気がついたらファンタジー世界でモブ幼女?鍬から始める農民生活、生き残り

和紗かをる

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第5章 モブ幼女と森の精霊(ブクスフィ)

5-1

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ブレフトの案内で、暗い森を歩くこと数十分。
 うねうねと木の根が這う歩きにくい道に何度か転がりそうになったけど、その都度ユルヘンが支えてくれてなんとか私は目的地が見える場所まで来た。
 小屋って言うから、小さい倉庫くらいな物を想像していたんだけど、アーべ叔父さんの狩小屋は、普通の一軒家くらいの大きさがあるログハウスみたいな建物だった。立派な石造りの煙突もついていて、ホラント村の一般的な家よりも大きい。
「あれなの?」
「僕も見たことは無いけど、他に建物見えないし、兎人の集落とはつくりが違うから多分そう」
 建物の周りは木が切り倒されて、広場のようになっており、近くには井戸もあった。井戸はハルの家にもなかったし、暮らしやすさはこっちのが上かも?
 肉は狩で、野菜は山菜とかを採れれば結構な生活ができるかもしれない。
「ほらっボケっとしてんな、あの中に用事があるんだろう?」
 周囲を観察していた私たちを無視してブレフトがさっさと建物に近づいていく。
 アーべ叔父さんは領主の家に泊まりだし、中には今、赤髪父しかいない筈。怪我をしている人を一人にすることに問題がないとは思えないけど、助けを呼びに村まで降りた叔父を責めるわけには行かない。
「そうね、行こうユルヘン」
 ユルヘンの服の裾を引っ張ると、そのまま回りをキョロキョロしながらついてくる。周囲を警戒しているってわけじゃなく、ただただ緊張しているみたい。
「ぐずぐずしてるなって」
 ここまでの道中でブレフトがせっかちであることがわかった。目標が決まったら回りも気にせず突っ込むような性格で、あまり後先は考えないタイプかも?
 なんとなく、異世界に憧れていた坂口みたいだ。あいつは苦手だったけど、ブレストは顔がウサギさんな分、苦手レベルが緩和されている気がする。だってウサギさん可愛いよね。猫も好きだけど、ウサギも可愛くて好きだ。
「入るぞ~」
 さっさと先に行き、ドアを開けようとするブレフト。そこで私は、はた、と気づく。このまま赤髪父に会って、相手に意識があったら、かなりこっぴどく叱られんじゃなかろうか?
 可愛い末娘(仮・家族補正有り)が夜更けに森の中にある建物に子供だけで来たなんて知ったら、普通の親なら喜びよりも、叱らなければという気持ちが強くなる。
 家を追い出されて行く宛が無い私の状況を説明しても、逆に心配させて具合が悪くなっても困る。
「ここは、ひっそりとってのが有りかも?」
「なんだよ、入らないのかよ?」
「う、ううん、ちょっとね、まずは壁越しにでもいいかなって、出来るかなジロー」
 私の呼びかけに、空中にポンッという感じで現れるケットシーのダルマジロ。相変わらず綺麗な毛並みだ。どこでお風呂に入っているんだろう?ずるい・・・。
「こんな薄壁一枚なんていうことは無いぞ、中には二つの反応があるが?」
 二つ?誰だろう。領主館に行ったアーべ叔父さんが先回りしたのかな?でもブレストの案内でここまで来た私たちも、子供の足とは言え、先回りされるほどじゃないはず。
「おおい、どうすんだよ?」
 ドアを前にブレフトが大声を出す。
 あっやばい。これ中に聞こえちゃう流れだ。
 私が心配した瞬間、ブレフトが大声を出していた目の前のドアが内側から開いた。自分の家の玄関で誰かが大声を出していれば、気にならない人はいない。
 監視カメラなんかあるわけ無いから、自分の目で見ようとするだろう。
「ユルヘンこっち」
 私は壁沿い、開いたドアから見えない位置に隠れる。ブレフトは隠れようも無いけど、彼は元々このあたりの兎人だ。中にいる人にバレても大きく叱られないと思う。
「どれどれ、何を話しておるのかな」
