ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜

北の地を目指して

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 太陽が昇る前の早朝の空は、薄暗く、肌寒さと切なさが相まったような雰囲気を醸し出している。大地を濡らす水のしずくが、土の匂いを際立たせ、鼻孔を擽った。
 白い吐息を吐きながら、霊峰ケツァルコルク山脈の山頂で、地平線から朝日が登る姿を垣間見た。
 四枚の翼を携えた巨大な金色のドラゴンが、吹きすさぶ風と地響きを伴い、舞い降りた。

『皆、揃っておるようだな。これより、北の地を目指す。何が待ち構えているのか想像に乏しい。心して挑むのだ』

 俺とウィル、アルとロガがその言葉を重く受け止め、強く頷く。

『我の背に跨るがよい。――行くぞ!』

 唐突な浮遊感に内臓がふわりと浮いた気がした。金色の巨体が、重力を感じさせないかのように、空へと舞い上がる。天空を支配する、ドラゴンロードと種族の違う、志同じくした仲間である俺たちは、その瞳を北の空へと想いを馳せながら見つめた。
 思えば、上空から地上を見渡すなんて、滅多に見れるものじゃない。
 上昇して雲よりも高く、青い空に近づいていく。
 東の空は薄っすらと夜空と朝の色をない交ぜにして、幻想的なコントラストを見せていた。

「すげえ。これが、世界か」

 広大な大地が弧を描いて笑みを浮かべているように見えた。地平線から見える僅かな光が世界に今日という日を形作っていく瞬間。
 太陽がゆっくりと世界を照らしていく様子に、俺も、ウィルも、全員が息を飲んで見守った。

「……綺麗」

 ポツリと呟いた言葉はきっと、無意識だったのだろう。ウィルは朝日を見つめながら、穏やかな表情をしている。
 綺麗だと、思った。

「ああ、綺麗だな」

 言いながら、ウィルの手に自身の手を重ねて、視線を彼から、昇る太陽へ、そして、北の方角へと向けた。ギュッと、重ねた手に想いと、力を込める。

 ――必ず、守ってみせる。俺の、命に代えても……。

 ウィルの視線を感じながら、俺は傍らのぬくもりに改めて誓いを立てた。
 心地の良い朝日と風を感じながら、俺たちは北の地を目指す。
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