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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
寄り道
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アルとジルハルド国王の会話も終わり、ひとまず俺たちは謁見の間をあとにした。
城を出て、俺たちは休む間もなく、さっき言っていたロミロアというウサウサ族に会いにいくことになった。
街の中央に位置する図書館。今はまだ、瓦礫が散乱し、中へは入れないが、ここがウィルが夜の者に襲われた現場であると、ウィル本人から聞いた。
図書館の脇を通り過ぎ、さらに奥へ進むと鬱蒼と茂った森が存在している。どうやら、目的の場所へは、この森を通るようだ。
俺たちは細い森の道へと入った。
しばらくすると、立て看板が目に留まり、ここより先へはというような注意書きのような文字が書かれている。ウィルからこの世界の文字を少しずつ教えてもらってはいるが、まだ赤子レベルにも満たない。ロガは俺が修行で留守にしている間にほとんど習得していて、今では日常生活では苦もなく文字の読み書きができるらしい。アルの仕事の手伝いを担っているのも裏付ける。
悔しいが、やはりロガは頭が良い。
この看板の先は私有地で、ウサウサ族のロミロアのものらしい。
しばらく森の小道を歩いていると、視界が開けた場所に出た。
その中央には巨大な木の家が立っていて、僅かな魔力を感じた。おそらく、この家もカルス師匠の家と同じ要領で建てられたものなのだろう。
ただ、こちらの家は何重にも魔力の結界が施されている。ウサウサ族のロミロアはよほど用心深い人物、いや、兎のようだ。
「ロミロア先生、お邪魔しますよー」
少し声を大きくして、ウィルが呼びかけた。しかし、反応はない。
やっぱりいないか、とウィルとアルは気にせずにずかずかと、勝手知ったると言った様子で奥へと入っていった。俺とロガもそれに続く。
ツリーハウスの中に入ると、最初に飛び込んできたのが本の山だった。背後でうっわ! という驚愕の声を出すロガの声を聞いた。そう叫びたくなるほど、ツリーハウスの中は本と大量の書類の山で溢れていた。紙とインクの独特な匂いが鼻孔をつく。
ウィルに気をつけて、と注意喚起されたが、少しでも身体が触れると本のなだれがおきてしまいそうになる。徐にウィルが暖炉へと近づいた。気になって俺も近くに寄ると、そこには、浅く溝が掘られた魔法陣があった。淡い緑の光がゆっくりと点滅を繰り返している。
「なんだ、この魔法陣」
「これは、トラップを制御するロミロア先生が構築した魔法術式なんだよ。ロミロア先生のいる地下に降りるには、このトラップを一時的に解除しなくちゃいけないんだ。まあ、解除しなくても奥には入れるんだけど、苦労するからね。一度、アルと一緒に痛い目みたんだ。抜けたと思ったら外だったり、天井から鉄球が落ちてきたり、床が突然底抜けになったりね。防犯セキュリティーが無駄に高いんだよ、ここ。ねえ、アル」
「思い出したくもないね」
「聞いてるだけでも、おぞましいほどの敵意を感じるが……。防犯高めるなら、この本の山をどうにかした方がいいと思うぞ、俺は」
俺の言葉を代弁するかのように、ロガがさっそく、バランスを崩した大量の本に埋もれて、その姿を消した。かろうじて片腕だけは見えたが、ピクピク痙攣しながら、「た、助けて~!」という声が聞こえてきた。ウィルは困ったように苦笑して、しょうがないという面持ちでロガの救出に向かう。
その間、アルは例の魔法陣に触れてトラップの解除にかかっていた。
触れると、魔法陣は一際強く淡い緑の光を放った。すると、光が消え、奥からガチャンッという奇妙な音が聞こえた。どうやら、トラップが解除されたようだ。
