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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
長い夜の始まり
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「水の精霊よ、星のしずくとなりて傷を癒せ」
ウィルが紡いだ言葉の後、一欠けらのしずくが兵士に降り注ぎ痛々しかった傷が修復されていく。
それを見ていた俺とロガはため息を零した。
この世界に来てからため息ばかりが付いて出る。
「ウィル、本当に魔法とやらが使えるんだな。すげぇよ」
ウィルは自嘲気味に頭を横に振った。
「簡単な初期の魔法だよ。他の魔法使いやマジックナイトたちはもっと強力な魔法を扱えるんだ」
「マジックナイト、ってあいつらのことだよな」
目配せで凶暴な火トカゲドラゴンを相手している彼らを指した。
「氷の精霊よ、無数の雹となりて敵を貫け!」
生まれた無数の雹が火トカゲドラゴンめがけて降り注ぐ。
ドラゴンの鋼鉄の皮膚をも貫き、確実に敵を追い詰めていく。
一人のマジックナイトが自らの剣に魔力を込める。
剣は淡く光輝く、薄暗かった街を明るく照らした。
「魔法剣、アイスエッジ!」
魔法剣。
剣と魔法を同時に繰り出す高等剣技術。
剣に魔法を纏わせれば通常の二倍の威力を発揮することができる。
彼らがマジックナイトと呼ばれる由縁である。
「でも一体、なぜ街に魔物が入り込んでしまったんだろう。この街はアルの掛けた強力な結界が張られているのに……まさかまた夜の者の仕業なのか」
遠くでドラゴンの最後の咆哮が聞こえた。
その瞬間、ウィルの表情が強張ったように見えて思わずじっと見つめてしまう。
「ウィル?」
「ごめん、何でも――」
『あら、私の可愛いドラゴンちゃんをよく倒してくれたわね、人間ども』
声は少女のものだった。
その姿を確認しようと辺りを見渡したが見つけられない。
声だけが空にこだまする。
『ふふ、まあ、いいわ。でも次はそうは行かない。楽しみに待っててね、ウィリアムちゃん』
少女と思わしき声はウィルの名前をフルネームで名指しして、笑い声を残像のようにこだまさせて次第に聞こえなくなった。
一体何者なのか、俺には何故ウィルの身体が震えているのかわからなかった。
理由はわからない。
それでも今のウィルに寄り添いたくて俺はそっとその細い肩を抱いた。
「ウィル、大丈夫か」
「……レズリー、夜の者は危険だ。どうして、この世界に来てしまったんだい?」
今にも泣き出しそうな顔だ。
俺はウィルのこの顔が苦手だ。
泣いて欲しくなんてないのに。
その後、少女の声は完全に聞こえなくなった。
どうやら魔法による音声配信によるものらしいと、アルマジロのアルは言った。
声だけを目的の場所に届けるという魔法だそうだ。
ピンポイントに声を送ることは高度な魔法技術が必要になるらしいが、いまいちピンと来ない。
とにかく、ウィルが怯えるほどの存在はとんでもない脅威であるということだけは理解できた。
ウィルの肩を抱いている手に力を込めて、さらに引き寄せた。ウィルは少し驚いたように俺を見つめていたけど、気付かない振りをしていたら身体のこわばりが抜けて、ウィルの方から頭を傾けてきた。
心臓が煩いくらい早鐘を打った。
きっと背後ではロガの奴がニヤニヤとした顔で笑っていることだろう。
気配で感じた。
なんとなく、後で殴っておこう。
「ウィル、後のことはマジックナイトたちに一任しよう。一旦は私の家へ。彼らにも説明しなくては。彼らがどうやってこちら側へやってきたのかも。お茶とお菓子を飲み食いしながら、ね」
俺の肩に頭を預けていたウィルは少し慌てた様子で身体を離して微笑み頷いた。
温かなぬくもりが離れて少しだけ残念に思った。
チラリと横を見ると、やはりロガのやつはニヤニヤ笑っていたので、とりあえず頬をつねっておいた。
全長約三十センチほどのアルマジロが、俺とロガのほうへ向き直る。
両手を腰の当たりに当てて胸を張った。
「聞いての通り、二人とも私についてきてくれ。離れてしまうと迷子になるよ」
隣のロガに目配せして「わかった」と返事をすると、アルとウィルの後をゆっくり歩き出した。
空はオレンジから薄っすらと星が見える夜空へと移り変わろうとしていた。
