ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

文字の大きさ
56 / 77
第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜

三人の幼なじみ

しおりを挟む
 霊峰を後にした俺たちは早速、各々旅の準備に取り掛かる。
 空はすでにオレンジ色に染まり、すぐに夜の帳が降りてくるだろう。街へ薬草や食料の類も買い込まなくてはならない。急がないとな。

「ウィル、私はこのことをジルハルド陛下にお伝えしてくる。しばらく留守にするよ」
「わかった。旅の準備は僕とレズリーとロガでやっておくよ」
「頼んだよ」

 そう言ってアルは出かけていった。俺たちは早速旅の準備に取りかかる。長い旅になることは予想された。それぞれリュックに薬草や食料の類、ロウソクや着火材といった野宿に必要な物も突っ込んだ。北の地ということもあり、コートといった防寒具の類も必要となるだろう。屋敷中を駆け回り、慌しく準備を進めていく。
 少し食料と飲料水が足りないかもしれない。道中で街に寄り、補充をするにせよ、それまでに食料と飲み物が切れるという危険は避けたかった。
 俺は別の場所で準備するウィルを見つけてその小さな背中に声を掛けた。

「おいウィル、ちょっくら道具屋に行って、入り用なもん調達してくるわ。つっても、薬草類の類はほとんどストックされてたから、あとは食料と飲料水ぐらいでいいか?」
「ああ、うん、そうだね。日持ちのするものを頼むよ。あ、今、お金渡すから」
「おう」

 立ち上がり戸棚に向かうウィルを見つめながら、不意にロガに目がいった。手は俺たちの旅の準備を手伝ってくれているが、どこか元気がないように見えた。
 気なって、俺が声を掛けようとしたそのとき、ロガが徐に顔を上げ、口を開く。

「ねえ、ウィル、レズリー。やっぱり、オレも一緒に行くよ」
「ロガ、無理すんな」
「無理はしてないよ、レズリー。オレはただ、ここで大人しく皆の帰りを待つのが嫌なだけさ。大丈夫、絶対に足手まといにはならないから」
「……足手まといだなんて思ったこと、一度もないよ」

 床に座っているロガの目線に合わせる様に、ウィルも腰を落として、覗き込むようにロガに「一緒に行こう」と微笑みかける。驚き、目を見開くロガは緊張していたのか、強張っていた肩の力が抜けて同じように微笑んだ。
 そして、いつもどおりの、どこか悪戯っぽい笑みに変わった。
 おいおい、大丈夫だとは思うけど、ウィルに惚れるなよ?

「なら、行くぞ、ロガ。食料の買い足し手伝えよ。お前、荷物持ちな」
「ええっ~!?」

 薄っすらと明かりの灯った屋敷中に笑い声が響いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

バイト先に元カレがいるんだが、どうすりゃいい?

cheeery
BL
サークルに一人暮らしと、完璧なキャンパスライフが始まった俺……広瀬 陽(ひろせ あき) ひとつ問題があるとすれば金欠であるということだけ。 「そうだ、バイトをしよう!」 一人暮らしをしている近くのカフェでバイトをすることが決まり、初めてのバイトの日。 教育係として現れたのは……なんと高二の冬に俺を振った元カレ、三上 隼人(みかみ はやと)だった! なんで元カレがここにいるんだよ! 俺の気持ちを弄んでフッた最低な元カレだったのに……。 「あんまり隙見せない方がいいよ。遠慮なくつけこむから」 「ねぇ、今どっちにドキドキしてる?」 なんか、俺……ずっと心臓が落ち着かねぇ! もう一度期待したら、また傷つく? あの時、俺たちが別れた本当の理由は──? 「そろそろ我慢の限界かも」

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

ずっと好きだった幼馴染の結婚式に出席する話

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話に、真紀ちゃん(攻)視点を追加して、倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着スパダリ×人外BL

処理中です...