ウィルとアルと図書館の守人

凪 紅葉

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第二章 ウィルとアルと山頂に棲む竜

幼き日の過ち

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 屋敷に到着して早々、ベッドにそっとウィルを横たえさせて、俺も息をついた。
 顔色はだいぶ良くなったが、意識が戻らないことが心配だった。
 顔にかかった前髪を払いのけてやりながら、指の表側で頬に触れた。腹の奥にどす黒い感情を抱きつつも、その寝顔をしばらく見続けてた。

「……髪、だいぶ伸びたな」
 短髪だった髪は伸びて、肩までつくようになった。
 くせっ毛の強い白に近いクリームブロンドの髪を一房掬い、その心地よい肌触りを堪能しながらふと思った。
「……そういや、あのビン底眼鏡してねえのな。つか、いつからあんな眼鏡をつけるようになったんだっけ……、……っ!」

 つらつらと、独り言のように呟きながら、そこでようやく、俺は幼い頃の記憶を思い出してしまった。
 ウィルに対する気持ちに気付き、照れ隠しと反発心からつい言葉にしてしまった、後悔の言葉を。

『――お前のその紫色の瞳、気持ち悪い』

 ビン底眼鏡の原因は、俺だった。
 今さら思い出して、後悔の波が怒涛のように押し寄せる。
 当時の俺に会いに行けるのなら、自分を思い切りぶん殴ってやりたい。
 それからだ。ウィルが分厚いビン底眼鏡を掛けるようになったのは。
 今更だが、俺は相当、無神経にもウィルを傷つけてしまったのだ。なんてクソガキだ。
 恋人同士となったものの、あの言葉はあまりにも、酷い。
 寧ろ逆なのに。

「……ウィル」

 手の腹で頬を優しく撫でる様に触れる。
 側にいるだけで、ほんの僅かに触れるだけで、こんなにも愛しいが溢れて胸が苦しくなる。
 次に目覚めて、その美しい紫の瞳に俺が映ったら、話をしよう。なんでもいい。つまらない、他愛ない話でもいい。そして謝ろう。
 ウィルはきっと「今更?」と笑って許してくれるかもしれないけど、それでもちゃんと謝ろう。
 それで伝えるんだ。

 ――俺は、お前のその綺麗なアメジストの瞳に一瞬で一目惚れして、恋に落ちたんだ、って。

 そしたらきっと、ウィルはまた笑ってくれるはずだ。
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