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五章

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「がぶっ」
 脳裏に浮かぶ百合さんの幻影に言い訳をしながら、僕は迫る荒峰さんの首筋に擬音付きで噛みついた。少し跡が残るくらいの力加減。思いっきり噛みついたら血管を傷つけてしまうから慎重に。
「痛っ、ちょっと、放しなさいっ」
 先ほどまでの自称アダルトな雰囲気は雲散霧消した荒峰さん。首筋を抑えてぼくから飛びのこうとして、盛大に尻もちをついてしまう。
 またこれはこれであられもない格好だけど、色気はだいぶ薄いし、ドキドキもしない。うん、僕は冷静に対応できる。
「いきなり、何の真似ですかって話ですよ、いい年齢の女性がいきなり男を酔わせて部屋に連れ込み、半裸で迫るなんて、最近のエロサイトでも飽きられそうな鉄板ネタで僕を同行するつもりなんですか?」
「だって、何もかも捨てて良いって店長言ったじゃない?捨てて身軽になれって、だから全部忘れて店長に抱かれようと・・・」
 うっわ~あれだけ緊張しきっていて、最後の最後に子供みたいなキスの仕草の癖して、それですか?文章的には当たっていたかもしれないけれど、行動的には及第点には全然届かない。
「すみません荒峰さん、何もかも捨てたいっていうなら、僕を巻き込まないでくれませんかね?捨てる捨てないは自分でどうぞ、同じような時が僕にも来たら、誰も巻き込まずに自分で決着付けますから、でも、もし・・・」
 どうしても逃げたいのなら、その時に出来る事はする。手助けであって逃げ場にはならないかもしれないけど、捨てる為の理由にはされたくない。
 彼女を抱いていれば、罪悪感に付け込まれて精神的に追い詰められていたかもしれない。そんな人生はまっぴらごめんだ。
「じゃ、そういう事で・・・」
 頭が動くたびに、ものすごい激痛が走り、足元がおぼつかないが、それでもここは格好良く立ち去るべきだ。ぐっとを歯を食いしばり、一歩、二歩、と進むが、それも三歩目までだった。
 背後から泣きながらのタックルを受けて、その場にノックアウト。
 またも、意識が闇に閉ざされていく。 はぁ、なんか最近気絶ネタ多くなったかな?
 いやいや、そんなわけない。僕はか弱い系の人間ではない・・・よな?
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