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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
嫉妬の往来
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「さあ、急ぐよ。ロミロアは地下の研究室だ」
そう言いながら、アルは床にある地下室の扉を開いて降りていった。俺たちも続くように降りていく。
地下への階段を降りきると、コツンと硬質な音を響かせ、地面に到着した。
以外にも地下は明るく、よく見ればある程度の感覚で、光が浮かんでいた。コレもおそらく、魔法の一種なのだろう。光は俺たちと、地面を照らしだし、さらに奥へ続く通路の先を示していた。
アルを先頭に、そのあとをウィルと俺とロガ続く。
硬質な靴音を複数響かせて、俺たちは奥へと進んだ。少し歩くと、目の前に扉が現れた。
アルは小さな丸い身体でぐぬぬっ、とぐぐもった声を口にしながら扉を開け放つ。
ふわりと空気が中へと吸い込まれていく。
現れたのは、とにかくだだっ広い場所だった。幾本もの白い支柱が均等に並びそれはさらに奥まで続いているようだが、暗くて最奥までは見通せない。中央に淡い光を見えて、よく目を凝らせば床に巨大な魔法陣が発現していた。古の古代文字が床に直接刻まれ、それらを繋ぐように光の線が連なり、五亡星を浮かび上がらせている。
「ここは? 何かの実験場か、何かか?」
「勘がいいじゃないか、レズリー。その通り。ここは新たに生まれた魔法を試す実験場だ。この魔法陣は、万が一、魔法が暴走したとしても、外へ漏れ出ないように結界を張るものなんだ。だからここでいくら大暴れしても外には一切被害は向かない。逆にここで何かあっても気付かないから、ある意味、危険な場所であることには間違いないけどね」
「そうか、だから僕が魔力の根源を無理やり開かれたときも、夜の者には気付かれなかったんだね。実は少し、心配してたんだ」
「大丈夫だよ、ウィル。防御魔法のエキスパートであるロミロアが構築した魔法陣だ。夜の者もそう簡単には進入できないし、気付かれないさ」
「うん」
「おいおい、一体何の話だ? 魔力の根源を無理やり開いたってのは」
俺はウィルとアルの話に割って入り、詳しく知りたいと態度で示した。
「ウィルの魔力の根源、つまりどの分類に該当するか、まだ力が塞がっている時に無理やり抉じ開けて、その根源を調べたんだ。まあ、調べたのはロミロアなんだけどね。あ~、その際副作用があってね、ウィルが発情状態に――」
――は? 副作用で発情状態?
「――ちょっ、アル! それは話さなくていいから!」
「え? そうかい? でもあの時のウィルは可愛かったよ。顔を真っ赤に染めて、トロトロの瞳で私を求めてきてね、だから私はウィルにオナニーを」
「ストーップ! アル、君、もう黙っててくれる?」
「え? なに? ウィル、君、眼が据わって、折角の可愛い顔が台無しだよ?」
おい、ウィルにオナニーがなんだって?
