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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
新たな旅の予感
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無事にディレクトレイ王国へ帰還した俺たちは、マジックナイトになった事、そして、夜も者による奇襲を受けた事実を報告するために王宮へと向かった。
王宮に入るのはこれがはじめだ。この国の王様とは一体、どんな方なのだろうかと俺は少し期待した面持ちで案内の兵士に促されるまま、謁見の間に足を踏み入れた。
隣にはウィルが、前方にアル。俺の後ろにはロガが落ち着かない様子であたりを見渡しているのが気配でわかった。
謁見の間の中央奥には、金の装飾を施された赤い玉座が鎮座し、なぜかその上に可愛らしい王冠を被った白い成猫が座っていた。
国王様は一体どこにいるのだろうか。
すると、ウィルとアルが徐に方膝を付き、頭を垂れた。俺も慌てて同じ動作をする。国王様が姿を現したのかと、僅かに上目遣いで王座に眼をやった。
しかし、やはりそこには可愛らしい王冠を被った白い猫しかいない。
――……、……。
――え? まさか……。
俺の様子を察したウィルが小声で囁く。
(あの、可愛らしい猫が、このディレクトレイ国の王ジルハルド・ハールデン・スコル三世国王陛下だよ)
(――マジか!?)
今更ながらに思う。俺たちは地球とは違う、異世界にいるということを。
そういや、この世界で人間を見たことがない気がする。本来は魔力の持たない者、人間などは住めない世界。よく考えれば、とんでもなく恐ろしいところへ来ちまったなと、背中が冷やりとした。
――そうか、そうだよな。ウィルも、人間じゃあないんだな。
俺はウィルの横顔をこっそり伺いながら、そんなことを思った。
「面を上げるがよい。見知った顔触れの中に、見知らぬ顔もいるようじゃが?」
「はい。この者たちはウィリアム同様に地球からゲートを通ってやってきた人間です。名をレズリー・バークスとロガ・キュリアと申します。レズリーはマジックナイトの師の下、修行を受け、ドラゴンロード・ヴィルゴ様よりマジックナイトの称号を会得しております。ロガは魔力こそ皆無ですが、類まれな優秀な頭脳の持ち主で、今現在は私の助手として側に置いております」
ロガは見た目の貧弱さから、周りからよくからかわれたり、よくいじめにあっていた。しかし彼は聡明で頭脳明晰で学内では常にトップをキープしているほどの実力の持ち主だ。
ロガとの出会いはスクールに通い始めて間もない頃、転校生してきたロガが上級生にいじめられているのを俺が助けたのが切っ掛けだった。話している内に気が合って、それから良くつるむようになっていった。やたらと目聡い男で、俺が無意識に眼で追っていた当時はまだ、ただの幼なじみだったウィルを見つめているのを最初に気付いた男でもある。その時は俺もただ見てるだけで、これが恋心を抱いているなんて思ってもいなかったが、それに気付かせてくれたのも、実はロガだった。
ロガがいなかったら、俺は今でもウィルに抱いた感情の意味も、ましてや、恋人同士になることもなかったかもしれない。
まあ、つまりは、ロガはどうしようもないヘタレで情けない男だけど、感謝はしているんだ、これでも。
いつも容赦なく、殴ってるけどな。それも愛情表現の一つだ。
「うむ。皆、面を上げるがよい。レズリーと言ったな。マジックナイトになれたこと、わしも嬉しく思う。これからはナイトとして、日々精進し、励むが良い。更なる活躍を期待しているぞ」
「はい、ありがとうございます!」
期待されている、という言葉に俺は悪い気はしなかった。だが、わかっている。マジックナイトとなった今、俺は通常よりも死に近しい場所に立っていることを。ウィルの強い視線を感じる。
案の定、ウィルは俺を心配そうな表情で見られていた。
俺は大丈夫だからと、四角となる位置でウィルの手を握って落ち着かせる。ウィルもそれに応えるように俺の手を握り返してくれた。
「それでのう、帰還して早々で悪いんだが、ロミロアがお前たちに話があるそうだ」
「ロミロアが……もしや、アクネリウス様の件で何かわかったということでしょうか」
猫の国王は豊かな白い毛を揺らしながらゆっくりと頷いた。
ウィルとアルの表情がぱあっ、と期待に満ちたものへと変わった。
(ウィル、ロミロアって?)
