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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
マジックナイト レズリー・バークス
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ようやく緊張状態から開放され、俺たちは顔を見合わせ、微笑を浮かべた。
俺の上に巨大な影が覆った。
『見事だった。勇敢なる者たちよ』
「ヴィルゴ様、お怪我は?」
『大事ない。これしきのことで、くたばりはしない。ジークよ、久しいな。神魔大戦以来か』
心配をするアルもとい、ジークは心痛な面持ちでヴィルゴを見上げた。昔を思い出したのか、苦笑を浮かべている。
ヴィルゴの傷は深く、出血は止まっているようだが、見るからに痛々しいその傷に俺も、ウィルも、ロガも、アルと同様に顔を顰めた。徐にウィルがヴィルゴに近づき、癒しの言葉を紡いだ。水のしずくがヴィルゴの傷を癒していく。だがやはり、完全な完治には時間が掛かるようだ。
不意にヴィルゴの視線に捕らえられ、俺は反射的に膝を付き、頭を下げた。
『お前はマジックナイトだな』
「はい。レズリー・バークスといいます。まだ見習いですが、マジックナイト・カルス・フィートの元、今日まで鍛錬を続けてきました。そして今日は、最終試練に挑むためにここへとやってきました。ドラゴンロード・ヴィルゴ様。俺に最終試練をお与えください。俺は、どうしてもマジックナイトなりたいんです」
俺は言葉の最後、ジッとヴィルゴの瞳を見据えてそう決意を表した。
大切な人を、ウィルを守るために、マジックナイトになる。俺の決心は数ヶ月数ヶ月経った今でも変わらない。
俺は真っ直ぐにヴィルゴの黄金の瞳を見据え続けた。
沈黙が落ちる。山脈に、凪いでいた風が戻りつつあった。
マジックナイトの試練とは一体、どんなものだろう。そう思いながら俺は、ヴィルゴの次の言葉を待った。
すると、ヴィルゴが動く気配があった。
『レズリー・バークスよ。お前に与える試練は、もはやない』
俺も含めて、その場にいる全員が息を飲んだ。
与える試練がない、とはどういう意味なのか。頭が混乱する。心臓が早鐘を叩いた。
「……それは、どういう」
『試練をする必要がないということだ』
それはつまり、俺にマジックナイトになる資格がないということか。
俺は頭を垂れた。地面につけていた拳が力みすぎて、小刻みに震える。
失望、怒りといった感情が溢れて、今にも暴れだしてしまいそうだった。
「――でも!」
そのとき、ウィルが俺の真横にたって、声を張り上げた。俺は驚き、顔を上げると、ウィルの様子を下から窺った。その瞳には薄っすらと涙が滲んでいる。
ああ、俺、ウィルを泣かせちまったのかよ。くそ、情けねえ。
「ウィル」
「レズリーはこの半年間、血の滲む思いで鍛錬に挑み耐えてきたんです。彼がマジックナイトになれないなんて……ありえない」
ウィルの言葉は、まるでこれまでの俺の姿を見てきたかのような口ぶりに聞こえて、俺は眉根を寄せた。
「ウィル?」
「あっ、の……」
声を掛けると、ウィルは目の下を朱に染めて、俺から視線を逸らし、目を合わせようとしない。
これは、つまり、ウィルは俺のことをずっと?。本当に?
「僕は……ずっと、見ていたから、わかるんだ」
俺の頭の中で巨大な鐘が鳴り響いた。
可愛い、可愛すぎるぞ、ウィル。
俺は嬉しくて、同時に気恥ずかしくて、顔が沸騰したかのように熱くなる。ウィルと同様に俺の顔も真っ赤に違いない。断言できた。
すると、それまで黙っていたヴィルゴが、我慢の限界とばかりに声を抑えて、ついには噴出し、大きな口を惜しげもなく広げて巨大な牙を覗かせながら大爆笑した。
『がはははっ、案ずるな、ウィリアム。レズリーはマジックナイトになれないというわけではない』
「え?」
『我が、与える試練はないと言ったのは、もはや、その必要がないからだ。つまり、最終試練は【合格】、ということだよ』
「……合格?」
『うむ。お前のマジックナイトとしての技量、このドラゴンロードヴィルゴが、しかと見届けた。レズリー・バークスよ、お前は今より、名実ともに、【マジックナイト・レズリー・バークス】と名乗るが良い。おめでとう、レズリー。若き、マジックナイトよ』
俺は豪快に笑うヴィルゴの顔を見て、次に隣に立ち並ぶウィルを見た。ウィルも同様に俺を見つめる。次の瞬間、俺とウィルは弾かれたように抱き合い、喜びを分かち合った。背後からロガも自分のことのように喜んで俺とウィルの肩をがしっと掴んで抱きついてきた。
やったぞ。これで俺は念願だったマジックナイトになれたのだ。これで、ウィルを守ることができる。
ウィルは少し複雑そうな表情で俺を見つめていたけれど、それでも一緒に喜んでくれた。
俺はマジックナイトになれたことで、力を手にすることはできたが、同時に危険にも晒されるということでもある。俺は今以上に強くなる必要があった。
マジックナイトになれたから、さあ、おしまい、ではないのだ。
