ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜

威力絶大! 大魔法の脅威

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 ヴィルゴの号令に全員が声を揃え、戦闘態勢に身構えた。
 完全に完治していないヴィルゴの大きな口から吐き出された灼熱の炎が、俺たちとメルキドの中央で激しく燃え盛る。
 小さく呻く声を聞き、上空を飛来していたメルキドが退避のするために地上へと降り立った。すぐさま防御結界を解除したアルが新たな術式構築に移行する。全員が各々の役割を全うするために動き出した。
 ロガはすばやく岩陰に隠れた。いつも通りだ。
 メルキドは氷と大地の牙を持って襲い来る。
 先手は俺が前に出た。メルキドの注意を引き、手負いのヴィルゴが背後を取るまでの間、残り僅かしかない魔力をギリギリまで消耗して魔法剣で応戦する。
 かなり苦戦を強いられる。俺にとっては始めての戦闘。ここまで震えずに剣を振るえるのはやはり、師匠であるカルスのお陰と言えた。
 ウィルの盾の魔法が発動した。これでさらに戦いを持続させることができる。
 アルは同時に二つの魔法構築に取り掛かっていた。表向きは一つに見える。策略を気付かれない、ある程度の高レベルの攻撃魔法を構築し、メルキドに浴びせつつ、最後の切り札となる魔法構築も同時に組み上げていく。ただ、この構築には時間が掛かるらしい。
 大魔法と呼ばれる究極術式で、通常の構築術式を幾重にも重ね合わせ、そこからさらに組み替えていくのだそうだ。バラバラの道筋を一本の真っ直ぐな道にするかのように。
 これらの道が一つになるとき、大魔法は完成し、発動させることができるのだ。
 しかし、大魔法には欠点がある。余りにも凄まじい力のために、その破壊力は想像を超えるものらしい。
 アルは一度だけ、大魔法を発動させたことがあった。そのときはこの世界の地図上から島が一つ消滅したらしい。それ以降、大魔法は禁術として封印していたらしいのだが。
 しかし今回は、ドラゴンロード・ヴィルゴがその力を制御する鍵となるため、アルは発動に踏み切ったのだ。
 ヴィルゴも大魔法を扱うことができるという。単純な話だが、大魔法には大魔法で応戦するしかない。つまりは、メルキド同様、大魔法と大魔法をぶつけて相殺、消滅させるということ。
 作戦を聞いただけで、時限が違いすぎて、俺にはどうにも不安しかないが、今はそれに賭けるしかない、と判断した結果だった。
 何より、ウィルはこの二人、いや、二匹を「大丈夫だよ」と心の底から信じているのだから、仕方ない。
 俺がそれを否定することはないし、ウィルが信じるなら俺も信じる。それだけだ。
 上空へと飛来するヴィルゴも、大魔法の構築詠唱を開始した。凄まじい魔力が上空のある一点に集約していくのをビリビリと感じる。当然、メルキドもその膨大な魔力に気付いた。だが、それを俺とウィル、アルの二人と一匹で必死に妨げる。
 メルキドの表情に焦りの色が窺えた。さすがの夜の者でも大魔法を喰らえばただでは済まないということが確定した瞬間でもあった。
 そのとき。

「ウィル! レズリー! 待たせたね!」

 アルのその言葉の意味を理解し、瞬時にその場から離脱する。ウィルが再び盾の魔法を発動させた。俺とウィルと岩陰に隠れているロガの身体周辺に透明な膜が張り巡らされる。

「全てを無へと転換せよっ! 大魔法・ラグナ・カタストロフィ!」

 霊峰ケツァルコルク山を中心とした地上に巨大な赤黒く光を帯びる魔法陣が出現した。幾重にも連なる五亡星と古の言葉が綴られた魔法陣は見ているだけで、背中に冷や汗が伝うほど禍々しいものだった。
 中央へ魔力が集約していき、その膨大な魔力の塊が一気に放出。円周を熱波と光の大爆発が起こり、全てを飲み込むように焼き尽くされていく。

「ぎっ、あ゛ぁっ!」

 メルキドの苦痛の叫びが爆発音に飲み込まれていく。
 尚も広がる大爆発は盾で守られた俺たちにも及ぼうとしていた。そのとき。
 上空より、光が降り注ぐ。

『邪なる力よ退け、大魔法・ホーリィ・テンペスト!』

 アルの魔法陣とは異なり、ヴィルゴの魔法陣は白と青を基調とした美しい五亡星だった。見た目は美しいがその威力は凄まじく、アルの発動させた大魔法を一瞬にして相殺、消滅させた。
 しかしその衝撃は霊峰を、俺たちを吹き飛ばすほどの衝撃を与えた。俺はウィルの身体を抱き締めて飛ばされないように耐えた。ウィルも俺の身体に必死にしがみつく。
 すると、あれほど凄まじい衝撃波が一瞬で凪いだ。何故と思い閉じていた瞼を開けると、白銀の美しい髪をたなびかせた、一人の長身の男が俺たちを守るように立っていた。
 ウィルが「ジーク!」と叫んだ。
 誰だよ、それ! と胸中で叫んだ。どうやらこの目の前にいるジークとやらが、寸でのところで防御魔法を発動させたようだ。遠くに騒がしく喚き散らしているロガの無事も確認できた。
 悔しいが、その男、ジークはとてつもない魔法使いなのだと思わざるを得なかった。
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