時間軸はまだよくわからないが、最後に見た丘から見えた空も同じ空の色をしていたな、などど頭の片隅に思いながら、今夜は長くなりそうだと直感でそう感じた。
ウィルが紡いだ言葉の後、一欠けらのしずくが兵士に降り注ぎ痛々しかった傷が修復されていく。
それを見ていた俺とロガはため息を零した。
この世界に来てからため息ばかりが付いて出る。
「ウィル、本当に魔法とやらが使えるんだな。すげぇよ」
ウィルは自嘲気味に頭を横に振った。
「簡単な初期の魔法だよ。他の魔法使いやマジックナイトたちはもっと強力な魔法を扱えるんだ」
「マジックナイト、ってあいつらのことだよな」
目配せで凶暴な火トカゲドラゴンを相手している彼らを指した。
「氷の精霊よ、無数の雹となりて敵を貫け!」
生まれた無数の雹が火トカゲドラゴンめがけて降り注ぐ。
ドラゴンの鋼鉄の皮膚をも貫き、確実に敵を追い詰めていく。
一人のマジックナイトが自らの剣に魔力を込める。
剣は淡く光輝く、薄暗かった街を明るく照らした。
「魔法剣、アイスエッジ!」
魔法剣。
剣と魔法を同時に繰り出す高等剣技術。
剣に魔法を纏わせれば通常の二倍の威力を発揮することができる。
彼らがマジックナイトと呼ばれる由縁である。
「でも一体、なぜ街に魔物が入り込んでしまったんだろう。この街はアルの掛けた強力な結界が張られているのに……まさかまた夜の者の仕業なのか」
遠くでドラゴンの最後の咆哮が聞こえた。
その瞬間、ウィルの表情が強張ったように見えて思わずじっと見つめてしまう。
「ウィル?」
「ごめん、何でも――」
『あら、私の可愛いドラゴンちゃんをよく倒してくれたわね、人間ども』
声は少女のものだった。
その姿を確認しようと辺りを見渡したが見つけられない。
声だけが空にこだまする。
『ふふ、まあ、いいわ。でも次はそうは行かない。楽しみに待っててね、ウィリアムちゃん』
少女と思わしき声はウィルの名前をフルネームで名指しして、笑い声を残像のようにこだまさせて次第に聞こえなくなった。
一体何者なのか、俺には何故ウィルの身体が震えているのかわからなかった。
理由はわからない。
それでも今のウィルに寄り添いたくて俺はそっとその細い肩を抱いた。
「ウィル、大丈夫か」
「……レズリー、夜の者は危険だ。どうして、この世界に来てしまったんだい?」
今にも泣き出しそうな顔だ。
俺はウィルのこの顔が苦手だ。
泣いて欲しくなんてないのに。
その後、少女の声は完全に聞こえなくなった。
どうやら魔法による音声配信によるものらしいと、アルマジロのアルは言った。
声だけを目的の場所に届けるという魔法だそうだ。
ピンポイントに声を送ることは高度な魔法技術が必要になるらしいが、いまいちピンと来ない。
とにかく、ウィルが怯えるほどの存在はとんでもない脅威であるということだけは理解できた。
ウィルの肩を抱いている手に力を込めて、さらに引き寄せた。ウィルは少し驚いたように俺を見つめていたけど、気付かない振りをしていたら身体のこわばりが抜けて、ウィルの方から頭を傾けてきた。
心臓が煩いくらい早鐘を打った。
きっと背後ではロガの奴がニヤニヤとした顔で笑っていることだろう。
気配で感じた。
なんとなく、後で殴っておこう。
「ウィル、後のことはマジックナイトたちに一任しよう。一旦は私の家へ。彼らにも説明しなくては。彼らがどうやってこちら側へやってきたのかも。お茶とお菓子を飲み食いしながら、ね」
俺の肩に頭を預けていたウィルは少し慌てた様子で身体を離して微笑み頷いた。
温かなぬくもりが離れて少しだけ残念に思った。
チラリと横を見ると、やはりロガのやつはニヤニヤ笑っていたので、とりあえず頬をつねっておいた。
全長約三十センチほどのアルマジロが、俺とロガのほうへ向き直る。
両手を腰の当たりに当てて胸を張った。
「聞いての通り、二人とも私についてきてくれ。離れてしまうと迷子になるよ」
隣のロガに目配せして「わかった」と返事をすると、アルとウィルの後をゆっくり歩き出した。
空はオレンジから薄っすらと星が見える夜空へと移り変わろうとしていた。
時間軸はまだよくわからないが、最後に見た丘から見えた空も同じ空の色をしていたな、などど頭の片隅に思いながら、今夜は長くなりそうだと直感でそう感じた。
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