な横顔は何度も見慣れたものだった。
「――レズリー?!」
「ぼさっと突っ立ってるなよ、ウィル!」
半泣き状態で「オレもいるからね~」と ひょっこり手を挙げながらロガも姿を現した。
「二人ともどうしてこんなところに……いや、今は負傷者の手当てが先だ。レズリー、ロガ、君たちも一緒に手伝ってくれ。人手が必要なんだ」
「あとで説明しろよな」
「うん、ありがとう」
ウィルの声を遮るように魔物の咆哮が空気を振動させた。
「ウィル! もう君って子は、先に飛び出して。怪我は?! 大丈夫なのかい?!」
「アル! ああ、僕は大丈夫だよ」
「ん? そちらのおふた方は、見かけない顔だが」
アルは警戒心を露わに、俺とロガを牽制する。
負けじと俺もアルを睨み返し、ロガは手を口に当てて、状況が飲み込めず口をあわあわと震わせて動揺していた。
先に声を上げたのはロガだった。
「あ、あ、アルマジロが……服着て、喋ってる!」
「服を着るのは当たり前じゃないか。アルマジロが喋るのがそんなに不思議かい?」
「まあ、普通は喋らないよね」
「……そうなの?」
脱線した会話を元に戻すべく、ウィルは一度だけ両手平を打ち鳴らした。
効果覿面でザワザワしていたその場の雰囲気が一瞬で落ち着いた。
孤児院出身で血が繋がっていなくて大家族で暮らしているウィルにとって、その場を静めるのには慣れているようだ。
男だが母性に溢れている。
「とにかく! 今はこの現状を元に戻すこと。負傷者の救出。それから可能なら魔物の排除もだ。このままじゃ街がめちゃくちゃだよ」
「ウィルの言うとおりだ。今は疑っていがみ合ってる時じゃない。君たちが何者かは知らない。けれど、どうか、力を貸して欲しい。このとおりだ」
アルというアルマジロは俺とロガに深く頭を下げた。
一瞬、後ずさったが思い直し、力強く頷いた。
ウィルの言うとおり、ここで妖しいだの、仲間割れ云々言っている場合じゃない。
この戦場のような場所に立っている俺たちも危険が及んだら、助ける以前の問題が起こってしまう。
ウィルの手前、良い所も見せたいという下心もあったりするが。
「俺たちは何をすればいい」
俺たちはアルの指示に従い、街の住民たちの救助に向かった。
0
あなたにおすすめの小説
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?
cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき)
ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。
「そうだ、バイトをしよう!」
一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。
教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった!
なんで元カレがここにいるんだよ!
俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。
「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」
「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」
なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ!
もう一度期待したら、また傷つく?
あの時、俺たちが別れた本当の理由は──?
「そろそろ我慢の限界かも」
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
異世界で孵化したので全力で推しを守ります
のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着スパダリ×人外BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる