6 / 34
2章 月下の幼女
2-1
しおりを挟む
ユルヘンから貰った干し豆と干し肉を食べたおかげで、何とか満腹にはならないまでも、目が回る様な飢餓状態からは脱することができた。
逃げ出したスヒァー達もユルヘンの誘導よろしく柵の中に帰り、それではお互い家に帰りましょうってなった時に、それは起こった。
あたりはすっかりと暗くなり、外灯なんか無いこの世界は日が落ちたら真っ暗闇になるのかと思っていたけれど、日と交代で上ってきた二つの明るい星のお陰で、足元くらいは見える明るさがあった。
「今日のポボスとデイモスは光が強いね、これだけ明るかったら滝の妖精にもあえるかもしれないね、ハル」
「う、ううん、そうかも、ね」
ポボスとデイモスってなんぞ?
あの上空にある円形じゃなくて楕円形?みたいな二つの岩の塊にしか見えないやつの事かな?夜空に輝くのは円形の物って思っていたけど、なんかラグビーボールみたいなものも、月みたいに、夜空にあるんだねぇさすが異世界。とか思っていたら、正面に危険が迫っていたのに気がつかなかった。
「ぐべし」
ぼんやりと上空を眺めながら歩いていたら、何かが顔面にぶつかってきた。顔を抑えて痛みに耐えるってほどではないけど、痛いのは痛いし、なんか嫌な感じがする。
足元を見ると、枯れた小枝。
これが私の顔面に飛んできたに違いない。
そして、飛んできた方向には、二つの歪な月の光を受けて仁王立ちしている女性がいた。
「あ、あの・・・」
「あら、ユルヘンこんばんは、我が家の駄目な妹がいつも迷惑をかけてごめんなさいね。ユルヘンももうこんな時間なんだから、お家に帰らなければ駄目よ、しかられてしまうわ」
「あっ、はっ、はいっ~、すぅ、すみませんヒセラさん!すぐにかえりますぅ~」
横を見ると、先ほどまでゆったりとした余裕が見え隠れしていたユルヘンが顔を真っ赤にして緊張している。
体の動きも変で、いやにギクシャクしている動きだなと思うまもなく。持ち前の快速で来た道を戻って行った。
「え?ええ~」
そんな、こんな、なんか凄い迫力ある人の前に置いていかないで~。
さっき、なんか友情っぽいこと言っていたじゃない、薄情者~。
「ハルっ」
「はっはひっ」
ヒセラと言う女性の圧がすごい。
大きな声ではないけれど、なんていうか体の奥底に震えが走るような感じで、口もうまく動かない。
「仕事は終わったの?」
「えっ、あの、ちょっとしか・・・」
私の言葉が終わらない内に、ヒセラさんの目つきがすっと鋭くなり、怒りが内部で溜め込まれているのが判る。
「ハル、私はね、なにもハルだけをことさらにいじめたり、嫌がらせしているわけじゃないの、これでも私は家族が好きよ、だからもちろんハルにも優しくしたい」
「・・・」
話の内容を文字で見るなら、別に怖い事もおそろしい事も言っていない。けど私の内心はガクガクブルブルで、腕には鳥肌が立って、背中に冷たい汗が流れる。
「でもね、ハル、私が働きに出ている領主様のお館前で倒れたり、仕事もろくにせずに回りの子供たちにも迷惑をかける妹って、どう思う?」
口調は相変わらずゆったりとして、怒声ではないけれど、怒鳴られるよりむしろ怖い。
「・・・」
バシンっ
何かがヒセラさんの手元から電光石火の速さで放たれ、私のおでこにあたった。たぶんさっきと同じような小枝だろう。
「ど、う、お、も、うって聞いてるの!ちゃんと答えなさい!」
「ひっ、あ、あの、えっと、ごめんなさい」
「またそれなの?ハルゥ~、いい加減にしなさいもう七歳でしょう、来年には見習いも始まるのよ、同じ歳の時には私は領主様からのお声がけで働きに出てたのに、誤れば終わるなんて思っているんじゃないでしょうね?」
「そ、そ、それは、そんな事、ない、です・・・」
「あらそう、ならお仕置きは覚悟してるって事ね」
何をされるんだろう?どうも良く判らないけれど、話を聞いているとこのヒセラさんは私の姉みたいだ。なんで姉が妹にこんな言い方するの?
兄である酷薄美少年シームと言い、このヒセラ姉といい、ハルとの関係は最悪だ。よく今までハルはこんな兄と姉と一緒に生活できたよね?
「覚悟しているならお仕置きするわ、いいのよね」
ヒセラ姉の手元に、今度は木刀と同じくらいの太さと長さを持った木の枝が握られた。
あの枝で私を叩くのがお仕置きなのだろうか?あんなので思いっきり叩かれたら、打ち所が悪ければ骨折してしまうのに。
でも、さすがに姉と妹、手加減はするだろうし、本当に骨折させたら治療が面倒
だし本気ではない筈。
ここで一発叩かれてそれでお仕置きが終わり、その後に曲がりなりにも草よりま
しな夕飯があるのなら耐えてみせる。
「えいっと、うまくいかないわね」
枝を軽く素振りするヒセラ姉。
ちょっとこの人、凄い力じゃない?素振りしてるだけで風がびゅんびゅん言って
るんですけど・・・。
「ちょっと叩かれやすいように、前に出なさい」
酷い要求だ。痛いのは嫌なんだけど、でも、ご飯のためなら仕方がない。ぐっと
奥歯をかみ締めて、なるべく痛くなりませんように、と祈りながら足を前に出そう
とした。
逃げ出したスヒァー達もユルヘンの誘導よろしく柵の中に帰り、それではお互い家に帰りましょうってなった時に、それは起こった。
あたりはすっかりと暗くなり、外灯なんか無いこの世界は日が落ちたら真っ暗闇になるのかと思っていたけれど、日と交代で上ってきた二つの明るい星のお陰で、足元くらいは見える明るさがあった。
「今日のポボスとデイモスは光が強いね、これだけ明るかったら滝の妖精にもあえるかもしれないね、ハル」
「う、ううん、そうかも、ね」
ポボスとデイモスってなんぞ?