(この国の図書史書を勤めるウサウサ族の女性だよ。僕の補助魔法の先生でもあるんだ)
(ウ、ウサウサ? へ、へえ、そのウサウサ族のロミロアさんが例の禁術書の封印を解くための手がかりを見つけたってことか)
(そのようだね)
(なあなあ、ということは、また旅の始まり?)
俺の後ろにいるロガが話に割って入ってそう小声で言った。とてつもなく嫌そうな顔で。
(ロガ、今回は、お前はここに残ってもいいんだぞ。旅へは俺とウィルで行く)
(えぇ~?)
(うん。そうだね。ここから先の旅は魔力を持っていないと危険だから。あ、でも、アルは僕ら一緒に来ると思うから、ロガはあの広いお屋敷で一人になっちゃうだろうけど)
(えぇ~!)
(はぁ? ちょっと待て。アルの奴も来るのかよ。折角、二人きりになれると思ったのに)
言ってから、しまったと、俺は手で口を押さえた。だが時すでに遅し。
ウィルがアメジストアイを細めて、妖しく俺に詰め寄る。
(レズリー、僕と二人きりになって、ナニするつもりだったの?)
(へ? ナニって? ……つーか、お前……恋人同士になってもそういうところは変わらないよな)
(ふふ、お褒めの言葉として受け取っておくよ。それに、恋人同士になったからって、態度をいちいち変えてたら疲れるし、気持ち悪いだろ?)
褒めてないけどな。でも、俺はなぜか、安心した。実際、恋人同士といっても俺たちの関係が特別変わったわけではない。会話も通常運転でいつもと変わらないし、正直、ナニをどうすればいいのかわからない、というのが本音だ。
キスはした。手も繋いだ。一緒に寝る? ……寝たな、一緒に。一つのベッドですやすやと。
あと他に何すればいいのか、見当もつかない。
いや、本当は嘘だ。
わかっている。わかっているけども!
俺は僅かに首を傾げた。何故かウィルにはジト眼で睨まれ、ロガは「あ~あ」と大げさに肩を落とす仕草を見せる。
なんなんだよ、こいつらは。
王宮に入るのはこれがはじめだ。この国の王様とは一体、どんな方なのだろうかと俺は少し期待した面持ちで案内の兵士に促されるまま、謁見の間に足を踏み入れた。
隣にはウィルが、前方にアル。俺の後ろにはロガが落ち着かない様子であたりを見渡しているのが気配でわかった。
謁見の間の中央奥には、金の装飾を施された赤い玉座が鎮座し、なぜかその上に可愛らしい王冠を被った白い成猫が座っていた。
国王様は一体どこにいるのだろうか。
すると、ウィルとアルが徐に方膝を付き、頭を垂れた。俺も慌てて同じ動作をする。国王様が姿を現したのかと、僅かに上目遣いで王座に眼をやった。
しかし、やはりそこには可愛らしい王冠を被った白い猫しかいない。
――……、……。
――え? まさか……。
俺の様子を察したウィルが小声で囁く。
(あの、可愛らしい猫が、このディレクトレイ国の王ジルハルド・ハールデン・スコル三世国王陛下だよ)
(――マジか!?)
今更ながらに思う。俺たちは地球とは違う、異世界にいるということを。
そういや、この世界で人間を見たことがない気がする。本来は魔力の持たない者、人間などは住めない世界。よく考えれば、とんでもなく恐ろしいところへ来ちまったなと、背中が冷やりとした。
――そうか、そうだよな。ウィルも、人間じゃあないんだな。
俺はウィルの横顔をこっそり伺いながら、そんなことを思った。
「面を上げるがよい。見知った顔触れの中に、見知らぬ顔もいるようじゃが?」
「はい。この者たちはウィリアム同様に地球からゲートを通ってやってきた人間です。名をレズリー・バークスとロガ・キュリアと申します。レズリーはマジックナイトの師の下、修行を受け、ドラゴンロード・ヴィルゴ様よりマジックナイトの称号を会得しております。ロガは魔力こそ皆無ですが、類まれな優秀な頭脳の持ち主で、今現在は私の助手として側に置いております」
ロガは見た目の貧弱さから、周りからよくからかわれたり、よくいじめにあっていた。しかし彼は聡明で頭脳明晰で学内では常にトップをキープしているほどの実力の持ち主だ。
ロガとの出会いはスクールに通い始めて間もない頃、転校生してきたロガが上級生にいじめられているのを俺が助けたのが切っ掛けだった。話している内に気が合って、それから良くつるむようになっていった。やたらと目聡い男で、俺が無意識に眼で追っていた当時はまだ、ただの幼なじみだったウィルを見つめているのを最初に気付いた男でもある。その時は俺もただ見てるだけで、これが恋心を抱いているなんて思ってもいなかったが、それに気付かせてくれたのも、実はロガだった。
ロガがいなかったら、俺は今でもウィルに抱いた感情の意味も、ましてや、恋人同士になることもなかったかもしれない。
まあ、つまりは、ロガはどうしようもないヘタレで情けない男だけど、感謝はしているんだ、これでも。
いつも容赦なく、殴ってるけどな。それも愛情表現の一つだ。
「うむ。皆、面を上げるがよい。レズリーと言ったな。マジックナイトになれたこと、わしも嬉しく思う。これからはナイトとして、日々精進し、励むが良い。更なる活躍を期待しているぞ」
「はい、ありがとうございます!」
期待されている、という言葉に俺は悪い気はしなかった。だが、わかっている。マジックナイトとなった今、俺は通常よりも死に近しい場所に立っていることを。ウィルの強い視線を感じる。
案の定、ウィルは俺を心配そうな表情で見られていた。
俺は大丈夫だからと、四角となる位置でウィルの手を握って落ち着かせる。ウィルもそれに応えるように俺の手を握り返してくれた。
「それでのう、帰還して早々で悪いんだが、ロミロアがお前たちに話があるそうだ」
「ロミロアが……もしや、アクネリウス様の件で何かわかったということでしょうか」
猫の国王は豊かな白い毛を揺らしながらゆっくりと頷いた。
ウィルとアルの表情がぱあっ、と期待に満ちたものへと変わった。
(ウィル、ロミロアって?)
(この国の図書史書を勤めるウサウサ族の女性だよ。僕の補助魔法の先生でもあるんだ)
(ウ、ウサウサ? へ、へえ、そのウサウサ族のロミロアさんが例の禁術書の封印を解くための手がかりを見つけたってことか)
(そのようだね)
(なあなあ、ということは、また旅の始まり?)
俺の後ろにいるロガが話に割って入ってそう小声で言った。とてつもなく嫌そうな顔で。
(ロガ、今回は、お前はここに残ってもいいんだぞ。旅へは俺とウィルで行く)
(えぇ~?)
(うん。そうだね。ここから先の旅は魔力を持っていないと危険だから。あ、でも、アルは僕ら一緒に来ると思うから、ロガはあの広いお屋敷で一人になっちゃうだろうけど)
(えぇ~!)
(はぁ? ちょっと待て。アルの奴も来るのかよ。折角、二人きりになれると思ったのに)
言ってから、しまったと、俺は手で口を押さえた。だが時すでに遅し。
ウィルがアメジストアイを細めて、妖しく俺に詰め寄る。
(レズリー、僕と二人きりになって、ナニするつもりだったの?)
(へ? ナニって? ……つーか、お前……恋人同士になってもそういうところは変わらないよな)
(ふふ、お褒めの言葉として受け取っておくよ。それに、恋人同士になったからって、態度をいちいち変えてたら疲れるし、気持ち悪いだろ?)
褒めてないけどな。でも、俺はなぜか、安心した。実際、恋人同士といっても俺たちの関係が特別変わったわけではない。会話も通常運転でいつもと変わらないし、正直、ナニをどうすればいいのかわからない、というのが本音だ。
キスはした。手も繋いだ。一緒に寝る? ……寝たな、一緒に。一つのベッドですやすやと。
あと他に何すればいいのか、見当もつかない。
いや、本当は嘘だ。
わかっている。わかっているけども!
俺は僅かに首を傾げた。何故かウィルにはジト眼で睨まれ、ロガは「あ~あ」と大げさに肩を落とす仕草を見せる。
なんなんだよ、こいつらは。
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