「……えーと、レズリー、とりあえず落ち着いて僕の話を聞いてくれるかな?」
「……ああ、あとでゆっくり、俺とお前の二人きりで、な?」
「あ~……はい」
俺は怒りを通り越して、笑顔でウィルにそう言葉にした。
ああ~、耳鳴りがひでぇ~。
ひとまずは、これ以上、ウィルとアルを近づけさせねえようにしねえとな。
そんなことを胸中で考えていると、背後にいたロガが不意にアルに近づき、丸い彼を抱き上げ、子供が前でぬいぐるみを抱くようにアルを抱き締めた。その表情は下を向いていて、よくは見えなかったが、明らかにロガは怒っている様子だ。
珍しいことがあるもんだ。あのいつも穏やかで軽いロガが、怒りを露わにするなんて。
これは、かなり貴重かもな。
「えーと、ロガ? どしたの? 降ろしてくんないかなぁ? 地面が遠いと不安で仕方ないんだけど」
「嫌です。これからは行動するときも、寝るときも、ずっとアナタを抱っこしますから、そのつもりで」
「えぇ~~! 何故?!」
「今は、言いたくありません。……さて、レズリー、ウィル、行くよ。ここにはロミロアさんはいないみたいだし。もっと奥かも」
淡々と喋るロガに、俺もウィルも呆然と立ち尽くしていて、それでも一拍遅れでそれに反応を示した。
先に反応したのはウィルだ。
「あ、ああ。たぶん、このさらに奥にある、書庫にいるはずだよ、うん」
「そう。なら急ごう」
足を奥へと向けた矢先、ピタリと歩みが止まり、ロガは徐にウィルに視線を送り、鋭い視線で睨みつけた。まるで牽制しているかのように。
「そうだ、ウィル。オレは過去には拘らない男だけど、これ以上アルさんに……ジークさんに色目使うのは許さないから。覚えておいて」
「色、目? え? 僕、そうなつもりは……」
「……おい、ロガ。言い過ぎだ」
幼なじみのその暴言に、俺も黙ってみているわけにはいかなかった。ましてや、自分の恋人に対してその言葉はあまりには酷い。俺は怒りを瞳に宿して、ロガを真っ直ぐに見つめた。
ロガのオレンジの瞳が揺れた。
「……ごめん、ウィル。今のは言い過ぎた」
「……ううん」
俺はウィルの肩を抱き寄せて、慰めるように落ち着かせる。大丈夫か? という俺の言葉に、ウィルは平気、と一言応えて、ギュッと俺にしがみついた。俺はそれに応えるように抱き寄せる腕に力を込める。髪に鼻を押し付けて、あやす様にキスを落とした。
ロガのウィルに対するそれは、明らかな嫉妬、だ。俺もついさっき、アルにそういう感情を抱いたからよくわかる。
つまり、ロガは、アルのことを? いや、ジークのほうか。
マジか。
当のアルはというと、げんなりとした様子で事の様子を窺っていた。その顔は、どうやら俺がいない間に一悶着仕出かした後のようだ。その反応から見ると、完全なロガの一方通行なのだろうか。
幼なじみの一人として、少しだけ二人の行く末が気になった。
少し重い空気の中、俺たちは気持ちを切り替えて、ロミロアがいるとされる奥の書庫へと足を向けた。
そう言いながら、アルは床にある地下室の扉を開いて降りていった。俺たちも続くように降りていく。
地下への階段を降りきると、コツンと硬質な音を響かせ、地面に到着した。
以外にも地下は明るく、よく見ればある程度の感覚で、光が浮かんでいた。コレもおそらく、魔法の一種なのだろう。光は俺たちと、地面を照らしだし、さらに奥へ続く通路の先を示していた。
アルを先頭に、そのあとをウィルと俺とロガ続く。
硬質な靴音を複数響かせて、俺たちは奥へと進んだ。少し歩くと、目の前に扉が現れた。
アルは小さな丸い身体でぐぬぬっ、とぐぐもった声を口にしながら扉を開け放つ。
ふわりと空気が中へと吸い込まれていく。
現れたのは、とにかくだだっ広い場所だった。幾本もの白い支柱が均等に並びそれはさらに奥まで続いているようだが、暗くて最奥までは見通せない。中央に淡い光を見えて、よく目を凝らせば床に巨大な魔法陣が発現していた。古の古代文字が床に直接刻まれ、それらを繋ぐように光の線が連なり、五亡星を浮かび上がらせている。
「ここは? 何かの実験場か、何かか?」
「勘がいいじゃないか、レズリー。その通り。ここは新たに生まれた魔法を試す実験場だ。この魔法陣は、万が一、魔法が暴走したとしても、外へ漏れ出ないように結界を張るものなんだ。だからここでいくら大暴れしても外には一切被害は向かない。逆にここで何かあっても気付かないから、ある意味、危険な場所であることには間違いないけどね」
「そうか、だから僕が魔力の根源を無理やり開かれたときも、夜の者には気付かれなかったんだね。実は少し、心配してたんだ」
「大丈夫だよ、ウィル。防御魔法のエキスパートであるロミロアが構築した魔法陣だ。夜の者もそう簡単には進入できないし、気付かれないさ」
「うん」
「おいおい、一体何の話だ? 魔力の根源を無理やり開いたってのは」
俺はウィルとアルの話に割って入り、詳しく知りたいと態度で示した。
「ウィルの魔力の根源、つまりどの分類に該当するか、まだ力が塞がっている時に無理やり抉じ開けて、その根源を調べたんだ。まあ、調べたのはロミロアなんだけどね。あ~、その際副作用があってね、ウィルが発情状態に――」
――は? 副作用で発情状態?