あの上空にある円形じゃなくて楕円形?みたいな二つの岩の塊にしか見えないやつの事かな?夜空に輝くのは円形の物って思っていたけど、なんかラグビーボールみたいなものも、月みたいに、夜空にあるんだねぇさすが異世界。とか思っていたら、正面に危険が迫っていたのに気がつかなかった。
「ぐべし」
ぼんやりと上空を眺めながら歩いていたら、何かが顔面にぶつかってきた。顔を抑えて痛みに耐えるってほどではないけど、痛いのは痛いし、なんか嫌な感じがする。
足元を見ると、枯れた小枝。
これが私の顔面に飛んできたに違いない。
そして、飛んできた方向には、二つの歪な月の光を受けて仁王立ちしている女性がいた。
「あ、あの・・・」
「あら、ユルヘンこんばんは、我が家の駄目な妹がいつも迷惑をかけてごめんなさいね。ユルヘンももうこんな時間なんだから、お家に帰らなければ駄目よ、しかられてしまうわ」
「あっ、はっ、はいっ~、すぅ、すみませんヒセラさん!すぐにかえりますぅ~」
横を見ると、先ほどまでゆったりとした余裕が見え隠れしていたユルヘンが顔を真っ赤にして緊張している。
体の動きも変で、いやにギクシャクしている動きだなと思うまもなく。持ち前の快速で来た道を戻って行った。
「え?ええ~」
そんな、こんな、なんか凄い迫力ある人の前に置いていかないで~。
さっき、なんか友情っぽいこと言っていたじゃない、薄情者~。
「ハルっ」
「はっはひっ」
ヒセラと言う女性の圧がすごい。
大きな声ではないけれど、なんていうか体の奥底に震えが走るような感じで、口もうまく動かない。
「仕事は終わったの?」
「えっ、あの、ちょっとしか・・・」
私の言葉が終わらない内に、ヒセラさんの目つきがすっと鋭くなり、怒りが内部で溜め込まれているのが判る。
「ハル、私はね、なにもハルだけをことさらにいじめたり、嫌がらせしているわけじゃないの、これでも私は家族が好きよ、だからもちろんハルにも優しくしたい」
「・・・」
話の内容を文字で見るなら、別に怖い事もおそろしい事も言っていない。けど私の内心はガクガクブルブルで、腕には鳥肌が立って、背中に冷たい汗が流れる。
「でもね、ハル、私が働きに出ている領主様のお館前で倒れたり、仕事もろくにせずに回りの子供たちにも迷惑をかける妹って、どう思う?」
口調は相変わらずゆったりとして、怒声ではないけれど、怒鳴られるよりむしろ怖い。
「・・・」
バシンっ
何かがヒセラさんの手元から電光石火の速さで放たれ、私のおでこにあたった。たぶんさっきと同じような小枝だろう。
「ど、う、お、も、うって聞いてるの!ちゃんと答えなさい!」
「ひっ、あ、あの、えっと、ごめんなさい」
「またそれなの?ハルゥ~、いい加減にしなさいもう七歳でしょう、来年には見習いも始まるのよ、同じ歳の時には私は領主様からのお声がけで働きに出てたのに、誤れば終わるなんて思っているんじゃないでしょうね?」
「そ、そ、それは、そんな事、ない、です・・・」
「あらそう、ならお仕置きは覚悟してるって事ね」
何をされるんだろう?どうも良く判らないけれど、話を聞いているとこのヒセラさんは私の姉みたいだ。なんで姉が妹にこんな言い方するの?
兄である酷薄美少年シームと言い、このヒセラ姉といい、ハルとの関係は最悪だ。よく今までハルはこんな兄と姉と一緒に生活できたよね?
「覚悟しているならお仕置きするわ、いいのよね」
ヒセラ姉の手元に、今度は木刀と同じくらいの太さと長さを持った木の枝が握られた。
あの枝で私を叩くのがお仕置きなのだろうか?あんなので思いっきり叩かれたら、打ち所が悪ければ骨折してしまうのに。
でも、さすがに姉と妹、手加減はするだろうし、本当に骨折させたら治療が面倒
だし本気ではない筈。
ここで一発叩かれてそれでお仕置きが終わり、その後に曲がりなりにも草よりま
しな夕飯があるのなら耐えてみせる。
「えいっと、うまくいかないわね」
枝を軽く素振りするヒセラ姉。
ちょっとこの人、凄い力じゃない?素振りしてるだけで風がびゅんびゅん言って
るんですけど・・・。
「ちょっと叩かれやすいように、前に出なさい」
酷い要求だ。痛いのは嫌なんだけど、でも、ご飯のためなら仕方がない。ぐっと
奥歯をかみ締めて、なるべく痛くなりませんように、と祈りながら足を前に出そう
とした。
1
あなたにおすすめの小説
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる