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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜
廃村ニクルクロス
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北の地、そこは俺たちの想像をはるかに超えた荒れ果てた場所だった。
俺たちが暮らすディレクトレイ王国とは打って変わり、季節が存在しないこの土地は、一年を通して気温の低いことも挙げられたが、それ以前に、ヴィルゴが言っていたように戦争の爪跡が色濃く残る土地であり、それは数千年経った今でも、俺たちに目にその凄惨な光景を映していた。
大地に突き立てられたさびた剣や槍、弓、数千年前に使用したであろう武器が当時のまま、そこに残骸として存在している。
分厚いコートを着込んでいても冷気が頬を、吐き出す吐息を白く凍らしていく。
ヴィルゴの背に乗り、俺たちは北の地に足を踏み入れた。ザクッ、という雪の感触に足元から冷えていく感覚がある。
目指す目的地の手前、緑の葉を白くコーティングしたように凍った大森林の森。
賢者アクネリウスの故郷であり、おそらく、ここが始まりの地なのだろう。俺たちは各々、ニクルクロスだった破壊され滅んだ小さな村を探索を開始した。
ロガはアルと共に村と民家の周辺を見て回ると言って分かれた。
アルはどこか、思いつめたような顔をしていて、少し気になった。
まあ、ロガが側にいるから問題はないか。俺が心配する必要はない。
一方、ヴィルゴは人の姿をしていた。地上に降りる際、人の姿に変幻し、俺たちと共に村の探索に協力すると言って、一人(一匹)、村の奥へと足を進めていく。気になることがあると言っていたから、それを調べに向かったのだろう。
ドラゴン種族のほとんどは霊峰を後にして、今では人の形で街で暮らす者も少なくはないのだと、ヴィルゴは言っていた。時代の流れがそれを当然としたのだという。
わかる気もするが、彼にしてみればやはり、少し寂しいのかも知れないと、俺は思った。彼の表情や雰囲気がそれを示唆していたからだ。
これは俺の勝手な思い込みかもしれないけどな。
俺はウィルと共に、ちょうど村の中央に位置する、大きな木が庭に植わった民家を探索することにした。
「レズリー、ごめん。手を、握っていてくれないか」
俺は震えるウィルの手を掬い上げるように握りしめ、視線だけで大丈夫だ、と応えた。それにウィルは少しだけ安堵したかのように短く白い息を吐き、笑みを滲ませた。
いつの間にか震えも治まっていた。
民家はおそらく、村の有力者、つまり村長の家だと推測される。広い庭には大きな樹木が一本植わっていて、葉は凍り、灰色の空から薄っすらと降り注ぐ太陽光を反射してキラキラと煌いていた。
家のすぐ前には花壇あり、当時は美しかった花々も雪と氷によってその時を止めている。
数千年ほど前からこの状態を維持し、今日、俺たちが来るのをずっと待ちわびていたかのように思えてしまう。
そんな言い知れぬ切なさと、悔やみきれない悲しみがこの村のには大量に存在した。
扉を開き、ふいに手が離れ、大丈夫か、という俺の問いにウィルは頷き、奥の部屋へ足を進めた。俺は逆方面へ足を向ける。
屋敷と呼べるほど大きな家ではないが、俺の実家のそれ以上の広さはある。ダイニングリビングを中心に左右のうちの右の通路へ向かう。所々外壁が崩れ落ち、天井を仰げば僅かな光が見えた。雨が降れば今度こそ崩れるかもしれないと、少し歩みを速めた。
右の通路には扉は二つ。ひとつはボロボロになったベッドが二つ並んだ寝室で、慎重に中へと入って、物色したが、これといって気になるものはなかった。
次の部屋は書庫だった。所狭しと、本棚が並べてあり、中には横倒しに傾いている本棚もあった。本は床に散乱し、千切れたページが時折吹き抜けていく風に煽られてカサカサと音を立てつつ、揺れ動いていた。かろうじて本棚に残っていた一冊の本を手に取り、開いてみる。
魔道書のようだ。いわゆる、魔法を学ぶための子供向けの教科書だ。他の本にも手を伸ばし開いてみる。歴史書、童話、武器や防具の事典など、種類は様々だが、どれも図書館で読める通常の本ばかりだった。村長の家は図書館も兼用していたのかもしれない、などとなんとなくそう思った。
しかしこの部屋にも、特にめぼしい物はとくになかった。
一旦は単独で室内を調べていた、そのときだった――。
「――!?」
レズリー! レズリー! と突如、家の奥からウィルが俺を呼ぶ声を耳にして、びくりッ、と肩を震わせた。