「――ちょっ、アル! それは話さなくていいから!」
「え? そうかい? でもあの時のウィルは可愛かったよ。顔を真っ赤に染めて、トロトロの瞳で私を求めてきてね、だから私はウィルにオナニーを」
「ストーップ! アル、君、もう黙っててくれる?」
「え? なに? ウィル、君、眼が据わって、折角の可愛い顔が台無しだよ?」
おい、ウィルにオナニーがなんだって?
「……えーと、レズリー、とりあえず落ち着いて僕の話を聞いてくれるかな?」
「……ああ、あとでゆっくり、俺とお前の二人きりで、な?」
「あ~……はい」
俺は怒りを通り越して、笑顔でウィルにそう言葉にした。
ああ~、耳鳴りがひでぇ~。
ひとまずは、これ以上、ウィルとアルを近づけさせねえようにしねえとな。
そんなことを胸中で考えていると、背後にいたロガが不意にアルに近づき、丸い彼を抱き上げ、子供が前でぬいぐるみを抱くようにアルを抱き締めた。その表情は下を向いていて、よくは見えなかったが、明らかにロガは怒っている様子だ。
珍しいことがあるもんだ。あのいつも穏やかで軽いロガが、怒りを露わにするなんて。
これは、かなり貴重かもな。
「えーと、ロガ? どしたの? 降ろしてくんないかなぁ? 地面が遠いと不安で仕方ないんだけど」
「嫌です。これからは行動するときも、寝るときも、ずっとアナタを抱っこしますから、そのつもりで」
「えぇ~~! 何故?!」
「今は、言いたくありません。……さて、レズリー、ウィル、行くよ。ここにはロミロアさんはいないみたいだし。もっと奥かも」
淡々と喋るロガに、俺もウィルも呆然と立ち尽くしていて、それでも一拍遅れでそれに反応を示した。
先に反応したのはウィルだ。
「あ、ああ。たぶん、このさらに奥にある、書庫にいるはずだよ、うん」
「そう。なら急ごう」
足を奥へと向けた矢先、ピタリと歩みが止まり、ロガは徐にウィルに視線を送り、鋭い視線で睨みつけた。まるで牽制しているかのように。
「そうだ、ウィル。オレは過去には拘らない男だけど、これ以上アルさんに……ジークさんに色目使うのは許さないから。覚えておいて」
「色、目? え? 僕、そうなつもりは……」
「……おい、ロガ。言い過ぎだ」
幼なじみのその暴言に、俺も黙ってみているわけにはいかなかった。ましてや、自分の恋人に対してその言葉はあまりには酷い。俺は怒りを瞳に宿して、ロガを真っ直ぐに見つめた。
ロガのオレンジの瞳が揺れた。
「……ごめん、ウィル。今のは言い過ぎた」
「……ううん」
俺はウィルの肩を抱き寄せて、慰めるように落ち着かせる。大丈夫か? という俺の言葉に、ウィルは平気、と一言応えて、ギュッと俺にしがみついた。俺はそれに応えるように抱き寄せる腕に力を込める。髪に鼻を押し付けて、あやす様にキスを落とした。
ロガのウィルに対するそれは、明らかな嫉妬、だ。俺もついさっき、アルにそういう感情を抱いたからよくわかる。
つまり、ロガは、アルのことを? いや、ジークのほうか。
マジか。
当のアルはというと、げんなりとした様子で事の様子を窺っていた。その顔は、どうやら俺がいない間に一悶着仕出かした後のようだ。その反応から見ると、完全なロガの一方通行なのだろうか。
幼なじみの一人として、少しだけ二人の行く末が気になった。
少し重い空気の中、俺たちは気持ちを切り替えて、ロミロアがいるとされる奥の書庫へと足を向けた。
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