気がついたらファンタジー世界でモブ幼女?鍬から始める農民生活、生き残り

和紗かをる

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1章 ホラント村の農家の幼女

1-2

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深い深い夢さえ見ない睡眠の中、私は真っ暗な世界から、意識が浮上してくるのを感じた。
 それまでは外の音も、体の感触も無かったけど、だんだんと意識の覚醒と合わせて感覚も戻ってくる。
「ハル!この馬鹿!いい加減に起きやがれ!」
「まったく面倒ばかりかけるんじゃないよ、仕事もせずにさぼった挙句、領主様の館の前で昏倒してご迷惑をかけるなんてっ」
「仕方ないだろう、だれもハルにスラーブの草の根が眠り薬の元になるなんて教えてなかったんだからよ」
 頭の上で数人の人間が、がなりあっていてかなりうるさい。
 そんなにガミガミ、何を言い合ってるのかしら?
 私が寝てるんだから、少しは静かにしてもらえないかな?
 寝てる人の前で騒ぐとか、マナーがなってないな~。
「もう、お前のせいで父さんと母さんが言い合いしてるんだから、いい加減起きろって」
 誰かにぺちぺちと頬を叩かれる。
 最初はぺちぺちと言う感触だったんだけど、それで起きずにいたらだんだんとべしべしレベルになってきた。
「ううん、痛いよぉ~」
 このままじゃあ頬が赤くなってしまうって所で、寝ている姿勢から上半身を起こして目を開けた。
 目の前に、美形と言える位の顔を酷薄そうに歪めた少年がいた。その奥では男女が言い合いをしている。起きた世界はさっきと違って薄暗い。
「おっ、ハル起きたぞ」
「おお、起きたか、体はなんともないのかい?」
 奥で言い合いをしていた男性がこちらに近づいてくる。
 その人は、赤い髪と同じように赤い瞳をした、格好いい大人という感じだった。着ている服はあちこち擦り切れていて、膝には土汚れがついている。ガーデニングでもしていたのかな?
「う、うん、大丈夫、です」
 酷薄美形少年を押しのけて、赤髪の大人の人が肩をぐっと掴んで、私の顔を覗き込んでくる。
 ちょっとちょっと、そんな、顔が近い、近いって!
服装は微妙だったけど、顔はもうテレビの向こう側にいそうな格好良いイケメンさんだ。
それに肩を掴んでいる腕も、かなり筋肉質で、力強く肥満のひの字もなさそう・・・。
「良かったな、ハルはまだ小さいんだから無理しちゃだめだ、ちゃんと準備してから仕事をしないとな」
「うん・・・」
 良くわからないけれど、なんか心配されてるっぽい?
 私を心配する赤髪男性の後ろでは、さっきの酷薄美少年と、言い合いをしていた女性が、そろって似たような怖い顔で、腕組んでこちらを睨んでいる。
ちょっと、怖い・・・。
「今日は少し休んでからにしなさい、仕事はゆっくり出来ることだけでいいからな」
 やさしく頭をなでてくれる赤髪男性。ごつごつした手の平は顔に似合わず堅くて、髪の毛に絡んでちょっとだけ痛かった。
「あんた、もう行かなきゃでしょ、アーべ叔父さんの小屋は山の中なんだから、狩の手伝いに間に合わないわよ!」 
「父さん、俺も連れて行ってくれよ、もう八歳なんだから狩も覚えたいよ」
「ああ、わかったもう行くから、ハルの事は任せたからな、それとシーム、お前は狩の前に妹の面倒をしっかり見る様にしろ、スラーブの草の根を食べさせるなんてもうさせるなよ!あれには催眠効果があるんだからな」
 そうか、あのノビル(仮)はスラーブという名の草で、根っこのラッキョウみたいな部分は催眠効果がある成分が含まれていたみたいた。
 知らなかったとは言え、それをポキッと齧るなんてやっちゃ駄目なことらしい。
 それと、どうやら赤髪の大人の人は私と、シームと言う酷薄美少年の父親みたい。ってことはこのシームは私のお兄ちゃんってことになるのか。
 全然、妹を心配する兄の顔じゃなかったような?
「ちぇっわかったよ父さん、でも次は一緒だからな!」
 ぷりぷりと怒ってシーム兄は何処かに行ってしまった。それを赤髪の父は仕方なさそうに苦笑で見送ると、女性の方に手を上げて、その場所から去っていった。
 ふむ、整理すると、赤髪の大人の人が父。名前は確認できていないけどそういうことらしい。んで、酷薄美少年シームが兄、そのシームと同じように私に厳しい目を向けていた女性が母ということになるんだろう。
 私が寝かされているのは、薄くて柔らかさのかけらもないベッドのような場所。シーツを軽く手を動かして押してみると、中から干草が出てきたことから、中には綿じゃなくて干草が詰まっているようだ。 
 先ほどまでのすごい睡魔がなければ、決して寝やすい場所とは言えない。
 そのままベッドの上から部屋の中を見回すと、照明と言える物は見当たらず、部屋の明かりは窓からの光のみで、見慣れた箪笥の様な家具は見当たらない。
 先ほど父である赤髪さんが出て行ったおそらく玄関ドアの横に棚があり、その上にあまり手入れが行き届いていないように見える道具が置いてあるのが、見える範囲では唯一家具っぽいものだ。
「冷蔵庫は・・・、無いよね」
 小腹がへったら、まず冷蔵庫を開ける。そうしたらなにかしら食べれるものが入っているはずだから、それを食べながら夕飯を待つ。つい数時間前まではそれが常識だったはずなのに、ここでそれを望むのは無理そうだ。
 やっぱり帰りたい。
 自殺は嫌だけど、なんとか帰って炊飯器で炊いたお米でも、コンビニで買った菓子パンでもいいから食べたい。
 ノビル(仮)改め、スラーブを食べたけれど、所詮ただの草だ。腹に溜まる訳がない。
「お腹減った・・・」
 空腹を訴えれば、この世界に来る前の母みたいに、何か作ってくれたりはしないだろうか?
 そんな淡い期待をこめて私は呟き、上目遣いに、この世界での母親をチラリと見た。
「何言ってんだい、ウチをお貴族様じゃないんだよ、決まった仕事も出来ない子供に食べさせる物なんかありはしないんだ、ハルだってわかっているだろう?早く仕事を終わらせないと夕飯は抜きになるからね」
 死刑宣告だった。
 このまま、硬い干草ベッドに居たら、何も食べられない。
 そうなったら、また飢えて草を探すようになってしまう。
「お仕事・・・?」
 ゆっくりとベッドから降りる。
 あれ?私の体、結構小さくない?ペッタンだけじゃなく、なんか足もこの世界に来た時より短くなった気がするんだけど。
「そうだよ、井戸の水汲みは終わったのかい?畑の雑草抜きと杭の点検、それと倉庫にあるロープの補修にスヒァーの餌もだろっ、具合が悪いなら畑の雑草と杭の点検は明日に回しな、でもスヒァーの餌は忘れるんじゃないよ!」
 怖っ。
 何だろう、この世界の母上様は私に対して、怖くあたりすぎじゃないかな?
 口調もぶっきらぼうで、今さっきまで倒れていた愛娘にかける言葉がこれなの?
「はぁい」
 それでも私は、その恐怖から仕事のやり方もわからずに、とにかくベッドの上に居たままじゃ、どんな事を言われるか分からないと、赤髪父の出て行ったドアから、外へと出た。
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