その声は逼迫していて、胸騒ぎを覚えた。やはり、手を離すべきではなかったと後悔が襲う。
急いで恋人の元へと駆け出した。
俺たちが暮らすディレクトレイ王国とは打って変わり、季節が存在しないこの土地は、一年を通して気温の低いことも挙げられたが、それ以前に、ヴィルゴが言っていたように戦争の爪跡が色濃く残る土地であり、それは数千年経った今でも、俺たちに目にその凄惨な光景を映していた。
大地に突き立てられたさびた剣や槍、弓、数千年前に使用したであろう武器が当時のまま、そこに残骸として存在している。
分厚いコートを着込んでいても冷気が頬を、吐き出す吐息を白く凍らしていく。
ヴィルゴの背に乗り、俺たちは北の地に足を踏み入れた。ザクッ、という雪の感触に足元から冷えていく感覚がある。
目指す目的地の手前、緑の葉を白くコーティングしたように凍った大森林の森。
賢者アクネリウスの故郷であり、おそらく、ここが始まりの地なのだろう。俺たちは各々、ニクルクロスだった破壊され滅んだ小さな村を探索を開始した。
ロガはアルと共に村と民家の周辺を見て回ると言って分かれた。
アルはどこか、思いつめたような顔をしていて、少し気になった。
まあ、ロガが側にいるから問題はないか。俺が心配する必要はない。
一方、ヴィルゴは人の姿をしていた。地上に降りる際、人の姿に変幻し、俺たちと共に村の探索に協力すると言って、一人(一匹)、村の奥へと足を進めていく。気になることがあると言っていたから、それを調べに向かったのだろう。
ドラゴン種族のほとんどは霊峰を後にして、今では人の形で街で暮らす者も少なくはないのだと、ヴィルゴは言っていた。時代の流れがそれを当然としたのだという。
わかる気もするが、彼にしてみればやはり、少し寂しいのかも知れないと、俺は思った。彼の表情や雰囲気がそれを示唆していたからだ。
これは俺の勝手な思い込みかもしれないけどな。
俺はウィルと共に、ちょうど村の中央に位置する、大きな木が庭に植わった民家を探索することにした。
「レズリー、ごめん。手を、握っていてくれないか」
俺は震えるウィルの手を掬い上げるように握りしめ、視線だけで大丈夫だ、と応えた。それにウィルは少しだけ安堵したかのように短く白い息を吐き、笑みを滲ませた。
いつの間にか震えも治まっていた。
民家はおそらく、村の有力者、つまり村長の家だと推測される。広い庭には大きな樹木が一本植わっていて、葉は凍り、灰色の空から薄っすらと降り注ぐ太陽光を反射してキラキラと煌いていた。
家のすぐ前には花壇あり、当時は美しかった花々も雪と氷によってその時を止めている。
数千年ほど前からこの状態を維持し、今日、俺たちが来るのをずっと待ちわびていたかのように思えてしまう。
そんな言い知れぬ切なさと、悔やみきれない悲しみがこの村のには大量に存在した。
扉を開き、ふいに手が離れ、大丈夫か、という俺の問いにウィルは頷き、奥の部屋へ足を進めた。俺は逆方面へ足を向ける。
屋敷と呼べるほど大きな家ではないが、俺の実家のそれ以上の広さはある。ダイニングリビングを中心に左右のうちの右の通路へ向かう。所々外壁が崩れ落ち、天井を仰げば僅かな光が見えた。雨が降れば今度こそ崩れるかもしれないと、少し歩みを速めた。
右の通路には扉は二つ。ひとつはボロボロになったベッドが二つ並んだ寝室で、慎重に中へと入って、物色したが、これといって気になるものはなかった。
次の部屋は書庫だった。所狭しと、本棚が並べてあり、中には横倒しに傾いている本棚もあった。本は床に散乱し、千切れたページが時折吹き抜けていく風に煽られてカサカサと音を立てつつ、揺れ動いていた。かろうじて本棚に残っていた一冊の本を手に取り、開いてみる。
魔道書のようだ。いわゆる、魔法を学ぶための子供向けの教科書だ。他の本にも手を伸ばし開いてみる。歴史書、童話、武器や防具の事典など、種類は様々だが、どれも図書館で読める通常の本ばかりだった。村長の家は図書館も兼用していたのかもしれない、などとなんとなくそう思った。
しかしこの部屋にも、特にめぼしい物はとくになかった。
一旦は単独で室内を調べていた、そのときだった――。
「――!?」
レズリー! レズリー! と突如、家の奥からウィルが俺を呼ぶ声を耳にして、びくりッ、と肩を震わせた。
その声は逼迫していて、胸騒ぎを覚えた。やはり、手を離すべきではなかったと後悔が襲う。
急いで恋人の元へと駆け出した。
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