 ジローが興味本位でふらふらと空中を漂い、ドアのほうに近づいて行く。
「ちょっとジロー」
「案ずるな、唯の人に見られる程愚かではないて」
 そういうとジローは自分の体に魔法をかけて、半透明の姿になっていく。やっぱり魔法って凄い。人でも魔法使えるのかな?魔法使いって職業だけは元の世界にも無い仕事だから凄く憧れる。私にも、魔法少女に憧れた時だってあるもん。
 それからしばらくユルヘンと二人で壁を背にして小さくなっていると、ジローが戻ってきた。
「どうだったのジロー?」
「ああ、どうも中にいたのはあの兎人の姉のようだな、ドアをあけてすぐにあの兎人をこっぴどく叱っておったぞ、それからあの兎人の言い訳が始まって、そしたら姉の兎人がじゃあ証拠をみせなさいってな」
 ありゃ、ブレフト、叱られちゃったか・・・。彼は大丈夫だと思っていたのに。
 でも、中にいたのはアーべ叔父さんじゃなくってブレフトの姉だったのか~。なんかブレフトには悪いことしたかな?
「ん?ちょっと待って!証拠をみせなさいって事は」
 私が気づくよりも早く、ジローの半透明の体の向こうに背の高い兎人に連れられたブレフトが見える。
 逃げ場、逃げ場は?
 壁沿いに逃げれば一周して相手の背後から逃げられるかも・・・。
 私はくるりとその場で一回転して逃げようとした瞬間、首根っこを押さえられて足が地面から離れていた。
「こ~ら、駄目じゃない子供だけでこんな場所まで来るなんて!」
 兎人のお姉さんの右手に私、左手にユルヘンが捕まり叱られた。
 このお姉さん、子供とは言え片手で持ち上げるなんて凄い力持ちだ
「だって仕方ないじゃないか、お父さんが具合が悪くなったら心配するのは当たり前だよ」
「あら、お父さんって、アルナウトさんの事?アーべさんから確かに家族が来るって聞いていましたけど、まさか子供だけで夜に来るなんて・・・」
 おお~赤髪父の名前がやっと判った。そういえば名前、知らなかったんだよねぇ~。本人にもヒセラ姉にも聞くわけにいかなかったし。
「それで、こちらは?」
「こっちは仲良しのユルヘン、ブレフトとはさっき森で出会いました、アルナウトは確かに私の父です」
 兎人のお姉さんの後ろでブレフトがまずいって顔をしている。なんだろう、私は変な事を言ってない筈だけど?
「そうそう、さっき森でね、ブレフ!後で本当の話、ちゃんと聞かせなさいよ、でっそうそう、私はヘイチェル、よろしくねお嬢さん」
「あっ私はハルですっ、えっとヘイチェルさんがお父さんのお医者さんなんですか?」
「うふふ、そうだったら良かったんだけどね、私は唯の薬草係りよ、朝と夜に薬湯を準備しているの、アルナウトさんは、今は寝ているけど・・・」
 無理に起こして対面するって言うのは良くない。今はまだ心の準備も出来ていないし。
 こっそりジローに合図を出して、お父さんの様子を見てきてもらえるようにお願いする。呪いじゃなければ、ヘイチェルさんがいてくれればお父さん、良くなると思う。看護してくれる人が居るのと居ないのでは、治りも違うから。
「あ、じゃあ私たちはまた明日の朝にでも来ますから・・・」
「ちょっと、そういうわけには行かないわ、こんな時間に子供だけで帰すわけには行かないでしょ、う~んそうね、じゃあ今夜は私の家に来なさい、ブレフがお世話になっても居るみたいだし、でも」
 あ、これはあれだ。ブレフトが夜中に家を出た理由ってやつだろう。
「ご飯は大丈夫です、まだユルヘンの干し豆もありますから」
「よかった、今年はどこの家も苦しくて、せっかくブレフのお友達を泊めるのに何もできなくてごめんなさいね」
 あ、ヘイチェルさんってよい人だ。こっちの世界の人たちって、姉や兄以外は基本良い人が多い。この違いはなんだろう?
「じゃあ、もう夜も遅いし、行きましょう、ほらっブレフっ!逃げないであんたも来なさいよ!」
 こうして、私とユルヘン、ブレフトと一緒にヘイチェルさんの家にお世話になる事になった。
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