気がついたらファンタジー世界でモブ幼女?鍬から始める農民生活、生き残り

和紗かをる

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1章 ホラント村の農家の幼女

1-3

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「わぁお」
 外に出ると、途端に草の匂いが鼻に満ちる。
 さすがに直接草を食べた時よりは濃くはないけど、こんな匂いは遠足で山登りしたとき以来だと思う。振り返ると、木と石が微妙に合わさって出来た家。中に居た時より大きく感じられるから、ほかにも部屋があったのかも知れない。家族四人でリビングのみということも無いだろうから、夫婦の寝室とかは別にあるのかもね。
「えっと、仕事はなんだっけ」
 井戸で水汲みと、倉庫でロープの補修、それにスヒァーの餌やりだっけ?うん、ちゃんと覚えてるぞ。私は物覚えは悪くなかったし、家のお手伝いもそれなりにしてきた。
 どうやれば良いのか、なんてのはきっと何とかなる筈。
 私が中に入っちゃった、このハルって少女にも出来ていたんだから、私に出来なきゃおかしいんだから・・・。
 そう思っていられたのは、本当にわずかな時間だでしかなかった。
 倉庫はすぐに見つかった。その近くにさっきユルヘンが居た牧場で、のどかに歩いていた茶色の毛を持つスヒァーが四匹入っている小さな柵も簡単に見つけられた。
 さて、場所はわかった。後は仕事するだけって思ったんだけど、その仕事の内容がエグイ。
 最初に取り組んだのは、ロープ。
 細くなって千切れかかっているロープはね、確かに倉庫入ってすぐの場所に分かりやすく置いてあったよ?でもさ、それを直すってどうやるの?そもそもロープって何で出来てるのさ?普通に学生していたらロープの材質なんか判る訳ないって。
 必死に考えて、社会科見学だかなんだかで、どっかの遺跡博物館の中でみた、縄を結っているロボットが居たのを思い出す。なんか細い紐みたいなのを何本か、こう、手でこする様にしてさ、最後に一本の縄、つまりロープにすれば良いんでしょう?
 と、ここまで気づくのにかなりの時間がかかってしまった。少しずつ空腹感が増してくる。
 腹時計じゃないけれど、私の飢餓までの残り時間を教えてくれている気がする。
「だめだ、間に合わない」
 方法はなんとなく判ったけど、今からロープの材料の紐を探して、それを寄り合わせて縄にするなんて、簡単じゃない。
 仕事が何一つ出来ていなきゃ、ご飯も無しになるかも・・・。
 それは本当に勘弁して欲しい。うっすらと目に涙が溜まってくるけど、泣いてる暇も時間も無い。一つだけでも出来ることをしなきゃ。
 残る仕事はスヒァーの餌やり。
 あの茶色い羊まがいの居場所は判っているので、やることは餌をあげるだけの簡単な仕事だ。
「えっと、餌~餌~」
 先ほどスヒァーを確認した柵まで戻って、餌がどこにあるか確認する。餌を入れる為の大きな木の器の様な物が柵の中にあるが、その中身はほとんど空っぽ。中にいるスヒァーは私の姿を見て騒ぎ出す。
 どうやらスヒァーに取って私は餌係として認識されていて、今日は一際餌の時間が遅いことにイライラしているのだろう。
 もしスヒァーが喋れたら、叱り付けられそうだ。
「は~い判りました~餌ですね~ちょっと待っててくださいよ~」
 柵の中に入った途端、四匹で交互にお尻に軽く頭突きをしてくるのをあしらいつつ、餌入れに到着。
 さて、餌を入れなきゃと左右を見渡すが、はて、餌はどこに?
「普通餌入れの周りに餌って用意しとくもんでしょう?」
 少なくとも我が家では、猫の餌は餌皿の近くの専用棚に保管してある。いちいち餌持って移動する手間を省くためだ。
 ゴンゴンゴンゴン。
 先ほどまでの軽くて柔らかい頭突きではなく、なんか勢いが強くて痛いような頭突きに変わってきた。やばい、スヒァーさんたち、少しお怒りモード?
 小さい体がスヒァーさん達に頭突きされるたび、左右にふらふらと揺れる。空腹でこれやられると結構キツイ。
 胃液もシェイクされて、おなか減ってるのに気持ち悪いと言う複雑な状態になる。
「ちょっと、ねぇ、やめてってば」