ロガを救出したウィルが俺の隣に立った。ロガも、酷い目にあった、と少しボロボロの状態で背後に立つ気配があった。
「……僕の中にある禁忌の書を取り出す手かがリが見つかっていればいいんだけど」
「禁忌の書って、身体に負担が掛かるのか? だったら、あまり無理はしないほうが」
微笑して、ウィルが言葉を続けた。
「いや、とくに身体的な影響はないよ。でも、やはり、重責がね、物凄くて……賢者アクネリウス様が書き記したとされる、世界のすべてを記したとされる禁術書。その一部が僕の中にあるってだけで、不安が込み上げてくるよ」
俺よりも十センチ分下にある頭部が、俺の肩に凭れかかる。微かな重みと、ウィルから漂う甘い匂いが俺の心臓を騒がしくさせる。
不安から来る衝動的な行動とはいえ、無防備なその姿が、俺は少し心配になった。
ウィルは俺いないときも、そうやって無防備な姿をさらけ出していたのだろうか、と嫌な汗が背中を流れた。
「ウィル、お前、そういうことは俺の前だけにしておけよ」
「え? そういうことって……どういうこと?」
やっぱり、無自覚か。こいつからは目を離さないようにしねえと……。
俺はウィルの腰に腕を回して引き寄せた。丁度目線の高さにある頭部に愛しい人へ送るキスを落とす。
その様子を見ていたアルが嫌そうな目で、ロガは呆れた表情の中に楽しげな雰囲気を滲ませて、俺らを見ていたことに気付いた。
うっかりして、俺はアルとロガの存在をすっかり忘れていた。
「君らね、そういうことするなら、私たちの見てないところか、いないときにやってくれる?」
「お熱いことはいいことだけどぉ、人目は気にした方がいいよ~、レズリー♪」
もう、恥ずかしいじゃないかっ、とウィルが頬を膨らませて顔を朱に染めながら、逃げるように先に行ってしまった。しかし、耳まで真っ赤に染まったその様子は、まんざらでもなさそうだ。
ウィルはいつ見ても可愛いと思う。
照れくさくなって、俺は頬を無意味にぽりぽりと掻いた。
先に行ってしまったウィルのあとを追う。
城を出て、俺たちは休む間もなく、さっき言っていたロミロアというウサウサ族に会いにいくことになった。
街の中央に位置する図書館。今はまだ、瓦礫が散乱し、中へは入れないが、ここがウィルが夜の者に襲われた現場であると、ウィル本人から聞いた。
図書館の脇を通り過ぎ、さらに奥へ進むと鬱蒼と茂った森が存在している。どうやら、目的の場所へは、この森を通るようだ。
俺たちは細い森の道へと入った。
しばらくすると、立て看板が目に留まり、ここより先へはというような注意書きのような文字が書かれている。ウィルからこの世界の文字を少しずつ教えてもらってはいるが、まだ赤子レベルにも満たない。ロガは俺が修行で留守にしている間にほとんど習得していて、今では日常生活では苦もなく文字の読み書きができるらしい。アルの仕事の手伝いを担っているのも裏付ける。
悔しいが、やはりロガは頭が良い。
この看板の先は私有地で、ウサウサ族のロミロアのものらしい。
しばらく森の小道を歩いていると、視界が開けた場所に出た。
その中央には巨大な木の家が立っていて、僅かな魔力を感じた。おそらく、この家もカルス師匠の家と同じ要領で建てられたものなのだろう。
ただ、こちらの家は何重にも魔力の結界が施されている。ウサウサ族のロミロアはよほど用心深い人物、いや、兎のようだ。
「ロミロア先生、お邪魔しますよー」
少し声を大きくして、ウィルが呼びかけた。しかし、反応はない。
やっぱりいないか、とウィルとアルは気にせずにずかずかと、勝手知ったると言った様子で奥へと入っていった。俺とロガもそれに続く。