今よりももっと強くなって、ウィルだけでなく、自分自身も守れる強さを手に入れなくてはならない。
ついでに、ロガやエルフとなっているアル、ジーク、それから、皆を守れる力を。
俺は決意を新たに、ドラゴンロード・ヴィルゴを見上げた。
『レズリーよ、コレを持っていくがよい。最終試験に合格した者の証だ』
空虚より現れたのは手のひらサイズの光り輝くもの。空中に浮かぶその物体を手で掴んだ。
手渡されたのは、虹色に輝く宝石。太陽の日を浴びて、キラキラと様々な色を放ち、煌いている。
なんて美しい宝石だろう。
「ありがとうございます。ヴィルゴ様」
『なに、たいしたものではない。それは我のうん……いや、何はともあれ、これで最終試験は終了した。我は今、とても気分が良い。勇敢なる者たちよ、背中に乗るがよい。我の翼で街の麓まで送ってやろう』
「――ありがとうございます、ヴィルゴ様!」
正直、メルキドとの闘いの後は、体力も魔力も消耗が激しく、これ以上動くことは困難だった。
俺たちは嬉々としてヴィルゴの背中に跨った。
巨大な鋼鉄の身体がグラリと揺れ動き、美しい四枚の翼が空気を振動させて羽ばたきを行う。次の瞬間、その巨体が空中へと浮かび上がった。一際強く翼を羽ばたかせれば、瞬く間に遙か上空へと舞い上がった。
「うわぁ~! 高い怖い高い怖いッ~!」
「ロガ~、あまり喋りすぎると舌噛むぞ~」
「あははっ、すごいッ! ねえレズリー、僕たち空を飛んでるよッ! 景色最高~!」
「ははっ、ウィル、ガキみてぇ(可愛い)」
「むぅ、ガキで悪かったねッ」
言いながら、ウィルの拳が俺の後頭部を叩いた。
いや、めちゃくちゃ痛い、痛いぞ、ウィル。なんでそんなに、拳が強いんだッ!
雲と雲の隙間を縫うように竜の翼が羽ばたき、風の圧力で身体が持っていかれそうになる。必死にヴィルゴの背中にしがみつきながら、下界へと視線を向ける。一面に咲き乱れるピンクや黄色といった花たちが風と日の光に揺れて小さな波を生んだ。小動物たちがヴィルゴの気配を察知して逃げるように四方八方へと駆け出した。
早朝に出かけてからだいぶ時間が経過していたらしい、太陽が地平線へと沈みかけて、濃いオレンジが世界を染めていく。
そのさらに上空では夜の帳が、星と月と共に降りようとしていた。
俺の上に巨大な影が覆った。
『見事だった。勇敢なる者たちよ』
「ヴィルゴ様、お怪我は?」
『大事ない。これしきのことで、くたばりはしない。ジークよ、久しいな。神魔大戦以来か』
心配をするアルもとい、ジークは心痛な面持ちでヴィルゴを見上げた。昔を思い出したのか、苦笑を浮かべている。
ヴィルゴの傷は深く、出血は止まっているようだが、見るからに痛々しいその傷に俺も、ウィルも、ロガも、アルと同様に顔を顰めた。徐にウィルがヴィルゴに近づき、癒しの言葉を紡いだ。水のしずくがヴィルゴの傷を癒していく。だがやはり、完全な完治には時間が掛かるようだ。
不意にヴィルゴの視線に捕らえられ、俺は反射的に膝を付き、頭を下げた。
『お前はマジックナイトだな』
「はい。レズリー・バークスといいます。まだ見習いですが、マジックナイト・カルス・フィートの元、今日まで鍛錬を続けてきました。そして今日は、最終試練に挑むためにここへとやってきました。ドラゴンロード・ヴィルゴ様。俺に最終試練をお与えください。俺は、どうしてもマジックナイトなりたいんです」
俺は言葉の最後、ジッとヴィルゴの瞳を見据えてそう決意を表した。
大切な人を、ウィルを守るために、マジックナイトになる。俺の決心は数ヶ月数ヶ月経った今でも変わらない。
俺は真っ直ぐにヴィルゴの黄金の瞳を見据え続けた。
沈黙が落ちる。山脈に、凪いでいた風が戻りつつあった。
マジックナイトの試練とは一体、どんなものだろう。そう思いながら俺は、ヴィルゴの次の言葉を待った。
すると、ヴィルゴが動く気配があった。
『レズリー・バークスよ。お前に与える試練は、もはやない』
俺も含めて、その場にいる全員が息を飲んだ。
与える試練がない、とはどういう意味なのか。頭が混乱する。心臓が早鐘を叩いた。
「……それは、どういう」
『試練をする必要がないということだ』
それはつまり、俺にマジックナイトになる資格がないということか。
俺は頭を垂れた。地面につけていた拳が力みすぎて、小刻みに震える。
失望、怒りといった感情が溢れて、今にも暴れだしてしまいそうだった。
「――でも!」
そのとき、ウィルが俺の真横にたって、声を張り上げた。俺は驚き、顔を上げると、ウィルの様子を下から窺った。その瞳には薄っすらと涙が滲んでいる。
ああ、俺、ウィルを泣かせちまったのかよ。くそ、情けねえ。
「ウィル」
「レズリーはこの半年間、血の滲む思いで鍛錬に挑み耐えてきたんです。彼がマジックナイトになれないなんて……ありえない」
ウィルの言葉は、まるでこれまでの俺の姿を見てきたかのような口ぶりに聞こえて、俺は眉根を寄せた。
「ウィル?」
「あっ、の……」
声を掛けると、ウィルは目の下を朱に染めて、俺から視線を逸らし、目を合わせようとしない。
これは、つまり、ウィルは俺のことをずっと?。本当に?