 一向に餌を準備しない私にだんだん怒り心頭モードに変化していくスヒァーさん達。見た目は羊のように愛らしいのに、腹へって目つきが悪くなったスヒァーさん、正直怖いです。
「あっ、待ちなさい」
 ついに一匹のスヒァーが私に主張しても意味がないと気づいたのか、入ってきた時に閉め忘れていた柵の出入り口から鼻息荒く出て行ってしまった。それに気づいた私に絡んでいた残りの三匹も同じように柵から出て行ってしまう。
 スヒァーさん達は一匹一匹が私と同じようなサイズだ。私の力だけで捕まえて柵の内側に戻すことが出来るだろうか?
 答えは否。小さくて非力な私では一匹でも柵に戻すことができるかわからない。
「でもな~、諦めて、じゃあどうするんってなるよな~」
 無理ですって諦めて放置して、それで未来が明るくなるとは到底思えない。
 きっと酷い罰、具体的にはご飯抜きの上に、鞭で叩かれたりするかもしれない。私は体罰を受けたことはないけど、お爺ちゃんに聞いた話だと、遅刻でビンタ、宿題忘れたらバットでお尻を叩かれるなんてのは日常茶飯事にあったらしい。お爺ちゃんが子供だった時代より確実にこの世界は厳しい。だって子供がお手伝いをしないとご飯抜きが日常なんだから・・・。
「もうっ!」
 とにかく、出来る出来ないは置いといて、スヒァーを追いつかなければならない。
 柵を飛び出して左右を確認。すでに日が翳り始めている。薄暗い中にスヒァーの茶色く丸っこい姿は見当たらない。
「ふふふっ、私をなめないでよ」
 地面に残るスヒァーの蹄の跡、それを辿って行けば必ず近くにいる筈だ。スヒァーは多分羊のように家畜に向いている種族。なら安全地帯からそうそう遠くまで逃げる訳がない。
「こっちね」
 蹄の跡は、柵から出て倉庫のほうに向かっている。蹄の跡に乱れがない事から、彼らは柵から出て一直線に倉庫を目指しているようだ。
 答えは一つしかない。飢餓状態に襲われた私と一緒だ。食べれるものを探しているに違いない。そして彼らは倉庫に自分たちが食べられる物がある事を知っている。
「つまり餌はそこねっ」
 勢い込んで倉庫の中に踏み込むと、考えていた通りに四匹のスヒァーが中に居た。四匹が協力して麻の袋を引きずっているところを見るとあれが、スヒァーの餌に違いない。餌の場所を看破し、四匹で協力して運ぼうとしている所は賢いと思えるけど、麻袋を破ってその場で食べようとは思わないみたいだ。私なら飢餓状態で食べれる物が目の前にあれば、何がなんでも食べようとするんだけど・・・。
と、そこまで考えてはっとする。
「まだ一日もたっていないのに、私結構引きずられている様な気がする」
 すでに文明社会は遠い夢みたいになっている。今は圧倒的な現実にどうやって立ち向かうかばかりで、文明社会に育っていたことを忘れそうだ。
 それもこれも、このハルという子の体が、小さくひ弱、更に常時腹ペコで、じっくりと考えるということを許してくれないからだ。第一に人は食満ちて、心ありとは言うけれど、あんまりだ。
飽食の時代に生きていた私は、既にハルの体が求める要求に、心が支配されかかっているのかな?
「だめだめ、今はそんな事を考えている場合じゃないでしょ~」
 四匹のスヒァーがよっこらよっこら麻袋を運ぶ背中をつかんで方向転換させようとするが、思った通りスヒァーはびくともしない。全力で草さえ満足に抜けない非力ひ弱な体で、自分と同じくらいの大きさの動物に体力で敵うはずがなかった。
 うんうん、うなりながら押したり引いたりするけど、スヒァーの動きは変わらない。ついに彼らは餌が入っていると思われる麻袋を倉庫の外に持ち出し、柵ではく、その反対側にある背の低い木でできた門?みたいな出口に向かって進む。
 このまま麻袋ごと柵の中に戻るなら、それもそれでありかと思っていたんだけど、どうやらこのスヒァー達、脱走するにあたって食料を確保してから逃げ出すことにしたらしい。なんて賢い!それならば麻袋を破って中身を出さずに運ぶのもただ開く方法が判らないというわけでは無いのかもしれない。
 逃走用の非常食をそこら辺に、ぶちまけるのを避けているだけなのかも?
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