ツリーハウスの中に入ると、最初に飛び込んできたのが本の山だった。背後でうっわ! という驚愕の声を出すロガの声を聞いた。そう叫びたくなるほど、ツリーハウスの中は本と大量の書類の山で溢れていた。紙とインクの独特な匂いが鼻孔をつく。
ウィルに気をつけて、と注意喚起されたが、少しでも身体が触れると本のなだれがおきてしまいそうになる。徐にウィルが暖炉へと近づいた。気になって俺も近くに寄ると、そこには、浅く溝が掘られた魔法陣があった。淡い緑の光がゆっくりと点滅を繰り返している。
「なんだ、この魔法陣」
「これは、トラップを制御するロミロア先生が構築した魔法術式なんだよ。ロミロア先生のいる地下に降りるには、このトラップを一時的に解除しなくちゃいけないんだ。まあ、解除しなくても奥には入れるんだけど、苦労するからね。一度、アルと一緒に痛い目みたんだ。抜けたと思ったら外だったり、天井から鉄球が落ちてきたり、床が突然底抜けになったりね。防犯セキュリティーが無駄に高いんだよ、ここ。ねえ、アル」
「思い出したくもないね」
「聞いてるだけでも、おぞましいほどの敵意を感じるが……。防犯高めるなら、この本の山をどうにかした方がいいと思うぞ、俺は」
俺の言葉を代弁するかのように、ロガがさっそく、バランスを崩した大量の本に埋もれて、その姿を消した。かろうじて片腕だけは見えたが、ピクピク痙攣しながら、「た、助けて~!」という声が聞こえてきた。ウィルは困ったように苦笑して、しょうがないという面持ちでロガの救出に向かう。
その間、アルは例の魔法陣に触れてトラップの解除にかかっていた。
触れると、魔法陣は一際強く淡い緑の光を放った。すると、光が消え、奥からガチャンッという奇妙な音が聞こえた。どうやら、トラップが解除されたようだ。
ロガを救出したウィルが俺の隣に立った。ロガも、酷い目にあった、と少しボロボロの状態で背後に立つ気配があった。
「……僕の中にある禁忌の書を取り出す手かがリが見つかっていればいいんだけど」
「禁忌の書って、身体に負担が掛かるのか? だったら、あまり無理はしないほうが」
微笑して、ウィルが言葉を続けた。
「いや、とくに身体的な影響はないよ。でも、やはり、重責がね、物凄くて……賢者アクネリウス様が書き記したとされる、世界のすべてを記したとされる禁術書。その一部が僕の中にあるってだけで、不安が込み上げてくるよ」
俺よりも十センチ分下にある頭部が、俺の肩に凭れかかる。微かな重みと、ウィルから漂う甘い匂いが俺の心臓を騒がしくさせる。
不安から来る衝動的な行動とはいえ、無防備なその姿が、俺は少し心配になった。
ウィルは俺いないときも、そうやって無防備な姿をさらけ出していたのだろうか、と嫌な汗が背中を流れた。
「ウィル、お前、そういうことは俺の前だけにしておけよ」
「え? そういうことって……どういうこと?」
やっぱり、無自覚か。こいつからは目を離さないようにしねえと……。
俺はウィルの腰に腕を回して引き寄せた。丁度目線の高さにある頭部に愛しい人へ送るキスを落とす。
その様子を見ていたアルが嫌そうな目で、ロガは呆れた表情の中に楽しげな雰囲気を滲ませて、俺らを見ていたことに気付いた。
うっかりして、俺はアルとロガの存在をすっかり忘れていた。
「君らね、そういうことするなら、私たちの見てないところか、いないときにやってくれる?」
「お熱いことはいいことだけどぉ、人目は気にした方がいいよ~、レズリー♪」
もう、恥ずかしいじゃないかっ、とウィルが頬を膨らませて顔を朱に染めながら、逃げるように先に行ってしまった。しかし、耳まで真っ赤に染まったその様子は、まんざらでもなさそうだ。
ウィルはいつ見ても可愛いと思う。
照れくさくなって、俺は頬を無意味にぽりぽりと掻いた。
先に行ってしまったウィルのあとを追う。
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