「僕は……ずっと、見ていたから、わかるんだ」
俺の頭の中で巨大な鐘が鳴り響いた。
可愛い、可愛すぎるぞ、ウィル。
俺は嬉しくて、同時に気恥ずかしくて、顔が沸騰したかのように熱くなる。ウィルと同様に俺の顔も真っ赤に違いない。断言できた。
すると、それまで黙っていたヴィルゴが、我慢の限界とばかりに声を抑えて、ついには噴出し、大きな口を惜しげもなく広げて巨大な牙を覗かせながら大爆笑した。
『がはははっ、案ずるな、ウィリアム。レズリーはマジックナイトになれないというわけではない』
「え?」
『我が、与える試練はないと言ったのは、もはや、その必要がないからだ。つまり、最終試練は【合格】、ということだよ』
「……合格?」
『うむ。お前のマジックナイトとしての技量、このドラゴンロードヴィルゴが、しかと見届けた。レズリー・バークスよ、お前は今より、名実ともに、【マジックナイト・レズリー・バークス】と名乗るが良い。おめでとう、レズリー。若き、マジックナイトよ』
俺は豪快に笑うヴィルゴの顔を見て、次に隣に立ち並ぶウィルを見た。ウィルも同様に俺を見つめる。次の瞬間、俺とウィルは弾かれたように抱き合い、喜びを分かち合った。背後からロガも自分のことのように喜んで俺とウィルの肩をがしっと掴んで抱きついてきた。
やったぞ。これで俺は念願だったマジックナイトになれたのだ。これで、ウィルを守ることができる。
ウィルは少し複雑そうな表情で俺を見つめていたけれど、それでも一緒に喜んでくれた。
俺はマジックナイトになれたことで、力を手にすることはできたが、同時に危険にも晒されるということでもある。俺は今以上に強くなる必要があった。
マジックナイトになれたから、さあ、おしまい、ではないのだ。
今よりももっと強くなって、ウィルだけでなく、自分自身も守れる強さを手に入れなくてはならない。
ついでに、ロガやエルフとなっているアル、ジーク、それから、皆を守れる力を。
俺は決意を新たに、ドラゴンロード・ヴィルゴを見上げた。
『レズリーよ、コレを持っていくがよい。最終試験に合格した者の証だ』
空虚より現れたのは手のひらサイズの光り輝くもの。空中に浮かぶその物体を手で掴んだ。
手渡されたのは、虹色に輝く宝石。太陽の日を浴びて、キラキラと様々な色を放ち、煌いている。
なんて美しい宝石だろう。
「ありがとうございます。ヴィルゴ様」
『なに、たいしたものではない。それは我のうん……いや、何はともあれ、これで最終試験は終了した。我は今、とても気分が良い。勇敢なる者たちよ、背中に乗るがよい。我の翼で街の麓まで送ってやろう』
「――ありがとうございます、ヴィルゴ様!」
正直、メルキドとの闘いの後は、体力も魔力も消耗が激しく、これ以上動くことは困難だった。
俺たちは嬉々としてヴィルゴの背中に跨った。
巨大な鋼鉄の身体がグラリと揺れ動き、美しい四枚の翼が空気を振動させて羽ばたきを行う。次の瞬間、その巨体が空中へと浮かび上がった。一際強く翼を羽ばたかせれば、瞬く間に遙か上空へと舞い上がった。
「うわぁ~! 高い怖い高い怖いッ~!」
「ロガ~、あまり喋りすぎると舌噛むぞ~」
「あははっ、すごいッ! ねえレズリー、僕たち空を飛んでるよッ! 景色最高~!」
「ははっ、ウィル、ガキみてぇ(可愛い)」
「むぅ、ガキで悪かったねッ」
言いながら、ウィルの拳が俺の後頭部を叩いた。
いや、めちゃくちゃ痛い、痛いぞ、ウィル。なんでそんなに、拳が強いんだッ!
雲と雲の隙間を縫うように竜の翼が羽ばたき、風の圧力で身体が持っていかれそうになる。必死にヴィルゴの背中にしがみつきながら、下界へと視線を向ける。一面に咲き乱れるピンクや黄色といった花たちが風と日の光に揺れて小さな波を生んだ。小動物たちがヴィルゴの気配を察知して逃げるように四方八方へと駆け出した。
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